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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
古代遺跡編
35/77

因果の過去・後編

ちょいグロありなのでご注意ください。

ちなみに約1万字になっています。

 ギルドを出たセルストは、増援を連れていけない事に肩を落としながら露店の通りを歩いていた。


(仕方ない。持てるだけの食材とポーションを買って帰ろう)


 増援を完全に諦めたセルストは、露店で買い物を済ませてからその日のうちにミカル村へと出立した。


 またろくに休みもせずに走り続けたセルストは、あと1キロで村へ着く所までやってきていた。


「はぁ、はぁ、もう少しだ」


 魔力や体力までもをだいぶすり減らしながら走り続け、ようやく森が開けてきて村を視認できる位置まで戻ってきたセルスト。

だが、村が見えたところでセルストは足を止めることになった。

なぜなら、セルストの目に入ってきたのは村の家が燃えている光景が広がっていたからであった。


「あ、あれはまさか⁉︎くっ!」


 瞬時に最悪の事態だと認識したセルストは、自分の疲れさえも忘れて村へ走りだした。


 村の中へ入ると、燃えている家をわざわざ壊しているオークが多数いた。

セルストはそのオークの行動の理由を考えるよりも先に、全て殲滅するべく声を張り上げた。


「くそっ!貴様ら!獲物ならここにいるぞ!」


「ン?ニンゲン、コロス!」


 セルストに気付いたオークたちは、一斉に武器を構えて走りだした。

セルストも自分の魂剣である片手剣を持ち、魂剣の速度増加という能力を使いながら迎えうった。


「うぉぉおおおっ!」


 ひたすらに動き続けながら斬りつけていき、次々とオークたちを倒していくセルスト。

しかしオークたちも負けてはおらず、セルストが見えなくなった瞬間に斧や棍棒を振り回すことによって、容易に近付けないように対処していた。


「ぐっ!」


 振り回してくる武器に当たりそうになり、躱すために一瞬だけ動きを止めたセルスト。

オークはその隙を逃さずにセルストめがけて剣を振り下ろしてきた。


「っ⁉︎」


 ズドン!


 間一髪のところで躱したセルストは、通り過ぎていく剣を目の前で見たからこそ奇妙な事に気付いた。


(なんだ?剣に液体?……っ⁉︎毒か!)


 それが何であるかを理解した瞬間に、セルストは警戒心を跳ね上げさせていた。


(こいつらは一体何なんだ⁉︎なぜ魔物が毒を扱う?なぜこうも統率がとれた動きをするんだ⁉︎)


 思わず叫びたくなるのを(こら)えながらも、必死に攻撃を躱していくセルスト。

ひとまずは毒に触れないようにしながら動き回り、完全に死角をついたところでオークたちを斬り倒していく。


「ガハハハハ!イイゾオマエラ、アトスコシデクイモンガフエルゾ!」


 急にそんな声が聞こえたのでそっち側を向くと、戦闘音が聞こえたらしく更に多数のオークと、他よりも一回りは大きいオークが歩いてきていた。


 攻撃を躱しながら新たな敵を確認したセルストは、即座に覚悟を決めた。


「ぐっ!あいつが親玉なら!」


 相手にしていたオークを完全に振り切り、リーダーらしきオークの元へ駆け出したセルスト。

まずは群れが立ちはだかるが、オークたちの隙間を瞬時に通ることで躱し、奥にいたリーダーへ全速力で斬りかかった。


 ギィン!


「なにっ⁉︎」


 しかし、セルストの剣はリーダーの斧に受け止められていた。


「オレヲタオセバスベテオワル。オマエ、アタマイイナ」


「ちっ!」


 他のオークとは反応の速さが段違いのため、舌打ちしながら一旦離れたセルスト。

セルストが自分に臆したと分かっているリーダーは、ニヤリと笑いながら斧を肩に担いだ。


「ダガザンネン。オレハ、カナリツヨイゾ?」


「だからなんだ!お前が何であろうと関係ない!お前とザコどもを倒す、それで終わりだ!」


「ヤレルモノナラヤッテミナ!」


 啖呵を切ったセルストだったが、リーダーと話しているうちに近付いていたオークの群れへと向き直った。


(こいつの戦闘が知恵よりも単純な力量だけだとしたら、いくらでもやりようはある!)


 また群れの隙間を駆け抜けながら、次々と()()斬りつけていくセルスト。


(こいつらにも知能はある。つまり、判断が出来るということだ。ならばリーダーを潰してしまえば自分じゃ勝てないと考えるはず!)


 セルストはずっと群れの中で暴れ回りながら、チラチラと隙間から見えるリーダーの位置と顔の向きを確認していた。


 セルストが群れの中にいるためどこにいるのか分からないリーダーは、視線をあちこちに彷徨(さまよ)わせていた。

視線の先では右で鮮血が出たと思ったら左でも吹き出し、そっちを見ればまた別の所から血が吹き出している状態だった。


「ナンダ?ドコニイルンダ?」


 リーダーが困惑する中、1番端のオークがリーダーへ飛ばされてきた。


「フン!」


 ザン!


 飛んできた自分の部下を両断したリーダー。

そして、新たに3体のオークが飛んできた。


「ナメルナ」


 ザザザン!


 数が増えても問題なく(さば)いたリーダーは、不機嫌な顔をしていた。


「コンナモンデオレヲヤレ―――」


 ザシュ!


「グァアアアッ⁉︎」


 突然体のあちこちから血を吹き出したリーダーは、激痛に叫びながらうつ伏せに倒れていった。


「はぁ、はぁ、四肢の弱点を斬った。もうお前は動けない」


 そのリーダーのすぐそばでは、肩で息をしながら汗を垂れ流しているセルストが立っていた。

たった一瞬で何が起こったのかというと、いつの間にかリーダーの背後にいたセルストがリーダーの四肢の靭帯を斬り裂いたのだ。


 まずは群れの中に入ることでセルスト自身を隠し、ひたすらに動き続けることで視線を泳がせた。

そこにオークを何体か蹴り飛ばすことによって、今度は視線を上へ向けさせた。

視線を彷徨わせていたリーダーは飛んでくるオークに集中してしまい、その方向しか認識出来ていなかった。

そして、リーダーがオークを両断している間に、セルストは群れの中から飛び出してリーダーの背後に回っていた。

リーダーは視線を急に一点に集中させたからこそ、視界の端に映ったはずのセルストに気付けなかったのだ。


 リーダーが倒れたことによって、他のオークたちはセルストの思惑通りに困惑していた。

知能があるからこそ、強者に対して恐れを抱いていたのだ。


「グウッ!イッタイ、ナニヲシタ!オマエハミエナカッタノニ!」


「これから死ぬ奴が知る必要はない」


 セルストが自分の問いにも答えずに冷たい目を向けてきているので、死を直感して焦りが出てきたリーダー。


「グッ!オマエラ!コイツヲコロセ!」


「ジ、ジガジ……」


「イイカラヤレ!コイツハムシノイキダゾ!」


 自分たちのリーダーから命令を受けながらも、目の前の強者に対しての恐れがオークたちの決断を迷わせていた。


 明らかに浮き足立っているオークたちだが、まだ数十体は残っていた。

セルストが1人で相手をするには体力がまず保たない。

なので、セルストはこれ以上の戦闘を避けるためにも一世一代の賭けにでた。

動けないリーダーの頭を踏みつけたセルストは、そのまま他のオークたちを睨んだ。


「戦うというのなら覚悟しろよ。俺は魔物なんぞに慈悲をかけるつもりは無いぞ?」


「ヒッ、ヒィィィ!オラハジニダグネェダ!」


 完全に心をくじかれたオークたちは、全員が一目散に走って逃げていった。


「マテオマエラ!ニゲルナ!オレヲタスケロ!」


「……はぁ、いい加減黙れよ」


「グッ!クソガッ!」


 ドス!ドス!


 リーダーは最後に悪態をついていたが、セルストに頭と胸を刺されて絶命した。


「アリシアを、みんなを探さないと……大丈夫だ、まだ誰の死体も見てないんだ。きっとどこかに隠れているはず」


 セルストは疲労によってフラつきながらも、村の皆を探すために歩きはじめた。


「アリシア!どこにいるんだアリシア!」


 火が出ていない所までやってきたセルスト。

必死に声を上げながら探し回っていると、奥の方に見慣れない小山を発見した。

それを確認するために近付いたところで、セルストは固まることになった。


「っ⁉︎うそ……だろ?……なんだこれは?」


 その小山の正体は、適当に積み上げられた村人の死体であった。


「くっ!アリシア!」


 ここにある死体は一部の村人だけであったが、嫌な予想が現実味を()びてきたことに焦りが出てきて、疲れも忘れて走りだした。


 村の奥はあまり燃えていないもののそこかしこに村人の死体が転がっており、セルストは隅から隅まで走り続けていた。

そして、一体のオークが倒れているその近くに、遠目からでも分かる鮮やかな赤色が見えた。

それを見た瞬間にアリシアであると分かったセルストはすぐさま駆け寄った。

セルストはアリシアの元まで来ると、仰向けに倒れているのを抱き起こした。


「大丈夫かアリシア!しっかりしろ!」


「……ぅ……せる……すと?」


 閉じていた目を少しずつ開けたアリシア。

セルストは愛する人が生きていてくれた事に涙を流していた。


「あぁそうだ!俺だよ、帰ってきたぞ!」


「はは……せるすとが、かえってきてくれた」


 アリシアも嬉し涙を流しながら弱々しい声で喜んでいた。


「そりゃそうさ、君と約束したじゃないか。それより、大丈夫なのか?見たところケガはしていないみたいだが……」


「……じつはね、せなかを、きられちゃったの。それから、すこしずつ、うごけなくなってね。いまはもう、ちからがはいんないし、しゃべるのも、だるく、なってきて……」


(あの毒か!)


 アリシアの話を聞いたセルストはすぐに背中を確認した。

すると、腰に近い部分に5センチほどの斬り傷があった。


「アリシア!あの回復魔法を使うんだ!」


 セルストの言葉に力なく首を横に振るアリシア。

毒のせいで体力が無いというのもあるが、アリシアはずっと戦っていたために魔力すらあまり残っていなかったのだ。

それに、治せたとしても解毒まで出来るのかも怪しかった。


「くっ!……じゃあ、これを!解毒ポーションだ!」


 露店で買っていたのを思いだしたセルストは、カバンから取り出してアリシアにゆっくりと飲ませた。


「ん、んくっ、……ふぅ」


「……どうだ?」


「……だめみたい」


 少し待ってみたものの、アリシアの体からは毒が抜けなかった。


(解毒ポーションが効かないだと⁉︎一体どれだけ強力な毒なんだ!)


「くそっ!なにか、何か他に手は……」


 セルストは強力すぎる毒に対して歯噛みしながらも、何か他に手はないかと思考を続けた。


 自分のために必死に考えてくれているセルストを見ていたアリシアは、自然と柔らかな笑みを浮かべていた。


「ねぇ、せるすと。わたしね、あなたにあえてしあわせだったわ」


「……なにを、言ってるんだ?」


 アリシアの唐突な話に呆然としてしまうセルスト。

だが、アリシアは構わず話し続けた。


「あなたが、わたしにゆびわをくれたとき、けほっ、ほんとうに、うれしかったわ。こほっ」


「アリシア⁉︎しっかりしろ!」


 話している途中で咳をしたアリシアの口からは血が出ていた。

それにたまらず心配の声をかけたセルスト。


「ごめんね、もう、こえもあまり、きこえなくて。めも、かすんできて……」


「そんな⁉︎ダメだ、アリシア!そのうちにポーションが効いてくる!生きるのを諦めないでくれ!」


 力なく弱音を漏らすアリシアに、必死に声をかけるセルスト。

すると、アリシアは優しい笑みを浮かべた。


「……じゆうにいきてね、せるすと。わたしの、かわりに。わたしはそばにいられないけど、あなたがしあわせなら、わたしはそれでじゅうぶんよ」


「……アリシア」


 最後の言葉をかけてきたアリシアに、セルストはポロポロと涙を流しはじめた。

アリシアも笑みを見せているものの、心の中では激しい後悔が渦巻いていた。


 〝そばにいたい。これから先の人生も一緒にいたかった!もっと貴方との思い出を作りたかった!子供にも恵まれて、家族全員の幸せを作りたかった!……でも、それはもう叶わないから……せめて貴方が、これからを幸せに生きられるように……″


 これが今のアリシアに出来る精一杯であった。

〝少しでもセルストが傷付かないように、前を向いて生きていけるように″との思いだった。


 アリシアは美しい笑顔で涙を流しながら、最後の力を振り絞って愛する人へ想いを告げた。


「……だいすき、とっても、あいしていたわ。……いきてね、せるすと」


「俺も……俺も愛してるよ、アリシア」


 セルストも泣きながら想いを伝え、そっと最後の口づけを交わした。

そして、最後は嬉しそうな表情を浮かべながら目を閉じていき、アリシアは静かに息を引き取った。

セルストは愛する人の体温が無くなっていくのを感じながら、声を押し殺すように泣き続けた。




 〈ギルドにて〉


「なんだと⁉︎村が壊滅した⁉︎」


 知り合いの冒険者に秘密裏に頼んでいた偵察の報告を受けたドーネルは、その内容に驚愕していた。


「……一部だけではなくて全部なのか?」


「あぁ、間違いない。どの家も燃えていたんだ。ありゃあ、生きてるやつはいないだろうよ……」


「……最悪の結果になってしまったか」


 懸念していた事が最悪の結果として現れ、ドーネルは()る瀬無さに握り拳を作った。


「なぁ、あんたが厳命するから手を出さなかったが、本当にあれで良かったのか?」


「……お前をギルド長から守るためだ。私個人の意志でお前を使っただけでも危ない橋を渡っているんだ。それ以上のことなどは頼めんよ」


 男の問いに対して真剣な表情で答えたドーネル。

男はドーネルの気遣いに内心で感謝しながら、これからの方針を聞いた。


「……で、これからどうするんだ?」


「事実確認はとれた。今までの行為も含めて、ギルド長を告発する。以前から許されない行為はあったが、罪には問えなかったからな。今回で確実にギルド長を追い出す」


 ドーネルが決然たる表情で自分の意思を告げると、男は疲れたようなため息をついた。


「やっとか……ヤツはかなり狡猾だったから苦労したが、さすがに今回の件で言い逃れはできないだろうな」


「あぁ、だが懸念することもある。あいつ自身の命だ。セルストという男が必死に頼んでいたからな。もしかしたら復讐でもするかもしれん」


「それならそれでいいんじゃねぇか?」


 腕を組みながら難しい顔で話すドーネルに対して、男は楽観的に答えた。


「いや、あれでもヤツは同じ人間だ。しっかりと罰を受けて償ってもらうつもりだ」


「そうかい。で?そのギルド長はどこに行ったんだ?」


「いつもの歓楽街だ。ヤツの側近もいるから、まとめて捕まえてもらうつもりだ」


「そうか。じゃあ、とっとと警備隊にチクってくるか」


 今回のチャンスを逃すわけにはいかないので、ドーネルと男は証拠を持ってすぐに警備隊の元へ出かけた。




 枯れるまで泣き続けたセルストはアリシアの遺体を無事だった家の中に隠し、街まで戻ってきていた。


(許さない……あいつが許可を出してくれてさえいれば、転移石ですぐに戻ってみんなを守ることができた。アリシアだって死なずに済んだ)


 深い憎しみと怒りを孕んだ目をしながら、歓楽街の中を歩き続けるセルスト。

そう、セルストは復讐を果たしにきたのだった。


 街に入った頃にはもうすぐ夜中という時間だったが、外出している者はそこそこいた。

なのでその通行人にプーガの事を聞き回り、〝歓楽街に入り浸っている″という情報を掴んだからこそ、ひたすらに歩いて探していたのだ。


 そしてついに、歓楽街の裏道の方から響く憎い男の声を聞き取った。

セルストがそっちへ向かうと、細い通りをプーガとその取り巻き6名が歩いていた。


 やたらと上機嫌であるプーガにイラつきながらも、セルストは静かに歩いて近付いていった。


「がはははは!さて、次の店へ行くぞ!」


「……見つけたぞ」


「あん?……なんだ、貴様か。金は用意できたのか?」


「必要なくなったよ。なんせ、みんな死んだんだからな」


「なに?」


 小バカにしたように問いかけてきたプーガに対して怒りが振り切れたのか、自嘲ぎみに事実を告げたセルスト。

セルストの話した事実を聞いたプーガは、さすがに驚きを隠せないようだった。


 しかし、セルストから見れば〝それでも大した事ない″という態度にしか見えず、更に怒りが込み上げてきたセルストは徐々に語気が荒くなっていった。


「あの魔物は毒を使ってきた。会話もしていた。部下をまとめて計画的に攻めてきた!」


「ふん、そんな魔物がいるわけなかろう。そこまでして金を払いたくないのか?恥を知れ!」


 セルストの話を最初は信じかけたプーガだったが、普通ならばあり得ない話をしてきたので〝ただ単に金を払いたくないためのブラフ″だと判断し、(さげす)むような目でセルストを罵倒したプーガ。


「お前が協力してくれればみんな助かったんだ!アリシアだって死なずに済んだ!」


 セルストは怒鳴りながら魂剣を取りだした。


「……私を殺すというのか」


「そうだ。お前のようなやつは生きている資格などない」


 いつでも動けるように構えたセルストは、怒りと憎しみによって濁りきっている目でプーガを睨んだ。

しかし、プーガは全く動揺しておらず、むしろバカにする様な高笑いをした。


「がはははは!たった1人のくせに、この人数を相手によく吠えたもんだ!」


 セルストの前に6人の男たちが立ちはだかった。

そう、この取り巻きがいるからこそ、プーガは余裕の態度を崩さなかったのだ。


 普通ならば人数差に焦りを見せるところだが、セルストは冷たい目をしながら呆れた表情をしただけであった。


「ギルド長のくせに理解してないんだな。こんな狭い所では、人数による優劣の差など無いに等しい」


 そう告げた直後、セルストの姿が消えていた。


 ザシュ!ザシュ!


 プーガがセルストを見失ってすぐに、取り巻き2人の首が飛ばされた。


「なっ⁉︎」


 一瞬のうちに2人がやられた事に目を見開いて驚くプーガ。


「理解したか?」


「くっ!お前ら!相手はたった1人だ!とっとと殺してしまえ!」


 プーガは静かな声音で話してくるセルストに焦りを感じながらも、取り巻きたちに指示を出した。

指示を受けた取り巻きたちは魂剣を取りだして、一斉にセルストへ襲いかかった。


 セルストは突っ込んでくる取り巻きたちを見据えながら、少し腰を落として構えた。


「そいつに加担していた以上、お前らも許すつもりはない」


 ヒュッ!


「ぐあっ⁉︎」


「ぐふっ⁉︎」


 残りの取り巻きたちは内2人が首を飛ばされ、1人は腹を斬り裂かれ、最後の1人は胸を貫かれて絶命した。


 目の前で起きた蹂躙劇に対して驚く事しかできないプーガは、死を予感したのか無意識のうちに後ろに数歩下がっていた。


「なっ⁉︎高ランク冒険者をこうもあっさりと……何者なんだ、貴様は……」


 プーガに問われたセルストは、渇いた笑みを浮かべた。


「何者、か……愛した人すら守れない無能だよ」


 ザン!


 一瞬でプーガの懐に入ったセルストは、いとも簡単にプーガの首を刎ね飛ばした。


「……帰ろう」


 無惨に転がっている死体を一瞥(いちべつ)したセルストは、一つため息をついてから歩き去っていった。




 ミカル村へ戻ってきたセルストは村人たちとアリシアを埋葬し、手作りのお墓を作り上げた。

そのお墓の前で呆然と立ち尽くしているセルストは、完全な無気力状態になっていた。


(これからどうするか……アリシアがいない以上、俺が生きている意味は無いに等しいが……)


 愛する人を失ったショックで、セルストはどんどん暗い思考しかできなくなっていった。


 するとそこへ―――


「身投げでもしますか?」


 突然、背後から声をかけられた。


「だ、誰だ⁉︎」


 僅かにも気付くことができなかったセルストは瞬時に振り向いたものの、驚きのあまり少し声が裏返ってしまっていた。


 振り返った先にはフード付きの神官服の様なものを着た長身の男が立っており、僅かに見える口元は笑みを浮かべ、左頬には何かのタトゥーのようなものが見えていた。


 セルストがいつでも対応できるように警戒心を上げていると、男は笑みを浮かべながら優しく話しかけてきた。


「そんなに身構えないでください。私はあなたの味方ですよ」


「……どうだかな。味方と言ってるくせに全く気配を感じなかったぞ」


「それはあなたの力量を試したかったのですよ。まさかあの程度の気配にも気付けないというのには驚きましたけどね」


 呆れたような物言いをする男に対して少しイラっとしたセルストだったが、気配も感じないうえに力量すら分からないため、下手な反抗などはしなかった。


「悪かったな。どうやら俺はお前よりも弱いらしい」


「えぇ、そうですね。だから……誰も救えず、愛する人も失ったというわけですね」


「っ⁉︎貴様……見ていたのか?」


 淡々と語られた事実であったが、まだ心の整理が出来ていないセルストには酷く突き刺さる言葉だった。

セルストは自然に湧き上がる激しい怒りをどうにか抑え、冷静を装いながら尋ねた。


「えぇ、最後の方だけですけどね。しかし、あなたの戦いっぷりは嫌いじゃないですよ。だからこそ、どうせ絶とうとしていた命を私たちに使わせていただきたいのですよ」


「舐めるな。たとえヤケになっていても、お前のような怪しいやつに手を貸す俺ではない」


 男は両手を広げながら勧誘してきたが、セルストは睨み返しながら突っぱねた。


 聞く耳を持たないといった感じのセルストに対して男はがっかりしたようなため息をつき、仕切り直しなのか別の話を持ちだしてきた。


「はぁ、では一つ。私たちはこの世の腐った者たちを殲滅するために動いています。これならばあなたも興味が湧くのではありませんか?」


「……恨みならすでに晴らした」


「本当に?一度腐ったものは毒となり広がっていくものです。たとえばあのギルド長の……なんでしたかね?まぁいいです。ギルド長のような者はいくらでも出てきますよ。今度は誰が犠牲になるんでしょうねぇ」


「……たとえどうにかしたくても、俺には力が無い」


 男の話す内容がセルストの思考にチクチクと刺さり、セルストは先ほどから一瞬悩んでから答えていた。

だが、自分に力が無いのを痛感したばかりのセルストは、〝よく考えても結局は何も出来ない″と自分の中で結論を出し、この話を断る方向で決めた。

しかし、男がセルストの答えを気にすることはなかった。


「安心してください。守るための力なら私がご用意します。まずは試しに、これくらいでどうでしょうか?」


 男は笑みを浮かべて掌をセルストへ向けると、その掌から白い光の珠が出てきた。

その光の珠は少しだけ浮遊すると、警戒していたセルストも反応出来ないほどの速さでセルストの体の中へ入り込んだ。


「うっ!…………こ、これは……力が溢れてくる」


 突然の事に驚いたセルストだったが、光の珠が体内に入るとすぐに自分の中の変化に気付いた。


「いい感じに馴染んでますねぇ。今のあなたならば、私との力量差も理解できると思いますよ?」


「なに?……っ⁉︎」


 セルストが男に言われてそちらを向くと、その瞬間に悪寒が走り、汗が滝のように噴き出してきた。

まるで物理的に潰されるような感覚を味わったセルストはなんとか立ってはいたものの、本能からの恐れによって動けそうにはなかった。


(な、なんだこれは……こんなものが人の持てる力だというのか……これでは完全にバケモノじゃないか……)


「どうですか?あなたの返答次第ではもっと力を差し上げますよ?まぁ、これ以上は無理にとは言いませんけどね」


 男はセルストが力量差を実感したところで力の放出を抑え、にっこりと笑いながら催促をしてきた。


 さっきまではいくらでも突っぱねるつもりでいたセルストだったが、圧倒的な力量差を見せつけられた事と未だに(くすぶ)っている怨恨(えんこん)によって、断るという選択肢を選ぶことはできなかった。


「はは……これだけの力量差を見せつけておいて、俺に断る余地があると思うか?」


「では、交渉成立ということでよろしいですね?」


「あぁ、お前に協力しよう。この世からクズどもを消し去るために」


 男はセルストの返答にニヤリと笑みを浮かべ、フードの奥では嬉しさを孕んだ紫色の瞳が覗いていた。


 こうして、セルストは男に協力することになった。

愛する人を奪った憎い者たちを殲滅するために。




 だいぶ昔の事を思い返したセルストは、いつの間にか閉じていた目を開けて魔導具に手を添えた。


「ここまで本当に長かった。これで全てを終わらせることができる」


 悲願がやっと叶う事に心を震わせるセルスト。


 するとそこへ、セルストと同じ通路を歩いてきた者がいた。


「あー腹減った。おい、なんか食いもんはねぇか?」


 だるそうな口調でやってきたのは大男であった。


 セルストはいつもと変わらないその大男に呆れながらも、部屋の隅を指差して答えた。


「もう、木の実とかしか無いぞ。今はそれで我慢しろ。それよりも、こっちは全ての準備が整った。今日は体を休めて、明日の昼に作戦決行だ」


「お、ようやくか!俺さまもちょうど仕込みが終わったところだ。明日は派手にやってやるぜ!」


「仕込み?一体何を用意したんだ?」


 予定には無い事を言いだした大男に、多少不安になりながら問いかけたセルスト。


「そんなもん内緒に決まってんだろ。全部終わってから見てみるといいさ。あれはおったまげるぞ?」


「……まぁいい」


 内容を知る事は出来なかったが、何をしでかそうともやる事は同じなので、深く追求することはしなかったセルスト。


(悪いが、お前も道連れだ。お前らが俺を利用したように、俺もお前らを利用させてもらう。そして……全てが終わったら、君の元へ向かうよ、アリシア)


 笑みを浮かべながらも、更に目がドロドロと濁っていったセルストであった。

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