成長と緊急招集
すいません、また報告するのを忘れていました。
先月は4308pvとなりました。
順調にpv数が伸びているので大変嬉しいです。
このまま行けば今月中には2万pvまで行けるかなという勢いなので、この作品を見てもらっている人たちには本当に感謝でございます。
第2章も残り僅かとなってきましたが、この勢いを落とさないように白熱する物語とバトルを描いていきますので、これからもよろしくお願いします。
今回も1万1千文字と長くなってしまいましたがご了承ください。
〈和輝サイド〉
もうすでに夜中になっている時間だというのに、学院の訓練場ではバチバチと電流が走っていた。
その電流の発生源には和輝がおり、疲れから肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ……ふぅ、こんなものかな」
「おっ、なんだ、和輝もやってたのか」
和輝が一息ついて汗を拭っていると、後ろから声をかけられた。
和輝が後ろを振り向くと、そこには大量の汗を流している剛がいた。
「剛!夕飯のあとから見ないと思ってたけど、今まで何をしてたんだ?」
「いやぁ、今回もあっさり負けちまってどうにも悔しくってよ、ムシャクシャしてたからひたすらに走ってたんだよ」
「気持ちは分かるけど、さすがに無茶苦茶すぎないか?」
剛は今まで何してたのかを笑いながら話したが、そのあまりにも単純でおかしな行動を聞き、和輝でさえも呆れてしまった。
しかし、〝何かしなきゃ″と思ったのは和輝も一緒だった。
だからこそこんな真夜中に特訓をしていたのだ。
和輝は真面目な顔つきになり、剛の〝現状を変えたい″という想いには賛同した。
「でも、確かにこのままでいる訳にはいかないと思う。前回は経験と力不足で、そして今回も同じだった。僕たちは成長していたはずなのにだ。……剛、覚えてるだろ?西野さんと話した時のこと、僕たちがこの世界に呼ばれた理由かもしれないっていう話」
「あー、確か敵と戦うんだっけか?」
「そうだ。しかも、繭が言っていたように相手は組織で動いている可能性が高い。ここまで言えば分かるだろ?今日戦ったセルストも、その組織の一員である可能性が高いんだ」
「そういやそうだった。あいつ確か、俺たちが勇者だってのを確認してから襲ってきやがったな。じゃあ、あいつは完全にクロじゃねぇか」
「そういうことだ。それと、これは単なる予想でしかないんだけど、もしセルストの強さが敵の一般兵レベルだったとしたら?」
「……ヤバくねぇか、それ」
和輝の予想を聞いた剛は少し考えただけでそれがどれだけまずい事なのかを悟り、顔を歪ませた。
「やばいなんてもんじゃない。もしかしたら、ジンでさえも敵の幹部やボスが相手だと敵わないかもしれない」
「……さすがにその予想はハズレててほしいぜ」
和輝たちの知る限りでは迅が最強であると思っているので、〝それ以上の強者がいるかもしれない″というのを予想しただけで気が滅入ってしまいそうだった。
「まぁ、あくまでも僕の予想する最悪だからね。セルストが幹部だったりというのも十分にあると思うよ。それでだ、セルストが幹部だとするなら、まだ僕たちでも対抗できるかもしれない。あの人は僕の攻撃の威力に関しては警戒してたからね」
「確かにそうだけどよ。俺らじゃあいつの動きにはついていけないぜ?」
和輝の前向きな考えに賛同したいところではあったが、打開策が思いつかない剛はほぼ諦めかけだった。
「うん、僕もそう思うよ。身体強化を鍛え続ければなんとかって感じかな。でも、セルストよりも更に格上が出て来たらまた同じことの繰り返しだ。だからこそ、せめて僕たち自身で最低限の身を守る術を身に付けないといけないんだ」
「身を守るって言ってもなぁ……強力な防御魔法でも覚えるとか?」
剛の安直な意見に対して、首を横に振る和輝。
「いいや、違う。もっと色んな事に対して同時に対処出来るようにすればいいんだよ。例えば繭の魂剣、あれは攻防一体で使ってるだろ?」
「う〜ん、そりゃそうだけどよ、俺らのはあんな変化出来ないじゃんか」
「確かに魂剣は無理さ。でも、僕たちは魂剣の能力を操れるだろ?その能力自体で壁を作ればいいんだよ」
「なるほど!そういうことか!」
そう、和輝が考えたのは能力向上ではなく能力の応用であった。
最初は力を付ける事ばかり考えていたが、それは長い期間をかけて行わなければならない。
だからこそ、繭の魂剣を参考にした攻防一体の技を作ろうというわけなのだ。
「僕は雷を操って、剛は振動を上手く使って360度守れる壁を作ればいいんだ。そうすれば相手がどれだけ速くっても、少なくとも自分の身は確実に守れる」
和輝の提案を受けて腕を組んで考え込む剛だったが、ある意味変わった能力というのもあり、良い案などは思いつきそうにはなかった。
「……振動で壁かぁ……難しそうだな……和輝はなんか出来そうなのか?」
「僕はもう作れるようになったよ。もともとこの雷自体は扱いやすかったからね」
「まじかよ!スゲェじゃねぇか!」
しれっと答えた和輝に対して、少し興奮しながらキラキラとした目をする剛。
「しかもそれだけじゃない。そこから更に改良を加えたものを試してたんだけど……正直言って、これならジンも怖くないってものが完成したんだ」
「流石だな!なぁ、見せてくれよ!俺も参考にしてぇからよ!」
これでもかと持ち上げてくる剛の言葉に自慢を隠しきれない和輝は、ニヤニヤと口元を緩めながら魂剣を構えた。
「ふふふ、別にいいけど、これを見たら絶対に驚くぞ?……いくぞ、僕の新技!『雷魔硬壁』!」
和輝の言葉と共に黄色い電流が迸りはじめた。
その電流はすぐにまとまっていき、和輝を包むドーム型の形へと変化した。
「すげぇな、ここまで操れるもんなのか……」
「実はこれだけじゃないんだ。これは最大で直径5メートルくらいまで大きくできる。そして、敵がこの壁に近付いたところで、ゼヴォルスの雷撃が自動で放たれるようになってるんだ」
まさしくチートの覚醒であった。
もちろん最初は〝壁を作れればいい″というだけだったのだが、いざやってみたら壁から雷を撃ち出すことが出来たのだ。
〝これを活かさない手はない″と考えた和輝は色々と試し、その結果、魔力と静電気を帯びている物を探知する事が出来れば、そちらを見なくても雷を撃ち出せるようになったのだ。
ちなみに攻撃範囲は壁の5メートルと、そこから探知出来るプラス5メートルほどだ。
新技の詳細を聞いた剛は、その力のズルさに驚きながら尋ねた。
「じゃあ、これであの野郎は怖くねぇってことか?」
「そういうことだ。この壁の中にいれば攻防一体で戦闘をすることができる。しかも雷だから、相手は1発でも当たればまず動けなくなる。そこを叩けば僕の勝ちって訳だ」
「おぉ〜!ますますやべぇ技だなそりゃ!よし!俺も負けてらんねぇぞ!」
親友の成長を素直に喜んでいる剛。
そして、自分も同じように成長するべく魂剣を出そうとしたところで、ヘビ……いや、もっと何かヤバいものに殺気を向けられ、その場で固まった。
それは和輝も同じだったようで、2人は同時にギギギとぎこちない動きでそちらへ向いた。
するとそこには―――
「お前ら、俺の安眠を妨害するなんざ、いい度胸してんな」
何の感情も込められていない、ある意味1番恐ろしいタイプの冷たい目をしている迅が立っていた。
この学院の寮は訓練場とは反対側にあるので、和輝の能力である雷といえど音は小さいはずだ。
ではなぜ迅が来たのかというと、シルフィアに叩き起こされたからであった。
経緯としては、まず学院の警備員が訓練場での異変に気付き、それを生徒会長である咲恵に伝えようとした。
寮の中に入る訳にはいかなかったので寮母さんにお願いしようとしたところで、たまたま巡回していたシルフィアの護衛と遭遇し、異変について伝えた。
伝えられた護衛はシルフィアの元へと向かい、寝ているところを起こして伝えた。
話を聞いたシルフィアは、〝お姉様がサキエさんと寝ているのに邪魔してはいけない″と考え、そこで迷わず迅の部屋へと向かい、ぐっすりと眠っていた迅を物理的にショックを与えて起こし、訓練場に向かわせたのであった。
「じ、ジン⁉︎」
「ま、待ってくれジン!俺はまだ何もしてないぞ!」
「あっ!ずるいぞ剛!」
〝これはヤバい″と悟った剛は、親友のことなど御構い無しに弁解した。
それにたまらず抗議の声を上げる和輝。
2人の慌てようを見ていた迅は、相変わらず据わった目で見ながら拳の関節を鳴らしはじめた。
「安心しろよ神崎。2人とも殴ってやるからよ」
「俺もかよ!やべぇ、逃げるぞ和輝!」
何一つ安心できない迅の宣言に、即座に逃げる態勢に入った剛。
しかし、和輝は全く逃げる素ぶり見せなかった。
「いや、逃げたってすぐに追いつかれる。だから、今こそ僕の新技を使う時だ!」
「そうか!頼むぜ和輝!」
「悪いな、ジン。でも、こうするしか僕に道は無いんだ!『雷魔硬壁』!」
まるで人生の大一番の時を迎えているような必死さを見せる和輝。
出来たばかりの新技を使い、いつでも迎撃できる態勢に入った。
「……『魔力結界』」
和輝の雷の壁を見た迅は少し固まったが、すぐにお得意の『魔力結界』を自分の体に纏った。
そして、和輝が視認出来ないスピードで正面から突っ込んだ。
その瞬間、和輝が認識できていなくても射程距離に入ったことで、壁から自動で雷撃が放たれた。
その雷撃は真っ直ぐ迅へと向かい―――
バチィン!
『魔力結界』によって簡単に弾かれ、迅はそのまま反応出来てない和輝に接近した。
バリン!ゴゴン!
迅は雷の壁を『魔力結界』を纏ったままで殴り壊し、そのあとに和輝と剛の頭を殴った。
殴られた2人は1発で意識を失い、そのまま倒れていった。
「発想は悪くないが、今度は威力不足が課題だぞ……って、聞こえてないか。はぁ……まったく、とっとと戻って寝るか」
殴ったことで多少はスッキリした迅は、2人を気絶させたまま引きずって寮へと戻った。
朝になり、いつも通りに登校した木原姉妹と繭と凛。
しかし、いつもは一緒にいるはずの和輝と剛の姿は無く、4人はそれぞれの教室へと入っていった。
「あれ?和輝くんと剛くんは?」
「ん、いつもの所にいなかったからこっちにいると思ったのに」
「う〜ん、西野さんに呼ばれたのかな?」
いつもの時間に2人がいなかったので、〝先に行ったのかな″と思ったからこそ教室まで来たのだが、ここにもいない事に疑問を浮かべる3人。
そんな中、時間ギリギリにいつになく眠そうな迅が教室に入ってきた。
「ふぁ〜ぁ、ねみぃな……」
「あっ、ジンくん、おはよう!」
「おはよう、ジンくん」
「おう、おはようさん」
「ねぇ、ジンくん。和輝くんと剛くんを見なかった?」
いつもの挨拶を済ませたあと、〝ジンくんなら何か知ってるかな″と考えた麗奈が問いかけた。
「ん?あぁ、あいつらならまだ寝てるだろ」
「え、そうなの?」
「剛くんはまだしも、和輝くんまでなんて珍しい」
「だよね。何かあったのかな?」
迅から聞かされたのがまさかの寝坊である事に驚く3人。
その3人に対して、迅は愚痴を言うように不満タラタラな態度で真相を話しはじめた。
「あいつら、夜遅くまで訓練場で特訓してたんだよ。しかも無断でな。んで、それを止めさせるために俺が叩き起こされてムカついたから、1発ずつ殴って気絶させたってわけだ」
「む、むかついたんだ……」
「な、なぐったんだ……」
和輝と剛が悪いのは理解した3人だったが、まさかの乱暴すぎる止め方を聞いた麗奈と凛は軽く引いており、繭も苦笑いしていた。
「まぁな。たぶん、夕方くらいまでは起きないんじゃねぇか?寝ずにやってたみたいだしな」
ここまでサラッと説明した迅に対して、から笑いしか出来ない3人であった。
するとそこへ、教室の扉を開けて咲恵たち生徒会メンバーと王女姉妹が入ってきた。
「済まない、ジンくんはいるか?」
「ん?なんか用か、西野。それに姫さんたちも」
「悪いけど、生徒会室まで来てくれないか?大事な話があるんだ。あと、木原さんたちも来てくれ」
「分かりました」
突然の事でキョトンとしていた麗奈たちも呼ばれ、授業を受けずに生徒会室へ向かうことになった。
生徒会室へ入ると、柑奈がすでに待機していた。
和輝と剛を除いた全員が集まり、それぞれが座ったり立ったままで話が始まった。
「先ほどギルドの方から連絡が届きまして、全冒険者に協力要請が出されました。なので、この場にいる全員で冒険者ギルドへと向かいたいと思います」
「向かうのは分かったが、内容とかは聞いてないのか?」
ノエルから呼ばれた理由を聞かされたが、それに当然の疑問を問いかけた迅。
「よほど急いでいたのか詳しい事は書いてありませんでしたが、スタンピードだそうです」
「なるほどな、それで数を集めたいわけか」
「そういう事だ。それでだな、本当は木原さんたちには声をかけないつもりだったんだが、そうも言ってられなくなった」
咲恵がノエルから会話を引き継いだが、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
それはティアも同じで、少しばかり言いづらそうに先を話しはじめた。
「貴族たちが〝勇者を使うべき″と声を上げてきたんです。なので申し訳ありませんが、体裁を良くするためにも戦闘に参加してほしいのです。もちろん、比較的安全な所に付いてもらうつもりなので、そこは安心してください」
「うん、分かったよ!」
「ん、最初から戦う事が私たちの役目だから」
「困っている人は助けないとだもんね」
「少し怖いけど大丈夫です!」
ティアの心配もよそに、麗奈たちはそれぞれが頼もしい返事を返した。
「ありがとう、みんな。それで、神崎くんと八木沼くんは?」
咲恵は戦う事を表明してくれた麗奈たちにお礼を伝えると、気になっていた主力の2人について問いかけた。
「あいつらは俺が叩き起こしてくるから、お前らは先に行っててくれ」
「分かった。よろしく、ジンくん」
「おう」
迅が行った方が手っ取り早いのは確実なので、ここは率先して引き受けることにした迅。
話もまとまったのでそれぞれ動こうとしたところで、ティアが迅に歩み寄った。
「ジンさん、皆さんの事をよろしくお願いします。これは私個人からの依頼として、何かしらのお礼はさせていただきます」
「はいよ。依頼の礼は保留にしといてくれ。今は欲しいものが全くないからな」
「分かりました」
未だに過保護であるティアのお願いに、いつだかと同じように軽い感じで引き受けた迅。
「それじゃジンくん、私たちは先に行ってるよ」
「おう」
生徒会メンバーと麗奈たちはギルドへ、ティアとシルフィアは貴族たちへの対応のために学院に残り、迅は2人を起こしに行くために男子寮へと向かった。
2人を文字通りに叩き起こした迅は、和輝と剛の3人で冒険者ギルドがある広場までやってきた。
「うわ、凄い人だかりだ」
「これ全員が冒険者なのか」
広場にはすでにかなりの人数の冒険者が集まっており、あまりの多さに和輝と剛は驚いて立ち止まってしまった。
するとそこへ、和輝たちを見つけた麗奈が手を振りながら声をかけてきた。
「あ!和輝くんたち、こっちだよ!」
「みんな、遅くなって悪かった」
「今回は急な事だったから仕方ないさ。でも、これからは訓練場の無断使用はやめてくれよ」
「す、すいませんでした」
和輝が遅れた事に謝り、それを咲恵が〝気にしないように″と言ったものの、生徒会長として無断使用の件はしっかりと注意した。
和輝はなんの弁解もできないために、ひたすら平謝りしていた。
「みんな、話が始まるみたいだよ」
凛の指摘を受けて冒険者ギルドの方へと目を向けるとギルドの前に高台が用意してあり、そこにドーネルが登って話し始めた。
「冒険者のみんな、よく集まってくれた。さて、時間を有効に使いたいので簡単に話をさせてもらう。今朝、遺跡方面の依頼を受けていたパーティーから魔物の群れを発見したとの報告があった。場所は遺跡の手前あたりだそうだ。そして、見たのは数十ではなく数百と言っていい規模だそうだ。幸いなことに高台から見渡しただけなので魔物を引っ掛けてきたりはしていない。だから今すぐどうこうという事はないと思っていい。それから魔物の群れの構成だが、どうやら森に出現する魔物が全種類だそうだ」
この場にいる全員がスタンピードという話は聞いていたものの、あまりの規模にざわつく冒険者たち。
「みんな落ち着いてくれ。確かに数人がかりでないと倒せない魔物もいる。しかもそれが群れとなって押し寄せるんだ。そりゃあ不安になるのも仕方がない。だが、別に私たちは真正面からぶつかる必要はないんだ。今回の魔物は恐らく報告のあった知能がある魔物の集団だが、知能があったとしてもこの集まり方はおかしすぎる。だから必ず魔物を操っている者がいるはずだ。そこで少数精鋭に原因の元を叩いてもらい、他の者たちは原因を取り除くまで防衛に徹してもらう」
ドーネルの推測に活路を見出しはじめた冒険者たちだったが、冒険者の中でもベテランの一人が問いかけてきた。
「ドーネルのおやっさん、考えは分かったし納得もしたけどよ、誰が大元の所へ行くんだ?」
「私は勇者たちとジンくんにお願いしようと思う。今回の件でいえば彼らが適任だからね」
「勇者……様は分かるけどよ。ジンって誰だ?」
「お前、この間の話を忘れたのか?最近ソロで中ランクの魔物ばかりを狩ってくる新人だよ」
もともと強い力を持っていると広く知れ渡っている勇者には納得した男だったが、迅は世間では新人冒険者でしかないので男が覚えていないのも無理はなく、それを近くにいた仲間の冒険者が思い出させていた。
「すっかり忘れてたわ。でもよぉ、おやっさん。いくら実績が良いからって新人を使うってのはどうなんだ?」
「ちゃんとした理由があるから指名したんだが、何か不満なのか?」
「そりゃ当たり前さ。別に手柄が欲しいとかじゃねぇんだが、こんな重要な事を新人にやらせるのは荷が重いんじゃねぇのか?」
男の言い分はもっともであった。
複雑な案件の場合はどれだけ強くても経験がモノを言う時がある。
だからこそ、男は新人に任せることに対して不満なのであった。
「なるほど、確かにその通りではある。だが、そんな心配はいらないさ。今回は純粋な戦闘力が求められるだけだと踏んでいる。そうすると高い火力を持っているジンくんと勇者たちは適任だ。それに勇者たちはこの世界に来て日が浅いうえに冒険者もなりたてだ。だからこの場の者と連携を取る方が難しいだろう」
「……勇者様の方は分かった。でも、ジンってやつは本当に強いのか?」
「おい、もうやめとけって」
「やめてたまるか!明らかに危険だと分かる所に、俺らベテランよりも新人を送るって言うんだぞ!これで死なれでもしたら寝覚めが悪いだろうが!」
どうやら男は新人だからというだけでなく、迅が心配だからこそ食いかかっていたようだった。
「分かった分かった。それなら彼の実力を見て判断してくれ。ジンくん、悪いが手短に披露してくれ」
「はいよ」
さすがにどうしようもなくなり苦笑いのドーネルは、迅に力の証明をしてもらうことにした。
迅の方も男の言い分は正しいと思っているので、とくに拒否する理由もなかった。
男の周りが直径10メートルほどの円状に開かれ、そこに出てきた迅と男で向かいあった。
「お前がジンか。それほど強そうには見えないが……まぁいい。俺から一本取ってみてくれ。そしたらお前が行くことを認める」
「分かった。合図は無しでいいよな?」
迅の確認に、男は頷いて返した。
それを確認した迅はサラだけを剣の状態で出し、腰を少し落として構えた。
「それじゃ―――」
迅がポツリと呟いた直後、男の視界から迅の姿が掻き消えた。
トン
「これでいいか?」
男が〝消えた″と認識した直後には、迅が男の背後から剣を首筋に当てていた。
(ばかな……何も、見えないだと?)
男は完全に反応出来なかった事に驚愕し、その場で固まった。
しかしそれもすぐに終わり、男はひとつため息をついてから迅に向き直った。
「……見事だ。俺の心配は杞憂だったらしい。すまなかった」
「気にするな。普通なら疑問を持って当然だからな。むしろ心配してくれてありがとよ」
男は素直に謝罪し、互いに握手をして解決となった。
「他に異論がある奴はいないな?……よし、それじゃあ森側の門の前に移動してくれ。詳しい指示はそちらで出す。勇者たちとジンくんはこちらに来てくれ」
ドーネルが最後の確認をし、冒険者たちに指示を出した。
呼ばれた迅と和輝たちはギルドの中へと入り、ギルド長室で細かい打ち合わせをはじめた。
「さて、これから君たちに遺跡に向かってもらうわけだが、先にこれを渡しておこう」
ドーネルはそう話すと、用意していた籠の中から紅い石を取り出して全員にひとつずつ配った。
「これは転移石でしたっけ?」
一応、見覚えはある和輝たちだったが、代表して和輝がドーネルに問いかけた。
「そうだ。これで遺跡まで直接向かってもらう。確か君たちは遺跡まで行ったことがあるはずだったな?」
「あ、いえ、僕たちは遺跡の少し前の川の所までしか行ったことありません」
「そこからなら少し走れば1時間ほどで行けるはずだから問題ない。それで、この転移石は一度行ったことのある場所を思い浮かべればそこまで転移できるから、そこから遺跡へと向かってくれ」
「分かりました」
コンコン
話がまとまったところで、部屋の扉がノックされた。
「ん?誰だ?」
「失礼します」
挨拶をしながら入ってきたのはティアと護衛の人たちであった。
「ティア殿下!これは大変失礼しました!」
「気にしないでください、ドーネルさん。私がなんの前触れもなくこちらに来たせいですから」
扉越しで分からなかったとはいえ、王女に対して不躾な言葉を発してしまった事を謝罪するドーネル。
もちろんティアはそんな事は気にしていなかったので、ドーネルに〝気にしないように″と逆に気を遣っていた。
「それで、こちらにはどういった用件がおありでごさいますか?」
「今回の作戦の概要を聞かせてもらいました。その作戦についてなのですが、カズキさんたちは街での防衛にしてほしいのです」
「え?」
ティアからの提案……というよりもほぼ命令に近いお願いに、和輝が驚きの声を出していた。
ドーネルも少し驚いたものの、すぐに冷静に考えて問題点を洗い出していた。
「左様ですか……しかし、彼らを除くとなるとジンくんだけで向かうことになるのですが……」
「他の冒険者の方にお願いしてください。カズキさんたちはまだこの世界に来たばかり。今はまだ無茶をさせたくないのです」
ドーネルは少し渋った顔で訴えたが、ティアがキッパリと代案を出し、自らの心情をハッキリと伝えた。
これに対して真っ先に反論したのは和輝だった。
「待ってくれティア!僕たちなら大丈夫だよ!」
「ごめんなさい、カズキさん。今回ばかりは折れる訳にはいかないんです」
「そんな、どうして……」
和輝の問いかけに対して、ティアは沈痛な面持ちで理由を語り始めた。
「……全ては私の自己満足のためです。まだこの世界に来たばかりのカズキさんたちが、もし今回の件で取り返しのつかない事になってしまったら……私は絶対に自分を許せません。もともとこの世界とは無関係だったのに、それを私たちの都合でカズキさんたちを死なせてしまったら……そんな無責任な事はしたくないのです」
「……ティア」
和輝たちを心配しているからこその理由を聞き、何も言えなくなってしまった和輝。
そんななんとも言えない空気の中―――
「姫さん、悪いがそれは却下だ。本当にこいつらの事を考えるなら行かせるべきだ」
迅がティアの判断をハッキリと拒否した。
「な⁉︎なぜですかジンさん!」
「こいつらが勇者である以上、これから先も強敵と戦うことになるかもしれない。だったら今から経験を積ませるべきだ」
「確かにそうかもしれませんが……」
咲恵との件を知っている迅に言われたというのもあり、少なくないショックを受けたティア。
「大丈夫さティア。私もジンくんも一緒に行くんだ。慣れない大量の魔物を相手にするよりは安全さ」
「サキエさんまで……」
まさかの咲恵にまで説得されて、困り顔になってしまうティア。
「西野の言う通りだ。それに、俺は姫さんの依頼は完璧にこなすつもりだぞ」
「……分かりました」
未だに渋っているティアに、迅は〝全員必ず守る″と言外の意味を込めて、依頼の達成をもう一度約束した。
迅の覚悟を乗せた言葉を聞いたティアは〝もう止められない″と悟り、迅たちを信じることにした。
迅はティアが心配し過ぎないようにするために、和輝に発破をかけることにした。
「神崎、恐らく昨日お前らが戦った奴も関わってるはずだ。今度はしっかりと叩きのめしてやれ」
「ああ、任せろ!」
「いい返事だな。それとだな、今回は俺と生徒会メンバー、それに神崎と八木沼と麗奈だけで行くぞ」
「えっ⁉︎ジン、全員じゃないのか?」
「「師匠!私たちも行くの!」」
ついでといった感じに遺跡に行くメンバーを指定され、その内訳に全員が驚いていた。
「ジンくん、その人選には理由があるのかい?」
わざわざ戦力を減らす意味が分からないドーネルは、先に理由を聞いてから判断することにした。
「まぁな。まずは九条と梶谷だが、2人はこの街に残って防御を優先的にやってもらう。柑奈は姫さんたちについてやってくれ。イリスとエリスは遊撃で魔物の殲滅だ。念のためにサラとセラも置いていくから、これなら街の方も確実に守れるだろ」
迅としては街の方が心配だからこその割り振りであった。
森の魔物が全て来るというのなら、何よりも厄介なのは複数人でないと対処出来ない中ランクの魔物だ。
この街では迅と勇者たちを除くと、数人ほどしか単独討伐をすることができない。
しかも、その数人であっても一体の魔物に時間をかけたうえでだ。
迅は広場に集まった時に冒険者たちの力量を見定めていて、〝いくら万全の体制を整えても厳しいかも″という見立てだったのだ。
だからこそ、守りに長けた繭と凛、成長してきた速度を持つイリスとエリス、特大火力持ちのサラとセラを残すのだ。
「それはそうかもしれないが、ジンくんたちの方に問題が出ないか?」
「よほどの大問題なら俺が対処する。それに、昨日の奴が相手なら神崎たちでどうにかなるだろ。もしダメそうなら代わりに俺が片付ける」
「分かった。勇者たちはどうかな?ジンくんの作戦通りで構わないか?」
「私は問題ありません」
「本当は全員での方が心強いですけど、街の人たちも守るためにはこれが1番だと思います」
ドーネルの確認に、咲恵と和輝が返事を返したが、他の者も異論は無いようだった。
(あとは実際に行ってみてからだが、本当の魔物使いを探し出さないとな)
話がまとまるなか迅は他の敵についても考えていたが、こっちは迅が相手をするつもりでいたので、これについては話さなかった。
あとはセルストがどう関係しているのかが気掛かりであった。
勇者を狙った以上敵なのは間違いないが、戦力であるはずの知能を持った魔物を倒していたというのが気になるところであった。
「よし、それではこの作戦を決行する。君たち全員の武運を祈る」
ドーネルとの話を終え、迅たちは一旦ギルドの外へ出てきた。
ギルドの外へ出てすぐに、サラとセラが実体化して出てきた。
「ねぇ、ジン。なんであたし達も行っちゃダメなの?」
「さっきも言ったろ。街を守るためだよ。正直なところ、遺跡よりも街の方が心配だからな。だからこそ2人を置いていくんだ」
「それは分かるけどさぁ……」
どうやら迅と一緒に暴れたかったらしいサラは、今までで一番の不満顔をしていた。
「サラ、もう諦めたらどうです?」
「…………」
完全に拗ねてしまったサラは、セラから言われても無視していた。
そんなサラを見てひとつため息をついた迅は、頭を掻きながらご機嫌を取りにいった。
「分かった分かった。今度の休みにどっかに連れてってやるし、今回は派手に暴れてもいいからそれで我慢してくれ」
「うん!分かった!」
迅からの言葉を聞いたサラはパァーっと笑顔を浮かべ、瞬く間に上機嫌になった。
「周りを巻き込んだりはしないようにな」
迅は暴走しないように忠告したものの、完全に浮かれているサラに聞こえているかは分からなかった。
そんなとても嬉しそうにするサラを見た迅は、苦笑いしながらセラにも声をかけた。
「セラ、お前も暴れていいからこっちを頼んだぞ」
「分かりました」
セラは笑顔を浮かべながら返事をした。
全ての準備を終えた迅たちは、それぞれの持ち場へと向かってスタンピードに備えた。
感想やレビュー、評価をお待ちしています。




