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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
学院編
22/77

勇者たちの戦い

和輝たちメインです。

 〈訓練場〉


「『響き轟け雷光よ、その威光をもって、天地を穿つ一撃となれ、サンダーボルト』!」


 和輝の上級魔法が放たれ、サイクロプスへと直撃する。


 ズガァァァン!


 凄まじい威力を誇るそれは、激しい衝突音を響かせる。


「ハハハハハッ!無駄ですよ」


 チャーリーのその言葉通りに、せめぎ合いをしていた和輝の『サンダーボルト』はサイクロプスに吸収され尽くしてしまった。


「くっ!何なんだあれは⁉︎」


「どうしよう⁉︎もう全部の属性を試したけど、どれもこれも吸収されちゃうよ!」


「おまけに俺の拳も効かなくなってきたぜ。下手すりゃこっちの拳が砕けそうだ」


「ん、攻撃も徐々に強くなってきてる。もう簡易版じゃ防げないし、精神力も魔力も消耗がハンパじゃない」


 それぞれが相手の分析した力を伝え合うが、どれもこれもが絶望へと近付いている気しかしてこなかった。


「そうですか!やはり私の成果は無駄ではなかった!あなた達のおかげでそれが証明できた!」


 和輝たちの言葉を聞いたチャーリーは、まるで長年の夢を実現したかのような歓喜に包まれていた。

自分を見放してはいなかった神に感謝をしながら、声高だかに喜びを口にするチャーリー。

そして、胸に手を当てて心の中でもう一度神に感謝をしてから、和輝たちへと宣言する。


「あなた達には感謝していますよ。そのお礼に、この神の器の供物にして差し上げましょう」


「ふざけるな!僕たちはお前なんかには負けない!」


 チャーリーの言葉をバッサリと吐き捨てる和輝だが、内心では歯噛みしていた。

もうほとんど打つ手がないのだ。

和輝の切り札だって通じるのかは分からないし、それが失敗すれば相手を更に強化させてしまうのだ。

そんな事になれば、もう完全に手を付けられなくなってしまう。

そんな状態では、和輝には踏ん切りを付けることはできなかった。


「……みんな聞いて、もしかしたらだけど、あれを突破出来るかもしれない」


「本当かい⁉︎」


「どんな方法なの?繭ちゃん」


 唐突に切りだした繭の話に、〝もしかしたら″という希望を見いだす和輝たち。


「おや?何か思い付いたのですか?いいでしょう、満足するまで作戦を練って下さい。あなた達にまだ何かあるというのなら、それを全て、この神の器で喰らってみせますよ」


 勇者すら圧倒しているという余裕からか、〝自分はいつまでも待ちますよ″というチャーリー。


「あの野郎、舐めやがって!」


「待つんだ、剛!相手が勝手に油断してくれるんだ。それならここで完璧な作戦を練って、それをあいつにぶつけて目にものを見せてやればいい」


 興奮しかけた剛を抑える和輝。


「……そうだな。それで、どんな作戦なんだ?」


「ん、たぶんだけど、あれの能力は私の『黒繭』と同じなんだと思う。だからこそ、あれが吸収しきれないほどの威力をぶつければ壊せるはずだと思う」


「でもその威力ってどうするの?私たちの能力や魔法も効かなかったけど」


 繭の提案に当然の疑問を返す凛。


「ん、さっきはひとつずつぶつけただけ。ひとつでダメならまとめてぶつければいい。作戦はこう、まず剛くんに目くらましをしてもらって、そこに全員の魔法や能力をぶつけてあの虹色の膜を壊す。そうすればあいつは力の吸収ができなくなるはず」


「なるほど!よしっ!それでやってやろうぜ!」


 繭の作戦に乗った和輝たちは、気合いを入れながら動こうとする。


「待って、和輝くんにはもう一つやってもらいたい事があるの」


「え?それはいったい……」


 解散する前に、和輝にもう一つの策を伝える繭。


 作戦を練り終わった和輝たちは、サイクロプスへと向き合った。


「ようやく終わりましたか。せっかくここまで待ってあげたんですから、もちろん良いものを見せてくれるんですよね?」


 完全に上から目線で話してくるチャーリー。


「そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだぜ!くらえやオラァッ!」


 まずは剛が突っ込んでチャーリーの気を引いていき、その間に他のメンバーが呪文を唱えていく。


「まさか、1人の特攻が作戦のはずはありませんよね?」


 チャーリーは剛の猛攻をいなしながら、チラリと和輝たちへ視線を向ける。


「よそ見してんじゃねぇよ!」


 バキッ!


「なっ⁉︎」


 なんの音かと目を向けると、剛の拳が、チャーリーが入り込んでいるクリスタルにヒビを入れていた。


「バカなっ!『パーフェクト・エンチャント』は破られていないのに、いったい何故⁉︎」


 チャーリーが動揺しているのを見ている剛の拳からは血が垂れており、かなりボロボロになっていた。

しかし、拳に激痛が走っているはずの剛は、痛みで顔が引き攣りながらも、ニヤリと笑っていた。


(ようやく分かったぜ。こいつの能力が!)


 完全に確信した剛は、砕けているのもお構い無しに拳をサイクロプスへと撃ちつけていく。

すると、ボディはすぐに治されてしまうが、クリスタルに関しては確実にヒビが付いていった。


 剛の魂剣である『メタルギア』の能力は、衝撃波ではなかったのだ。

衝撃波とは何が元になっているのか、それは振動である。

振動とは音がそうであるように、空気中や水中であっても伝わっていくものである。

今まではそこの細かい部分に気付けなかったために、衝撃波と勘違いしていたのだ。

しかし、それが振動を操れるのならば話は変わってくるのだ。

力をそのまま伝えるのだから、相手の防御など無いに等しいものである。

だからこそサイクロプスの膜は壊せないものの、威力だけはその内側に伝える事ができたのだ。


「くっ!いい加減にしなさい!」


「ぐあっ!」


 少しばかり焦ったチャーリーはサイクロプスの腕を振り回し、それを強引に当てることで剛を吹き飛ばした。

もろに食らった剛は痛みで動けなくなったものの、稼いだ時間は充分であった。


「『サンダーボルト』!」


「『イグニッション・レイ』!」


「『黒槍』!」


「『ゲイル・ストリーム』!」


「『アース・バインド』!」


 和輝たち全員から魔法や能力が放たれた。

剛に対して意識を向けていたチャーリーは柑奈の地魔法で縛られてしまい、和輝たちの魔法や能力が直撃する事になった。


「し、しまった⁉︎」


 ズドォォォン!


 それぞれが凄まじい威力を誇る攻撃をくらい、かなりの衝撃がサイクロプスを襲う。

しかし、さすがと言うべきか、和輝たちの放った魔法は完全に直撃しているのだが、サイクロプスの膜は耐えていた。


「……は、ははっ!流石に無理かと思いましたが、やはり神の器は完全無欠だ!」


 そして、少しずつ魔法や能力を吸収していき、ほぼ完全に呑み込みかけていた。


「残念でしたね勇者たち。これであとはあなた達を「『黄光雷刃(おうこうらいじん)』!」なっ⁉︎」


 何が起きたのか、それは和輝たちの魔法や能力が完全に呑み込まれた瞬間であった。

サイクロプスに攻撃が直撃して拮抗している間に、和輝は魔力と精神力を混ぜ合わせた特大の一撃を準備していたのだ。

これが繭に頼まれたもう一つであり、これこそが真の狙いであった。

吸収した力を利用するその瞬間ならば、確実に(ほころ)びが出るはずだと。


「うぉぉおおおおおっ!」


 ビキッ!ビキッ!ビキキッ!


 そして遂に『パーフェクト・エンチャント』にヒビが走っていく。


(このままではまずいっ!)


 チャーリーは咄嗟に和輝を弾くために腕を動かそうとするが、頼もしい仲間たちが動いたのが先であった。


「『アース・バインド』!」


「『黒縄』!」


「『エアロ・プリズン』!」


「『シャイニー・ロザリオ』!」


 様々な属性による強固な捕縛魔法や能力であった。

完全に動きを封じられたサイクロプスは、ただ和輝の攻撃を受け続けるだけであった。


「「「「「いっけえぇぇぇっ!」」」」」


「ぉぉおおおあああぁっっ!」


 仲間の声に後押しされた和輝は、心なしか威力を増したゼヴォルスを振りきらんとする。


 ビキビキビキビキッ!


「や、やめろぉぉぉぉっっ!」


 遂にヒビが半分以上走り、あと少しという所まで迫っていた。

しかし、もう少しの所でヒビが少しずつ治り始めた。


「ぐっ!」


「……くふっ、ふふっ、ふ〜ふふふはははは〜!驚いた!本当に驚いた!あと少しで私は確かに死んでいた!…………ふざけるなよ?ガキども」


 まるで狂ったかのような笑い声を上げたチャーリーは、急に雰囲気を一変させた。

そして、和輝の『黄光雷刃』も、麗奈たちの捕縛魔法も完全に吸収しきったサイクロプスは『パーフェクト・エンチャント』を治しながら、まだ空中で斬りかかりの体勢でいた和輝を殴り飛ばした。


「ぐふっ!」


 ズドーンッ!


「ガハッ!」


 殴られた和輝は訓練場の壁まで飛ばされてしまい、壁に大きなクレーターを作るほどの威力で衝突した。

和輝はあまりの威力に、吐血しながら崩れ落ちていった。


「そ、そんな……」


 まさに形勢逆転としか言いようがなかった。


「まだ絶望するには足りないだろう?次は姉妹か?それとも親友か?選べよ、どっちでも容易(たやす)く引き裂いてやろう」


 どうやら死にかけた事によって完全に壊れてしまったチャーリーは、先ほどまでとは全く違う口調で、麗奈たちを精神的にも追い詰めていく。

対する麗奈たちは何もできはしない。

最後の捕縛魔法で力をほとんど使いきってしまったために、戦う事はおろか、この場から逃げる事が出来るかも分からない。


「なら、まずは姉妹から引き裂いてやろう」


 痺れを切らしたチャーリーは、サイクロプスの拳を柑奈へと向けた。

そして、その拳を振り抜いた。

柑奈は避けようとするものの、全てを使い尽くした疲労のせいでまともに動くことができなかった。


「『光の加護を我が身に、ライトシール』!」


「お姉ちゃん⁉︎」


 柑奈に拳がぶつかる前に、麗奈が間に合った。

麗奈は自分に光の初級防御魔法を使い、柑奈を庇うように抱き締めた。


「うぐぅっ!」


 サイクロプスの拳が直撃し、あっさりと吹き飛ばされる麗奈と柑奈。

(なぶ)るためなのか、さっきの和輝の時のような力は込められていなかったが、それでも数メートルは飛ばされてしまった2人。


「次は親友だな」


「う……あぁ……」


 チャーリーは木原姉妹から繭と凛に目を向けた。

狙いを付けられた2人は、凛は既に恐怖で動けずにいたが、繭はまだ諦めておらず、必死に考えを巡らせていた。


「お前の作戦が私をここまで追い詰めたのだ。ならば、絶望はお前に与えるべきだ」


 そう告げたチャーリーは、サイクロプスの左手を凛へと向けた。

そして、その手で掴もうとしたところで―――


「ダメッ!」


 繭が凛を押しのけた。

代わりに繭がサイクロプスの手に捕まってしまい、チャーリーが入っているクリスタルの前まで持ち上げられる。

繭は気高に睨みつけるが、目の端には涙が溜まっていた。


「まぁいい、お前を先に始末するだけだ」


 繭にそれだけを告げると、今度はサイクロプスの頭の上へと持ち上げられた。

そして、サイクロプスの顔が上を向き、口を大きく開かれた。


 その場にいた誰もが息を呑んだ。

繭を、人を食べようというのだ。

しかし、誰もが何もできない。


 全身ボロボロで体に力が入らない和輝は、倒れたままでサイクロプスに捕まった繭を見ていた。


(また、こうなるのか……勇者としてこの世界に呼ばれたのに……僕はまた、こうするしかないのか……)


 わざわざ高い所から徐々に降ろされていくサイクロプスの手。

このままだと繭は足から食べられてしまうだろう。

それを想像してしまい、和輝の胸に言葉にならない痛みが走る。


(いいのか?本当に……仲間があんな目に合うなんて……認めてしまうというのか?……いい訳がない!そんなものを!認めていいはずがない!)


 和輝の胸の痛みが(ひと)つの起爆剤となり、無理矢理にでも体を動かそうともがき始めた。


 あと5メートル。


(ならばやるべき事はひとつだ……今の僕で勝てないというのなら、今の僕では覚悟が足りないというのならば……)


 よろけながらも立ち上がり、怒りを灯した目をサイクロプスへと向ける和輝。


 あと3メートル。


(僕の全てを掛けて!今の自分に打ち勝つしかない!)


 極限状態からの果てなき覚悟が、和輝の心の底から応えようとしていた。


 あと1メートル。


「これで終わりだ」


 チャーリーがそう呟き、繭を食い殺そうと―――


「さ、せ、る、かあああぁぁぁっっっ!」


 繭が食べられるというその瞬間に、和輝の怒りが爆発した。


 ズガァァァン!


 和輝の方からとてつもない音が鳴り響き、繭を掴んでいた手を止めるチャーリー。

そして、その音がした和輝の方を向くとそこには、白から黄色、黄色から青色へと変化していく光の柱が和輝から立ち昇っていた。

さらには、和輝の周りに()()電流がバチバチと走っていた。


「な、なんだあれは⁉︎」


 見た事もない事態に目を見開くチャーリー。

するとそこへ―――


「今です!2人とも!」


「「『魔力刃』!」」


 戻ってきたシルフィアの指示によって、互いの能力で隠れていたイリスとエリスが飛びだし、繭を掴んでいる腕に2人の『魔力刃』が放たれた。

つい最近に習得したばかりの『魔力刃』には、2人が魔力切れを起こす一歩手前までの力が圧縮されており、斬れ味どころの話じゃない強刃になっていた。

しかし、それでもサイクロプスの膜を斬るには威力が足りないのを分かっていた2人は、『魔力刃』を重ねるように斬りつけた。

まずはイリスの『魔力刃』が膜に斬り込みを入れて、そこに上から重ねるようにエリスが『魔力刃』を叩きつけた。

すると、斬る事に特化している『魔力刃』は完全に膜を斬り裂き、サイクロプスの腕を両断していった。

そして、腕から解放されて落ちていく繭を、イリス、エリスが回収して避難していった。


「なにっ⁉︎」


「『ヒーリングヴェール』!」


 チャーリーが驚いている間に、ティアは射程の問題で届かない和輝以外の全員を回復させる。

イリスとエリスは、ベンたち護衛と協力して次々と麗奈たちを運んで避難させていき、残るは左腕を切断されたサイクロプスと和輝のみであった。


「ありがとうティア、みんな。……チャーリー!お前は僕が倒す!これで終わらせる!」


 立ち昇っていた青色に変化した力をゼヴォルスへと集める和輝。

その青い雷を纏わせたゼヴォルスは、その力に呼応するかのように力を増幅させていき、青光の長大剣が完成した。

対するチャーリーは和輝の相手を優先し、サイクロプスの左腕を修復しながら、右の拳を構えさせた。

そしてその拳には、サイクロプスの体全体を覆っていた虹色の光が収束していった。


「やれるものならやってみろクソガキ!今更お前が何かしたところで、この神の力に叶うはずがない!」


 互いに真っ向勝負。

2人はどんどん力を溜めていき、ついにその時がきた。


「喰らえ!『パーフェクト・ブレイク』!」


「『青光雷刃(せいこうらいじん)』!」


 ズガァァァン!


 両者の力がぶつかり合い、激しい衝撃を撒き散らす。

そのまま続くかと思われたが、そんなに長く拮抗する事はなく、サイクロプスの虹色の膜がひび割れ始めた。


「ぉぉおおおおおっ!」


 和輝はそのまま更に押し込んだ。

すると、ついに和輝のゼヴォルスはサイクロプスの拳を、虹色の膜ごと真っ二つに叩き斬った。

そして、もう一度上段に構えて、今度はサイクロプスの頭へと振りおろした。


 ズガァァァン!


 特大の雷が落ちたような音を鳴り響かせながら、サイクロプスを一刀両断にした和輝。


「……まさか、神の力が……こんな、ところで……」


 最後にそんな事を呟いたチャーリーはクリスタルごとぱっくりと割れてしまい、サイクロプスと共に絶命していった。


「はぁ、はぁ、はぁ、勝った!……はぁ」


 体はボロボロで出血もそれなりにしているという、そんな限界まで来てから更に力を使った和輝は、自分が勝てたという事に安堵しながら、意識を落として倒れていった。

次回はいよいよ迅のバトルです。

果たして、神のしもべとの一戦はいかに⁉︎


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