勇者たちの授業風景
投稿を開始してひと月が経ちました。
おかげさまで4月は1946pvという数字が出ました。
感想も1件いただき、ブクマは21件でした。
まだ1章の半分くらいでここまで見ていただけて、大変嬉しく思います。
この調子でさらに熱く、この作品にのめり込んでしまうような展開を書いていきますので、これからもよろしくお願いします。
翌朝、早めに寝たというのに少し遅めに起床してしまい、遅刻ギリギリに教室へと辿り着いた迅が扉を開けて入ろうとしたのだが、入らずにその場に立ち止まってしまった。
というのも、窓際の近くで和輝の周りに女子が集まっており、和輝本人は2人の女子に両腕に抱きつかれている光景が目に入ってきたからであった。
片方は緑色のショートヘアの小柄だが活発そうな子で、もう片方は明らかに貴族であろう金髪縦ロールのスタイルが良い子であった。
2人は何やら言い争いながら、和輝の腕を抱えていた。
「……何だありゃ?」
「あっ、ジン君おはよう!」
「おはよう、ジン君」
迅が少し固まっているところに、迅が登校してきたことに気づいた凛と繭が話しかけてきた。
「ああ、2人ともおはようさん。それで、あれは一体何なんだ?」
「あはは……凄いよね、あれ」
「ん、アニメの主人公をそのまま再現させているみたい」
「いや、感心してないで説明してくれよ」
「ん、ごめんね。簡単に言うと全員が弟子希望みたい」
「登校してからずっとこんな感じなんだ」
「なるほどなぁ」
(なんとまぁ、早速のテンプレですか。さすがは勇者)
繭の簡単な説明を聞いて色々と察した迅は、早速のテンプレ展開に呆れてしまった。
すると、授業開始の時間丁度にやってきた教師が教室内の惨状を見て、すぐに集まりを解散させた。
「ほらそこ!もう授業が始まるんだから自分のクラスに戻らんか!」
「は〜い。またね、勇者様!」
「それでは勇者様、また後ほど」
「う、うん。またね」
教師に注意されて和輝から離れた2人は何か約束を取り付けたようで、念を押すように挨拶してから自分たちのクラスに戻っていった。
他の女子もそれぞれ戻っていき、やっと解放された和輝はどっかりと疲れたように椅子に座り込んだ。
「ああいうのは関わらないのが一番だな」
「ん、私も巻き込まれたくないからしばらくは別行動」
「じゃ、じゃあ私も〜……」
3人はしばらくの間は和輝と関わらないことを決めて、静かに自分の席に着いた。
午前中は国の歴史や魔物の生態など、つい眠くなってしまうような授業をなんとかこなして、ようやく昼食前最後の授業である、Dクラスとの合同授業の時間がやってきた。
基本的には軽い模擬戦がメインの授業だが、今のところ、勇者組の中で模擬戦をやっているのは和輝と剛だけであった。
というのも、途中入学である和輝たちは魂剣を出せるようにはなっているが、繭と凛、それと麗奈は能力をまだ使ったことがないので、その3人だけは能力を扱う練習をしていた。
それ以外の生徒たちは模擬戦をやっているのがほとんどだが、自分の能力を扱う練習や、魔法を覚えようとしている者もいた。
ちなみに、2クラス合同で40人以上はいるのだが、場所が訓練場のため広さは充分にあるので、ぶつかったりの事故もなかった。
そして、和輝は剛と模擬戦をしている最中だが、今朝の女子たちに囲まれているので、少しばかりやりにくそうにしていた。
それでも麗奈たちの近くにはいるので、呼ばれればすぐに駆けつけられるようにしていた。
迅はというと、訓練場の端の方で隠蔽状態のサラレスとセイドラを出して、その場で目を瞑って佇んでいた。
この場には繭たちに付きっきりのフォール先生と見回りの教師3人の4人体制で授業をみているのだが、見回りの教師3人は迅の集中している姿に感心しきっていた。
「彼はすぐにでも大成しそうだな、なんとも言えない圧力を感じる」
「ああ、今の時点でも実際にBクラス相手に圧勝したらしいからな。今後に期待できるだろうな」
「そうなのですか?それは是非とも観たかったですね」
教師3人の迅に対する内申点はうなぎ登りだった。
その迅はというと―――
(……あ〜、早く授業終わんないかな……模擬戦するのがめんどいとはいえ、いい加減このままってのも飽きてきたぜ……)
迅はただサボっているだけであった。
迅の実力に関しては正しいが、サボっているのに勘違いをしている教師3人は色々とダメなのかもしれない。
一方で麗奈たちはというと、フォールに能力を出す時のコツを少し教えてもらっただけで、少しずつ能力を出せるようになっていた。
「ふぅ、だいぶ能力のことも分かってきたよ」
「そうですね。私はまだあやふやな所もありますけど、ちょっとずつ理解出来てきました」
一息ついた麗奈と凛は互いに話しあっているが、繭は少し離れて静かに佇んだままでいる。
「凛ちゃん、私に敬語なんて使わなくてもいいんだよ?もう友達なんだから」
「えっ?あっ、ご、ごめんね!ちょっと麗奈さんの魂剣に圧倒されちゃっただけだから」
「え?どうして?」
「あの、麗奈さんがウィルディーテを持ってると、神々しさが倍増するというかなんというか……」
最後の方は消え入るような声になってしまい、少し赤くしている顔をスーッと逸らしてしまう凛。
実は周りで模擬戦をしている男子たちも良い勝負をしてるかと思いきや、チラチラと麗奈の方を見ているので、もはやチャンバラ合戦になっていたのだった。
麗奈の魂剣の名は『ウィルディーテ』、能力は光を操れるというものである。
基本的には、光を剣に纏うことで威力や斬れ味が増大するのだが、それ以外にも光をレーザーのように放つことも出来るし、そのレーザーを鞭のようにしならせる事も可能だ。
ただ、直線に伸ばしたりするのはともかく、鞭のように曲線を描くのはかなりのコントロールが必要なため、今の麗奈では扱えないのが現状だ。
しかし、光そのものに触れるだけでも火傷するほどに強力なので、今の時点でも充分過ぎるほどの火力持ちなのであった。
「確かにこの剣からは強い力を感じるけど……でも、それを言うなら凛ちゃんの魂剣だってけっこう強いよね?」
麗奈は納得がいってないような顔をしつつ、凛の魂剣を指摘する。
指摘された凛の手には緑色の長杖が握られていて、ティアの杖と同じように、先端にはエメラルドグリーンの輝きを放ち続ける宝石が埋め込まれている。
「う〜ん、強さに関しては分からないの。私のシルビィは風を操れるみたいなんだけど、なんて言ったらいいのか……使おうとすると力を込められた感じがしないっていうか、そもそも力を流せられないみたいな感覚になってて……でも、風を操れてるのは分かるの」
なんとも言えない感覚をどうにか伝えようとするも、上手く言葉にできずに唸り始める凛。
すると、凛と麗奈に付いていたフォールが声をかけた。
「カジタニ、そんなに力を使い続けて大丈夫なのか?」
「えっ?あ、はい。特に疲れたりはしてないです」
「ふむ、俺が知っている限りでは、風の防御壁を扱えるのはカジタニが初めてだ」
「防御壁ですか?」
凛は力を使ってる本人だから分かるのだが、実は半径5メートルくらいで円を描くように、風が緩やかに動いていたのだ。
使ってるのが風なので麗奈には見えていないが、フォールは自分の目に魔力を集めることで可視化しているので見ることができていた。
この世界では魔法を使うための魔力と、魂剣を使うための精神力の2種類の力があるが、少なからず互いに作用する事ができるので、完全に別物という訳ではなかった。
出来る者は多くはないが、和輝やティアのように2つの力を混ぜ合わせることも出来たりする。
だからこそ、本来ならば見えないはずの凛の風による壁を、魔力によって精神力を見えるようにしていたという訳である。
「そうだ、だが全然疲れてないとなると、風だとコストが低いのだろうか……少し試してみてもいいか?」
少し考え込んだフォールは何かを思いついたのか、凛にそう問いかけた。
「それは構いませんけど、何をするんですか?」
「俺が軽く攻撃をしてみるから、カジタニは魂剣に力を込めたままにするんだ」
「えっ⁉︎で、でも、私は戦えませんよ?」
「大丈夫だ、攻撃するのはカジタニにではなくて、今まわりに張られているこの壁にだからな」
「これが壁なんですか?私には風が周りを漂っているようにしか見えないんですけど」
「それは恐らく、壁を発動させる直前の状態なんだと思う。これを維持するのは大変だが、他の属性の防御壁を扱える者も似たようなことはできるからな」
一通りの説明をして、凛の防御壁を試すために少し離れたフォールは、〝自分を敵だと思うように″と凛に伝えた。
「では、いきます!」
凛は自分の風が防御壁だという事を教えられたので、フォールを敵と想定して、頑丈な壁を強くイメージした。
その結果、魔力を纒わなくても見えるほどの風の壁が出来上がっていた。
薄く緑色に発光しているその壁は、思わず手で顔を庇ってしまうほどの強い風を吹きつけ始めるが、壁の中にいる凛にはそよ風が吹いている程度だった。
(あれ?……力を流せる?)
風の壁をしっかりと作りあげた直後に、自分の精神力を流せる事に気付いた凛。
そんな疑問を浮かべている凛には気づかずに、真剣な表情に切り替えたフォール。
「見た限りは想像以上に強固な壁だな。生半可な攻撃は通用しないか……」
フォールは凛のとてつもない強度を秘めている壁に対して気を引き締めると、自分の魂剣である両手持ち用の盾を出した。
「全力の身体強化をかけて突っ込む!」
言うやいなや、身体強化を使ったフォールは壁に向かって駆けだしていった。
身体強化をしたためにけっこうな勢いで壁に突っ込んだが、壁に触れた瞬間は衝突音も無かった。
(こ、これは⁉︎)
ヒュッ! ズザザザーッ!
壁自体の抵抗に対して少し押し込んだ瞬間に、フォールは真横に吹き飛ばされてしまった。
「あ、あれ⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
けっこうな勢いで飛ばされたが、フォールは不恰好ながらもちゃんと受け身を取れていたので、すり傷程度で済んでいた。
しかし、凛は当然慣れているはずもなく、10メートルほどは飛ばされてしまったフォールを見て顔を青ざめてしまっていた。
「あ、あぁ、大丈夫だ。まさか真横に飛ばされるとは思わなかったよ」
「す、すいませんでした!」
「いいものを見せてもらったし気にしないでくれ」
中々に珍しい能力を見れたので、フォールにとってはかなり満足な体験だったようだ。
一方で、端の方からそれを眺めていた迅はというと、凛のシルビィから感じる違和感の正体を確かめていたところだった。
(なるほどな、そういうことか)
迅が感じた違和感というのは、シルビィを介して使われている精神力そのものだった。
実は、シルビィによる風の壁には、凛の精神力がほとんど使われていないのだ。
では、それなのになぜ、あれほどの力を持っているのかというと、今この場にいる全員が原因であった。
というのも、シルビィは周りに漏れている精神力を使って壁を作っていたのだ。
最初の準備段階の壁では充分な量が集まっていたので、凛は力を流す事が出来なかったのだ。
そして、フォールを敵として定めたから壁が発動し、周りから集めた分では足りなくなったからこそ、凛の力が流せるようになったという訳だ。
(便利な能力だとは思うが、見ただけだと分からない事が多いな。風を操れるのと精神力を集めるという能力が両立している訳だからな……この把握出来ていない点が問題にならなければいいんだが……)
迅の中ではまだ疑問が多いシルビィだが、それ以上に、凛自身が把握しきれていない事に危機感を覚えていた迅であった。
授業が終わり、繭と凛が教室に戻っている途中だった。
「はぁ……」
「繭、どうしたの?ため息なんかついちゃって」
繭が唐突にため息をついて落ち込んでいたので、何かあったのか気になり聞いてみた凛。
「私の魂剣は闇関連の能力だったの。それがちょっとがっかりしちゃって……」
「あ〜……で、でも、その代わりに色々なことができるんでしょ?なら全然大丈夫だよ!カッコいいよ!」
女の子にとってはあまり嬉しくない、闇系の能力だったのを気にしてると察した凛は、能力の有用性を指摘しながら必死に慰めた。
「違うの、そこじゃなくて、私もジン君みたいに物理で無双してみたかったの……」
「え〜、そこなの?……前から思ってたんだけど、繭ってちょっとおかしな価値観を持ってるよね」
「失礼な、異世界ときたら物理で無双は最近のトレンドだよ」
「たとえそうなんだとしても、女の子が物理で無双はどうかと思うよ……」
女として、そして親友として色々と不安に思ってしまった凛であった。
次回は5月4日の0時に更新となります。
毎週土曜日の分も投稿するつもりなので、最後は4、5、6日の3日連続更新となります。
感想やレビュー、評価などをお待ちしています。




