ティアの葛藤
先月は連続投稿はありませんでしたが、2677pvと結構いい感じでした。
そのおかげで約8000pvまできたので、今月で1万pvを達成出来るように頑張っていきたいと思います。
いつも通りにギリギリの時間帯に登校した迅が教室に入ると、普段とは違う状況に気付いた。
(神崎たちがいないとは……誰かに呼び出されたか?)
しかし、迅は少し気にしただけで、〝まぁ、いっか″と思考放棄して自分の席へとついた。
眠くなる授業をうたた寝しながらこなし、お昼直前のAクラスとの合同授業の時間になった。
今までは和輝たちのために組まれていた授業なのだが、未だに和輝たちが戻ってこないので、AクラスがFクラスに教えるという状態になっていた。
ちなみに、和輝たちのクラスというのもあり、誰かを蔑んだりする者は誰1人としていなかった。
Aクラスである彼らは不満が無くなった訳ではないが、それでも勇者の、勇者を支援しているティアという王族に敵対しようとする愚か者はいないのであった。
今日はどうやってサボるかと迅が考えていると、ティアが歩み寄ってきた。
「こんにちは、ジンさん」
「おう、なんか用か?姫さん」
「カズキさんたちはまだ戻って来てないんですね」
「あぁ、見ての通りだ。その様子じゃ、あいつらがどこにいったのか知ってるみたいだな」
「えぇ、話は聞いていますから。……もしかして、ジンさんは心配していたのですか?」
そう言って、少しだけからかうような仕草を見せるティア。
対する迅はというと、呆れたようなため息をついていた。
「おいおい、俺がそんな心配性に見えるか?それに、姫さんから話が無かった時点で、大した事じゃないってのは簡単に予想がつくさ。あいつらがピクニックに行くっていうだけで、これでもかと心配していた姫さんが普通にしてるんだからよ」
「そ、そうですね……」
迅からの予想もしていなかった反撃を受けたティアは、赤くなりながらフイッと顔を逸らした。
その仕草がシルフィアと似ていたというのもあり、〝さすがは姉妹だな″と思い、クスリと笑う迅。
その迅の笑いを、〝更にからかわれた″と勘違いしたティアは、顔の赤みを増しながら迅に抗議した。
「も、もう!からかおうとした事は謝りますから、これ以上はやめてください!」
「悪い悪い、別に追撃した訳じゃ無かったんだが……」
苦笑いしながらティアを抑えようとする迅。
ティアも自分から仕掛けた事なので自業自得だと思い直し、ひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
そして、他の模擬戦などをしている生徒たちを見ながら、ポツリポツリと話し始めた。
「……カズキさんたちは今、7年前に召喚されたもう1人の勇者と話をしているんです」
「7年も前に召喚された奴がいたのか?」
「えぇ、彼女の名前はニシノ・サキエ、当時の彼女は11歳でした。だからこそ、その時のお父様も城の兵士たちも慌てふためいていました。だって、勇者様がこんな子供だなんて誰も予想できなかったのですから」
「だが、それは呼ばれたそいつが1番過酷だったろうな」
「えぇ、しかも呼ばれたのは4人もいたのです。なんとか会話をする事は出来たので、お母様やメイドたちが頑張ってくださいましたが、見知らぬ土地に連れて来られて、しかも帰れないという極限状態の子供の世話は大変だったと言っていましたわ」
「…………」
「必至に構い続けたこともあり、半年ほどたった頃には彼女たちも落ち着きました。そして、ちょうど1年たった頃に、最初に来た時の神託で定められた各学院に送られました。私も初等部1年で入れる年だったので、王城で1番優しく接してくれて、まるで自分の姉のようだったサキエさんと同じこの学院を選びました。学院に来てからもサキエさんは私の本当の姉のように振舞ってくれて、優しく撫でてくれたりして、とても幸せでしたわ」
そこまで話して、自分の手を胸に当てて大事なものを抱くような仕草をするティア。
「でも、ある時私は知ってしまったのです。サキエさんの本当の気持ちを……私とサキエさんは、当時の理事長の計らいで同じ部屋にしてもらっていました。そしてある日、夜寝ている時に物音がして起きた私は、その音がした小部屋を覗いたのです。するとそこには、必至に声を押し殺しながら泣き続けるサキエさんがいました。サキエさんは座りこみながら泣いていて、心配になった私は中に入ろうとしました。でも、サキエさんが呟いた一言で、私はその場から動けなくなりました。……サキエさんは、『帰りたい』と言っていたのです」
そこまで話したティアは、悲痛な顔をしながら自分の制服を握りしめた。
「当時の私は浅はかだったんです。サキエさんの優しさや温もりに甘えて、私の知らない世界の話ばかり聞かせてもらっていました。……でも、それこそがサキエさんを苦しめてしまっていたんです。その後に気付いた事でしたが、サキエさんはこの世界に来てから2年間、何日か置きに悪夢にうなされていたんです。そして、その度に起きては朝まで泣き続け、授業が始まる前にはいつも通りに振舞っていました。幸いにも、サキエさんがこの世界に来てから3年目になった時には、朝まで泣き続けることは無くなりました。でも、悪夢を見ることは続いていたようで、たまに夜中に起こされていました」
「……それは今もか?」
迅の問いかけに、力なく首を横に振るティア。
「私は4年目からはシルと相部屋になったのです。サキエさんは同じ年のノエルさんと相部屋となったので、今はどうなのかは分かりません」
「そうか……今の話で、姫さんが心配性な理由がよく分かったぜ」
迅のその言葉に顔を伏せてしまうティア。
「そうなんです。私は、自分が知らない間にサキエさんを傷付けてしまっていたんです。自分の姉のように慕っていながら、サキエさんの事は何も考えずに、私はサキエさんの心を傷付けてしまっていたんです」
声を震わせながら、まるで懺悔をするかのように語るティア。
「だからこそ、神崎たちには同じ目に合わないようにと、色々とフォローしてた訳か」
迅の言葉に頷くだけのティア。
「でも、7年前なんて姫さんだって小さかったんだ。そこら辺の気配りなんか出来るはずがない」
その迅の慰めに、ティアは安心するでもなく怒りが込み上げてきた。
その怒りによって歯を食いしばり、堪え切れない感情を迅へとぶつけた。
「そんな事なんか関係ありません!私は!……私は、たとえ物事の判断が出来ていなかったとしても、サキエさんを傷付けてしまった事に変わりはないんです……」
涙目になりながら、今まで抱えてきた自分への怒りを吐きだしていくティア。
「サキエさんの気持ちを思えば、それがどんなに辛い事なのかは分かります。まだ親に甘えたいはずなのに、家族と会えないという苦しさがあったのに!……それを……ただ知らなかった?そんなもの!許されるはずがないのです!」
ついにボロボロと涙を流し始めたティアを、まっすぐに見据える迅。
そんな迅へと顔を向けながら、迅が向けてくる眼差しを眩しく思いながら、ティアは自分の感情を吐きだし続ける。
「……だからこそ、私はサキエさんのために、カズキさんたちのために頑張らなきゃいけないのです。こんな私でも慕ってくださる皆さんに……こんな醜い私でも側にいられるように……またあの笑顔で……あの優しい温もりに包んでもらえるように……すいませんでした。こんな見苦しいところをお見せしてしまって」
「言いたい事は全部吐きだしたようだな?」
迅の問いかけに、涙を制服の袖で拭いながら頷くティア。
「じゃあ、俺の言いたい事なんだが、姫さんはもう少し自分の事を考えた方がいいぞ」
「……え?」
突然始まった迅の話に、思わず呆けてしまうティア。
「え、じゃねぇよ。姫さんが言いたい事を全部言ったんだから、俺だって言わせてもらうぞ」
「え?あ、はい……」
未だに呆けているティアをそのままに、今度は迅が次から次へと話していった。
「いいか、まずは自分の事をもっと大切にしろ。次に、こんな事は本人に直接言え。あと、経験に乏しい子供が上手く立ち回るなんて出来るはずねぇだろ。それに、そんな大変な事は大人の役目だ。しかも、そもそもはこの世界に連れてきた神が悪いだけだ」
一気にまくし立てるように話したために、ここで一息をつく迅。
その間のティアといえば、ずっと「え?え?」としか言えないほどにパンクしかけていた。
そんな状態にも関わらず、言いたい事を言っている途中の迅は、更に話を続けた。
「それから、そんな大事な話をこんな場所でするな」
「……あ!」
今更ながらに気付いたティアだったが、周りを見る前に迅の次の言葉に硬直してしまった。
「あと、この事は全部シルフィアに報告させてもらうからな」
「え⁉︎」
「え、じゃねぇよ。いい機会だからな、周りに頼る事を覚えてもらうぞ」
「そ、そんな、待ってください!シルには「あ〜あ〜あ〜、それから、今日中にサキエって奴と和解すること。出来なければこの学院はもちろん、各街のいたる所でこの話を言いふらしてやる」
「そ、そんな⁉︎」
ティアの制止も遮り、ティアにとってある意味最悪な宣告をする迅。
ティアはまた涙目になったが、これは明らかにさっきとは違う理由であることが伺える。
そんなティアに迅は笑みを浮かべながら、優しい声音で続きを話しはじめた。
「いいか、姫さん。今の姫さんは全てが自分のせいとしか思ってないように見えるぞ」
「っ!そ、そんな事は……でも、サキエさんを傷付けてしまったのは本当の事で……」
「本人に直接言われたか?」
「……いえ」
「じゃあ、姫さんと優しく接していたのは演技だと思うか?」
「違います!そんな事はあり得ません!」
迅の問いかけに、思いのほか強く反論したティア。
「じゃあ、それが答えだな」
「え?それはいったい……」
「サキエって奴は何も不幸ばかりで苦しんでいた訳じゃないってことだ。少なくとも、姫さんと接していた事で笑顔を見せていたんだからな。それは紛れもなく、姫さんという存在がサキエに安らぎを与えていた訳だ。だがな、今の姫さんはそれも否定しているようにしか見えない。仮にそれをサキエが聞いたらどう思う?自分の妹のように接していた相手を、その自分が原因で悩ませていたと知ったら。そしたら今度こそ、サキエの笑顔が戻ってこなくなるぞ」
迅の最後の言葉に顔色を悪くするティア。
「……ぁ……じゃ、じゃあどうすれば……」
「簡単さ、姫さんの気持ちを余すことなく伝えればいい。楽しかった事、嬉しかった事、それでいてサキエを傷付けたと後悔していた事を。そしたら心の底から甘えまくればいいんだ。それでも甘えたいって。シルフィアなんか、全力で甘えてるだろ?」
「……はい……」
「姉妹も家族も、親しい者はそういうもんだろ?甘えて甘やかされて、泣く時だって一緒に泣いて、楽しい事は誰かと共有して、それで誰かが笑っていればそれが嬉しくなる。そういう支え合いがあるからこそ、人は強く繋がれる」
「…………」
もうティアの涙は無くなっていた。
どうやらティアは、迅の言葉を自分の中で真剣に受けとめて考えているようだった。
「ここまで話せばもう分かるだろ?姫さんがサキエにしてきた事は、決してマイナスなんかじゃない。それどころか、姫さんがサキエの心の支えになっていたはずだ」
「あ……」
何かに気付いたようなそぶりを見せるティア。
「望んだようにやればいいんだ。誰だって幸せが1番に決まってる。姫さんが望むのは自分の寂しい人生か?」
「…………」
迅のその言葉には無言であったが、少し俯いているティアの顔は、どこか柔らかな雰囲気を感じさせる表情をしていた。
「さて、俺からの言いたい事は以上だ。ったく、こんな話はもっと人がいない時にしてくれよな」
「あ!」
二度目の指摘で今度こそ周りを見たティア。
しかし、周りには誰1人としてこちらを見ている者はいなかった。
「あれ?」
「薄い『魔力結界』を囲うように張っていたから声は漏れていないし、こっちを見ようとした奴には殺気をぶつけてた。だから姫さんの話は誰も聞いちゃいないし、泣いたところを見た奴もいないぞ」
「そ、そうでしたか、ありがとうございます」
顔を赤くさせながら礼を言うティア。
だが、どこかスッキリしたような表情をしていた。
「……さて、俺も真面目に模擬戦をするかな。サラレス、セイドラ」
やる事はやったと言わんばかりに、迅は『魔力結界』を霧散させて、サラレスとセイドラをそのままの状態で呼び出した。
迅の周りに火花と氷の結晶が舞い散り始め、次の瞬間には右手からは炎の渦が、左手からは氷の結晶が吹き荒れる。
そして、徐々に収束していき、最後には鮮やかなルビーの輝きを放つ剣と、透き通ったサファイアの輝きを持つ剣が握られていた。
「……ジンさん、まさかそれは……」
「俺の魂剣だ。この間の戦闘で発現したんだよ」
実際には違うが、めんどくさい事にならないようにそう説明する迅。
だが、普通だったら簡単に済んだのだろうが、サラレスとセイドラは和輝たちの剣よりも力を放っているために、教師も生徒も、更には勇者までもが強く反応してしまっていた。
「うおっ⁉︎ジン!何だよそれ!」
「これは……僕のゼヴォルスよりも強い力を感じるぞ!」
咲恵との話を終えた和輝たちがタイミング良く戻り、迅の持つサラレスとセイドラに興奮しまくりだった。
更には迅が少し前まで殺気をぶつけていたにも関わらず、和輝たちに便乗した生徒たちが詰め寄ってきていた。
「っ⁉︎ええいっ!寄るな!触るな!おい、姫さん!見てないで今こそ借りを返してくれ!」
「ごめんなさい、ジンさん。私にも出来ない事はありますので」
迅が和輝と剛、その他を躱しながらティアに助けを求めるが、無情にも顔を逸らすティア。
だが、顔を逸らしていても迅には分かってしまった。
ティアが肩を震わせながら笑いを堪えているのを。
「っ!あとで覚えておけよ、姫さん!」
まるでどっかのザコキャラのようなセリフを吐き捨てた迅は、周りを囲んでいる集団を跳び越えて逃げていった。
そして、今更ながらに正気に戻った教師が生徒たちをなだめ始めた。
しかし、その制止を聞かない生徒もおり、迅はしばらくの間、追いかけられることになった。
ひたすらに逃げ続けている迅を見ていたティアはその光景に可笑しくなりながら、自分の体が軽くなったような感覚を覚えていた。
(ふふっ、ありがとうございます、ジンさん。もう少しだけ、甘えながら生きてみます)
心の中で礼を言うティアは、いつもよりも美しく、それでいて可憐な笑顔を浮かべていた。
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