勇者の意地と迅の真髄
ここはどうしても区切りたくなかったので1万1千字と長くなってしまいましたが、どうかご了承ください。
〈和輝サイド〉
セルストの剣を受け止めていた和輝は力任せに剣を弾き上げ、すぐさまセルストへ斬りかかった。
しかし、セルストは後ろに大きく跳ぶことで躱した。
「和輝くん!」
〝もうダメだ″と思っていた時に和輝に救われ、感極まったように声をかけた麗奈。
そんな麗奈の方へ振り向いた和輝は、優しい笑みを浮かべながら語りかけた。
「大丈夫か、麗奈」
「うん、和輝くんも無事で良かったよ」
「麗奈が治してくれたおかげさ。あとは僕に任せてそこで待っててくれ」
「信じてるからね、和輝くん」
「任せろ!」
麗奈から熱のこもった瞳を向けられた和輝は、前を向きながら勇ましい声で返した。
「最後の話は済んだのか?」
2人のやり取りを見ていたセルストが、冷たい声音で問いかけてきた。
「最後なんかじゃありません。これから先の未来もあります」
「その奇妙な『身体強化』で俺に勝てるとでも?さっきよりは強いかもしれんが、お前では俺のスピードにはついてこれないだろう?」
「それはやってみないと分かりませんよ」
セルストの問いかけに対して、少し自信有り気な笑みを浮かべながら返す和輝。
「なら、改めて教えてやる。俺とお前の違いを!」
そう宣言したセルストは瞬時に和輝の左横に移動し、右手の剣で斬りかかろうとした。
しかし、セルストは剣を振り出しながら驚くことになった。
なぜなら、和輝がセルストに反応して剣を振り出していたからだった。
「っ⁉︎」
ギィン!
セルストの剣を弾いた和輝は、そのまま腕を戻して横薙ぎに剣を振った。
セルストは和輝が反応した事に驚いていたものの、すぐに後ろに跳ぶことで回避した。
「くっ!まさか本当に俺の動きに反応できるとはな……」
着地したセルストは、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
和輝が今使っているのはただの『身体強化』ではなく、ゼヴォルスと半分同化しているようなものだった。
『身体強化』は単純に力や速さなどの身体機能を強化するものだが、半分同化している状態の和輝は『身体強化』よりも数倍は能力向上しているうえに、何よりも知覚能力が飛躍的にアップしていた。
これは完全に無意識のうちに使えるようになったものだが、これによってセルストと張り合えるようになっていた。
ゼヴォルスによる強化をしたままの和輝は、剣を構え直しながらセルストへ話しかけた。
「感謝します、セルストさん。あなたと戦えたからこそ、僕はまた強くなれた。皆を守るための力を付けることができた」
和輝から伝えられた感謝に、怒りを滲ませるセルスト。
「敵に対して礼を言うなんて随分とふざけてるな。しかもたった一回の攻撃を防げただけでもう勝った気になっているのか?」
「……さっきの話、聞こえてました。セルストさんは大切な人を失ったからこそ復讐するのだと。でも、そんな人生じゃ誰も報われないじゃないですか」
「……なるほどな。つまりは俺に同情したからこそ礼を言ってきたのか」
和輝から見当違いの言葉が返ってきた事に疑問を浮かべていたが、和輝から向けられる目と何かを訴えるような言い方に、その考えを察して軽く呆れてしまったセルスト。
和輝が唐突に敵であるセルストに礼を言ったのは、セルストの言うように同情したからであった。
確かに敵ではあるものの、辛い事があったというのを聞いてしまったからこそ、セルストの事を憎みきれなくなってしまったのだ。
だからこそ、優柔不断な性格である和輝はある可能性を考えていた。
〝必死に説得すれば考え直してくれる″と。
それはひとえにセルストを救いたいという気持ちもあるからこそであった。
「僕はあなたの事をよくは知らないけど、それでも今のあなたが辿ってる道は間違ってるっていうのは断言できます。確かに大切な人を失ったのは悲しいけれど、だからってこんな事をしたってその人が喜ぶはずないじゃないですか」
必死に説得を続ける和輝。
和輝の考えや思い、その言葉でさえ間違いではなかった。
しかし、迷い続けている者ならまだしも、和輝よりも倍の人生を歩み、自分で道を決めていたセルストには逆効果でしかなかった。
「お前ごときが彼女の思いを決めつけるな!お前に何が分かる!何も失ったことないくせに!周囲に恵まれているくせに!全てを持っているお前が偉そうに語るな!」
感情を剥き出しにしながら怒鳴り返すセルスト。
説得しようとしていた和輝は、その剣幕に圧倒されてしまっていた。
そして、セルストが話を切り上げて戦闘態勢に入ったところで―――
ゴゴゴゴゴゴゴ
突然、地鳴りのようなものが遺跡全体に伝わってきた。
「な、なんだ?」
「やっとか。これで何もかもが終わりだ」
驚く和輝に対して、淡々と呟くセルスト。
先ほどの地鳴りが何かを知っている素ぶりを見せるセルストに、和輝は恐る恐るといった感じで尋ねた。
「……何をしたんですか?」
「この通路の先には10年……いや、奴のも合わせると20年ほどか。とにかく長い年月をかけて集めた力を溜めているクリスタルがある。それの安全装置を壊しておいたんだ。あと10分もすれば溜め込んだ力が暴発し、街まで巻き込むほどの大爆発を起こす」
「なんだって⁉︎」
セルストから聞かされた内容に、驚きを露わにする和輝。
「これが俺の描いたシナリオだ。腐った人間どもをこの世界から消すためのな。もっとも、この世界の全てを消すほどの力は溜められなかったからあの街までしか巻き込めないが、俺にとってはそれで充分だ。もうこの爆発を止められる者はいない。お前もその仲間も、全てが塵となるんだ。どうだ?これでも俺に対して同情するのか?」
全ての計画を語ったセルストは、悪い笑みを浮かべながら和輝に問いかけた。
和輝は最悪の事態に少しばかり臆したものの、すぐに気持ちを切り替えてセルストを睨みつけながら剣を構え直した。
「させない!僕は皆を守るためにここにいるんだ!爆発は止めてみせる!」
「なら俺を殺すということか?」
「殺さない!あなたは悪い人じゃない、だからあなたも助けます!」
支離滅裂なことを言う和輝に、顔をしかめるセルスト。
「……意味が分からないことを言うな。俺を殺さなければここを通れないんだぞ?」
「殺さずに倒します。そうすればあなたも皆も助けられる」
和輝は〝全てを助ける″ということしか考えていなかった。
(ここで勝っても爆発を止められるかは分からない。でも、それでもやらなきゃいけないんだ!僕は勇者だ!僕の力はそのためのものなんだ!)
強い意志がこもった目をセルストへ向ける和輝。
そんな目を向けられたセルストは、心の中で和輝を〝理想しか考えていない子供だ″と思いながら剣を構えた。
「お前のそれはただの理想だ。現実を全く見れていない。現実というのは残酷なものだ。それをお前に教えてやる!」
そう言って、セルストは高速で移動して和輝に斬りかかった。
〈迅サイド〉
少しだけ時を遡り、グライドの『ゾーク・カノン』が放たれた部屋では天井が塵も残さずに吹き飛んでいた。
そして、その天井を吹き飛ばした張本人であるグライドは、大技を使った充足感で笑みを浮かべながら肩をぐるぐると回していた。
「はぁ〜スッキリしたぜ。だが魔物どもに使ってた力を回収したとはいえ、やっぱりこれはかなり疲れるもんだな。しかし、あれをまともに喰らって無事でいるとは驚いた。やっぱりお前は最高に面白いぜ。なぁ?ジン」
グライドがそう言いながら横を向くと、そこには迅が立っていた。
しかし、迅の右半身は重度の火傷をしたように焼き爛れており、上の制服は半分以上が破けてしまっていた。
「これで無事に見えるならお前の目は最高におかしいと思うぞ」
「ハハハハハ、俺にとっちゃ生きてる時点で不思議なくらいなんだ。だからその傷で済んでるだけでも無事だと言えるもんだろ。で?どうやって生き延びたんだ?あれはお前も消し飛ばせないほど弱っちぃもんじゃねぇぞ」
「べつに大した事じゃねぇさ。俺がやったのは単純な事だ。『魔力結界』を何重にも張って防ぎつつ、横に移動してあの極光から抜け出しただけだ。まぁ、結局は少しだけ間に合わなくて喰らっちまったがな」
グライドの疑問になんでもないように話した迅だったが、常人ならば気絶してもおかしくない激痛に耐えながら話していた。
これは迅が何度も大怪我をしながら戦ったことがあるからこそ、立って話せているだけなのだ。
迅から聞きたい事を聞けたグライドは、納得したように腕を組んでいた。
「なるほど、そういう事だったのか。じゃあまだ戦えるよな?とっとと続きをやろうぜ。俺をもっと楽しませてくれよ」
納得してすぐに嬉しそうな笑みを浮かべて構えるグライド。
対する迅も、焼き爛れている右腕を無理矢理に動かしながら腰を落として構えた。
そして、両者が同時に動こうとした時だった。
「ん?」
「なんだこりゃ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
2人同時に違和感を察した直後、遺跡全体が揺れ始めた。
「おい、この揺れは何なんだ?転移させるだけじゃないのか?」
「これは俺にも分からねぇな。だが、この力の流れはどう考えても暴走してるとしか思えねぇ」
力の漏れ方がかなり異常なのを察知した迅が問いかけたが、グライドも把握できていなかった。
しかし、2人とも強力な力そのものが危ない状態にあるのは分かっていた。
「おいおい、漏れてるだけでもかなりの力だってのに、こんなものが暴走なんてヤバいんじゃねぇか?」
「確かにそうだな。これだけの力が一気に爆発でもすりゃ、街まで軽く吹っ飛ぶだろうな。……あー、そうか。そういう事か。あいつの仕業だな。ったく、最後の最後に邪魔しやがるとか、ホントにむかつく野郎だ」
誰が原因なのかを悟ったグライドは、イラついたように頭に手を当てていた。
「お前の仲間は自殺でもするつもりなのか?」
「まぁ、これはそういう事なんだろうよ。あ〜あ、もうあっちはどうでもいいや。俺たちはこの戦いを続けようぜ。どうせこの爆発だって俺らを殺しきることなんて出来ねぇだろ」
長い時間をかけてやってきたものをダメにされたグライドは色々と考えるのが面倒になり、迅との戦いを優先するつもりのようだったが、迅は破れかけの服を剥ぎ取りながら首を横に振っていた。
「確かに俺ら2人は耐え切れるだろうな。だが、悪いがここまでだ。爆発なんてさせるわけにはいかねぇからな。お前をとっとと片付けて爆発を止めさせてもらうぞ」
「随分と余裕を見せるじゃねぇか。お前、今の俺に力負けしてるのを忘れてねぇか?そんなお前がどうやって俺をすぐに片付けるっていうんだ?」
力負けしてたはずの迅が余裕を見せている事に、逆に面白く思ったグライドは笑みを浮かべていた。
そんな嬉しそうにしているグライドを見た迅は、口元に余裕の笑みを浮かべて目を瞑りながら唐突な話をはじめた。
「……俺の故郷にはこんなことわざがあったんだ。目には目を、歯には歯をってな。だから、鬼には鬼だ」
そこまで話して目を開いた迅。
すると、先ほどまでは黒かった瞳が燃えるような赤い瞳に変わっており、迅の体の周りには可視化するほど濃密な赤いエネルギーの光がバチバチと弾けていた。
そして、迅はそのまま力を高めていき、己の能力を発動させた。
「お前に本物の神の力ってやつを見せてやるよ。【変換】『鬼神化・赤鬼羅刹』」
その能力によるものか、迅の体は徐々に変化していった。
体格自体はそのままだが、白かった髪は根元から真っ赤に染まりあがり、皮膚は日焼けしたように浅黒く変色していった。
そして肘から先、膝から下は人の肌ではない硬質的で赤い皮膚へと変化し、その両手足の甲には小さいクリスタルのような物が埋まっていた。
さらには犬歯が吸血鬼のように伸び、額からは10センチ程度の赤いツノが2本も伸びており、その根元からは青あざのようなラインが両手足のクリスタルへと繋がっていた。
「『神力結界』。さぁ、かかって来いよ」
横の壁を神の力を使って補強し、全ての準備ができた迅は睨むようにしながらグライドに声をかけた。
グライドは一気に力が膨れ上がった迅に驚いていたものの、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「……ククク、やっぱり最高だぜお前。それでこそ潰しがいがあるってもんだ!」
そう言って、グライドは真正面から迅に殴りかかった。
対する迅はその場で拳を引いて構え、互いに右の拳をぶつけ合った。
ズドォン!
何度も拳をぶつけてきた2人だが、今回は全く拮抗する事なく迅がグライドに殴り勝ち、グライドは勢いよく『神力結界』に叩きつけられていた。
「ぐっ!何だこのふざけたパワーは⁉︎」
苦悶の表情を浮かべるグライドは右腕を抑えながら驚きを露わにしていた。
それもそのはずで、ただの一撃でグライドの拳は骨が砕けてしまい、肩は脱臼してしまっていたのだ。
「だから言っただろ?お前をとっとと片付けるってよ」
焦りを見せるグライドに、迅は不敵な笑みを浮かべていた。
〈和輝サイド〉
一方で和輝とセルストの方はというと、徐々に戦闘が激しくなっていた。
セルストの剣が迫ってくるなか、和輝は雷を纏わせたゼヴォルスで迎撃した。
ギィィィン!
互いに強く撃ちつけ合いながら斬り結んだことで、その衝撃が周りに伝播していった。
そして互いに剣を弾き、そこからは高速で移動しながらの斬り合いが始まった。
互いに1発でも喰らえば致命傷になる剣戟を交わし合い、両者譲らぬ攻防を繰り広げていく。
そして、クリスタルから発せられる振動と、度重なる戦いの余波によって遺跡の天井が少しずつ崩れ落ちてくるなか、2人の戦いはどんどん激しくなっていった。
「お前ごときに何が出来る!皆を助ける?仲間と協力しなければ魔物の群れでさえ倒せないようなお前が!何が出来ると言うんだ!」
片手だというのに恐ろしく重い振り下ろしを放つセルスト。
ズガン!
和輝はそれを剣身に手を添えながら受け止め、必死にこらえていた。
「っ!……確かに僕はまだ力不足だ。それでも、皆がいるから僕は頑張れる。皆がいるからこそ、僕は頑張って守らなきゃいけないんだ!」
セルストの剣を押し返し、右から全力の横薙ぎを振るう和輝。
その横薙ぎはギリギリのところで後ろに跳んで躱されてしまったが、和輝はすぐに追いかけて連続で斬りつけていった。
「あなただってそうだ!僕はあなたも助けたい!大切な人を失って苦しいままの人生なんて、そんなのは悲しすぎる!もっとあなた自身の幸せを見つけるべきだ!」
「っ!」
和輝の連続攻撃をギリギリのところで躱し、逸らしていくセルスト。
そんなギリギリのなかで和輝が僅かに大振りになったところで、剣で受け流しながら和輝の腹に蹴りを入れた。
和輝はたまらず数歩下がってしまい、そこへ今度はセルストが斬りかかった。
「俺に彼女のことを忘れろと⁉︎俺には彼女が全てだった!彼女がいたからこそ幸せだったんだ!それを奴らが奪った!腐った人間が!この理不尽な世界が奪っていった!」
セルストが怒りとともに放った剣は和輝の反応を僅かに上回り、ただ剣を割り込ませただけの和輝は弾き飛ばされていった。
数メートルほど飛ばされた和輝は、どうにか受け身をとってからすぐに立ち上がった。
セルストの追撃を警戒したからこそすぐに構えた和輝だったが、セルストは追いかけてきていなかった。
「この世界は弱肉強食だ。結局は強い者が自由に振る舞う腐った世界だ。だから壊すんだ。奴らが俺から奪っていったようにな。お前も経験してみれば分かるさ!」
そこまで話したセルストは体を麗奈の方へ向けると、剣を振りかぶった。
「っ⁉︎」
セルストの狙いを悟った和輝は慌てて飛び出した。
「『フォース・エッジ』!」
セルストは神通力を剣に集め、それを斬撃として放った。
その斬撃は真っ直ぐに麗奈の方へ飛んでいったが、なんとか間に合った和輝が麗奈の前に立ち塞がり、ゼヴォルスで斬撃を受けた。
しかし、その強烈な威力を受け止めきれず、和輝は弾き飛ばされて壁の中に埋まってしまった。
「和輝くん!」
壁の中に埋まった和輝を見て、叫ぶように和輝の名を呼んだ麗奈。
そして、そんな麗奈の元へ歩いて近付いていくセルスト。
「あそこから間に合わせたのは流石だが、結局はそれだけだ。お前では誰も救うことは出来ない」
麗奈のそばまで来たセルストは、剣に神通力を纏わせながら振りかぶった。
「これでお前は終わりだ」
淡々と告げたセルストが剣を振り下ろそうとした瞬間、和輝が埋まっている壁の中から黄色の雷撃が放たれた。
「っ⁉︎」
セルストは突然飛んできた雷撃に驚いたものの、剣で斬り払うことで雷撃を霧散させた。
しかし、壁の中から雷撃が次々とセルストへ向かっていき、これにセルストは堪らず麗奈から離れていった。
麗奈が雷の発生源である和輝の方を向くと、そこには雷撃で壁を壊して出てきた和輝がいた。
だが、壁に突っ込んだ時に頭を打ったらしく、頭から血を流しながら荒い息づかいをしていた。
「和輝くん大丈夫⁉︎」
「はぁ、はぁ……大丈夫だ。まだ……やれる!」
麗奈の心配そうな声に、息を切らしながらもハッキリと返した和輝。
一方で距離をとったセルストは、和輝が意外にも早く壁から抜け出してきたことに顔を顰めていた。
「ちっ、しぶとい奴だ。だが、これで形成逆転だな。そこの足手纏いを庇いながら戦えばお前は確実に死ぬ。かといって俺に集中し過ぎるとそこの女が死ぬ。どう足掻いてもお前は救いきれない運命にあるんだ。どうだ?これがどうにもならない現実というものだ」
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
冷たい目を向けながら語ってくるセルストに対して、和輝は荒い呼吸を続けていた。
だが、和輝の頭の中ではサイクロプスと戦った時の記憶を思い出していた。
自分の力不足のせいで大切な仲間がピンチになり、繭は足から食べられてしまうところだった。
そして今回は麗奈の命が脅かされている。
また自分の力不足である事に、また仲間を失いそうな事に、和輝の心は悔しさと悲しさからくる激しい痛みに襲われていた。
「……させない……守るんだ……絶対に皆を助けるんだ。僕が、守らなきゃいけないんだ!」
苦しむ胸に手を当てながら吐き出した和輝の言葉には強い意志が込められており、その強い覚悟が形となって現れることになった。
バリバリバリバリ!
突然、和輝が纏っているゼヴォルスの光が激しく放電し、纏っている光が変色し始めた。
鮮烈に輝いていた黄色い光が煌めくような青色の光へと変色し、和輝を鮮やかに包み込んでいた。
「な、なんだそれは?今までのは本気ではなかったというのか?」
目に見えて狼狽しているセルスト。
それもそのはずで、セルストはさっきまでの和輝とは別人と思えるほどの力を感じているのだ。
「いいえ、僕はずっと本気でした。これはゼヴォルスが僕の想いに応えてくれたんです。そして、これなら守りながらあなたと戦えます」
「くっ!こんなバカなことが!」
冷静に見据える和輝に対して、明らかな焦りを見せるセルスト。
そして、和輝はゼヴォルスを構え直すと、力強い踏み込みでセルストに接近した。
一瞬でセルストの目の前に移動した和輝は、ゼヴォルスを横薙ぎに斬り払った。
「っ⁉︎」
ガイン!
真正面からだったのでなんとか剣で受けたセルストだったが、和輝の圧倒的な膂力に数メートルは弾き飛ばされてしまった。
手がビリビリと痺れるなかでなんとか踏ん張ったセルストだったが、追撃を恐れて和輝を見た瞬間に固まってしまった。
なぜなら、セルストの視線の先には青光の長大剣を構えた和輝がいたからだった。
「僕は諦めない!大切な人たちを守るために、この世界の人たちを守るために勇者がいるんだ!」
和輝の強い感情がゼヴォルスに力を与え、青光の長大剣は更に輝きを増していった。
そして、和輝はセルストに向かって駆け出した。
「『青光雷刃』!」
一筋の青い稲妻が一瞬で駆け抜けていき、セルストは全く反応できずに斬られていった。
しかし、和輝は『幻影形態』のゼヴォルスを使っていたので、セルストは両断されたわけではなかった。
和輝は倒れていくセルストを見送らずに麗奈の方へ向くと、長大剣を元に戻しながら声をかけた。
「麗奈!僕は先に行って爆発を止めてくる!麗奈はここで落ちてくる瓦礫から剛とセルストさんを守っててくれ!」
「分かった!任せて!」
麗奈から返事をもらった和輝は、奥の部屋に向けて走りだした。
そして、麗奈も順番に防御魔法をかけるために詠唱を始めた。
和輝と麗奈のやり取りを意識がボンヤリとするなかで聞いていたセルストは、子供だと思っていた和輝に負けたことを悔しく思いつつ、和輝がやろうとしている事が無意味であると分かっているからこそ、冷めた気持ちで天井を見ていた。
(全てが無駄だ。誰にも爆発を止めることはできないし、お前では奥の部屋に行くこともできん)
セルストは和輝の方を見てはいなかったが、実際に和輝はこの部屋から通路へ出ようとした所で結界に阻まれていた。
この結界は入り口にあったものと同じように力を隠すためのものだが、こっちの結界はそれ以外にも神通力を持っていなければ入れない特殊なものでもあった。
(これで俺の人生も終わりだ。ようやく君の元へ行けるよ)
徐々に意識が落ちていくなか、セルストの視界には今にも崩れ落ちそうな天井が見えていた。
(君の望んだ生き方ではなかっただろうけど、これ以上1人でいるのは寂しいんだ)
ついにセルストの真上にある天井が、瓦礫となって落下を始めた。
(だから、また君のあの笑顔を、眩しいくらいに可憐な笑顔を見に行かせてくれ)
今、剛に防御魔法を掛け終わった麗奈だったが、セルストの方は間に合うタイミングではなかった。
そして、瓦礫が目前に迫って来たところで、セルストは静かに目を閉じていった。
(愛してる……いつまでも愛してるよ、アリシア)
セルストは最後に懐かしい日々を思い返しながら意識を落とし、瓦礫の下敷きになっていった。
セルストが瓦礫に呑まれていくのをただ見ているしかなかった麗奈は、その場にへたり込んで俯いてしまった。
「……ごめんなさい」
間に合わなかったとはいえ、一筋の涙をこぼしながら謝罪の言葉を口にする麗奈。
だが、麗奈としてもどうしようもなかった。
敵であったセルストよりも幼馴染の剛を優先するのは当然の事なのだから。
一方で和輝はというと、どれだけ攻撃しても壊れない結界に苦戦していた。
「くっそぉおおおっ!」
連続で斬り続けていた和輝だが、結界にはひびすら入っていなかった。
しかも、まだ短い時間しか使っていないはずのゼヴォルスの雷による強化が、和輝をガリガリと消耗させていた。
「はぁ、はぁ……もう、これで壊すしかない!」
そう呟いた和輝は、さらに消耗するのもお構いなしにもう一度青光の長大剣を作り上げた。
「『青光雷刃』!」
勢いよく振り下ろした長大剣が結界と衝突し、激しいスパークを撒き散らした。
「うぉおおおおっ!」
懸命に踏ん張って剣を押し込む和輝だが、結界はビクともしていなかった。
そして、それが数秒続いたところで―――
「っ⁉︎」
和輝の体に力が入らなくなり、長大剣も青い雷も霧散させながら倒れていった。
「そん……な……あと少し、なのに……皆を、助けなきゃ、いけないのに……」
どうにか立ち上がろうとしても、魔力と精神力が切れてしまってはどうにもならなかった。
ドゴォオオオン!
和輝の背後では派手な爆発音が聞こえており、〝もうすぐ遺跡も壊れてしまう″と焦る和輝。
「何か、何か手は無いのか……」
ここまで来て諦めたくない和輝は、立ち上がれなくても必死に考え続けていた。
〈迅サイド〉
和輝の戦いが終わる少し前、迅が自分の能力である【変換】を使って『鬼神化』になったあとは、一方的な戦いになっていた。
具体的にはグライドが殴りかかってきたら打ち返すというやり方なのだが、その度に『神力結界』に叩きつけられていたグライドは全身ボロボロになっており、肩で息をするほどに消耗していた。
「はぁ、はぁ、くそっ!俺の拳がまるで歯が立たねぇ!」
「俺としてはそこまで耐えてる事にびっくりだぜ。俺の拳はそんなにヤワなもんじゃねぇぞ?」
どこまでも余裕の態度を崩さない迅を見て、思わず歯をくいしばるグライド。
「だが本当にここまでだ。あっちも終わったみたいだからな。俺もぼちぼち先へ行かせてもらうぞ」
「ざけんな!俺はまだ終わっちゃいねぇ!この俺を簡単に殺せると思ってんじゃねぇぞ!」
迅の言葉に目を見開いて反論したグライドは、懲りもせずに真正面から突っ込んできた。
グライドが左の拳を引いたので、同じく左の拳を引いて構えた迅。
すると、迅の額にある左のツノが赤く発光し始め、ツノから伸びているラインを辿って左手の甲にあるクリスタルまで発光していった。
「これでハッキリさせてやるよ。お前の力は所詮ニセモノだってな!『爆裂拳撃』!」
ドゴォオオオン!
お互いが拳をぶつけ合った瞬間に迅の拳から先が爆発し、グライドはまた吹き飛ばされて『神力結界』に叩きつけられた。
「がぁあああっっ!腕が、燃やされた!うぐっ!……っ⁉︎」
腕を溶かされたと思ったグライドが右手で確認しようとした時、ある違和感に気付いた。
グライドの左腕は確かにあったのだが、それがやけに細く感じたのだ。
なのでおかしく感じたグライドが目で見てみるとそこには、鬼に変化する前のグライドの腕があった。
「な、なんだこれは⁉︎どういう事だ⁉︎」
「それが本物との違いってやつだ」
「……本物との違いだと?」
「お前らが使う神通力ってのは神の力を元に作られたものだ。だが、これには明確な差があるんだ。単純な力の強さはもちろんだが、これに『概念』を扱えるのかも含まれる。神通力だと所詮は少し強いだけの力、だが本物の神の力は『概念』でさえ操れるようになる。で、お前のその腕はさっきの爆発に付与されていた『破壊』という概念によって変化を壊されたからこそ、元の腕に戻ったってわけだ」
迅の説明に付け足すとしたら、魔力などの力そのものに『概念』を付与することも出来る力というのが、本物の神の力である『神力』なのだ。
そして、この『鬼神化』自体に『破壊』の概念が込められており、全てを壊し尽くすのに特化した姿であった。
「じゃあ、まさかお前は神だって言うのか?」
「正確に言えば俺は神じゃねぇさ。さて、そろそろ爆発しそうだからな、お喋りはここまでだ」
グライドの疑問に答えた迅は、力をツノに蓄えながら構えた。
「チッ、まさかこれよりも上の力があるとはな。参ったよ、完全に俺の負けだ。だが、このまま引き下がるつもりはねぇぞ?お前は爆発を止めるつもりなんだろうが、それを全力で阻止して1人でも多く殺してやるぜ!」
そう話したグライドは砕けている右の拳を意地で握り込み、黒いエネルギーを溜め始めた。
「させるかよ。この程度の危機も救えねぇようじゃ、俺がここにいる意味がねぇ!」
対する迅もツノに溜めたエネルギーを右腕に流しており、右手のクリスタルが赤く光り始めた。
そしてそれは更に広がっていき、右肘までの全てが赤く輝き、漏れ出る力がバチバチと弾けていた。
そして、2人が力を高め合っているのと同時に、巨大クリスタルも爆発寸前のところまできていた。
「どれだけの人間が死ぬのかを見れねぇのが残念だが、お前ほどの奴を後悔させられるなら本望だ!精々助けられなかった事を悔いてろ!」
グライドは確実に殺されると分かっているが、精神的にでも迅を傷つけたいという思いからの言葉だった。
「悲しい結末なんざクソくらえだ!そんなふざけた理不尽、理不尽が叩き潰してやるよ!」
対する迅は、2度と目の前で悲惨な結末にはさせないという強い想いを抱いていた。
そして、ついにその時が来た。
「『ゾーク・カノン』!」
「『崩轟爆撃』!」
黒と赤の極光が同時に放たれた。
ズガァアアアン!
2つの極光は部屋の中央でぶつかり、拮抗することなく赤い極光が黒い極光を呑み込んでいった。
そしてそのままグライドを、『神力結界』を、和輝でさえ破れなかった結界を破壊し尽くしながら巨大クリスタルへと向かっていき、溜め込んだ力もろとも破壊して霧散させた。
巨大クリスタルを破壊したところで極光を止めた迅の視界には、遺跡だったはずの石畳だけが残っていた。
これで次回のエピローグを投稿すれば第2章は完結となります。
第2章の最後まで来てやっと迅の本気というストーリー構成でしたが、〝迅が最強である″という株を落とさないためにここまで引っ張りました。
人によってはイライラしてしまったかもしれませんが、そこは見逃して頂けるとありがたいです。
ちなみに最後の一撃のシーンですが、和輝たちは巻き込んでおりませんので安心してください。
この他にも疑問に思ったことなどがあるかもしれませんが、質問等は感想ページの方で受け付けていますので、そちらで聞いて頂ければと思います。
ここまで長々とありがとうございました。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




