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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
古代遺跡編
38/77

キツネ巫女と闇の風

 〈咲恵サイド〉


 魔物たちとの戦闘を開始した咲恵たちは、付き合いの長さから生まれる連携プレーで魔物たちを圧倒していた。


「サキエ!伏せて右!」


「了解!」


 咲恵の死角でオークが斧を振り回そうとしているのを見たノエルが指示を出し、咲恵は言われた通りに伏せてから右の魔物がいない隙間へと逃げ込んだ。


「『フォーカル・ウィンド』!」


 ノエルの杖の先端から荒れ狂う風を圧縮させた塊が撃ち出され、斧を空振ったオークに当てて吹き飛ばした。

飛ばされたオークはそのまま他の魔物を巻き込んでいき、森の奥へと消えていった。


 咲恵の無事を確認したノエルはすぐに魔力と精神力を杖に込めて、次から次へと魔法名()()を唱えていった。


「『イマージョン』!『フリーズ』!『ディスチャージ』!『フロンド』!」


 動きが鈍い魔物の足下に水を張り、それを氷結によって凍らせて動けなくさせ、身動きが取れないところに電流と石の(つぶて)を撃ち込んでいった。


 ノエルの魂剣である『オリニクス』はこれといった能力は無いものの、魔法に関するものを扱いやすくしてくれる魂剣であった。

だからこそノエルは詠唱をせずに魔法を撃つことができていたのだ。

しかし、ノエル自体の実力が追いついていないために中級クラスの魔法は()めが必要となり、詠唱するよりは少しだけ速いといった具合だった。

一応、初級クラスはさっきのようにポンポンと撃てるので、今回のように数を相手にするにはうってつけではあった。


「ヨクモヤッタナ!」


 仲間のオークが吹き飛ばされたことによって、別のオークがノエルへ襲いかかった。


「させません!」


 オークがノエルに近づく前に立ち塞がったミーナは、すれ違いざまに脇腹を斬りつけた。

すると、その斬り口から炎が噴き出した。


「ガァアアアッ!ナンダ、コレハ⁉︎」


「私の『エフリート』の能力です。早く消さないと燃え尽きますよ」


 痛みと熱さに悲鳴をあげるオークに、淡々と説明するミーナ。


 ミーナの魂剣である『エフリート』は、斬りつけた所から発火させるという能力である。

ただそれだけではあるので大したことないと思うかもしれないが、かすり傷でも燃やされてしまうので、かなり厄介な魂剣と言っていいだろう。

ちなみに、炎に関しては水をかけたりすれば普通に消火できるようになっている。


 オークは激痛に(こら)えながら必死に炎を消そうと手で払ったりなどするが、なかなか消えずに焦りはじめていた。

するとそこへ、焦るオークの前を白い物体が通り過ぎていき、次の瞬間にはオークの体が上下に両断された。

そして、その白い物体は止まらずに周りの魔物たちの近くを高速で移動していき、魔物たちは視認すら出来ずに次々と両断されていった。


 大体の魔物が片付いたところで白い物体が止まり、その姿がはっきりと捉えられるようになった。

今まで暴れていた白い物体は、成体になった九尾狐のルーであった。


 ルーは咲恵の精神力を使って成長することによって、魔物とも対抗出来る力を行使していたのだ。

なので咲恵から精神力の供給が止まってしまえば即座に幼体に戻ってしまうが、この成体になっている間はかなりの強さを誇っていた。

スピード自体もそうだが、1番は斬れ味が(するど)すぎる9本の尻尾がかなりの脅威であった。

今回の魔物たちは防御に特化したものがいないため、ルーの感覚では少し力を入れただけで簡単に斬っていたのだった。


「流石だな、みんな!」


 ノエルたちの活躍を横目で見ていた咲恵は、仲間たちを頼もしく感じながら魔物を斬り伏せていた。

するとそこへ―――


「チョウシニノルナヨ、ニンゲンドモ!」


 突然そんな声が聞こえたかと思うと、魔物の群れの奥からライオンのような姿をした魔物が出てきた。

そのライオンのような魔物は象のような体躯(たいく)とサソリのような尻尾を持っており、マンティコアとも言うべき姿をしていた。


「ズイブントオレノブカヲカワイガッテクレタヨウダナ。レイニキサマラヲオレノハラノナカニオサメテヤルゾ」


「そんなのは願い下げだ。私は無事に帰らなきゃいけないんだ。だから自分のために、みんなのためにもお前を倒す!」


 咲恵は高圧的に話してきたマンティコアにも恐れずに、言い終わると同時に身体強化を掛けて駆け出した。

和輝たちとは違って長い年月をかけて鍛えてきた咲恵は身体強化でさえも一線を画しており、まるで縮地でもしたかのような速さでマンティコアへ接近した。

しかし、マンティコアは咲恵の速度を見切っているようで、接近してきた咲恵に向かって右前足の爪を突き出してきた。

咲恵はその爪を刀で受け流しながら更に(ふところ)へと入り、左前足を斬りつけてから即座に距離をとった。


「っ!これは硬いな……」


 巨体に踏まれないために一撃離脱をした咲恵だったが、斬りつけた時に感じたマンティコアの硬さに顔を歪めていた。

ディルナの斬れ味に関してはゼヴォルスよりもあるのだが、マンティコアの足は薄皮一枚が切れただけであった。


「ヤハリソノテイドカ、ニンゲン。ツギハコッチカライクゾ!」


 勢いよく駆け出したマンティコアは、咲恵に向かって突進していった。


「ふっ!」


 スピードはなかなかではあるものの、咲恵は焦ることなく横へ跳んで避けた。

マンティコアは躱されてすぐに切り返してもう一度突進を仕掛けたが、咲恵はもう一度横へ跳んで躱した。


「アマイ」


 マンティコアは同じ突進のように見せかけて、咲恵が跳ぶと同時に尻尾を振り回した。

咲恵は着地が間に合わないものの、尻尾からの攻撃自体は予測していたので刀を構えて受けた。


 ガキン!


 咲恵は空中にいたので軽く飛ばされはしたが、しっかりと態勢を立て直して着地した。


「クラエ!」


 マンティコアは着地したばかりの咲恵に向かって、尻尾から数十本の毒針を飛ばした。

〝これを刀で(さば)くのはキツい″と判断した咲恵は、その場から後ろへ跳んで回避した。

そこへすかさずマンティコアが咲恵を吹き飛ばそうと突進をかけた。

まだ跳んだままの咲恵は、どうにか勢いだけでも殺すために全力で刀を振り下ろした。

しかし―――


「ムダダ」


 ガキィン!


「っ⁉︎」


 マンティコアは尻尾を下から振り上げ、力任せに咲恵の刀を打ち上げた。

刀自体は手放さずに済んだ咲恵だったが、両腕が刀ごと上に弾かれたことで胴体がガラ空きになってしまい、そのままマンティコアの突進をもろに受けることになった。


「うぐっ!」


 腹にズンと重い衝撃を受けた咲恵は、10メートルほど飛ばされながらもなんとか受け身をとった。


「いたたた……硬いし動きも速いな。これはさすがに今の私じゃ厳しいか」


 咲恵は片手でお腹をさすりながら立ち上がり、マンティコアの力量を分析していた。

突進によるダメージは低かったのでまだ動けるが、スピードが互角なので尻尾や毒針といった手数で押されてしまっている状態だった。


「ガハハハハ!リカイシタヨウダナ、ニンゲン。オマエラノヨウナジャクシャガ、オレニカナウハズナイダロウ」


「そうだな。まだまだ私は力不足だ。だから遠慮なく手伝ってもらうとするよ。ルー、おいで」


 咲恵はマンティコアの嘲笑を淡々と受け止め、(みずか)らの力不足を認めたからこそルーを頼ることにした。

咲恵とマンティコアが戦っている間に全ての魔物を片付けていたルーは、すぐさま咲恵の元へと駆けつけた。


「コンドハソイツガアイテカ。ナカナカクイゴタエガアリソウジャナイカ」


 マンティコアが臨戦態勢に入るなか、咲恵はそれを意に介さずルーの頭を一撫(ひとな)でした。


「やるぞ、ルー」


 ルーは咲恵に鳴いて返すと、体を白く発光させてそのまま光る球体に変化した。

その球体は咲恵に近付いていき、そのまま胸の中へと沈んでいった。

その直後―――


 カァッ!


 咲恵自身が発光し、辺りは眩しいほどの光に照らされた。

マンティコアもたまらず目を瞑ってしまい、そのまま光が収まるのを待った。


 数秒たったところで光が収まったのを感じたマンティコアは、ゆっくりと目を開けて咲恵の方を見た。

その瞬間、マンティコアは目を見開いて固まってしまった。

なぜなら、目の前にまるで別人の強者が立っていたからだった。


「【一体化】『天狐(てんこ)』。さて、準備もできたし始めようか」


 最初と変わらず何の気負いもしていない咲恵だったが、纏う雰囲気、そして何よりも姿かたちが変わっていた。


 茶色い髪は白へと変わり、学院の制服も巫女服へと変わっていた。

更には、頭には大きめのキツネ耳が生えており、腰辺りからはフサフサの尻尾が9本も飛び出していた。


 咲恵の魂剣である『ディルナ』は、月の力を宿した魂剣なのだ。

月の神聖な力によってアンデットなどには特攻となり、更には自己治癒能力も備えているという優れものである。

それと日中は出力も斬れ味も落ちるが、夜になり月の光を浴びると力を増すという少し特殊な魂剣であった。

ちなみに、満月の夜ならば日中の3倍ほどにまで強化される。

そして咲恵の姿だが、これは剣精霊であるルーが憑依して強化された結果であった。


 魔物であり獣でもあるマンティコアは、白いキツネ巫女と化した咲恵に対して本能的に萎縮(いしゅく)してしまっていた。


(ナ、ナンダアレハ……アレホドノチカラヲ、ニンゲンゴトキガアツカエルトイウノカ⁉︎)


 驚愕するマンティコアの眼前では、咲恵が姿勢を低くして刀を構えはじめていた。


「まずは手数を減らさせてもらうぞ」


 咲恵はそう呟いた直後、ヒュッという風を切る音を残してその場から消えた。


 ザン!


「グァアアアッ!」


 マンティコアは突然襲ってきた激痛に、雄叫びのような悲鳴をあげて倒れた。

倒れたマンティコアの側には咲恵が立っており、その足下には大きなサソリの尻尾のようなものが地面に落ちていた。

そう、マンティコアは尻尾を斬り落とされたのだった。

咲恵が消えたのは完全に錯覚であり、マンティコアが認識出来ない速度で横を通過していたのだ。


「これでもう毒は使えないだろう。でも、これだけ力の差があるなら直接倒してもよかったかな」


 苦しみ(もだ)えるマンティコアをよそに、淡々と分析している咲恵。


 咲恵はなにも甚振(いたぶ)りたいから尻尾を斬り落とした訳ではなく、マンティコアに対して油断していなかったからこそ厄介な尻尾を先に狙ったのだ。

戦闘の経験や力の強さは長い年月を掛けて鍛えてきた咲恵だが、相手の力量を見極めることはまだ出来ないでいた。

だからこそ、マンティコアはまだ全力を出していないと想定し、本体に手を出さなかったのであった。


「グゥッ!マサカッ、コンナコトガ!」


 激痛に(さいな)まれながらもなんとか立ち上がろうとするマンティコアに、咲恵が歩いて近付いていった。


「私は別にサディストってわけじゃない。だからもう楽にしてあげよう」


「グッ!ニンゲンガ、オレヲナメルナァッ!」


 咲恵の宣言に激昂(げっこう)したマンティコアが、咲恵を頭から食べようと口を大きく開けて飛びかかった。

迫ってくるマンティコアを冷静に見据えていた咲恵は、左足を前に大きく出し、腰を落として両手で持った刀を水平に構えた。


「『月光刃(げっこうじん)』」


 咲恵が呟くと同時に、刀が銀色の光を()び始めた。

そして、咲恵も駆けだしてマンティコアと交錯(こうさく)し―――


 ズバン!


 マンティコアは体を横一文字に真っ二つにされ、心臓ごと綺麗に斬り裂かれたことで絶命していった。


「ふぅ……『天狐』の状態だとしっかり勝てるんだけどなぁ。やっぱりまだまだ鍛えないとダメだな」


 結局はあっさりとマンティコアを倒した咲恵だったが、単独で倒せなかった事に落胆していた。

そこへ、他の魔物たちを倒しきったノエルとミーナが歩いてきた。


「お疲れ様です、会長!」


「サキエったら、また納得してないの?今の実力でさえも規格外なのに」


「私はまだまだ弱いよ。せめて騎士団総隊長に傷を付けられるくらいまで強くならないとだからな」


【一体化】を解きながら話す咲恵は、ノエルの言葉に苦笑いしながら返していた。


「あんまり無茶はしないでね」


「分かってるさ。さて、私たちも中に入ろうか」


「了解です、会長!」


 この場が片付いたので、咲恵たちも加勢に行こうと遺跡の入口へ向かった。

すると、歩き始めたその直後―――


 ズガァアアアン!


 遺跡の真ん中辺りから黒い光が極大の柱となって空に立ち昇っていった。


「な、なんだあれは⁉︎」


 見ただけで分かるほどに濃密なエネルギーが込められている極光を目の当たりにし、3人は驚きとともに恐怖を抱いて固まってしまった。


 黒い極光は数秒で終わったが、その余波によって遺跡の入口が崩れてしまい、瓦礫で塞がれてしまった。


「……加勢は無理そうね。力尽くでこじ開けてもすぐに遺跡が崩れるわ」


「でも、まだ中に……」


「ノエルの言う通りだ、ミーナ。下手に入ると危ないし、何よりも今の黒い極光……正直、覚醒者のレベルで済むかも怪しい威力だった。私たちが行っても足手まといになるだけだ」


 入ろうとすれば遺跡自体が崩れて味方を危険に(さら)してしまうし、なんとか入れたとしても先ほどの極光には手も足も出ない。

デメリットがでか過ぎるために入らない決断をした咲恵たちだったが、3人は何も出来ないことに悲痛な気持ちになっていた。


 3人はひとまず遺跡の前まで歩いてきて、並んで遺跡を見つめていた。


「大丈夫かしら?」


「信じるしかない。幸いにも遺跡全体が崩れたわけじゃないんだ。たぶん、まだ中で戦ってるはずだ」


 大丈夫だとは思っていても心配が先に立ってしまう咲恵とノエル。

すると、そんな2人を見ていたたまれなくなったミーナは、自身も不安を抱きながらも前向きな言葉をかけた。


「大丈夫ですよ、会長。あの人は会長を元の世界に送るって約束してたじゃないですか」


 ミーナから気遣われた咲恵とノエルは、自然と笑みをこぼした。


「……ふふっ、そうだな。ジンくんは約束を破るような人じゃないからな。きっと神崎くんたちを守っているはずだ」


「そうね。そのうちに、何でもないような顔して出てくるかもね」


 気持ちをしっかりと切り替えた3人は、周りを警戒しながら迅たちが出てくるのを待った。


(ジンくん、みんな。必ず無事で帰ってきてくれよ)




 〈繭、凛サイド〉


 黒い極光が撃ち出される少し前、街ではまだ繭と凛がワイバーンの相手をしていた。


「はぁ、はぁ、っ!また来た!」


「任せて!『ウォール・オブ・ウィンド』!」


 ズドドドドドン!


 ワイバーンが何度目かの炎の玉を撃ち出し、それを凛の風の壁で防いだ。


「『黒槍(くろやり)』!」


 お返しと言わんばかりに繭が黒いモヤをいくつもの槍に変化させ、ワイバーンへ向けて放った。

しかし、ワイバーンは俊敏(しゅんびん)な動きで躱していた。


 実は開戦してからというもの、2人はずっとこの繰り返しをしていたのだ。

今のところはどちらも攻撃は当たっていないのだが、徐々に追い詰められているのは繭と凛の方だった。

かたや全く疲れを見せないワイバーンに対して、繭は何度も精神力を使ったことで疲れが出てきていた。

凛も同じように精神力を使ってはいるのだが、繭と比べてコストが段違いなために、まだしばらくは持ち(こた)えられはする。

だが、もともと攻撃系ではない凛の風ではワイバーンにダメージを与えられないのだ。

だからこそ、凛が守りで繭が攻撃と分担していたのだが、ワイバーンを倒しきれないために消耗するだけという形になってしまっていた。

ちなみに、サラとセラは下の魔物の群れにかかりっきりなので、援護などは望めなかった。


「はぁ、はぁ、そろそろ決めないと、こっちがもたない」


「繭、少し休んでて!」


「だめ、こっちに集中させてないと、他に狙いをつけられる」


 凛の気遣いに何度も息を切らしながら返す繭。

そして、また『黒槍』を撃ち込むが、また躱されてしまった。


「はぁ、はぁ、どうにかしないと」


「せめて魔法が届けばいいのに」


 焦る繭と歯噛みする凛。


 精神力の消耗を気にした頃にいくつかの魔法を撃ったのだが、中級までしか覚えていない2人ではそもそもの射程が足りなかったのだ。


 2人の焦りを感じているのか、ワイバーンは今度は一体ずつ炎の玉を撃ち込んできた。


「『ウォール・オブ・ウィンド』!」


 ドン!ドン!ドン!ドン!


 絶え間なく撃ち込んでくるなか、3体が別の方へと移動を開始した。


「させない、『黒槍』!」


 別の方に狙いをつけたと悟った繭が、その3体に『黒槍』を放った。

しかし、下を全く見ていなかったはずのワイバーンは急に旋回(せんかい)して躱し、戻ってきて炎の玉を撃ち込み始めた。


「はぁ、完全に、手玉に取られてる。くっ!」


「繭⁉︎」


 どうやらワイバーンは繭にわざと撃たせるために動いたようで、まんまと騙されてしまった繭はついに片膝をついてしまった。

そして、ワイバーンはこのまま押し切ろうというのか、どんどん炎の玉を撃ち込んできた。


「させない!繭は私が守るんだから!」


「はぁ、はぁ……りん」


 凛が懸命に繭を守るなか、繭は炎の玉の余波による温かい風に晒されながら、(かす)んでくる意識をどうにか繋いでいた。


(どうにかしないと、このままじゃ私も凛もやられる)


 少し顔を上げると、目の前には必死に自分を守ってくれている凛がいた。

小さい頃からどんな時でも側に居てくれて、辛くて苦しい時も励ましてくれて、いつでも心の支えになってくれた凛が今も自分を守ってくれている。

このまま自分が倒れれば、ワイバーンは一斉に凛を殺しにかかるだろう。

容易に想像できてしまう最悪の展開に、繭の心は酷く(いた)んだ。


(いや。凛が居なくなるなんて、そんなのは耐えられない。またあんな孤独に戻るなんて絶対に嫌!)


 ついつい思い出してしまう苦すぎる記憶。

家族とすら思えなくなった親、冷たすぎる同級生たち。

そんな何の暖かさも感じなかった時に手を差し伸べてくれたのが凛だった。

繭にとって、親友という言葉では足りないほどに大切な()


(絶対に守りたい。まだ意識は(たも)てる。何か手を考えないと)


 温かい風に吹かれながら、繭は必死に考えていた。

大事な親友を守るために。


(私の攻撃は当たらない。凛の風は威力が足りない。せめて、相手が躱せない状況を、作ら、ない、と……あった!)


 唐突に(ひらめ)いた繭は息を切らしながらもどうにか立ち上がり、凛に声をかけた。


「凛、私のモヤを風でワイバーンに纏わり付かせて。そうすれば勝てる」


「え?でも、繭は大丈夫なの?」


 繭がすでに限界近くまで力を使っているのを把握している凛は、心配そうに尋ね返した。


「あと少しならなんとかなる。でも、失敗したら後がない。だから、一体も残さずに纏わり付かせて」


「分かった、任せて!」


 〝信頼している″というのを繭から感じとった凛は、頼もしい返事を返した。


 意を決した2人はワイバーンへ向き直り、繭はモヤを大量に発生させていき、凛が風を操ってモヤを空へと飛ばしていった。

迫って来る闇の風を見たワイバーンは慌てて躱そうとするが、どれだけ旋回しても躱しきれずに闇の風に包まれていった。

それを下から見ていた繭は、全部のワイバーンにモヤが付いたところで最後の力を振り絞った。


「『黒針(くろはり)』!」


 繭がそう言った直後、ワイバーンに付いていたモヤから無数の針が伸びた。

針と言っても一つ一つが槍のように太いもので出来ており、串刺しとなったワイバーンの体にいくつもの穴が作られ、ほとんどが即死していった。

そんな中で何体かは意識を持っていたものの、その残りも致命傷を負っていたのでそのまま地面に落下していった。


「はぁ、はぁ……やった……」


 完全に力を使い果たした繭は、ワイバーンを倒しきった達成感と疲れから、力なく座り込んだ。


「やった!流石だね、繭!」


 凛が興奮しながらやってきて、座っている繭を抱き締めた。


「ううん。凛のお陰だよ。ありがと」


 凛から感じる温もりに、心地好さそうに目を閉じる繭。


 人によってはイチャイチャしているように見える光景であった。




 一方で、サラとセラの方はというと―――


「あれ?ねぇセラ。魔物たちが逃げてくんだけど」


「……見た感じではサラの火炎玉に驚いているように見えますね」


 さっきまでなだれ込もうとしていた魔物たちが、我先にと遁走(とんそう)を開始していた。

その様子はまるで本能的な脅威を感じて逃げていくようにしか見えず、戦略的に撤退をしているようには見えなかった。


「もしかしたらジンさんが魔物使いをやったのかもしれないですね」


「そっか!だから知能を()くして本能のままに逃げ出したんだ!」


「これならあとは壁の中を片付ければ終わりですね」


 迅のおかげだと思って2人が一安心した直後、かなり離れているはずなのにハッキリと視認できる黒い極光が立ち昇った。


「な、なにあれ?」


「……まだ終わってはいなかったみたいですね」


「ってことは魔物たちが知能を失くしたのって、魔物使いが倒されたんじゃなくて流していた力を止めたから?」


「そうとしか考えられないですね」


 一瞬で予想を(くつがえ)された2人の顔には、心配そうな表情が浮かんでいた。


「……ジン、大丈夫かな?」


「もしもの時は私たちを呼ぶはずですから、今は信じて待ちましょう」


 遺跡の方を向きながら、自分たちの主人が勝つのを祈る2人であった。

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