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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
古代遺跡編
40/77

神通力の脅威

 〈和輝サイド〉


 グライドの黒い極光が放たれる前、奥の部屋では和輝たちとセルストの戦いが始まろうとしていた。


「『雷魔硬壁(らいまこうへき)』!」


「『全てを(はら)いし聖光(せいこう)よ、我が祈りに(こた)え、()しき者に抗う光となれ、『スピリアル・プリズム』!」


「『プロテクト』!」


 和輝はゼヴォルスの能力による雷の結界を、麗奈はオリジナルスペルによって強化した光の防御膜を自らに張った。

剛は初級の防御魔法を使っただけだが、魂剣であるメタルギアの装甲を、両手足だけでなく胸にも纏えるようになっていた。


「俺への対策として全身の防御をするというのは確かに良い判断だ。だが、相手が悪かったな。俺とお前たちでは、使う力に差があり過ぎる」


 そう話したセルストは魂剣に神通力を纏わせながら走りだし、一瞬で麗奈の左横に移動して剣を振るった。

しかし―――


 ギィン!


 セルストの剣は麗奈の防御膜によって(はば)まれていた。


「なに⁉︎」


 まさか破れないとは思っていなかったセルストは一瞬だけ硬直してしまい、その隙に麗奈は左の掌にウィルディーテの光を集めてセルストへと向けた。


「『イグニッション・レイ』!」


「っ⁉︎」


 キュイン!ズドォン!


 麗奈の手から放たれた光線は真っ直ぐに飛んでいき、壁に着弾したと同時に軽い爆発をもたらした。


 セルストは目の前で放たれた光線になんとか反応して躱していたが、虚を突かれたうえに距離が近かったので微妙に躱しきれず、左の二の腕を軽く(えぐ)られてしまった。

しかも、麗奈の『イグニッション・レイ』はぶつかった瞬間に軽い爆発を起こすため、その爆発によって左腕全体に火傷(やけど)を負ってしまっていた。


「くっ!」


 一旦距離を取ったセルストは左腕の状態を確かめるが、力もあまり入らずにほぼ使えない状態になっており、それによって苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「左腕をやったよ!」


「ナイスだ麗奈!」


「やったな!」


 移動したセルストへ向き直りながら報告する麗奈に、和輝と剛が駆け寄りながら声をかけた。


「どういう事だ。なぜ俺の攻撃を防げた」


 腕の確認を済ませたセルストは、麗奈を睨みながら問いかけた。


「それは教えないよ。教えたらあなたが強くなっちゃうもん」


 セルストの問いかけを突っぱねた麗奈。

ただでさえ強いセルストが相手なのだから、これは当然の反応であった。


 麗奈が使ったのは魂剣の能力に魔力でブーストした光の防御膜だが、実はこれに一つ工夫を加えていたのだ。

と言ってもこれは単純なもので、迅の『魔力結界』のように力そのものを圧縮させていたのだ。


 以前、迅から力の性質変換を教えてもらった麗奈だったが、この力の圧縮についてはイリスとエリスに教えてもらったものだった。

麗奈は学院でサイクロプスと戦った時にイリスとエリスが使っていた『魔力刃』が気になり、たまたまお風呂で会った時に話を聞いていたのだ。

そこから練習を重ねていき、魔力だけではなく精神力でさえも圧縮して扱えるようにしていったのだ。

ただ、まだ慣れが足りないため、魔力と精神力を同時に圧縮しようとした時には無駄に力を使ってしまい、かなりの消耗を()いられるのであまり長くは続かないのが現状だった。


(仕方ない。女は後回しだ)


 セルストは標的を麗奈から剛に変え、また高速で移動を開始した。


「また消えた!気を付けるんだ、2人とも!」


 和輝が色んな方に顔を向けながら剛と麗奈に注意を促した。

対するセルストは次から次へと転がっている瓦礫に飛び移りながら、剛に攻撃するタイミングを見計らっていた。


(恐らくはこいつが1番守りが弱いだろうが、確実に気を抜いた瞬間を叩く。それに、あれほど強力な防御魔法なら長い時間は()つまい)


 麗奈がしっかりと対策しているのを身を(もっ)て知ったセルストは3人に対しての評価を上げ、〝慎重に崩していこう″という考えだった。


「まだ見えないよ!」


「たぶん僕たちの隙を伺ってるんだ!油断するなよ!」


 そう声を掛け合いながら周りを見回す和輝たち。

そんな中、段々まどろっこしく思ってきた剛が動きだした。


「まだ来ねぇのか!和輝、麗奈!俺がなんとかするから、あとは頼んだぞ!」


「え⁉︎あとはって何をするつもりなんだ⁉︎」


 剛からいきなり頼まれた和輝が聞き返すが、剛は答えずにその場でしゃがんで地面に両手を付けていた。


(させるか!)


 確実に危ないものだと悟ったセルストが、何もさせないために剛へ斬りかかった。


 ギィン!


「な⁉︎」


 セルストの剣は間違いなく顔を狙っていたのだが、剛が瞬時に顔の横に構え直した腕の装甲に阻まれていた。

これは剛が〝そう来るだろう″と予想したうえで動いていたのだ。

しかし、剛の本当の狙いはここからであった。


「かかったな。『震源破砕(しんげんはさい)』!」


 剛はメタルギアにありったけの魔力と精神力を注ぎ込み、能力である振動を全力全開で発動させた。

その直後、剛を中心に凄まじい衝撃波が放たれ、セルストはもちろん、和輝と麗奈も衝撃波に巻き込まれていった。

衝撃波は転がっていた瓦礫を細かく破壊させ、しかも遺跡の壁や天井ですらヒビを入れるほどの威力を持っていた。

巻き込まれた和輝と麗奈は防御膜のおかげでその場で耐えきったが、セルストはかなりの衝撃を浴びながら飛ばされていった。


 ズン!


「うぐっ!」


 壁に叩きつけられたセルストは体の痛みだけでなく、脳を直接揺さぶられたような感覚に(おちい)っていた。


「……へへっ、あとは、頼んだぞ……」


 剛はやり切ったという笑みを浮かべながら気を失った。


 剛の使った『震源破砕』は、自分を中心に振動を起こして衝撃波を放つものだ。

今回は魔力も精神力も全部使ったからこそあれだけの衝撃波を放っていたのだが、これは使った本人にも周りに撒き散らした分の負荷が掛かるという欠点がある。

そのため、剛は魔力切れに精神力切れ、更には全身を揺さぶられたことで体も弛緩(しかん)した状態で気絶していた。


「あとは任せたってこういう事か。なんて無茶をするんだよ剛」


「でも和輝くん、今しかないよ」


「分かってる。剛が作ってくれたチャンスを無駄にはしない」


 そう言いながら2人が向いた先には、フラつきながらもどうにか立ち上がろうとしているセルストがいた。


「とりあえず、気絶さえさせれば魔物たちは何とかなるはずだ。話も聞かなきゃいけないから『幻影形態』でやるよ」


 そう言いながらゼヴォルスに魔力を送り、黄色い雷を発生させて構える和輝。


「うっ、くそ……」


 まさかこんな展開になるとは思っていなかったセルストはだいぶ久しい力不足を痛感し、自然と昔のことを思い出していた。


 かつて、自分が弱かったせいで愛する人を失った。

弱い自分、理不尽な魔物、情のカケラもない人間、その全てを壊すために10年以上もいけ好かない奴に協力してきた。

そこまでしてやろうとした事が、また自分の力不足で頓挫(とんざ)しようとしていることに、セルストは悔しさを感じていた。


(ここまでやってきたのに、あと少しだというのに!)


 フラついている意識はマシになってきたが、攻撃を躱せるほど動けるようにはなっていないセルスト。


「行くぞ!『黄光雷刃(おうこうらいじん)』!」


 和輝が黄色い雷を纏いながらセルストへ斬りかかった。


「ここまでか……」


 セルストが悔しく思いながらも諦めかけたその時―――


 ズドォオオオン!


 剛の衝撃波とは比にならないほどの揺れが起こった。


「な、なんだ⁉︎」


「……これは……」


 この揺れにたまらず止まってしまった和輝と、軽く呆けながらポツリと呟くセルスト。


「和輝くん上!避けて!」


 麗奈が咄嗟に注意した事で上を向いた和輝の視界には、瓦礫が落ちてきているのが見えた。


「っ⁉︎」


 ズドォン!


 かなりギリギリのところで躱した和輝は、一旦、麗奈の所まで戻っていった。


「和輝くん、大丈夫?」


「どうにかね。でも、これはどういう事なんだろう?」


「私も分からないけど、とりあえず剛くんを瓦礫から守らなきゃ」


「そうだね。たぶんこのまま天井が崩れるだろうから、剛にも防御魔法を掛けないと」


 そう言って動き始めた和輝と麗奈。


 そして、セルストは今の振動の原因を推測し、自嘲的な笑みを浮かべていた。


(この揺れは恐らくあいつが原因だろう。まさか嫌いなやつに助けられるとはな)


 自分が嫌う人種に助けられた事に情けなく感じながらも、時間が稼げた事で酔っていた感覚もほぼ治ったセルスト。


(まだ力を入れにくいが、これなら充分に動ける)


 立ち上がったセルストは、手を握って感覚を確かめてから和輝たちの方を向いた。


「『身体強化』っ⁉︎うぐっ!」


 セルストが魔力ではなく神通力を使って『身体強化』掛けた途端、全身にビキビキと痛みが走った。

これは強過ぎる強化に体が追いついてないからこその痛みであった。


「体が(きし)むが、なんとかなりそうだ!」


 和輝と麗奈は得体の知れない力を感じ、セルストの方へと向いた。


「しまった!先に気絶させておくべきだった!」


「あれって『身体強化』だよね?なんか普通じゃないように感じるんだけど」


「とにかくヤバいのは確かだ。麗奈は剛を守ってて、あいつは僕が「無駄だ」がっ⁉︎」


 ズドォン!


 瞬時に和輝の前に現れたセルストは、『雷魔硬壁』の自動雷撃を剣で斬り払いながら和輝の腹を殴り飛ばした。

片手間の拳でも神通力による強化は凄まじく、和輝は吐血しながら吹き飛んで壁に衝突し、うつ伏せに倒れていった。


「和輝くん!」


「あとは1人だな」


 セルストが麗奈に狙いを付けて歩き始めた。

麗奈はなんとか和輝を回復させるために魔力を溜め始め、その間の時間稼ぎとしてセルストに話しかけた。


「……なんで、なんで貴方はこんな事をするんですか?」


 問われた事で歩みを止めたセルストは、〝今日が最後だ″と悟っているからこそ素直に語り出した。


「俺は人間が嫌いだ。人間など自己中心の者ばかりで生きる価値などない。だから全部壊すために俺は動いてきた」


「そんな……貴方には大切なものが無いんですか?」


「とっくの昔に全て失った。人間が原因でな。だから復讐するために今日まで生きてきた」


 セルストからのまさかの発言に驚いてしまった麗奈。

そんな麗奈を冷たく見据えながら、腰を落として構えたセルスト。


「昔話は終わりだ。これで楽になれ」


 セルストが神通力を纏わせた剣を振ろうとした瞬間、我に返った麗奈は咄嗟に自分のやる事を成そうとした。


「いや!私はまだやりたい事があるの!『ディアクシア・リカバリー』!」


「なに⁉︎」


 セルストは麗奈が無詠唱で唱えたその魔法名に驚き、攻撃するのを中断してしまった。

その間に麗奈の掌は和輝へと向いており、癒しの光が和輝へと流れていった。


 麗奈がこのオリジナルスペルによる魔法を唱えたのはまったくの偶然であった。

オリジナルスペルというのは呪文と魔法名に意味を持たせると効果を発揮しやすいのだ。

だからこそ麗奈は元の世界で治癒の神と言われていた『ディアンケト』から取ったものを魔法名にしていたのだが、それが功を奏してセルストの動きを止めていた。


 麗奈が唱えた『ディアクシア・リカバリー』は、かつてセルストの亡き妻であるアリシアが使っていたものだ。

その効果は死んでさえいなければあらゆる傷が治るという魔法だったが、麗奈は回復魔法が得意というわけでもないし、名前が同じなだけでそこまでの効果が出るものではなかった。

しかし、この名前が出たことによってセルストに隙ができ、和輝を癒すことに成功した。


「くっ!」


 ついつい見過ごしてしまったセルストだったが、すぐに我に戻って麗奈を斬りつけた。


 ガキン!


「きゃっ⁉︎」


 ズン!


「うぐっ!」


 セルストの斬撃を防御膜とウィルディーテで受けた麗奈は、その衝撃に耐えきれずに壁に叩きつけられた。

その際に防御膜は破壊されてしまい、ウィルディーテもヒビが入ってしまっていた。


「うっ…………」


 骨が折れたりはしていないが、壁に叩きつけられたダメージのせいでなかなか立てない麗奈。

そんな麗奈の元に、険しい顔をしたセルストが歩いて近付いていった。


「貴様、どこでその魔法を知った?」


 セルストに問われた麗奈だったが、立ち上がるのに必死で返事などはできなかった。

そんな答えを返さない麗奈に対して怒りを増していったセルストは、剣を持つ手に力を込めていった。


「たいした力があるわけでもないくせに、貴様ごときが彼女の魔法を使うな!」


 そう言い放ったセルストは、動くことのできない麗奈へ斬りかかった。

しかし―――


 ガキィン!


 セルストの剣は麗奈に当たる直前に、精緻(せいち)意匠(いしょう)(ほどこ)されている金色の剣に受け止められていた。


「っ⁉︎」


 圧倒的な膂力(りょりょく)を誇っていたはずの剣が受け止められた事に驚いたセルストは、その金色の剣を持っている人物へ目を向けた。

するとそこには、ほとんどの傷を回復させている和輝がセルストを睨みつけていた。


「これ以上、僕の仲間は傷つけさせないぞ!」


 強い意志を込めて言い放った和輝の体は、普段の『身体強化』の白色ではなく、煌めくような黄色い光を纏っていた。

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