黒い極光
先月は5437pvとなりました。
またひと月の記録が更新となり、そしてついに累計2万pvを達成しました。
ここまでたくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございました。
そして、なんだかんだと長くなってしまった第2章ですが、予定では今月中には終わるかな?といったところです。
以上、色々な報告でした。
それでは本編をどうぞ。
〈迅サイド〉
時は少し遡り、遺跡の中で戦い始めた迅とグライドは肉弾戦を続けていた。
「オラァッ!」
「っ!」
グライドの左足の蹴りを、ギリギリのところで後ろに跳んで躱す迅。
そこへすぐにグライドが距離を詰め、右の拳を構えた。
着地は間に合うものの、そこから跳ぶのは不可能だと判断した迅は、両腕を胸の前でクロスさせて防御の構えをとった。
しかし、グライドは右アッパーで迅の両腕を弾き上げ、逃げられないように右足で迅の左足を踏みつけてから左のストレートを放った。
ズドォン!
グライドの左ストレートを右頰にモロに喰らった迅は、そのまま吹き飛ばされて壁の中へと突っ込んだ。
しかし、そんな簡単にくたばる迅ではなかった。
ズガン!
迅は口から血を流しながらも、すぐに瓦礫を吹き飛ばして壁の中から飛び出した。
その直後―――
「っ⁉︎」
迅の目の前にデカイ瓦礫が迫っていた。
グライドも迅がこの程度で終わるとは思っておらず、近くの地面を殴り壊して瓦礫を投げ飛ばしていたのだ。
迅は意表を突かれたものの、なんとか止まって瓦礫を殴って粉砕させた。
その向こうに、投げた瓦礫に隠れるように近付いていたグライドが現れた。
「ハッハァッ!」
「っ!」
グライドは渾身の力を込めて右のストレートを放った。
だが、さすがにこの動きは読めていた迅は半身になって躱し、逆にその力を利用するように腕を掴んで一本背負いの体勢に入った。
「うぉっ⁉︎」
「そぉらっ!」
流れるように拳の力を利用されたグライドは慣れない柔道技に全く抵抗できず、そのまま迅に思いっきり地面へと投げられた。
ズドン!
一本背負いというのは通常ならば背中を叩きつけられるのだが、迅の強力な力によって投げられたグライドは頭から地面へと突っ込み、胸の辺りまで埋まり込んでしまっていた。
そんな無防備な状態を迅が逃すはずもなく、何もできないグライドの腹に全力の蹴りを入れた。
「ふん!」
ズドォン!
何も抵抗できずに蹴り飛ばされたグライドは、逆さまになったままでさっき迅が埋まった壁へと突っ込んだ。
「ふぅ……ったく、どんだけ硬いんだよあの肉団子は」
口元の血を手の甲で拭いながらひと息ついた迅だったが、実際の手応えの無さから警戒を緩めることはなかった。
その証拠に、埋もれたはずのグライドはすぐに瓦礫を吹き飛ばして壁の中から出てきた。
「ハッハッハ!なんだよ今の?まんまとやられちまったぜ!」
やられたというのにとても楽しそうに笑っているグライド。
それに対して迅は、めんどくさそうな表情を浮かべていた。
「どこがだよ。思いっきりピンピンしてんじゃねぇか」
「いや、かなり効いたぜ。こりゃ明日には青あざになっちまってるよ。っていうかこっちも驚いたぜ。俺の拳を受けて無事なんだからよ」
「無事じゃねぇよ。てめぇのせいで口の中を切っちまったじゃねぇか。これじゃ飯を食う時に困るだろうが」
間が空いたことで軽口を叩き合う2人だが、あれだけ殴り合っていても互いに大したダメージにはなっておらず、この点については迅の方が驚いていた。
(神通力しか使ってないのは確実だが、まさかここまで強化出来るとは驚いたな)
どうやらグライドは神通力の恩恵を全て身体強化に使っているようなのだが、神の力を扱えるように強化した迅と張り合えるというのはかなりの脅威であった。
「クックックック。やっぱりいいぜお前。こんな適当な会話でさえ楽しくなっちまうよ」
「だったら色々と喋ってくれよ。てめぇの組織は?てめぇらの目的は?この遺跡は?てめぇが魔物使いか?」
「おいおい慌てんなよ。そうだなぁ、組織と目的は言えねぇが、他なら話してやるよ。でもまぁ、この遺跡については正直知らん。はるか昔から存在するらしいが、俺らはたまたまここを使ってるだけだからな。あと、魔物使いは俺で合ってるぜ。だが俺は力を与えてやる代わりに時間稼ぎをしろと言っただけだから、べつに操ってるわけじゃねぇぞ」
よほど気分が良いのか、迅の問いかけのほとんどを答えるグライド。
そして話が聞けたことによって、迅の中に新しい疑問が生まれた。
「時間稼ぎねぇ……それはこの奥にある力の塊が関係してんのか?」
奥へと続く通路を指差しながら問いただす迅。
「ああ、そうだ。あれをどっかに転移させるらしい。いやぁ、大変だったぜ?あれだけの力を集めるのはよ。だが、これでようやく終わりだ。あとは好き放題に暴れていいと言われてるんでな。まだまだ長い残りの余生は好きに暴れていくつもりなんだよ」
新しいオモチャを手に入れた子供のように話すグライドだったが、その内容については狂っているとしか言いようがなかった。
そして、そんなふざけた願いを聞いた迅は、冷たい目をグライドに向けていた。
「俺がそれを見過ごすと思うのか?」
「べつに思ってねぇさ。だからお前とあいつをぶっ飛ばして、誰にも邪魔されないようにしてやるんだよ」
好戦的な笑みを浮かべながら語るグライド。
そして、今の会話に迅はまた疑問を抱いた。
「あいつ?」
「今この奥にいる奴さ。弱いくせに何かと突っかかってきやがってな。だいぶムカついてっから、あいつも殺してぇんだよ」
(セルストって奴のことか。どうやら組織って言っても一枚岩じゃねぇみたいだな)
グライドから今までの話を聞いた迅は、〝勧誘かなんかしたんだろう″と推測していた。
「この話のついでにおもしれぇ事を教えてやるよ。あいつは10年くらい前に嫁を失くしてんだが、その嫁は俺が力を与えた魔物に殺されてんだよ。クククッ、笑えると思わねぇか?嫁を失くした元凶とも知らずに、セコセコと俺らに協力してんだからよ」
堪えきれない笑いを零しながら昔の真相を語るグライド。
それに対して迅は、さっきまでと変わらない冷たい表情でグライドを見ていた。
「なるほどな。だからあいつは魔物を倒すのには協力してたわけか」
迅は和輝から話を聞いた時から〝セルストがなぜ神崎たちに協力したのか″と疑問を浮かべていたのだが、グライドの話を聞いたことで納得していた。
セルストは魔物が知恵を持っていたのは突然変異か何かと思っていたのだ。
だからこそ、知恵を持つ魔物を倒すのには協力していたのだ。
「なんだよ。この前のいくつかのリンクが切れたのはあいつのせいだったのかよ。ほんとにムカつく野郎だな」
「あいつだって少なくともてめぇには言われたくないだろうよ」
「そりゃそうか。さて、話もこれくらいにして続きをしようぜ。こっからは俺も本気でやるからよ。お前も魂剣を使って全力で来いよ」
話を切り上げたグライドは、待ちきれないと言わんばかりに腰を落として構えた。
「俺の相棒たちは別件で取り込み中なんだ。だからこの戦いで呼ぶ気はねぇよ。それに、てめぇなら素手でも問題ねぇからな。『身体強化』」
迅の体に『身体強化』が掛かり、その証拠に迅の体には白い光が薄く発光しだした。
さっきの殴り合いの時点で互角だった2人だが、これで単純に数倍は能力が上がっている迅が有利となった。
「へぇ、やるじゃねぇか。さっきまでとは比べもんにならねぇぐらいの力を感じるぜ」
グライドは迅から発せられる圧倒的な威圧感を感じているはずなのだが、やはりどこまでいっても戦闘狂なのか、野生を感じさせる好戦的な笑みを浮かべるだけだった。
「それが分かっていながら随分と余裕そうじゃねぇか」
「そりゃそうさ。その程度ならまだ俺が勝てるからな。さっきも言ったろ?こっからは本気だってよ。今からそれを見せてやるからよく見とけ。神の力とやらで進化する……俺の最強の姿を!」
そこまで話したグライドは、顔を下に向けて体全体に力を込め始めた。
「はぁあああああ!」
雄叫びのような声を上げるグライドから、視認できるほど濃密な黒いオーラが出てきた。
そして、その数秒後にはグライド自身に変化が現れた。
もともと大柄だったグライドの体が肥大化し、肌の色も不気味な赤黒い色へと変化していった。
極めつけには顔も変わり始め、下2本の歯が極端に長く伸び、禿げていた頭のてっぺんには太くて長い一本角が生えていた。
「ハハハハハ!これが俺の本気さ!いやぁ何年振りだこれ!やっぱこの力が溢れてくる感じはたまんねぇぜ!何もかもをぶっ壊せそうだ!」
体と一緒に精神も変化したのか、だいぶ興奮しながら話すグライド。
それに対して迅は、グライドの変化に内心で驚いていた。
(俺の方が知ってるはずだったんだがなぁ……まさか神通力でここまで強化できるとは驚いたな)
迅はグライドから力の強さを感じ取っているのだが、それがさっきまでとは比べものにならないほどに強くなっていた。
それこそ、『身体強化』を使っている迅よりも上だと判断できるレベルであった。
「……どういう理屈か知らねぇが、それがお前の本気だってんなら「ラァッ!」っ⁉︎」
迅は目を逸らしてはいなかったのだが、それでも一瞬でグライドに後ろを取られてしまい、壁まで殴り飛ばされた。
ズドォン!
完全に虚を突かれて殴り飛ばされた迅だったが、それでも今までの戦闘経験による勘のおかげで、なんとか腕を割り込ませてガードは間に合わせていた。
「お前は知ってるか?はるか昔に『鬼』と呼ばれる伝説の生物がいたそうだ。そいつは武術に関しては天下一品と言われ、加えて肉体も身体能力も神だと言われていたらしい。俺は昔からそいつに憧れてた。そしてこの神の力を手に入れたことで、俺はついになったんだよ。最強の生物である『鬼』に!」
握り拳を作りながら熱く語るグライド。
迅はそれを耳にしながら壁の中から抜け出した。
殴られた腕は折れてはいないものの、ビリビリと痺れるような痛みが走っていた。
「ちっ、めんどくせぇパワーアップしやがって」
「お?今の威力でも骨は折れてねぇのか。やっぱりいいなぁお前。それだけ硬けりゃ潰しがいがあるってもんだぜ!」
「っ!」
嬉しそうな笑みを見せたあと、また迅に向かって殴りかかってきたグライド。
対する迅は、今度はかなり集中していたのですぐに横に躱したが、かなりギリギリのタイミングだったので顔のすぐ横を拳が通過していった。
「逃がさねぇぞ!」
ズン!
石畳が軽く陥没するほどの踏み込みで迅を追いかけるグライド。
迅はその迫りくる拳を、上に跳んで回避した。
「ウラァッ!」
「ぐっ!」
跳んで回避した迅だったが、すぐさま同じように跳んできたグライドに空中で回し蹴りを腹に喰らい、また壁に向かって吹き飛ばされた。
ズドォン!
「まだまだやれんだろう、おい!」
そこへさらなる追撃を加えようと壁に向かうグライド。
ズガン!
黙ってやられるつもりはない迅は瓦礫を全力で殴り飛ばし、すぐに壁の中から抜け出して空中に飛びでた。
その直後にグライドの拳が壁に直撃し、壁全体に亀裂が走っていった。
「ちっ!『魔力結界』!」
〝このままでは遺跡全体が壊れる″と悟った迅は、天井だけでなく横の壁全体にも『魔力結界』を張った。
「おいおい!そんな事に力を使ってていいのかよ!」
グライドがすぐさま迅を追いかけて跳んできた。
〝逃げたままじゃ埒があかない″と考えた迅は足の裏に『魔力結界』を張り、空中に停滞して構えた。
グライドは逃げる姿勢を見せなくなった迅に嬉しくなりながら、真っ直ぐに右の拳を放った。
相変わらずの凄まじい威力とスピードを持つ拳だが、少しだけ慣れてきた迅はタイミング良くその拳に左手を乗せて、そこを支点に逆立ちになった。
そして、グライドの背中めがけて右の拳を放った。
ズン!
殴られたグライドは下へと飛んでいったが、大したダメージが無かったのか空中で体勢を立て直し、余裕を持って着地した。
「よっと!ハハハハハ!まさかあそこから反撃を喰らうとは思わなかったぜ!」
呑気に高笑いするグライドを、空中に留まりながら見下ろしている迅。
「はぁ……ほんとにどんだけ強化されてんだよあいつ。ついにはノーダメージかよ」
迅はひと息つきながらも、グライドのバカみたいなタフネスにうんざりしていた。
そして、少し笑って興奮が収まったのか、空中にいる迅に向き直ったグライド。
「お前のそれ便利だな。ようは魔力の塊を踏んでいる訳か。それなら俺にも出来そうだ!」
そこまで話すと、グライドはまた空中へと跳んだ。
しかし、今度は迅に向かってではなく、あらぬ方へと向かっていた。
「よっと!」
そのまま行けば壁にぶつかるはずであったが、グライドは迅と同じように『魔力結界』を足の裏に張ることで空中で留まった。
「おぉ、こりゃあいいもんだな。さて、これならお前を捕まえられるぜ」
「くっそ、へたに見せるんじゃなかった」
『魔力結界』をすぐに扱えるようになったグライドを見て、迅は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「さぁ、行くぜオラァッ!」
声を張り上げながら動いたグライドだが、迅がいない方へと跳んでいた。
そのまま跳んで行くのかと思いきや、途中で『魔力結界』を使って軌道を変え、迅の真上、右下、正面と次々に移動しまくっていた。
「っ⁉︎ほんとにめんどくせぇな!」
グライドの思惑を悟った迅は、その厄介さに気付いて悪態をついた。
グライドは迅がギリギリの所で対処しているのを分かっていたので、上下左右に高速で動くことで迅の隙を作ろうとしているのだ。
そして実際に、迅の反応が微妙にグライドに追い付かなくなっていった。
グライドはそれを見た瞬間に迅の真下へと移動し、そこから迅へ殴りかかった。
「っ!」
しかし、どうにか反応を間に合わせた迅は、また同じようにカウンターするべく拳を支点にして躱した。
そしてそのまま、今度はグライドの顎を狙って拳を放った。
「何度も同じ手が通用すると思うなよ!」
グライドはそう言いながら首を捻って躱し、その迅の腕を右手で掴んだ。
「っ⁉︎」
グライドはそのまま迅を振り回し、天井へと投げ飛ばした。
ズドン!
「ぐっ!」
猛烈な勢いで投げられた迅は、自分の作った『魔力結界』に叩きつけられた。
その勢いはかなりのもので、迅が叩きつけられたことによって『魔力結界』にヒビが入った。
迅はさらなる追撃を予想し、すぐにその場を離れようとした。
しかし、下にいるグライドを見た瞬間に僅かに硬直してしまった。
なぜなら、下にいるグライドの右の拳に、濃密なエネルギーを含んでいる黒い光が纏われていたからだった。
「じゃあな、なかなかに楽しかったぜ」
(やべぇ!)
笑みを浮かべるグライドに対して、引きつった表情をする迅。
そして―――
「『ゾーク・カノン』!」
グライドが右の拳を突き上げたと同時に黒い極光が放たれ、迅の視界は黒一色に染まった。
ズドォオオオン!
迅を呑み込んだ黒い極光はそのまま『魔力結界』をものともせずに突き破り、空高くへと消えていった。
以前に約10万文字で一章と伝えていたのですが、すでに2万字ほどは越えてしまっていました。
なので、この目安の文字数については忘れて頂けるとありがたいです。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




