狂信者
騒然としている訓練場に、迅とイリス、エリスの双子、ティアとシルフィアの王女姉妹、和輝たち勇者組、ティアとシルフィアの護衛6名、それと数名の生徒がサイクロプスのようなものを取り囲んでいた。
「これはこれはティア王女殿下、まさかこんな良き日にあなた様に出迎えられるとは。これも神のお導きですかね」
「チャーリー先生、あなたはいったい何をしているのですか?それは何なのですか?」
少しばかり悦に浸っているチャーリーは大仰な言い方をしながら一礼してくるが、ティアは厳しい目つきで問いかけた。
「これですか?そうですね……これはさしずめ、神の器といったところですね」
「……神の器ですか?」
チャーリーの突飛的な話に、聞き返すことしかできないティア。
「えぇ、えぇそうですとも。ついに完成したのですよ!我が神のための器が!」
「それで、その器とやらをいったいどうするつもりなのですか?」
「フフフフ……お教えしましょう、ティア殿下。まずはそこの勇者たちで性能チェックをさせてもらいたいのですよ。そして!勇者にも勝てる事を証明した暁には!私ごとこの器にご降臨していただき!この世界の全てに対して力を示していただくのです!」
会話しているうちに興奮していったチャーリーは、手を広げて天を仰いだり、両手を顔に当てて体をくねらせたりしていた。
ちなみに本人はクリスタルの中で動いているのだが、その思考や行動をサイクロプスに連動させているようなので、サイクロプス自体も同じ動きをしているためにかなり気持ち悪いことになっていた。
「さてと、お喋りはこれぐらいにして、やるべき事をしますか」
「チャーリー先生、あなたは神が本当にそれを望んでいると思っているのですか?力を示す?そんなものはただの暴力としか言えませんよ」
かなり強力な力を持ったサイクロプスに嫌な予感を感じているティアは、考えを改めさせるためにチャーリーを説得しようとする。
「あなた如きが神を語らないでいただきたいですね。私は神のしもべなのですよ?神のためにならない事を私がするはずないでしょう?」
「神のしもべ?……まさか、ではあなたがカズキさんたちを襲ったのですか⁉︎」
「何の話ですか?そんな事はしていませんが……あぁ、それは私の上司の方ですね。あの方に神の力を見せてもらったからこそ、私はこうしてここにいるのですよ。おっと、いい加減喋り過ぎでしたね。では覚悟して下さい。あなた達はこれから、神に等しい物と戦うのですから」
そう言って、サイクロプスを一歩前進させるチャーリー。
ティアは〝ダメだったか″と歯噛みしつつも、すぐさま頭を回転させてやるべき事を指示する。
「この場にいる生徒は全員避難して下さい!ベンたちはこの場で時間を稼いで下さい!カズキさんたちは急いで冒険者ギルドに協力を仰いで下さい!」
ベンたちとは護衛6名の事なのだが、ティアは王族として守るべき国民の命を優先したのだ。
「待ってくれティア!僕たちも残って戦うよ!」
「カズキさん……あの怪物はとてつもない力を秘めているのですよ。そこまで分かっているのに、あなた達を危険な目に合わせる訳にはいきませんわ」
「だけど!」
強い口調で反論する和輝に対し、静かな口調でたしなめるティア。
「ぐあっ⁉︎」
「ティア殿下!速くお逃げ下さい!我らではそう長くは保ちません!」
ティアたちが話している間にサイクロプスへと突撃していったベンたちは、予想以上の強さにかなりの苦戦を強いられていた。
すでに1人は倒され、もう1人もただ1発殴られただけで片腕を折られていた。
「王女様は別にどうでもいいのですが、勇者たちに逃げられる訳にはいきませんよ」
そう呟いたチャーリーは、ひと足で護衛たちを置き去りにして和輝へと突っ込んでいった。
狙われた和輝はすぐに迎撃態勢に入った。
「『黒繭』!」
サイクロプスが和輝を殴ろうとする直前に、その掛け声とともに、和輝とティアを囲む『黒繭』が出現した。
ズゥゥゥン!
重いものが食い込んだような音を立てながら、サイクロプスの拳と繭の『黒繭』が衝突した。
最初はサイクロプスの拳の勢いに押されていたものの、徐々に押し戻していく『黒繭』。
「オラァッ!」
ズガンッ!
サイクロプスが『黒繭』に集中している間に、両手両足に魂剣を纏った剛がサイクロプスの胴へと拳を撃ちこんだ。
格段にパワーアップしているそれを受けたサイクロプスは、あまりの威力に体が持ち上げられてしまい、数メートルほど後ろに飛ばされた。
「マユさん!ツヨシさん!」
「ん、簡易版の『黒繭』でもあいつの攻撃は防げる」
「俺の拳も役に立つぜ!」
「回復と魔法は私たちに任せて!」
「お姉ちゃんと一緒に和輝お兄さんたちをサポートします!」
「もちろん私も手伝うよ!」
「みんな……」
いつの間にか和輝とティアの周りには、麗奈たち勇者組が集まっていた。
「よし!やるぞ、みんな!」
和輝の掛け声に勢いよく返事をする麗奈たち。
しかし、王族として、1人の友人としても危険な目に合わせたくないティアは、和輝たちを止めようとする。
「ダメです、皆さん!皆さんを危険な目に合わせる訳には……」
「もう観念してあいつらに任せろよ、姫さん」
「ジンさん……」
「そうですわ、お姉様。それに、あの化け物を相手にあそこまで押し返したんですのよ?彼らに任せれば大丈夫ですわ」
「シルまで……」
今度はティアが止められる番であった。
しかし、迅とシルフィアに説得されてもまだ納得まではいかないようだった。
「それよりも、あそこで固まっちまってる奴らをどうにかするべきだろ」
ダメ押しとばかりにそう言う迅の視線の先には、恐怖からなのか動けないままでいる生徒たちがいた。
それを見たティアは自分の考えを捨てて、和輝たちと一緒にこの事態を乗り切る決意をした。
「……分かりました。ジンさん、シル。2人には私と一緒にあの生徒たちを守ってもらいます」
「了解ですわ、お姉様!」
「はいよ」
「ベンたちも、ここはカズキさんたちに任せて生徒の保護をお願いします!」
「はっ!了解しました!」
そうと決まれば行動あるのみと言わんばかりに、イリスとエリスも含めたメンバーで固まっている生徒たちの元へと向かう。
一方の和輝たちは、順調にサイクロプスを押していた。
「さすがは勇者、なかなかやりますねぇ。ならば、丁度いいギャラリーもいることですし、あなた達の力をもっと見せて下さい」
押されているのに全く慌てた様子がないチャーリーは、標的を固まっている生徒たちへと向けた。
「させない!『ウォール・オブ・ウィンド』!」
チャーリーが何かをするよりも先に、凛が風のドーム壁を作り上げた。
だが、チャーリーはそんな事は関係ないと言わんばかりにサイクロプスを振りかぶらせて、20メートルは離れている生徒たちへと狙いを定めた。
「ォォオオオアアァァッ!」
そんな雄叫びとともに繰り出されるサイクロプスの拳。
和輝たちは一瞬何をやっているのかと思ったが、次の瞬間には目を見開くことになった。
なんと、サイクロプスの腕が伸びたのだ。
その伸びた腕は凛の風の壁へと直撃し、激しいぶつかり合いをしだす。
ガガッ!ガッ!ガガッ!
「うっ!けっこう、重いぃ〜!」
凛は必死に踏ん張りながら、風の壁を破壊されないように力を足していった。
「やはり素晴らしいですね、勇者というものは。では、これならどうです?『フレア』」
チャーリーが呟いたのはただの魔法名。
階級としてはギリギリ中級という付与魔法だが、それを魔法名だけを唱えた。
すると、サイクロプスの腹の刻印が発光し、風の壁に衝突していたサイクロプスの腕が燃え上がった。
「うそっ⁉︎」
バリンッ!
凛が驚いたのもつかの間、風の壁は一気に破壊されてしまった。
それでも、サイクロプスの腕を包んでいた炎は相殺する事ができていた。
しかし、勇者が作り上げた壁を追い詰めるほどの拳は、固まっている生徒の命を奪うには充分なはずである。
「ダメーーーッ!」
凛が切羽詰まったように叫ぶが、サイクロプスの拳は無情にも生徒へと向かい―――
ズドォォン!
直撃した―――迅の拳に!
「間一髪だな」
「ジンくん!」
迅は凛の壁が破壊された瞬間に加速し、一瞬で生徒と拳の間に入っていたのだ。
「おかしいですね、なぜ身体強化もしていないのに私の攻撃を防げるのです?」
「別に何もおかしくはねぇだろ?人の能力が千差万別であるように、身体強化だって方法はひとつじゃねぇってことだ」
べつにチャーリーの問いに答える必要はないのだが、丁度いいと考えた迅はそんなデタラメを説明していた。
(わざわざ魔力を纏ったりして偽装するのはめんどくせぇからな。今後はこれで誤魔化せるだろ)
すべてはただめんどくさいから、それだけであった。
「ならば、『ロック』」
チャーリーがまた別の魔法名を呟くと、また刻印が発光した。
すると、今度は腕が岩に覆われていき、それに比例するように拳の質量と威力が上がっていった。
どうやら腹の刻印のおかげで、詠唱を省略出来ているようだった。
「それがどうした?」
対する迅は、それに合わせて力を出していくだけであった。
その迅の圧倒的な膂力の前に、サイクロプスの拳は少しも押し込むことが出来ていなかった。
しかも、未だに涼しい顔をしているので、迅の力の限界はまだ先にあるようだった。
「ちっ!ならば仕方ありませんね」
チャーリーはそれならばと魔法を解き、サイクロプスの腕を粘土のように柔らかく変形させた。
「うぉっ⁉︎」
まさか柔らかくなるとは思っていなかった迅は、急に圧力が無くなったために態勢を崩してしまい、そのままサイクロプスの腕に捕まってしまった。
そして、捕まえたチャーリーはというと、サイクロプスの腕を振り回して、空高くに迅を放り投げた。
(ただ投げるだけだと?それなら叩きつける方が……いや、そういう事か)
なぜ投げるだけなのか疑問に思った迅だが、落下地点を見た瞬間に理解した。
落下地点にはサイクロプスが出てきた穴があったのだ。
恐らくは穴の下に落とすのが目的だったのだろう。
「これはこれで丁度いいかもな……イリス!エリス!お前らは姫さんたちを送ったら神崎たちのサポートに入れ!俺のことは気にすんな!」
「そ、そんな⁉︎」
「ししょーっ!」
『魔力結界』を使えば穴の中に落ちる必要はないのだが、このサイクロプスぐらいは和輝たちで始末してもらいたいうえに、恐らくこの下にいるであろう奴に用がある迅は、イリスとエリスの心配する声を聞きながら、穴の底へと落ちていった。
「「どうしよう⁉︎師匠が大変!」」
穴の中に落ちてしまった迅を心配する双子は、慌てて穴へと向かおうとする。
「落ち着きなさい!2人とも!」
「「っ⁉︎」」
慌てふためく双子を止めたのはシルフィアだった。
「よく考えなさい、あの化け物の拳を簡単に受け止めたんですよ?あの人だったら高い所から落ちたくらいでは死んだりしませんわ。それよりも、あなた達2人は与えられた課題をこなすべきですわ」
シルフィアの言葉に我を取り戻したイリスとエリスは、互いに頷きあって気を引き締めた。
「分かったの!」
「やってやるの!」
気合いを入れ直した双子を見て、シルフィアは少しだけ安堵した。
(……まったく、信じていますわよ、ジンさん)
迅を心配しているのはシルフィアもであった。
〝それでもあの人なら″と、少ししか関わっていないながらも、迅に対して自然とそう思ってしまうシルフィアは心の中で念を送った。
〝無事で帰って来ますように″と。
「さて、邪魔者はいなくなりましたし、本番と行きましょう」
そう言うやいなや、チャーリーは再び生徒に向けてサイクロプスの拳を繰り出した。
その前にはイリスとエリスが立ちはだかり、全力で跳ね返すために身体強化を掛けていた。
「『白光雷刃』!」
しかし、その前に立ちはだかりサイクロプスの拳を弾き返したのは、白い雷の一撃とともに現れた和輝であった。
「チャーリー先生……いや、チャーリー!よくもジンを!仇は僕がうってやる!」
まるで迅が既に殺されたかのような言い方をする和輝であった。
「あの、カズキさん?ジンさんはたぶん死んではいないかと「ティア!その人たちを頼む!こいつは僕たちが倒す!」……分かりましたわ」
どうやら完全に勘違いをしてしまっている和輝の勢いに押され、苦笑いしながら了承するしかないティア。
「ようやく勇者の本気を見れそうですね。なるべく堪えて下さいよ?これの性能をチェックしたいのですから」
「黙れ!お前の企みは、僕たちが潰してやる!」
そう宣言すると、和輝は突っ込んでいった。
それに合わせて麗奈たちも攻撃を仕掛けていく。
雷を纏ったままのゼヴォルスで斬りかかり、それに怯んだところへ撃ち込まれていく木原姉妹の魔法攻撃。
そちらに目を向けた瞬間に、後ろから剛の奇襲攻撃。
サイクロプスの魔法を織り込んだ大技には繭と凛の二重壁で対処。
和輝たちの完璧な連携プレーに、どんどん傷を増やしていくサイクロプスであった。
「くっ!まさかここまで勇者たちが強いとは!」
このままではまずいと考えたチャーリーは、切り札を使う事にした。
「『パーフェクト・エンチャント』開始!」
チャーリーがそう唱えると、サイクロプスの全身が虹色の光に包まれていき、和輝たちが付けた傷も瞬く間に治ってしまった。
「なっ⁉︎」
「さぁ、本当の勝負はこれからですよ?」
〈訓練場の地下〉
穴に落ちた迅は、100メートルは落ちたんじゃないかというくらい長い間落下していたが、ついに底へと着き、静かに着地した。
落下の衝撃を無くすために片膝をついて着地した迅は、その態勢のまま辺りを見回した。
穴から差し込む僅かな光と、壁に取り付けられている松明の火が照らしているだけの薄暗い場所であるそこは、恐らくサイクロプスのものであろう体液の異臭もあって、なかなかに不気味な所であった。
「よくまぁこんな地下深くにこれだけの広さを用意できたな。……これはあのバケモンに繋がっていた魔道具だろうし……なるほど、これで力を吸ってここに溜め込んでいた訳か」
辺りに散らばっている物を見て、おおよその見当をつける迅。
それから更に周りを見ていくと、人が3人倒れているのに気付いた。
近寄って確認してみると、あのバルゴたちであった。
3人は意識を失ってはいるが、衣服が汚れているだけで外傷は受けていないようだった。
「気を失っているだけみたいだな。やはり集めていたのは魂剣の元にもなる精神力ってところか……それで、こいつらをやったのはお前って事でいいのか?」
倒れているバルゴたちに目を向けたまま、後ろにいる人物に声を掛ける迅。
「まさか、私はそんなものには興味ありませんよ。それにしても……気配は完全に消していたつもりなんですがねぇ。よく私に気付けましたね」
そう言って姿を見せた男は、フードを取って顔を見せながら近くまで歩いてきた。
僅かな光が照らしだしたのは、金髪で、顔には大きなやけどの痕が残っている男であった。
申し訳ありませんが、迅と和輝たちの戦闘を別々にしたかったので、区切りよくここまでにしました。
次回は和輝たちの戦闘となります。
それから、投稿開始から2ヶ月がたち、5月は3241pvとなりました。
連続投稿もあったとはいえ、徐々に読んでくださっている方が多くなっているおかげで、早くも5000pvを超えることができました。
また、感想は1件、ブクマは6件増えていました。
今月は連続投稿はありませんが、今月中には学院編の方は完結いたしますので、どうかこれからもお付き合いのほど、よろしくお願いします。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




