暗殺者?
少しだけ戦闘ありです。
午後の授業も終わり、迅はやる事を済ませるために訓練場に向かっていた。
ただ、わざわざ校舎の中を通って行くのは遠回りで面倒だったため、訓練場の横に出られる、校舎の裏にある林の中を歩いていた。
この林はそこそこの広さはあるものの、訓練場がデカいおかげで方向を間違えることはないし、学院の敷地内で魔物もいないので、迅はのんびりと歩いていた。
〝暇な時にここで休息を取るのもいいかもしれない″と迅が思っていると、サラレスとセイドラが迅の頭の中に語りかけてきた。
『ねぇ、ご主人様。あれは放っといたままでいいの?』
『そろそろ仕掛けてきそうな感じがします』
『別にこっちから仕掛けてもいいが、神に関係してる訳でもないから、向こうが来たら迎撃するってことで。相手は……2人か、隠密としてはそこそこだな』
実は、迅が教室を出てからずっとつけてきている者がいたのだ。
最初は模擬戦で少し有名になったのでそれ関連かなとも思ったが、話しかけてくる訳でもなく、能力を使って隠れたままで後をついてくるので、迅は少し悩んだが結局そのまま放置していたのだった。
ちなみに、今つけてきている2人は10メートルほど後ろの木の陰で透明になっていて、音も全く出していなかった。
恐らく互いの魂剣の能力で消し合っているのだろう。
中々に強力な能力であったが、残念ながら相手が悪かった。
迅は2人からの気配をしっかりと捉えているために、後ろをとくに見ることもなく2人の動きを把握していた。
『……来ますっ!』
林の中、校舎と訓練場のちょうど中間くらいまで歩いてきた所で、セイドラが迅に警告をかけた。
迅も相手の動きには注意していたので、頭を狙った見えない攻撃は軽くしゃがむことで避けた。
どうやら何かを投げただけのようで、襲撃者の2人は隠れていた木から走りだしていたところだった。
その2人は迅が見えないはずの攻撃を避けた事に驚いた様子はなく、真っ直ぐに迅に向かって距離を詰めると、頭と膝裏を狙って斬りかかってきた。
(攻撃が単純過ぎだ)
迅は全く慌てることなく、背中を向けたままその場で高く飛ぶことで躱した。
躱されて通り過ぎた2人はすぐさま振り返り、迅に再度斬りかかった。
しかし、2人が近づく前に着地した迅は、目に魔力を纏わせて相手の姿を確認し、更には掌に魔力を圧縮させると、頭と足を狙ってきた剣に向けて構えた。
そして、迅はタイミング良く手を握った。
普通だったらそのまま手を斬り裂かれてしまうだろうが、迅の手は傷つくこともなくガッチリと剣を掴んだ。
音は相手の能力で消えていたので衝突音は無かったが、剣を掴んでいる感触はしっかりとあった。
襲撃者の2人はどうにか剣を取り返そうとするが、迅の圧倒的な力で掴まれている剣は、僅かにも動かなかった。
「判断が遅いぞ」
迅は掴んでいた剣を、相手が持ったままなのもお構いなしに地面に向けて投げつけた。
すると、剣は半分ほどが地面に埋まってしまい、剣を持っていた2人は反射的に強く握ってしまったために引っ張られてしまい、体勢を崩してしまった。
そのスキを逃さなかった迅は、2人の額にデコピンを喰らわせた。
ただのデコピンとはいえ、迅がそこそこの力を込めたので、2人は頭が弾かれたようにのけ反り、そのまま仰向けに倒れていった。
『うわ〜、いたそ〜』
『デコピンとはいっても、威力に関しては殴られたようなものじゃないですか?』
迅の頭の中で、サラレスとセイドラが襲撃者2人を哀れむような声で会話していた。
襲撃者とはいえ、迅のデコピンを受けた2人は頭を両手で抑えながらのたうち回っているので、そう感じるのも仕方ないかもしれない。
『まぁ、この2人にはいい罰になったろ』
迅は目の前でのたうち回っている2人を見て肩をすくめると、2人から話を聞くためにそばにしゃがみ込んだ。
そして、おもむろに2人の耳を引っ張った。
『『ッッ⁉︎ッッッッ⁉︎』』
「とっとと能力を解除しないと、徐々に力を込めるぞ〜」
『ひぇ〜、ご主人様がSだよ、鬼畜だよ〜』
『小さい痛みって、意外とキツいんですよね』
頭の中で2人が引いている気がするが、それを無視する迅。
迅が耳を引っ張りながら声をかけると、すぐに能力が解かれ、輪郭しか見えていなかった姿は容姿までハッキリと現れ、それと痛がる声が聞こえてきた。
「わ、分かったから!解いたから離して!」
「痛い痛い!謝るから許して!」
能力が完全に解除されたのを確認した迅は、2人から手を離した。
解放された2人の女の子は涙目になりながら、今度は耳を抑えていた。
2人は制服を着ているので、この学院の生徒であることは間違いないようだ。
髪は右の娘が青色、左の娘がピンクに近い赤色の髪であった。
2人ともショートヘアだが、互いが対になるように、一房だけを花飾りが付いたゴムで縛ってサイドテールにしており、その花飾りは互いの髪色にした物を付けていた。
ちなみに、2人はけっこう小柄な体型をしており、涙目でプルプルしている姿は小動物を思わせるが、迅はそんな事はお構いなしに、2人を問いただし始めた。
「さて、なんでこんな事をしたのか……吐いてもらおうか」
迅の少しばかり圧が込められた言葉にビクッと反応した2人は、まだ痛みが残っていたようだが、いそいそと正座の態勢に入り弁解を始めた。
「「実は―――」」
2人の弁解を聞き終えた迅は、頭が痛そうに手で抑えていた。
「結論だけで言うと俺の弟子になりたいと、そういうことか?」
「うん!弟子になりたいの!」
「弟子になって、強くなりたいの!」
2人は凛々しい目で迅を見つめていた。
状況が違えば感心していたのだろうが、迅はため息しか出てこなかった。
「はぁ……ならもっと他にやりようがあったろうが」
迅が呆れたように指摘すると、2人揃って顔をフイッと逸らした。
それを見て、またもやため息を漏らしてしまう迅であった。
そして、まるでダメなものを見るような目を向けながら、至極当然な事を指摘した。
「それに、別に俺じゃなくても勇者がいるんだから、そっちの方がいいんじゃねぇか?」
「確かに勇者様も強いけど、私たちはあなたじゃないとダメなの」
「あなたに教われば、私たちは絶対に強くなれると思うの」
迅は勇者を勧めてみたのだが、2人ともどうしても迅に教わりたいようだった。
「……勇者がダメな理由は?」
迅が理由を尋ねると、2人は交互に語り始めた。
「まず、勇者様とは能力が違いすぎるの」
「ふむ、確かにな」
「勇者様は戦闘系の能力だから習うところは無いし、この世界に来たばかりなのは知ってるから魔法も期待できないの」
「そりゃそうだろうな」
「私たちは隠れるのが得意な能力だし、魂剣の能力は勇者様よりも扱えてる自信はあるの」
「経験も長いだろうしな」
「次に、今の勇者様になら私たちは勝てるからなの」
「お、おう……」
「みんなは勇者様が凄いって褒めてるけど、真正面から戦って力押しで勝っただけだし、私たちなら姿を隠して一方的に攻撃出来るの」
「そ、そうか」
「私たちは正々堂々と戦う気は無いし、実戦だとそんな風に戦えることって普通はそんなに無いと思うの」
「そう、だな」
「次にタイプじゃないからなの」
「……へ?」
「ただのイケメンみたいな感じだし、誰にでも優しくするようなのはマイナスなの」
「いや、そこはどうでも―――」
「今朝あなたを探してた時なんかは女の子にチヤホヤされて鼻の下が伸びてたし、手がわきわきしてて気持ち悪かったの」
「…………」
「次に性格が「分かった、分かったからもういいわ!」
さすがに脱線しすぎたので、途中で止めた迅。
最初は至極真っ当な理由だったのだが、理由を挙げてるうちに変に興奮してしまったようで、途中からは完全に勇者への悪口になっていた。
「で?そこまで勇者を否定しておいて、俺に何を教わりたいんだ?」
「「身体強化!」」
「なるほどねぇ、自分たちの能力と合わせたい訳か」
確かに身体強化を鍛えれば、見えない相手との近接戦闘は更に厄介なものになるはずだ。
迅は気配を掴めたから問題は無かったが、それが出来ない者にはこれ以上にない悪夢だろう。
「私たちには、どうしても倒したい相手がいるの」
「そいつには1人では勝てないし、私たちの能力も通用しないの」
「だから身体強化なわけか」
迅の言葉に黙って頷き返す2人。
2人とも強い眼差しで迅を見ているので、何か事情があっての事かもしれない。
「私たちに出来る事なら何でもするの」
「どれだけ辛くても、どれだけ苦しくても我慢するの」
迅が迷っているとみた2人は、自分たちの覚悟を告げた。
それに対して迅は、少し脅しをかけてみる事にした。
「……俺の身体強化は普通じゃないんだ。お前らが使うとなると命を落とすかも知れないぞ……それでもやるってのか?」
迅は目つきを鋭くしながら、多少の殺気を込めて威圧しながら2人に問いかけた。
しかし、2人は少し震えただけで、迅からは目を逸らすことはなかった。
「「やる!」」
2人は逆に迅を睨みつけるように、ハッキリと宣言した。
少しそのままでいたが、2人の考えは変わらないようだったので、迅は威圧を解いて話しかけた。
「お前らの覚悟は見せてもらった。いいぜ、鍛えてやるよ」
「ほ、ほんとなの⁉︎」
「あぁ、俺といい勝負が出来るくらいまで鍛えてやるよ」
「あ、ありがとうなの!」
迅から指導してもらえるのが決まると、2人は顔を見合わせて嬉しそうに笑っていた。
迅はついでに、ここでネタばらしをしておいた。
「ちなみに、さっき言ってた命を落とすってのな、あれは嘘だからな」
「「えっ⁉︎」」
「お前らの覚悟を見るために試したんだよ。生半可な気持ちじゃ強くはなれないからな」
「そ、そうなんだ〜」
「よ、良かった〜」
「でも厳しくないって訳じゃないぞ。定期的にいろんな強敵と戦ってもらうからな」
2人が安心したのもつかの間、迅の言葉を聞いてピシッと固まってしまう。
迅は固まっている2人にまだ名前を聞いてなかった事に気付いて、自己紹介することにした。
「俺の名前は迅だ。これからよろしくな」
迅が名乗ると2人はハッと意識を戻して、赤色の髪の娘から名乗り始めた。
「私はイリス!」
「私はエリス!」
「双子なの!」
「私が妹なの!」
「「よろしくお願いします、師匠!」」
2人は思ってた通りの双子で、赤色の髪の娘がイリス、青色の髪の娘がエリスで妹だと名乗った。
迅は2人の挨拶に対して頷き返すと、これからの事を決めるために2人に問いかけた。
「さて、早速今日から始めるか?」
「いいの?」
「何か予定があったんじゃないの?」
「まぁ、俺の予定は後でも問題ないからな」
「それなら良かったの」
「でも、今日は遠慮しておくの」
ここまで話して、2人は急に俯いた。
迅は当然気になったので聞いてみた。
「ん?何でだ?」
「……あのね、師匠」
「弟子からのお願いなの」
「「足が痺れたので助けてください」」
「……あ〜、そういえばずっと正座したままだったな」
迅は今更ながらに気付いたが、2人は涙目で微妙にプルプルしていた。
こればかりは仕方ないので、迅は2人を肩に担いで校舎の方に戻っていった。
双子の髪色は悩んだのですが、ほぼ対照的なもので分けました。
明日も0時に更新しますので、よろしくお願いします。
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