遠征・2日目
和輝たちがメインです。
〈和輝サイド〉
遠征2日目の朝、若干の寝不足はあったものの、キャンプのような感覚でいたからか、あまり疲れが無い状態で野営地から出発した和輝たち。
今は昼に差しかかろうかという時間帯で、途中で見つけた河原の横を歩いているところだった。
「なんか日本の河原と似てんなぁ」
「これは一応、山に繋がってる川みたいだからね。そりゃ似たような状態になるもんだよ、剛」
「でも、本当に空気は澄んでるし気持ちいいよね」
「ん、お昼はここら辺でバーベキューをするべき」
「もう繭ったら、そればっかりじゃない」
「今のところは近くに魔物もいないみたいなので、お昼にしても大丈夫そうですよ」
「おっ、本当か!よしっ、それならば少し早いが昼食にしよう!カンナはそのまま索敵を続けてくれ。他の者は飯の準備だ」
「はい」×6
時間的には少しだけ早いというだけなので、周りに魔物がいない安全なうちに昼食を済ませることにした和輝たち。
フォールは指示を出したが、料理を魔法袋から出すだけなので、あっという間に昼食となった。
河原には大小さまざまな岩が転がっていたので、それぞれが丁度いい大きさの岩の上で昼食をとることになった。
「むぅ、どうせならここで調理して食べたかった」
「絶対にさせないからね。そんな事したら魔物が寄って来ちゃうんだから」
繭の不満を即座に突っぱねる凛。
凛の言う通り、この場で調理すると確実に匂いで魔物を呼び寄せてしまうので、魔法袋の中から取り出した料理を食べていたのだった。
しかし、それは分かっていても心が納得いかないために、ついつい文句が出てしまった繭であった。
「今度どこか安全な場所がないかティアに聞いてみようか。ティアならそういう所を知ってそうだしね」
「その時は肉を焼くのは任せてくれ!親父直伝の美味くなる焼き方を披露するぜ!」
全員で楽しく会話をしながら昼食を済ませて、食後に軽くストレッチしてから片付けを済ませる和輝たち。
「全員、準備出来たか?」
魔法袋を背負い、魂剣を手元に装備した和輝たちは、フォールの確認に頷き返した。
「よし、それでは出発だ!」
フォールの掛け声で再び歩き始めようとした和輝たち。
すると、そこへ―――
「おや?もうお昼を済ませてしまったのですか?私もご一緒させて頂こうかと思ったのですが……」
いきなり上の方から声が聞こえてきた。
その声が聞こえた方を見ると、近くにあった5メートルほどの大きさの岩の上に、フードを深く被っているローブ姿の人が立っていた。
顔の半分ほどは隠れているが、声を聞く限りは優しい声音の男であることが伺えた。
しかし、その優しい声音を聞きながらも、和輝たちはおろか、フォールまでもが恐怖によって動けずにいた。
先程までは柑奈の能力でさえ気付くことが出来なかったというのに、その男の姿を確認した瞬間に、本能的に竦んでしまっていたのだった。
和輝たちが固まっている原因は、その男から放たれるおぞましい何か。
強者なのは確かだが、それ以外にも感じられる力の圧力によって、和輝たちをその場に縛りつけていたのだった。
和輝たちが自分の持つ力の影響で固まっているのを分かっているその男は、嬉しそうな笑みを浮かべながら和輝たちへ話しかけた。
「おやおや、そこまで驚かせるつもりはなかったのですがね。私はただ単に、あなた達に会ってみたかっただけなのですよ」
改めて声を掛けられたことで、硬直からいち早く解けたフォールが、ひとつ深呼吸をしてから対応する。
「……一体、彼らに何の用だと言うのだ?」
冷や汗を垂らしながらも、男に問いかけると同時に逃れる術はないかと考えるフォール。
「私はね、彼ら勇者たちに用があるのですよ。なので、あなたには退場して頂きます」
(来るっ!)
ドゴォ‼︎
そう本能で思った時には遅く、いつの間にか真横に移動していたその男に、川向こうの森まで殴り飛ばされてしまうフォール。
それに少し遅れて、目の前に現れた男に意識を戻す和輝たち。
「っ⁉︎ 戦闘態勢をとれ!」
和輝の声に従い、全員が覚えたての身体強化を使い始める。
「おやおや、そんな風に武器を構えられては応えるしかないじゃないですか」
言葉とは裏腹に、楽しそうに自分の魂剣である片手剣を取り出した男。
「黙れ!いきなり攻撃してきておいて、何言ってやがるテメェ!」
そう怒鳴りながら男へ殴りかかる剛。
カイトとの模擬戦の時より数段パワーアップした拳を、全力で撃ち込む。
ガキィン!
「なっ⁉︎」
「ふむ、パワーはなかなかですね」
剛の拳はそこらの岩を砕けるほどの強さを秘めているのだが、男は剣で軽々と受け止めていた。
「それでは、こちらもお返しをしますよ」
男がそう呟くと同時に剛の拳を弾き、斬りかかろうとした。
「させない、『黒縄』!」
「っ!ほう、これは驚きました。こんな能力もあるとは……」
相手が得体の知れない者でも自分のやる事をしっかりと考えていた繭が、自分の魂剣の能力を使って男を縛りあげた。
男の両手足には黒いモヤのようなものが纏わりついており、身動きがとれなくなっていた。
繭の魂剣の名前は『アルケノ』、闇属性であり、影や闇雲を操ることができる能力である。
ちなみに武器の形状は、今は短剣である。
なぜ、こんな妙な言い方なのかというと、繭の魂剣は実体が無いからであった。
繭が最初の授業で魂剣を取り出した時は黒いモヤのまま出てきたのだが、繭自身がしっかりと思い描くことによって形を変えられるらしい。
しかも、モヤはかなりの量を出せるようなので、繭は自分の武器用と遠隔操作用として扱っていたのである。
今回はそのモヤを縄として使い、相手を拘束したのであった。
「ナイスだ繭!くらえ、『白光雷刃』!」
繭の能力で動けない男に、和輝が雷の一閃を相手の頭へと振り下ろす。
ズガァァァン!
まるで本物の雷が落ちたかのような衝撃が走った。
これならば相手はひとたまりもないだろう。
和輝を含めた全員がそう思っていた。
「さすがは勇者様。威力だけならばこの国の上位に入りそうですねぇ」
「なっ⁉︎」
和輝の放った『白光雷刃』は確かに当たっていた。
しかし、それは見えない何かによるもので阻まれていた。
相手は未だに繭の能力で縛られているのだが、和輝の剣は相手に当たる手前の所で止まっていたのだ。
「驚くのも仕方ありませんよ。なぜなら、これはあなたたちですら扱えない力なのですから……さて、いい加減このままというのも飽きてきましたので、反撃させていただきますよ」
男はそう言うと、その見えない力を使って和輝を弾き飛ばし、繭の能力である黒いモヤも霧散させてしまった。
「くっ!」
和輝は弾き飛ばされたが、空中で態勢を立て直しながら着地した。
そして、剣を構え直した瞬間に凍りついてしまった。
「動きが遅いですよ、勇者様?」
そんな声が後ろから聞こえてきたからだった。
本能的な恐怖が和輝を襲ったが、和輝は迷わず後ろに剣を振るった。
その剣は躱されてしまったが、相手を離させることには成功した和輝。
そして、改めてゼヴォルスに雷を纏わせて男に斬りかかっていく。
「ふむ、実に良い太刀筋ですね。しかし、剣自体は大したことないのが残念です」
「なんだと⁉︎」
男は和輝の剣を躱しながらそんな事を呟き、和輝が斜めに振り下ろした剣と斬り結んだ。
ガキィン!
男はあまり力を入れてないように見えるのだが、和輝の方は全力であった。
鍔迫り合いでギチギチと音を立てるなか、不意に和輝のゼヴォルスからピシッという音が鳴った。
「くっ!」
「悔しがることはありませんよ。私のこの『神の剣』とここまで斬り結べたのはあなたが初めてですからね。ですが、これで終わりです!」
男はそう宣言したと同時に、ゼヴォルスを弾いた。
和輝が慌てて剣を戻しながら振るうが、男が狙っていたのはそれであった。
男は再び向かってくるゼヴォルスに、今度は強めに剣を斬りつけた。
ガキン!
すでにひびが入っていたゼヴォルスは、今度は一瞬たりとも拮抗することなく、砕け散った。
そして、ゼヴォルスが砕けたことにより、和輝に極度の疲労感が襲ってきた。
「っ!」
急に体全体の力が入らなくなってしまった和輝は、その場でうつ伏せに倒れていった。
「……そ……な……」
なんとか意識はあるものの、身体に全く力を入れられない和輝。
「やれやれ、それなりに期待はしていたのですがね。まさかここまで脆いものだとは……」
男は首を横に振りながら、心底残念そうにしていた。
だが、勇者たちをあまりにも甘く見過ぎていたようだ。
「『フォトン・セイバー』!」
今まで和輝にしか目をくれていなかった男に、極太の光の剣が迫っていた。
「くっ!」
その威力に脅威を感じた男は慌てて飛び上がりつつ『神の盾』を出したが、ノータイムで力がこもっていなかったのか、光の剣が『神の盾』を霧散させて足を通過していった。
男は巨岩の上に着地するが、少しよろめく。
光の剣が通過していった足は切断こそしていないものの、そこにあった衣服は破れており、代わりに焼き爛れたような足が見えていた。
「はぁ、はぁ、和輝くんと、先生の仕返しだよ!」
和輝よりも勇者らしい行動をしたのは麗奈だった。
麗奈はウィルディーテを振り抜いたままで、目には怒りを見せていた。
しかし、かなりの大技だったらしく、肩で息をするほどに消耗していた。
「私としたことが、つい油断をしてしまいましたね。あと少しでも『神の盾』を発動するのが遅れていたら、完全に切断されていました。……よろしい、次はあなたにしましょう。ですが、あなたの全力を見てみたいですから、試しにそこの勇者くんを殺してみるとしましょう」
男はそんな宣言をすると、倒れて動けないままの和輝に目を向けた。
「させない!繭ちゃん、凛ちゃん、お願い!」
「「任せて!」」
「『ウォール・オブ・ウィンド』!」
「『黒繭』!」
麗奈の指示を受けて、すぐさま魂剣の能力を使って壁を作った繭と凛。
凛は授業で使った風の壁を、繭は黒いモヤを収束させて壁を作り、即席の二重壁を完成させた。
範囲は和輝を中心に、全員が入れるように直径7〜8メートルほどのドーム型の壁だ。
「できるだけ持ち堪えて!私は合図を撃ち上げるから!」
麗奈の指示に頷きをもって返す繭と凛。
麗奈はそれを見てから、集中するために目を瞑った。
剛は和輝の前に立ち塞がり、自分の身を盾にするようだった。
柑奈は『リーフライト』を宝玉から短い杖に変形させて、周りの木の枝を操り男の手足を縛りあげた。
「その程度の壁で防げるほど甘くはありませんよ。身を以て知りなさい、『神の斬撃』!」
「『シャイニー・レイン』!」
男が縛られているのもお構いなしに斬撃を繰り出したのと、麗奈がウィルディーテの技を撃ち上げたのはほぼ同時だった。
麗奈が撃ち上げた光の珠は、上空で花火のように爆散すると、男に向かって降りそそいだ。
そして、男の斬撃は和輝の方に向かっていくが、まず『黒繭』と衝突した。
男は『神の盾』を発動してやり過ごそうとするが、完全に防げた訳ではないようで爆風に煽られていた。
逆に『神の斬撃』は『黒繭』によって受け止められていたが、徐々に食い込み始めていた。
「うっ!これ以上は、厳しい!」
繭は苦しそうにしながらも壁を維持していたが、ついに破られてしまう。
『神の斬撃』はそのまま風の壁も食い破ろうと衝突した。
今度は凛が踏ん張るが、徐々に亀裂が走っていき、壁の限界が近づく。
しかし、勇者スペックによる二重壁は伊達ではなかった。
少しずつだが『神の斬撃』の威力を相殺していき、凛の風の壁による受け流しによって、軌道が逸れ始めたのだ。
そして、『神の斬撃』がだいぶ逸れて威力も弱まったところで、遂に凛の壁も破られてしまった。
それでも和輝を守りきったと安堵した麗奈たち。
だが、その逸れた『神の斬撃』の軌道を見た瞬間に凍りついてしまった。
その先には繭がいた。
そして―――
ズバッ!
全力の『黒繭』を使い、消耗していた繭はなす術もなく『神の斬撃』によって斬り裂かれ、血を吹き散らしながら倒れていった。
「……ま、繭ーーっ!」
凛は自分も消耗していたが、親友の元へとすぐさま駆け寄った。
「繭!しっかりして、繭!」
ぐったりとする繭を抱え起こして呼びかける凛。
しかし、繭からは返事が返ってこなかった。
それもそのはずで、繭の小さな体には『神の斬撃』によって、深々とした斬り傷がつけられていたのだ。
それでも運が良いと言えばいいのか、斬られたのは右半身であったために即死はしておらず、かなり荒いながらも呼吸はできていた。
しかし、すぐに手当てをしなければ出血多量で死んでしまうだろう。
だが、凛たちは誰も回復魔法を習得してはいなかった。
「驚いた……本当に驚いた!まさか私の『神の斬撃』を防いでしまうとは!」
興奮ぎみの男の声が聞こえてきたのでそちらを向くと、さっきの爆風でフードがめくれたらしく、男の顔が見えていた。
金髪に金色の目、眉目秀麗と言っても問題ない顔立ちの男だったが、ひとつ残念なのは、その顔の右目から左頬まで走るやけどの痕だった。
男はある意味喜ぶかのセリフだったが、『神の斬撃』を不完全ながらも防がれた事にプライドを傷つけられたようで、僅かに怒りをにじませながら繭と凛を睨み付けていた。
「あなた達への評価をひとつ上げるとしましょう。そして……次こそは両断してやろう」
男はもう一度『神の斬撃』を繰り出すために構えた。
対する麗奈たちは絶体絶命だった。
和輝と繭は倒れ、凛は親友が負傷した事によりパニック状態、麗奈も力の限界が来ており、剛と柑奈は力不足。
麗奈はどうにかならないかと考えを巡らせるが、時すでに遅し。
そして、男が剣を振りおろ……そうとした所で異変に気付いた。
咄嗟に『神の盾』を発動し、身を守る態勢をとった。
その直後に、男に向かって大木が突き刺さった。
男は『神の盾』で防いだものの、その質量には勝てずに吹き飛ばされて、地面へと直撃していった。
一方で、麗奈たちは何が起こったのか理解できずにいた。
少しして男が地面から飛び出して、岩の上に降り立つ。
どうやら今のでも傷をつけられてはいないようだった。
「邪魔が入ってしまいましたね。まぁ、勇者たちの力を知るのが今回の目的ですから、今日のところはこれで引きあげるとしましょう。ですが……あなた達は必ず、この私の手で殺してやりますよ」
そう言って麗奈たちをひと睨みすると、懐から紅い色をした宝石を取り出し、その宝石が光ったと同時に消えていった。
その直後―――
ズガァァァン!
男が立っていた場所に何かが降ってきた。
男の立っていた岩はバラバラに砕け散り、その場所からは誰かが出てきた。
「ちっ!逃げやがったか!」
悪態をつきながら現れたのは迅であった。
麗奈たちは全員が助かったと安堵をしたと同時に、どこからやって来たのかと疑問に思った。
相手の攻撃名称はルビの振り忘れとかではありません。
つまり、頭の方も危ない人だということです。
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