勇者の成長と襲撃
和輝たちが襲われてから2週間がたち、和輝たちはまた特訓の日々に明け暮れていた。
あの金髪の男と戦った時は完全な実力不足のうえに、誰も回復役がいないという準備不足でもあったので、和輝たちは役割分担をすることにした。
まず前衛が和輝と剛で攻撃に専念し、麗奈と柑奈は後衛で回復を中心に魔法による支援と攻撃、繭と凛は防御優先で回復役もすることで決まった。
ちなみに、特訓自体は学院内で行われることになった。
これは、金髪の男に襲われる可能性がある以上、ある程度の力をつけるまでは学院内である方が守りやすいというティアの意向によるものであった。
そして、和輝たちには告げていないが、ティアは護衛を数人増やしてほしいという手紙を、父親である王様へと出した。
これは表向きはティアとシルフィアの護衛だが、それと同時に和輝たちも守ってもらうためであった。
来るのには選抜も含めてひと月ほど掛かるだろうが、今はこれしか出来ないので我慢するしかなかった。
それ以外では、ティア本人が【西セントレア】領主のダボール・サイラントに、金髪の男の似顔絵を街中に貼り出すように指示していた。
どうやら今回の事でティアはかなり責任を感じているようで、見ている側が止めたくなるほどにあれこれと動いていたのだ。
今は麗奈と柑奈を中心に回復魔法を熱心に教えているところだが、これでもだいぶ落ち着いた方なのだ。
ちなみに、迅にも和輝たちの護衛をしてほしいと打診されたが、キッパリと断っていた。
それならば特訓のコーチをとも頼まれたが―――
「他のやつらで教えられなくなったら引き受けてやるよ」
迅としては、可能な限りは自分たちで強くなってほしいと思っているので、そんな適当な返答をして断っていた。
〈???〉
「ようやくです。ようやく、目的が達成される時が来たのです」
まるで感極まったかのように、両手を広げながら天を仰ぐ者が1人。
思わず顔をしかめてしまうような異臭のする場所で、数人の男が集まっていた。
「あんたには借りがあるからここまで来てやったが……いったいここは何なんだ?訓練場に地下があるなんて初めて知ったぜ。ちゃんと説明してくれるんだよな?チャーリー先生よ」
バルゴから問いかけられたチャーリーは、手をおろしてバルゴ、カイト、タルバの3人の方へと向いた。
バルゴの言う通り、ここは訓練場の地下なのだ。
以前の和輝たちとの模擬戦で、自分たちの有利に進めようとするためにチャーリーに協力してもらい、その代わりにという事でここに案内されたのだが、薄暗い場所で異臭にまみれ、薄気味悪い雰囲気を感じているバルゴたちは警戒しっぱなしであった。
「もちろんですとも。ここはですね、とある実験場なのですよ」
「実験場だと?」
「えぇ、そうです。でも安心してもらっていいですよ。別にここで誰かを殺してる訳ではありませんから」
「……それで、俺らをどうするつもりなんだ?」
かなり不穏な事を平然と口にしているチャーリーに対して警戒心を上げるバルゴたち。
「簡単ですよ……模擬戦をしましょう」
狂気の笑みを浮かべながらそんな事を言い放ったチャーリーは、自分の魂剣である細剣を出してバルゴたちへと襲いかかった。
〈学院内訓練場〉
授業が終わり、今日も訓練場では和輝たちが特訓をしていた。
迅とイリス、エリスの双子もいるが、両者は少し離れた所で特訓していた。
あとは他の生徒もいるにはいるが、ほんの数人しか来ていなかった。
というのも、昨日は結構な人数がいたのだが、和輝たちの模擬戦相手として戦った結果、疲れが取りきれないために休んでいるのが多かったのである。
最近の和輝たちの特訓メニューは、模擬戦か技の修練の繰り返しという内容で行われているので、今日は人が少ないために技の修練をしているところだった。
「『響き轟け雷光よ、その威光をもって、天地を穿つ一撃となれ、サンダーボルト』!」
「『全てを呑み込み、奈落の底へと沈ませよ、これは永劫の闇の狭間なり、黒繭』!」
和輝と繭が同時に詠唱をし、互いに魔法と能力を発動させる。
和輝は雷の珠を撃ち出す上級魔法を、繭は自分の魂剣の能力に魔力を混ぜこんだオリジナルスペルの『黒繭』を発動した。
ズガァァァン!
『サンダーボルト』が『黒繭』に当たり、激しい衝突音を撒き散らす。
徐々に『黒繭』にくい込んでいく『サンダーボルト』だが、その雷の珠は少しずつ小さくなっていき、最終的には完全に呑み込まれてしまった。
繭がオリジナルスペルを使って生みだした『黒繭』は、ただ壁の強度が上がっただけでなく、その攻撃の力そのものを呑み込むことが出来るようになっていた。
しかもその力を壁の強度にプラスすることが出来るので、耐えれば耐えるほど頑丈な壁に進化していくという優れものであった。
ただし、壁自体が拮抗しきれないほどの力を受けると吸収する前に壊れてしまうという欠点があるが、以前の金髪の男が使った『神の斬撃』ぐらいならば完璧に防げるので、そこまでの欠点とは言えなくなっていた。
「ふぅ、お疲れ様!やっぱり繭の『黒繭』には魔法じゃ勝てないね」
「ん、しっかりと練習したから。でも、和輝の『サンダーボルト』も中々の威力でびっくりした。もう少し強かったら破られてたかもしれない」
「2人とも凄いね!私も負けてられないや!」
「麗奈ちゃんだって魔法全般が凄いと思うよ。光の回復魔法だって使えるようになったんでしょ?」
「私も凛さんの言うとおりだと思うよ、お姉ちゃん」
「俺たち全員がちゃんと成長してるって事だな!これならもうあのヤローにだって負けやしないぜ!」
特訓の合間にそんな会話をしている和輝たち。
金髪の男に負けてからというもの、全員が特訓に気合いを入れ直したことで急成長を遂げていた。
「……これが、勇者たる所以なのですね、お姉様」
「そうね。たった2週間でここまで成長出来るなんて、普通ではあり得ないものね。上級魔法の習得、オリジナルスペルの作成、能力の性質変換、能力と魔力による合体技、魂剣の進化、どれもこれも異常なレベルで習得出来るなんて……」
周りで潜んでいる護衛も含めて、王女姉妹は驚愕しきっていた。
もちろん、どれもこれも習得してる人はいるが、それは数年を掛けての結果なのだ。
それをあざ笑うかのように会得していく和輝たちは、一般人にとっては異常以外の何者でもなかった。
「これなら早いうちにジンさんに追いつけるかしら?」
「それはまだ先ですわ、お姉様。おととい見ましたけれど、完全な近接戦闘タイプであるジンさんに、文字通りに手も足も出なかったですから」
そう、実は迅と和輝とで模擬戦をしていたのであった。
と言っても、あれを模擬戦と言えるのかは分からないが。
自分たちの急成長に自信を漲らせていた和輝たちは、それはもう自信満々で迅に模擬戦を申し込み、あっさりと負けたのだ。
それはもう、あっさりと。
具体的には、迅が開始と同時に和輝の後ろに回りこみ、剣を首に添えただけであった。
ただそれだけなのだが、成長しているはずの和輝は迅の姿を捉える事すら出来なかったのだ。
「力を付けて喜ぶのはいいが、上には上がいる事を知れ。お前らはまだ、何かに特化した奴らには勝てねぇよ」
本来ならば迅が相手をするには早すぎたのだが、完全に天狗状態だったので、その鼻っ柱を折ってやったのだった。
もちろん、和輝は崩れ落ちた。
まぁ、迅の希望で勇者組とシルフィア以外を見学させていなかったのが、せめてもの救いかもしれない。
それからはまたしっかりと特訓をしているので、ひとまずは大丈夫だと思いたいところであった。
「あらあら、それは確かに先が長そうね」
「そもそも、少し力を付けたくらいではしゃぎ過ぎですわ、あの2人は特に」
そう話したシルフィアの視線の先には、男の勇者2人が談笑していた。
それを見たシルフィアは、ますます冷たい目を向けていた。
恐らく、シルフィアの中の和輝と剛に対する評価はだだ下がりなのだろう。
まぁ、シルフィアは男嫌いでもあるため、元からあったのかも怪しいが。
「まぁまぁ。それにしても、シルフィアはよくこっちに来ていたのね。私はたまに忙しくて来れなかったのだけれど……」
その何気ない会話をした瞬間に、シルフィアの体がビクッとしたのを、ティアは見逃さなかった。
「え、えぇ、そうですわ、お姉様。私の方は王族としての仕事は少なかったので」
シルフィアは明らかに平静を保とうとしながら弁解をしていた。
「ふぅ〜ん、そうなの?私はてっきり、あの人に会いに行くためかと思ったのだけれど?」
その怪しい挙動のシルフィアを見たティアは、迅と何か進展があったのだと思い、含みがあるニヤニヤとした顔でシルフィアに問いかけた。
「……えぇ、間違い、ではありませんわ、お姉様」
フイッと顔を逸らしながら答えるシルフィア。
ティアはなぜかその行動に疑問を覚えた。
ティアとしては顔を赤くするかと思っていたのだが、逆に少し顔色を悪くしながら顔を逸らしたのだ。
「……シルフィア、何か隠してない?」
「い、いえ、私がお姉様に隠し事をするはずがありませんわ」
ティアはジトーっとした目をシルフィアに向けるが、すぐさまポーカーフェイスに徹したシルフィアからは何も分からなかった。
しばらくそのままでいたがシルフィアが話すはずもなく、仕方なくティアが諦めようとしたところで、横から声をかけられた。
「そりゃあ、隠し事ではないよな。別に言うような事でもない訳だからな」
そんな言葉を発したのは、いつの間にか近くに来ていた迅であった。
「どういう事ですか?ジンさん」
「な、なんでもありませんわ、お姉様!」
迅に聞いているのに、ティアとの間に割り込んで会話を妨げるシルフィア。
その行動で、ティアは完全に悪い方向で確信してしまった。
「そうそう、別になんでもないぜ。ただ足を引っ掛けたりするうっかり魔法が飛んできたりしただけだからな」
ティアがシルフィアに問いただそうとする前に、迅が少し悪い笑みを浮かべながらネタばらしをしてしまった。
「……シル?何か言いたい事はありますか?」
「ぴっ!ち、違うんです、お姉様!元はと言えばあの人が悪いのです!」
割と冷静ではいられなかったらしく、シルフィアをプライベートの時の呼び方をするティアは、かなりのプレッシャーを放っていた。
ティアから問いかけられ、闇のオーラを幻視してしまったシルフィアは、カタカタと震えながらも迅を指差しながら弁解した。
今度は迅に闇のオーラが向けられ、普段ならばそんな事で揺るぎはしない迅だが、今回ばかりは顔を横にフイッと逸らした。
「……ジンさん?」
「……互いに売り言葉に買い言葉、悔しかったらやってみろ〜からの、今にいたる。以上」
そんな簡潔な説明を聞いたティアは、がっくりと肩を落としながら盛大なため息を吐いた。
「はぁ……2人とも何をやっているんですか?今回は2人とも同罪です。反省して下さい」
「ごめんなさい、お姉様……」
「いや〜面白かったからつい「ジンさん?」……すいませんでした」
いくら迅であっても、こういう空気になると素直に謝るしかなかった。
「よろしい!……2人とも、もう少し仲良くはできないのですか?」
「この人がもっとしっかりとした人間にならないと難しいですわ、お姉様」
「お前が突っかかってくるんだろ?」
「言い掛かりはよしてもらえます?私は悪くありませんわ」
「何を言ってんだよ。だいたいなぁ、お前が変に負けん気なのがいけないんだよ。少しはその胸みたいに慎ましくなったらどうだ?」
「っ⁉︎あなたって人は……言ってはいけない事を口にしましたね……いいでしょう!今この場で!あなたに教育を施して差し上げますわ!」
「フッ、上等だ。やれるもんならやってみな。ハンデとして片腕で勝負してやるよ」
「〜〜〜〜〜っ!」
そんなこんなで素手のプチバトルを始めてしまう2人であった。
それを見て、またもやがっくりしてしまうティアだったが、顔を上げて迅と目があった瞬間に驚きの顔をしてしまった。
迅がティアに向かってひとつウィンクをしたのだ。
普通は何の事だかさっぱりだろうが、ティアには分かってしまった。
恐らく、この一連の流れは迅の仕組んだ事だったのだ。
迅はシルフィアの過去は何も知らないが、それでも今までの言動で感じる所があり、シルフィアが心からの発散ができるように仕向けたのだ。
(まったく、他にやりようはあったでしょうに……でも、確かにあの娘にとっては、悪くはないのかも知れませんわね)
そう思うティアの視線の先には、迅の宣言通りに片腕であしらわれているシルフィアがいた。
だが、ずっと側で見守ってきたティアから見ると、悔しそうにしながらもどこかイキイキとしており、それでいて楽しそうにしているようだった。
シルフィアが迅を掴もうと飛びかかるが、その腕をあっさりと流されてしまったので、いったん間をあけたシルフィア。
「くっ!片腕だけなのに、これ以上にないぐらい守りが硬いですわ……」
「まだまだ修行が足りんよ。俺を倒したいなら……ん?これは……」
迅はこれ見よがしにセリフを吐こうとしたところで、周りの異変に気付いた。
「ジンさん?どうしたんですか?」
「なぁ、姫さん。何か感じないか?」
「何か、ですか?そう言われても特には……っ⁉︎」
集中し始めてようやくティアも気付いた。
何かのでかい力を感じるのだ。
それがどこからなのかは分からないが、明らかに何かがいるのだ。
「……下か!」
迅がいち早く原因の場所に気付き、何かがシルフィアの真下にいる事が分かった。
迅はすぐさまシルフィアの元へ行き、困惑しているシルフィアを抱きかかえてその場を離れた。
その直後―――
ズガガァァァン!
シルフィアのいた辺りから、白くてでかい物体が這い上がってきた。
出てきたものがかなりの大きさだったようで、派手に砂埃が舞い上がった。
「ォォオオオオォォォッ!」
雄たけびを上げながら立ち上がったそれは、5メートルほどの背丈はあるだろうか。
まるで人のような形をしており、でかい一つ目で腹には何やら刻印が記されている。
まるでサイクロプスのようなそれは雄叫びを終えると、周りを見回し始めた。
すると、和輝たち勇者組が目に入ったところで動きを止めた。
このサイクロプスが敵であることは間違いないので、和輝たちはすぐさま戦闘態勢に入った。
そして、先制攻撃をしようかと力をこめ始めた段階で、サイクロプスに異変が起きた。
「ォォォォォォ……」
少しだけ背を丸めたような態勢になり、低い唸り声を上げ始めたのだ。
すると、サイクロプスの胸の部分から巨大な水色のクリスタルがのめり出てきた。
全員がそれに対して警戒していると、そのクリスタルの部分から声が聞こえてきた。
「ごきげんよう、皆さん。今日はとても良い日ですね」
「……この声は……チャーリー先生、なのですか?」
そう、まるで散歩中の挨拶かのような穏やかな声を放ったのは、ティアが驚愕しながら呟いた通り、チャーリーがクリスタルの中から話してきたのであった。
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