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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
古代遺跡編
30/77

帰還への架け橋

ここだけはしっかりと書きたいと思ってたら9000字を越えてしまいました。

いつもよりは長めですがご了承ください。

 〈和輝サイド〉


 サラとセラが自由に出歩けるようになってから数日がたった頃。

和輝たちが食堂で仲良く食事をしていると、剛が唐突にある提案をしてきた。


「なぁ、明後日(あさって)の休みにさ、もう一度キャンプへ行こうぜ」


 そんな突然の話を聞いた和輝たちは一度顔を見合わせてから剛へと向き直り、和輝が至極当然のことを口にした。


「キャンプっていっても、この間やったじゃないか」


「確かにそうだけどよ。結局は邪魔されちまって最後までやってねぇじゃんか。それによ、あんな悪い感じで終わったままだと、なんかモヤモヤすんだよ」


 剛の個人的な感情ではあるものの、その気持ちが分からなくもない和輝は、腕を組んで少し考え込んだ。


「う〜ん、じゃあティアに聞いてみようか。前回は迷惑をかけちゃったし、こういったのは伝えておかないとだからね」


 和輝はそんなに反対という訳でもなかったので、結局のところはティアに聞いてからという事で、和輝たち全員でティアを探しにいった。




 学院内の王族専用教室にいたティアを見つけた和輝たちは、単刀直入に用件を伝えた。


「もう一度キャンプに、ですか?」


「うん、ダメかな?」


「頼むよティア!いや、ティア殿下!」


 思わず聞き返してしまったティアだったが、剛のあまりの懇願っぷりに、苦笑いになってしまった。


「そんなに行きたいのですか?」


「おうよ!嫌な思いをしたままなんてゴメンだからな!」


 ティアは再度の確認をしたが、剛は特にだが、麗奈や繭たちも同じ気持ちでいるようだった。

ティアは少し考えたものの、〝今の和輝たちなら問題ない″と結論を出し、条件付きで認めることにした。


「……分かりました。カズキさんたちを襲った者はもういませんし、カズキさんたちは既にかなりの実力者ですからね。皆さんを信じることにします。ですが、慢心はしない事と大体の行き先だけは教えてくださいね」


「分かったよ、ティア」


「よっしゃ!ありがとな!」


「ふふふ、今度こそバーベキューを」


「絶対にさせないからね、繭」


 ティアから許可が出たことに喜ぶ和輝たちであった。

そんな中、繭がさりげなくこの世界での危険行為を呟くが、バッチリと聞いていた凛に(たしな)められてしまい、がっくりと肩を落としていた。


「そういえば、剛くんはどこへ行くつもりだったの?」


「もしかして、また遺跡の方ですか?」


 ふと気付いた麗奈が尋ねて、そういえばという感じでティアが重ねて聞いた。


「いや、今回は別の方に行ってみたいんだよ。それでさ、冒険者ギルドに行って、ついでに何か依頼を受けたりしねぇか?」


「依頼か……確かに、依頼を受ければお金も自分たちで稼げるから、ティアたちに負担をかけなくて済むね。僕もお金の件はどうにかしたいと思ってたんだよ。ナイスな案だ、剛!」


「お、おう、そうさ!お金も無きゃ困るからな!」


 剛の提案を絶賛しまくりの和輝だが、言い出しっぺの剛はひどく狼狽(ろうばい)していた。

恐らくは何も考えていなかったというオチなのだろう。


「剛くん、絶対にそんな事は考えてなかったでしょ」


「ん、面白そうとか思ってたはず」


「うっ……悪かったよ。そりゃあ、ちょっとはそう思ってたよ」


「え⁉︎そうだったのか⁉︎」


 麗奈と繭から核心をつかれ、素直に白状した剛。

その事に対して和輝が驚愕するが、さっきの剛の反応を見て気付いてなかったのは、やはり勇者としての鈍感スキルが働いたのだろうか。


「気にしないでください、ツヨシさん。皆さんがこの世界に来たことで不安を感じてる訳ではなくて安心しましたから」


 咲恵とのことは直接話したから整理がついているものの、ティアにとっては苦い思い出だったのは間違いない。

だからこそ、和輝たちが咲恵と同じようにつらい思いをしていた訳ではない事を知れたティアは、心底安心したようにホッと息をついていた。

そんなティアの気遣いを知った和輝たちは、嬉しくもあり恥ずかしくもありで、互いを見合いながら照れ笑いをしていた。

そんなすっぱい雰囲気の中、今度は凛が唐突な提案をした。


「そうだ!ねぇ、みんな。またジンくんを誘ってみない?ジンくんも一緒なら途中の戦闘も安定するだろうし、何よりも少しはお礼をしないとだもん」


「ん、確かに。日本式のキャンプの楽しみ方を教えれば、少しはお礼になると思う。それに、依頼以外の魔物討伐の報酬とかもあげられると思う」


 迅を誘おうという提案に、繭がすぐに賛成していた。

繭としては命の恩人であるため、実は前々から何かお礼をしようと決めていたのだった。

そして、和輝たち全員が迅に助けられていたので、もちろん誰も反対などしなかった。


「そうだね、ジンも誘ってみよう!」


「よし!そうと決まれば、早速ジンを探そうぜ!」


 和輝と剛がそう意気込み、ティアにお礼を言ってから、迅を探しに部屋をあとにした和輝たちであった。




 結局、昼休みの間に迅を見つけられなかった和輝たちは午後の授業の合間ではなく、時間が取れる放課後になってから迅に声をかけた。

そして、和輝たちから事情を聞かされたうえで誘われた迅はというと―――


「俺、寝てる方がいいんだが……」


 露骨に億劫(おっくう)そうな顔で返答したのであった。


「ジンはほんとに寝るのが好きだよね。授業中なんてよく寝てるし」


「頼むよ、ジン!絶対に後悔はさせねぇし、少しでも礼をしたいんだよ」


 人によっては善意を無下にされたら怒るのが普通だが、迅の普段を知っている和輝は笑って流し、剛はまるで気にしていなかった。


 迅は〝めんどくさいな″と思っていたのだが、剛の懇願のうえに、後ろでは言い出しっぺの凛が落ち込んだ表情を見せており、それを見た迅はため息をつきつつも同行する事を決めた。


「……はぁ、分かったよ。ついでにイリスとエリスも連れてくけど、それでも構わねぇか?」


「うん、もちろんだよ!2人にも助けてもらったからね!」


「ん、2人にもお礼をしないと」


 迅が行くと告げると、凛はすぐさま明るくなり、繭もどこか嬉しそうな表情をしていた。


 これで話もまとまったので、用がある迅は席を立った。


「じゃあ、場所が決まったら教えてくれ」


「どこかに行くの?この後、みんなでギルドに行こうと思ってたんだけど」


「あぁ、悪いが少し用があってな。俺はどこでも構わないから、そっちで決めといてくれ」


「ん、分かった。またね、ジンくん」


 話を済ませた迅は和輝たちに別れを告げて、用を済ませるために教室をあとにした。




 迅はすでにイリスとエリスには自主練と言ってあるので、教室から目的の場所までは直行でやって来ていた。

その目的地である生徒会室の前まで来た迅は、扉を二回ノックしてから部屋の中に入った。


「悪いな、少し遅くなった」


「気にしないでくれ、こっちは頼んでる身だからな」


「それで、その2人もいるって事は、知ってると(とら)えていいのか?」


 迅が部屋に入ると咲恵が笑顔で迎えてくれたが、他にも生徒会副会長であるノエルと、書記のミーナも一緒に待っていたのだった。


「あぁ、2人には全部話した。だけど安心してくれ、ノエルとミーナは私が全面的に信頼できるパートナーだからな」


「会長……私のことをそんな風に思っててくれたなんて……」


「安心してください、ジンさん。今のミーナはこんな感じですけど、私もこの娘も口は堅いですから」


 咲恵からの信頼の言葉を聞いたミーナはどこかにトリップしてしまい、それをノエルがしっかりとフォローしていた。


「口が堅いなら安心だな。まぁ、バレたらその時は力ずくでどうにかするから、俺に関する事で自分たちが危険な目に遭いそうな時は遠慮なくバラしてくれ」


「あら、そこまで私たちに配慮して下さるんですか?」


「まぁな。俺が秘密にしておきたいのは少しの間だけだし、それに何よりも、俺のせいで他人が不幸になるのは本意じゃないんだよ」


 迅が伝えたのはもしもの話ではあったが、迅にとっては大事なことなので、はっきりと理由も説明した。

その際に迅は昔の苦い思い出がよぎってしまい、自然と言葉にも重みが出てしまった。

貴族であるノエルとミーナはもちろん、咲恵も何かしらを察してしまい、思わず返答に詰まってしまうほどであった。

咲恵たちはこれが迅の大事な線引きだと感じとり、それを胸の内に留めておいた。


「……分かりましたわ。もしもの時はそうさせていただきます」


「おう。それから、別に敬語で話す必要はないし、呼び捨てで構わないからな。……さて、しんみりとした話はここまでにして、早速始めるか」


 迅は微妙な空気にした事を少し悪く思い、明るく仕切り直した。


「あぁ、よろしく頼む。それで、私はどうすればいいんだ?」


「立ってても座ってても大丈夫だ。ただ、少しでも効率良く負担を掛けずにやりたいから、俺とデコをくっ付けてもらうぞ。それから、少しでも痛みを感じたそぶりを見せたらすぐに止めるからな」


「分かった。無理はしないさ」


「最後に流れの説明だが、お前は目を瞑って、お前が会話したい家族の顔を思い浮かべろ。俺はそれを見させてもらって、お前と似通った魂の持ち主を探し出す。見つけたらお前の力を少しずつ使って、会話が届くように調整してやる。ただし、何度も言うようで悪いが、痛みが出始めたらすぐに止めるからな」


「安心してくれ、話す内容は決めてあるし、君にこれ以上の迷惑をかけるつもりはないからな。それと、話す相手は私の妹にするつもりだ」


 ここまでの会話で分かるように、迅の用事とは咲恵との約束の事だったのだ。


 迅は最後の説明の時に真剣な顔で話したが、咲恵は十二分に承知しているようで、しっかりと迅に頷き返していた。


「よし、それじゃあこれから始めるがその前に西野、あのミサンガはまだ持ってるのか?」


「『導きのミサンガ』なら、まだ持ってるけど……これをどうするんだ?」


 迅にミサンガの事を聞かれ、その事に疑問を浮かべながらも、ポケットに入れたままにしていたミサンガを取り出した咲恵。

迅は咲恵からミサンガを受け取ると、その用途を説明した。


「これをお前の妹に送るつもりだ。言葉だけじゃなく、物でも不思議な現象が起これば向こうも信じるだろうからな」


「それはありがたいが……その、大丈夫なのか?」


 迅の言葉に驚きを見せた咲恵だったが、ただでさえ無茶をお願いしているというのに、〝これ以上をしてもらってもいいものか″と少し迷っていた。

それに、咲恵はそれだけではなく、力の消費自体も危惧しているのだった。


「無機物でこんなに小さいものならなんとかなるさ。さて……【変換】『魔眼・深虚(しんこ)』、『虚空(こくう)結界』」


 迅は咲恵の心配もよそに適当な返事を返すと目を瞑って集中し、【変換】を使って目を魔眼へと変化させていった。

そして魔眼の力を使って、たとえ神の力であろうとも簡単には干渉できず、察知することもできない強力な結界を生徒会室の中に展開させた。


「よし、準備できたぞ」


 そう言って(まぶた)を開けた迅の目には、瞳の部分に紋様を浮かべており、少しばかり白く発光していた。


 迅の結界と魔眼を見た咲恵は少し驚いたものの、〝呆けてる場合ではない″と思い直し、迅に再度お願いした。


「……よろしく頼む」


「任せろ」


 咲恵がソファの横で立ったまま目を瞑り、そこに迅がデコを合わせて目を瞑った。

そして、咲恵が思い浮かべた妹を確認し、迅が魔力でも神通力でもない、迅の神核による神の力を使って、無数にある異世界から咲恵の妹を探し始めた。


(こいつの魂に共鳴するモノを探す……割と遠いな…………もうちょい……これか?……ぽいな)


「見つけたぞ、目は瞑ったままで語りかけろ。向こうにはお前の姿は見えないが、お前からは見えるはずだ」


「分かった。恵実(えみ)!聞こえる?咲恵だよ!お姉ちゃんだよ!」


 迅からOKをもらった咲恵は、感慨深い思いを抱きながら、最愛の妹である恵実へと語りかけた。




 〈恵実サイド〉


 時刻は夜の8時ごろ。

剣道部の練習を終えた恵実が、若干の疲れを見せながら家に帰ってきた。


「ただいまー」


「お帰り、恵実」


「お帰りなさい、恵実。今日の晩御飯はあなたの大好きな親子丼だからね。早く着替えてきなさい」


「はーい」


 帰ってすぐにリビングへ向かい挨拶をすると、すでに仕事から帰ってきていた父親の(みのる)と、母親の美咲(みさき)が柔らかな笑顔で迎えてくれた。


 恵実は母からの指示に明るく返事をすると、2階にある自分の部屋に入り、制服からラフな部屋着へと着替えた。

そして部屋を出ようとしたところで、ずっと同じ位置に飾ってある写真立てが目に入った。

すると、恵実は写真立てに近づくとそれを持ち上げて、なんとも言えない思いを抱きながら自然と言葉を漏らしていた。


「……お姉ちゃん……おかしいな、もう7年も経つのに、もう悲しくて辛いわけでもないのに、なぜかもどかしくなるの」


 そう呟いた恵実の目に映る写真立てには、幼い女の子2人が晴れやかな笑顔でピースサインをしていた。


「……寂しいな……」


 完全な無意識で呟かれた恵実の言葉。

本人には自覚がなくとも、今の恵実の心情を表している一言であった。


「いただきます」


 少ししてリビングに降りてきた恵実は、親子で仲良く食事をとっていた。

大好物の親子丼を口いっぱいに頬張り、もくもくと食べまくっていた。


「美咲、明日は少し離れた所へ行ってくるから、帰るのが遅くなる。だから明日の夜はいらないから」


「分かったわ。無理だけはしちゃダメよ?」


「ははは、分かってるよ。次の日も仕事だし、深夜になる前には帰るよ」


 父からの突然の話だが、これは今に始まったことではなかった。

咲恵がいなくなってからというもの、すぐに警察や探偵と一緒に捜索をしていたのだ。

しかし、7年も経った今、すでに警察や探偵も捜索を打ち切っているため、実がたった1人で捜索をしている現状であった。


(お父さんもお母さんも、信じたくないんだ。もちろん私も……)


 恵実は分かっているのだ。

咲恵の生存率が限りなくゼロであることを。

それはもちろん、両親も分かっていることだ。

しかし、何の手がかりも無く消えたからと言って、それが諦める理由にはならなかったのだ。

もしかしたらどこかで生きているかもしれない。

まだ僅かにも望みがあるのならと、それだけを信じぬいているのだった。


 恵実は暗い顔をしてしまったが、すぐに自分の考えを改め、両親に笑顔を向けようとした。

しかし、恵実はその前に違和感に気付いた。


『……み…………えみ……きこ…………』


 突然、幻聴のようなものが聞こえて、恵実は体を硬直させた。

気のせいかとも思ったが、その幻聴は徐々にはっきりと聞こえるようになってきていた。


「ね、ねぇ、お父さんお母さん。何か声が聞こえない?」


「声?いや、聞こえないな」


「私も聞こえないわ」


 少し不安になりながら両親に聞いてみるが、2人は全く聞こえないようだった。


『わた…………だよ……聞こえてたら返事してくれ、恵実!』


「聞こえる……はっきり聞こえた!だれ?誰なの⁉︎」


「どうした恵実!」


「大丈夫なの⁉︎」


 自分の名前をはっきりと呼んでくる声に対して若干の怖さを感じつつも、逆に問い返した恵実。

そして、恵実が虚空に向かって声を荒げはじめた事に対して動揺を見せる実と美咲。


『恵実!私だよ!咲恵!お姉ちゃんだよ!』


「お姉ちゃん⁉︎なんで?一体どこから……」


『ごめんな、事情があって長くは話せないからよく聞いてくれ。私は今、異世界にいるんだ』


「異世界?待って!お父さんとお母さんには聞こえてないの!」


 いきなりの事に驚いた恵実だったが、声の主が咲恵と名乗った事に対しては自然と疑うことはなかった。

そして、咲恵から話された内容を呑み込めないながらも、咲恵と会話しているというのを察して声を出さずにいる両親には聞こえていないと告げた。


『ダメなのか?…………ごめんな、無理みたいだ。今も無茶をしてもらって恵実と話させてもらってるんだ。だから、父さんと母さんには恵実から伝えてくれ。私は無事だから安心してくれって』


「う、うん、分かった!でもお姉ちゃん、帰ってこれるの?」


『大丈夫、帰る手段は見つけてあるんだ。だけど最低でも1年は、かかるから、そのつもり、で、いてくれ……』


「分かった。お姉ちゃん、待ってるから……私、待ってるからね。無事で帰ってきてね」


『あぁ、もちろん、だよ。……ごめんな、もっと話したい、けど、……はぁ、もう、力が……恵実、大きくなったな。父さんと母さんに……よろしく、うっ!………………』


 恵実の切実なお願いに優しく返事を返した咲恵だったが、先ほどから徐々に息が荒くなっており、最後には言葉を言い切れずに会話が途絶えてしまった。


「お姉ちゃん⁉︎どうしたの⁉︎」


『安心しろ。お前の姉ちゃんは力を使い切っただけだ』


「だ、だれですか?」


 いきなり姉の声が聞こえなくなり、代わりに知らない男の声が聞こえてきた事に恐る恐るといった感じで尋ね返した恵実。


『俺の名前は迅。この会話を繋げる手伝いをしてた者だ。お前の姉ちゃんは必ずそっちに送り届けるから、信じて待ってろ』


「……本当に、お姉ちゃんを帰してくれるんですか?」


『あぁ、俺のプライドと存在意義に懸けて、お前の姉ちゃんを無事に送り届けると誓う』


 不安げな声で確認してきた恵実に対して、はっきりと約束を誓った迅。

その迅の言葉から強い意志を感じとった恵実は、少し考えた末に迅の言葉を信じることにした。


「……分かりました。お姉ちゃんを、お願いします」


『任せろ。それから、お前に渡しておくものがある』


 迅からそう告げられた直後、恵実の目の前に青いミサンガが現れた。


「……ミサンガ?」


『それを肌身離さず持っていろ。それがお前の姉ちゃんが帰るための道しるべとなる』


「あ、ありがとうございます!」


『それじゃあな』


 姉の帰還に必要な物と聞かされ、ミサンガを握りしめながら迅にお礼を返した恵実。

そして、迅との会話も終わりとなった。


 大事そうにミサンガを胸の前で握りしめていた恵実に、会話が終わったことを悟った実が恐る恐るといった感じで話しかけた。


「……恵実?一体なにがあったんだい?」


「……お父さん、お母さん。お姉ちゃん大丈夫だって。少し時間はかかるけど、こっちに帰ってこれるって!」


「ほ、本当なのか⁉︎咲恵と話せたのか⁉︎」


 恵実の言葉に驚きをあらわにした実は、少し興奮しながら恵実へ更に問いかけた。


「うん!少し変わってたけどお姉ちゃんの声だって分かったし、お姉ちゃんと会話をさせてくれたジンさんって人が必ず送り届けるって言ってた!」


 恵実は嬉しさを爆発させたかのような笑顔を浮かべながら、父と母にミサンガを広げて見せた。


 普通ではあり得ない事が起こったのを目の当たりにした美咲は、恵実が本当に咲恵と会話していたのだと確信し、咲恵が生きていた事に涙を流しながら喜んだ。


「うぅ、咲恵……良かった。あの娘、無事だったのよ、あなた!」


「あぁ、本当に良かった!無事で良かった!」


 目の前で年甲斐もなく抱き合って喜んでいる両親を見ていた恵実は、自分も嬉しさに涙を流しながら、ミサンガを通して姉に伝わりますようにと念を送っていた。


(お姉ちゃん……無事で帰ってきてね。待ってるからね)




「……ふぅ、ちゃんと信じてくれたみたいだな」


「……あぁ、ありがとう、ジンくん」


 会話を終えた迅はひと息をついていたが、咲恵は完全に力を使い切った影響で体に力が入らず、ノエルとミーナに支えられていた。


「気にするな。これは報酬だって言ったろ?それよりも、体とか頭とかは大丈夫か?」


「あぁ、体に力が入らないが、痛みとかはないよ」


「そうか、なら大丈夫だな」


 予想通りの消耗をしている咲恵が眠そうな顔をしていたが、深刻な症状が出たりなどはしていないようだった。


「お疲れ様、サキエ。あとは私たちに任せて、もうゆっくり休みなさい」


「あぁ、悪いけど、そうさせて、もらうよ」


 ノエルの言葉を受けた咲恵は、そのまま意識を落としていった。


 ひとまず咲恵をソファーに寝かせたところで、ミーナが迅に話しかけた。


「……それで、会長は本当に大丈夫なんですか?」


「あぁ、しっかりと確認もしたからな。何も心配はいらねぇよ」


 ミーナからの問いに対して、迅は自分の目を指差しながら答えた。

その迅の目は、『魔眼・深虚』のように紋様がある訳ではなかったが、縦長で緑色の瞳になっていた。


「……そうですか。会長のために、ありがとうございました」


 また変化している事に驚いたミーナだったが、咲恵のために力を尽くしてもらった事に対して、素直にお礼をしていた。

その事に対してもちろん疑問を浮かべたノエルが、驚き半分、からかいたさ半分にミーナへ指摘した。


「あら?珍しいじゃない、ミーナ。男性に対して礼を言うなんて」


「な⁉︎……コホン、私だって誰もかれもを毛嫌いしてる訳ではありませんからね」


「うふふ、はいはい。さて、サキエを部屋に運ぶから手伝ってね、ミーナ」


「はい」


 あまりにもと言えばあまりにもだが、そんなに強く反論できないミーナは取り繕った言い方で難を逃れようとした。

ノエルはもちろんお見通しだったが、咲恵を運ぶのが優先であるため、それ以上の追撃はしなかった。


「それじゃあ、あとは任せたぞ。たぶん明日の昼前には起きるだろうが、体はだるく感じてるはずだ。だから明日1日は側に付き添ってやれ。それから、飯をしっかりと食べさせろ」


「分かりましたわ、ジンさん。何から何まで、ありがとうございました」


「おう、それじゃあな」


 やる事を済ませた迅は、〝これ以上は必要ないな″と悟り、いくつかの注意点を伝えてから生徒会室を出ていった。


「ほんとに規格外な人ね。サキエがこんなに消耗しているのに、あの人は汗ひとつかいてないなんて」


「そうですね、私自身もそれなりに強いと自負してますけど、会長でさえも余裕で上回る力を持っている訳ですから、少し自信を無くします」


「確かにそうね」


 迅との力の差が開き過ぎているのを分かってしまった2人はショックとまではいかなくとも、力の無い自分たちに対して少しばかり情けなく思ってしまった。

そんな中、ノエルが唐突にいい案を思いついたようだった。


「そうだ、彼に教わるのもいいかもしれないわよ。そうすればもしかしたら転移まで使えるようになって、サキエが帰ったあとも会えるようになるわ」


「確かに!でも……殿方に教わるのか……」


「あなたの男嫌いも筋金入りねぇ」


 ノエルの考えに速攻で乗りかけたミーナだったが、男に教わるという事に対しての拒絶反応が出たようで、一瞬で顔を曇らせていた。

その相変わらずさに、手を頭に当てながら呆れてしまったノエルであった。

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