生徒会と勇者たち
ついに第2章、開幕です。
〈生徒会サイド〉
ゴールから手紙を受け取った会長たちは、その後2日ほどで学院へと帰ってきた。
すでに夜になってしまっていたので、3人は荷物を自分たちの部屋に置いてすぐに大浴場へと向かった。
大浴場の中に入ると、少し遅い時間だったというのもあり、3人以外は誰もいない状態だった。
そして、まともなお風呂が久しぶりだった3人は、念入りに体を洗っていた。
「会長!お背中お流しします!」
「そうか?じゃあ、お願いしようかな?」
赤髪の娘が少し興奮していたのだが、会長は髪を洗うために目を瞑っていたので気付かなかった。
(あらあら、この娘は本当に欲望に忠実ね)
そのやり取りを横目で見ていた白髪の娘は、ゆったりとした笑みを浮かべるだけで、止めようとはしなかった。
(はぁ、はぁ……か、会長の麗しい背中が、私の前に!ええいっ!動揺してる場合じゃないわ私!女は度胸よ!)
「どうしたんだミーナ?早くして「てぇぇーいっ!」きゃっ⁉︎」
ミーナという赤髪の娘の葛藤が長かったために会長は後ろを向き、その瞬間にミーナが勢いよく突っ込み、会長の豊かな胸に埋まりながら倒れてしまった。
「ちょ、ちょっと2人とも、大丈夫⁉︎」
「あいたたた……何をするんだミーナ」
「うぅ、すみません、会長」
変な角度でぶつかったというのもあり、微妙に絡まってしまっているミーナと会長。
「ほら、しっかりしてミーナ。サキエも」
「あぁ、ありがとう、ノエル」
「うぅ……ちょっとだけ惜しい気分、わきゃっ!」
「おっと!」
ノエルという白髪の娘に起こされたサキエとミーナだが、ミーナが欲望を垂らしながら立ち上がると、今度は足を滑らせてサキエの腕に抱きしめられる事になった。
「す、すいません、会長……」
「ははは、まったく、ミーナは本当におっちょこちょいだな」
(はわわぁ……私、今会長の腕に抱かれて、胸に……胸にぃぃ〜!)
まさに幸せ絶頂のミーナであった。
しかもサキエの話し方だと、どうやらこういうのは普段かららしいので、ミーナは天性のラッキースケベスキルの持ち主なのかもしれない。
「さて、じゃあ今度こそ背中を頼むよ」
「は、はい……」
まだ微妙にトリップ中のミーナであった。
そのミーナをしっかりと立たせたサキエ。
その時、それを横で見ていたノエルがある事に気付いた。
「っ!サキエ!ミサンガが!」
ノエルに指摘されたサキエは、すぐさま左手首のミサンガを見た。
するとそこには、青いミサンガだった物が、いつの間にか黄色いミサンガへと変わっていた。
それを見たサキエは、まさに驚天動地といった状態であった。
「色が……変わっている」
「汚れとかではないわよね?」
「あぁ、今朝見た時は確かに青いままだった」
「……じゃあ、いつ頃から?」
「……思い出せない」
肝心な事なのだが、どうしても思い出せないサキエ。
普段は制服の袖の中に隠れてしまうので、どうしても袖をまくらなければ見えないのだ。
「……服を脱いだ時は?」
「……久しぶりのお風呂で浮かれてました」
ノエルの問いかけに申し訳なさそうに答えるサキエ。
「で、でもこれで一歩前進ですよね?会長」
「そうね、今までは全く反応が無かったんだもの。きっとこの近くにヒントがあるってことよ」
「……あぁ、ようやく、前に進めた気がするよ……」
自分の目的が達成に近付いた事に、感激に震えるサキエ。
その顔には柔らかい笑みが浮かんでおり、それを見たノエルとミーナも、安心したからか笑みがこぼれた。
「じゃあ、明日中にやる事を済ませて、明後日には手掛かりを探しましょ?」
「あぁ、ありがとう、ノエル」
「もちろん私も手伝いますよ、会長!」
「ふふっ、ミーナもありがとう」
3人はそのあと仲良くお湯に浸かって、旅の疲れを癒していった。
〈2日後の朝〉
和輝たちがいつも通りに登校すると、正門の辺りで人だかりが出来ていた。
それを疑問に思いつつも正門へと近付いてみると、その人だかりの中心には3人の女の子が立っていた。
その3人は女の子の集団に詰め寄られており、その集団によって、正門を塞ぐような形になっていた。
「お帰りなさい、会長!」
「きゃー!会長!こっち見てー!」
「ノエル様ー!今日も麗しいですわー!」
「ミーナちゃんも可愛いわよー!」
「ちょっとみんな、少し落ち着くんだ!」
その中心の3人は、熱烈なファンである女の子たちに囲まれて困惑していた。
ちなみに、男のファンも存在するのだが、女の子たちの一致団結により、生徒会のメンバーに近付くのは困難な状況にされていた。
「へぇ、あの人が生徒会長なのか」
「みたいだな。それにしても、すげぇ人気だなぁ」
和輝と剛はそこらの一般人のような感想だった。
「……ねぇ、繭ちゃん。あの会長って呼ばれてる人、もしかして……」
「ん、たぶん私たちと同じだと思う」
「え?じゃあ、あの人が7年前に召喚された人なの?」
「そういえば、ティアさんからは他にも勇者がいるとしか聞いてませんでしたね」
鈍感や脳筋と違い、自分たちと同郷の人だということにしっかりと気付いた女性陣。
麗奈たちが話していると、ふと顔を上げたサキエが和輝たちを見つけ、互いに目が合った。
「すまない、少し道を開けてもらえるかな?」
その言葉と同時に、サキエの体から魔力が吹き上がった。
いきなり突風が吹いたかのような圧力を受け、顔を手で庇う女の子たち。
そして、サキエは魔力を放出したまま、和輝たちの方へと歩いていく。
魔力を放出したままなので女の子たちにも当たるが、絶妙な力加減でコントロールされているために、女の子たちはフワッと軽く押されたように一歩ずつ下がるだけであったので、ケガどころか倒れる人もいなかった。
そして、そのまま和輝たちの前まで歩いてきたサキエ。
「突然で申し訳ないが、君たち全員、生徒会室まで来てもらえないか?私のことも含めて、話したいことがあるんだ」
「え?僕たちにですか?」
「分かりました。ほら和輝くん、行きましょ?」
本当に突然の事に驚いている和輝は聞き返したが、麗奈が横から入ってすぐに返事を返した。
「あれ?麗奈はなんでそんなに乗り気なんだ?」
「いいからいいから」
妙に乗り気な麗奈が、困惑している和輝を強引に促していた。
「すまないな。じゃあ、私たちについて来てくれ」
そう話すと、サキエは生徒会室へと歩いていった。
その後ろを麗奈たち女性陣と、いまだに困惑している和輝と剛がついていく。
生徒会室へと着いた一行は中に入り、まるで書斎に置いてあるような、高級そうな机の前に立っているサキエたちと向き合った。
「さて、まずは自己紹介といこうか。私の名前は西野 咲恵、高等部3年の17歳で、7年前に召喚された勇者の1人だ。今はこの学院で生徒会長をやらせてもらっている。そして、私の横にいる2人が同じ生徒会のメンバーだ」
咲恵はそう言って、隣の2人に手を向けた。
そして、立場も学年も上であるノエルから自己紹介を始めた。
「初めまして勇者さま。私は生徒会副会長の、高等部3年、ノエル・レプラメントと申します。気軽にノエルと呼んでくださいませ」
ノエルの見た目や柔らかな口調は、まさにお姉様といった感じであった。
ノエルは自己紹介を終えると、一礼してから和輝たちへ優しい笑みを浮かべて見せた。
すると、ノエルの魅力にあてられた和輝と剛は、思わず赤面してたじろいでしまった。
「……和輝くん?」
「どうしたんですか?和輝お兄さん」
「ひっ!な、なんでもないよ!」
木原姉妹の冷たい声と殺気にあてられた和輝は、赤面させていたのを今度は青ざめさせていた。
ちなみに、隣の剛は別に殺気は受けなかったが、木原姉妹の完全に据わっている目にびびったために、和輝と同じように青ざめていた。
「……コホン、私は生徒会書記のミーナ・サグリム、高等部2年です。勇者さまに会えて光栄でございます」
ミーナの自己紹介はノエルと違い、完全にお務めのような形だけの挨拶であった。
光栄という言葉を使っておきながら、主に……というよりも完全に和輝と剛を冷めたような目つきで見ていたので、一礼はされたものの、普段は鈍感な和輝と剛でさえ察してしまったほどだ。
「はぁ……ミーナ、ちょっと失礼じゃないか?」
「申し訳ございません。ですが会長、私は自分の目で見て、私自身が認めた方でなければ形だけの挨拶でも充分だと思っています」
とりつく島もないミーナに、疲れたようなため息をつく咲恵。
「すまないな、ミーナは以前から男性に対しては距離を置きたがるんだ」
咲恵が苦笑いしながら弁解をする。
〝少し怒らせてしまったかな?″と咲恵が和輝と剛を見るが、2人とも特に気にしてはいないようだった。
「別に気にしていませんので大丈夫ですよ」
「男が嫌いってのなら他にもいるからな」
そう言って、2人は同じ人物を思い浮かべた。
そう、某お姫さまの妹ぎみであった。
最初の頃なんかはまるで仇敵を見るかのように睨みつけられていたので、ミーナの対応でも可愛く思えるというものだ。
2人の反応を見た咲恵は誰のことを言っているのか分かったが、特に深い話をしようとはせずに真剣な顔に切り替えて、本来の目的を進めることにした。
「君たちの心が広くて良かったよ。それで早速だが、君たちをここに呼んだのはさっきも言った私のことと、それから同じ勇者である君たちに聞きたいこともあったからだ」
「僕たちに聞きたいことですか?」
「ああ、そうだ。ちなみに、先生たちの方には話を通してある。だから授業の方は気にしなくても大丈夫だ」
「分かりました」
「じゃあ、少し長くなるからあっちのソファに座って話をしよう」
そう言って、和輝たちを部屋の壁ぎわのソファへ座らせて、紅茶とお茶菓子を用意して話す態勢に入った。
まずは和輝たちの自己紹介も済ませ、次に咲恵の7年間についてだったが、咲恵は特に深い事は話さずに、無難な学院生活を送っていたことと、神からの役目とやらはまだ告げられていないと話すだけに留めた。
「とまぁ、私自身の事はそんなところかな」
「じゃあ、先輩も僕たちが何をする必要があるのかは分からないんですね?」
「あぁ、なぜ私なのかという事もな……」
そう言って少し陰を落とす咲恵。
しかし、それは一瞬で元に戻したので、和輝たちが気付くことはなかった。
「それで、君たちに聞きたい事なんだが、君たちは転移系の能力を扱えたりはしないか?」
「転移系ですか?」
先ほどよりも真剣な表情をした咲恵が和輝たちへ問いかけた。
これが咲恵の本来の目的であり、7年間ずっと探し続けているものであった。
「ああ、そうだ。この世界でやるべき事が終わった時に必要になるかもしれないからな」
「え?でも、それは神様がなんとかしてくれるんじゃ……」
和輝たちは、自分たちの役目が終えたら神が戻してくれると無意識に信じていたのだ。
そして、自分たちが戦闘をするために呼ばれ、そう遠くないうちに何か強大な者と戦うことになるだろうと、それがここに呼ばれた理由なのだと納得しているのだ。
「いや、そうとも限らない。私はこの7年間、その神様とは一度も、会話をした事すらないんだ。加えて、この世界ではアイテム以外に転移する手段は無い。しかも呼ばれてから7年もこの状態が続いたんだ。ここまでくると、本当に帰してくれるのか確証が持てないんだ」
そもそも咲恵が元いた世界では、空想上の存在と言ってもいいほどなのだ。
祭り事などで祈ったりはするが、たとえその時小学生であったとしても、心底から神が存在すると信じていた訳ではないのだ。
そんな状態で見知らぬ土地で7年間も放置されていては、〝きっと″なんていう甘い考えは持てなかったのだ。
「う〜ん……でも、わざわざ呼んだんだから、それくらいはやってくれるんじゃ……神様だし」
「……そうか、君たちがそういう考えということは、転移系の能力を扱える者はいないのか」
「はい、僕たちは誰も使えないんです」
和輝たちの反応を見て、落胆を隠しきれない咲恵。
「言われてみりゃそうだよなぁ。何気にこの世界を楽しんでたから、考えた事すら無かったぜ」
「……剛さん……」
剛のあまりの単純思考に、つい可哀想な目で見てしまう柑奈。
「ねぇ、繭はこういうのって分からないの?」
「ん、神様も転移に関することも作品によって違う。そもそもが架空の物語だから正しいとは限らない」
凛がもしかしたらという思いで繭に問いかけるが、返ってきたのは意外にも真面目でシビアな答えだった。
「繭は似たような話を知っているのか?」
凛と繭のやりとりを聞いていた咲恵が、思わずといった感じで繭に問いかけた。
「ん、異世界に転生、または転移するというのを題材にしているアニメを知っているだけ。だから実話を知ってる訳じゃない」
「それでも構わない。繭の知っているものだと最終的にどうなるのかを教えてほしい」
繭の知ってる話は確かに実話ではない。
だが、それでも異世界に転移するという話ではあるのだ、今の咲恵たちのように。
ならばたとえ架空の物語であっても、自分では想像できない可能性を知る事が出来るのだ。
だからこそ、咲恵は未来に対処できるように、〝それでも″と話を聞きたかったのだ。
「う〜ん……戦うことが前提で呼ばれた時だと、私たちがラスボスと戦うことになる。大半はそれが終わってからじゃないと帰るための手段が確立されない」
「なるほど……そのラスボスというのはどんなパターンが多いんだ?」
「基本的には『魔王』がダントツで多い。だけどそれ以外にも他国を相手にしたり、魔物の王様を倒すものもある」
繭から詳しい話を聞いた咲恵は、手をあごに当てて少し考え込む。
「ふむ……今回は『魔王』という線は無さそうだ。この世界にも魔族はいるらしいが、国同士で争っていた時も接点は無かったみたいだからな」
「それならだいぶ絞り込める。私はこの間の金髪が怪しいと思う」
「あっ!確かにそうだ!あいつは敵だからこそ僕たちを襲ってきたんだ!」
和輝にとっては苦汁を舐めさせられた相手なので、繭から金髪の男、カジットの話が出た途端に強く反応した。
「でも、その人はジンさんが倒したってシルフィアちゃんが言ってましたよ」
「そうなのか⁉︎」
柑奈から告げられたまさかの事実に、知らなかったこともあり驚愕を隠せない和輝。
「でも、チャーリーが言っていた。『それは私の上司ですね』と。たぶんだけど、彼らは組織で動いているはず、それなら金髪の他に複数いてもおかしくない」
「さらにはそのトップがラスボスかもしれないという訳か……それで、そのジンさんというのはいったい誰なんだ?」
「一応僕たちと同じクラスなんですけど、実力は僕たちよりも上なんですよ」
他にも迅がボアを吹き飛ばした事などを話すと、咲恵はどこか確信したというように頷いていた。
「勇者の力を超える者か……じゃあ、そのジンくんというのは『覚醒者』かもしれないな」
「『覚醒者』ですか?」
「ああ、そうだ。この世界には私たち勇者よりも強い者がいるんだ。そういう者を総じて『覚醒者』という。この【西セントレア】も含めた各街には、最低1人はいると言われているんだ。ただ、その『覚醒者』が名乗り出ている訳ではないから、噂といった状態だがな」
「噂ならなんで確信を持てるんですか?」
話し終えた咲恵に、当然の疑問をぶつける和輝。
「簡単な話さ、その『覚醒者』の1人が【王都】の騎士団総隊長を務めているからな。私も手合わせをしてもらったし、実戦を見せてくれたりもした。あれを見た瞬間に『覚醒者』という言葉に納得したよ。あの強さは私たちの比じゃないぐらいに反則だった」
そうしみじみと語る咲恵は、苦笑いをしながら肩をすくめていた。
「さて、だいぶ話が逸れてしまったが、私の話したかった事は以上だ。ここまで長々とすまなかったな。それと、この学院で困った事があったら私に言ってくれ、何でもとはいかないが多少の事ならば力になれるはずだ」
「いえ、こちらこそ有意義な話ができました」
和輝たちは最後にお礼をすると、生徒会室から退室していった。
そして、今までずっと聞き手に回っていたノエルとミーナが、ずっと気になっていた事を口にした。
「それで、ミサンガはどうなの?サキエ」
ノエルの言葉を受けた咲恵は、袖を捲って見せた。
そこには黄色いままのミサンガがあるだけであった。
「彼らではなかったようだな……」
そう言って袖を直しつつ、落ちこんでしまう咲恵。
そんな状態の咲恵を見たノエルとミーナが、協力して励ましにかかる。
「元気出してください、会長!」
「そうよ、別に道が閉ざされた訳じゃないんだから」
「うん、分かってる。2人の言う通りだ」
2人の励ましに少し気力をとり戻す咲恵。
「それなら!早いとこ次の行動に移しましょう!」
「え?」
ミーナの突然の提案に、口を開けたままの咲恵。
そこに、ノエルがさらなる追撃を入れた。
「何を呆けているのよ。次は彼らの言っていた『覚醒者』に会いに行くのよ」
そう、勇者で違うなら『覚醒者』がいるじゃない、つまりはそういうことであった。
「……そうだな。私がいなかった間に変わった所は行ってみるべきだな。よし!じゃあ、ジンくんの授業を調べて、彼に接触するとしようか」
そうと決まれば行動あるのみと言わんばかりに、咲恵は生徒会室を飛び出していった。
少しとはいえ、咲恵が元気になったのを見たノエルとミーナは、互いに顔を見合わせて微笑み合うと、咲恵の後を追いかけていった。
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