模擬戦が終わって
リザルト回となります。
〈???〉
「まったく、期待していたというのにこの程度しか集められないとは」
その者は体育館ほどの広さのある場所で落胆していた。
その場所は窓が一切無く、壁に取り付けられたいくつかの灯りがついているだけなので、まるで廃墟を思わせるような薄暗さだった。
その場所の奥に位置する所には、いくつもの魔道具に繋がれた大きな装置が置かれていた。
その装置はガラスによって覆われており、中には青みがかっている液体と、まん丸とした白い物体が入っていた。
どうやらその者は、装置と連結している魔道具に映し出されているメーターを確認していたようで、半分ほどが赤く光っているそれを見て落胆していた。
「彼らは使い物にならず、肝心の勇者たちは、最初の1人がその特性なのかあまり吸い出せず、もう1人は何故か吸い出そうとする力が霧散してしまい、最後の1人は魔力を圧縮されてしまったせいで一回目の僅かしか集められなかった」
今回行われた模擬戦は、その者にとっては誤算尽くしであった。
確かに普通の生徒よりは効率が良かったが、特に意識する事もなく防がれてしまったために、僅かしか力を集められなかった。
「流石は勇者と言うべきなのでしょうが、これでは計画の延期を考えねばなりませんね」
その者は〝仕方ない″と割り切り、次の収集はどうするかと考えながら、その場を後にした。
〈和輝サイド〉
模擬戦が終わり、倒れたバルゴと和輝はすぐさま医療室に運ばれた。
とはいってもバルゴは精神疲労で気を失っているだけであり、和輝も魔力切れを起こしているだけなので、時間がたてば2人とも起きるはずである。
ちなみに剛は、和輝の試合が終わった直後に目を覚ました。
ボロボロだった体はティアの回復魔法のお陰で完治したので、今はピンピンしていた。
迅はもちろん無傷だったので、やる事はやったと言わんばかりに、先に寮へと戻っていった。
迅にぶっ飛ばされて1番重傷なカイトとタルバは、現在集中的に治療を受けている最中であった。
本当はティアが治した方が速いのだが、それはシルフィアが止めた。
「死ぬわけではないのですから、反省させるためにもこれでいいのです」
シルフィアはまだ許してはいないようだった。
治療を受けてから10分くらいたって、和輝とバルゴはほぼ同時に目を覚ました。
それでもいくらか気怠さは残っているようだったが、精神の疲労と魔力切れはティアでも治せるものではないので仕方なかった。
起きたバルゴはかなり悔しそうにしていたが、しっかりと約束は守るつもりらしく、明日にでも男子生徒に謝罪してくると言っていた。
「だが、これで終わりじゃねぇ。確かにお前は強かったが、次こそは絶対に勝つ!もう2度と慢心はしねぇし、この借りは必ず返してやる!」
どうやら今回の敗北で、バルゴはいい方向に火が着いたようだった。
和輝に対して獰猛な笑みで睨みつけて、啖呵をきっていた。
「望むところだ!僕だってこれからまだまだ強くなる!」
バルゴの啖呵に、和輝は好戦的な笑みを浮かべて返した。
その言葉を受けたバルゴは、和輝に対してひとつ鼻で笑うと、医療室から出ていった。
「ふん!いい気味なのです」
「シルフィア、そこまでにしときなさい」
「これで一件落着」
「あはは……穏便に済んで良かったね」
シルフィアが悪態をつき、ティアが苦笑しながらそれを止めて、繭はのんびりとしていて、凛はどこか疲れていた。
「あ〜あ、俺だけ負けちまったよ」
「時間も無かったんだし仕方ないさ。これから頑張れば大丈夫だ」
「そうだよ、本当は戦うこと自体がおかしいんだから、無理をしないようにするべきなんだよ」
「そうですよ。今日だって、和輝お兄さんたちが無事で本当に良かったです」
剛は落ち込んでいたが和輝に慰められ、麗奈と柑奈にはやんわりと注意されたが、仲の良い幼馴染に気にかけてもらって気を取り直した。
「そうだな……これから頑張ればいいか。よし!なぁ和輝、ちょっと俺に稽古をつけてくれよ。このままやられっぱなしなのは嫌だから、リベンジしたいんだよ」
「もちろん、任せてくれ。一緒に頑張って強くなろう!」
「おうよ!じゃあ早速手合わせしてくれ!」
「えっ?それはさすがにちょっと……」
剛はティアに完全に治してもらったから大丈夫だが、和輝はまだ疲れが全然取れていない状態だったので、すぐにやろうと言われてさすがに戸惑っていた。
「もう!ダメに決まってるでしょ!和輝くんはまだ疲れてるんだから、完全に治ってからじゃないとダメだよ!」
「そうですよツヨシさん。無理をすれば、ただ壊れてしまうだけですよ」
「わ、分かってるよ、つい焦っちまっただけだって」
「はははっ!剛は変わらないな、そういうところ」
麗奈とティアにキツく注意されて、情けない弁解をする脳筋であった。
そのあとは、和輝もある程度は回復したのでお開きとなり、後日に祝勝会をしようと決めて、それぞれが寮へと戻っていった。
〈シルフィアサイド〉
寮へ戻ったシルフィアは、ティアや繭たちと一緒に夕食を済ませてから、大浴場に向かった。
大浴場はかなり力を入れて作られたようで、王宮にも負けないのでは?と思うほどの広さを備えていた。
シルフィアたちは身体を洗い終えて、湯船に浸かりながら今日の模擬戦の事を話していた。
「一時はどうなることかと思ったけど、勝てて良かった」
「そうだねぇ、今思い返しても凄い試合だったよねぇ」
しみじみと呟かれた繭の言葉に、お風呂に浸かって弛緩している凛が、模擬戦を思い出しながら返答した。
「剛くんは残念だったけど、ジンくんと和輝くんが頑張ってくれたもんね」
「和輝お兄さんかっこ良かったよね、お姉ちゃん!」
「ツヨシさんとカズキさんにとっては、とても有意義な模擬戦になったでしょうね。ジンさんはどうなのか分かりませんが」
「あの様子だと、全然物足りなかったと思いますわ、お姉様」
剛は能力の発現、和輝は能力の特性を把握することが出来たのだから、実りが大きい模擬戦だったのは間違いない。
だが、迅にとってはお遊びとも言えない程度だったのは確かで、子供を相手にする程度だったのかも怪しい。
その結果、身体強化しか見れなかったシルフィアは少し不満を抱いていた。
(たったあれだけでは全く分かりませんでしたが、力を抑えていたのは確実ですわね。……もっと見せてくれれば良かったのに)
落胆した気持ちを隠せずに、鼻の下までお湯に浸かるシルフィア。
「うふふ、物足りなかったのはシルフィアもみたいね」
「……えっ?」
「気付いてないの?今のあなた、不満しかありませんって顔をしてるわよ。もっと見せて欲しかったって思ってるのでしょ?」
姉に指摘されて、つい顔に手を当ててしまうシルフィア。
「ジンさんにお願いすれば、色々と見せてもらえるんじゃないかしら?」
「こ、これは違うんですお姉様!」
「んふふ〜、もう、可愛いんだから〜」
指摘されて慌てるシルフィアが可愛いくて、後ろから抱きしめにかかるティア。
「だから違うんです〜!助けてくださいカンナ〜!」
抱きしめてくる姉の腕をくぐり抜けて、柑奈の方に逃げるシルフィア。
「ちょっとやり過ぎちゃったかしら?」
からかいすぎた事に少し反省しつつも、シルフィアの珍しい態度に嬉しくなってしまうティアだった。
〈迅サイド〉
模擬戦のあとはすぐに寮へと戻ってきた迅は、消化不良だというサラレスとセイドラのために、精神世界の中に迅が今まで戦ってきた相手を創り出して遊ばせていた。
精神世界の中ではどれだけ暴れても被害が出ないので、2人は全力で動き回っていた。
敵の行動に関しては相手と戦った時の動きを再現させてあるので、それなりに楽しめるはずである。
その間に、迅は早めの夕食と風呂を済ませて自分の部屋に戻り、ベッドで横になった。
「ふぁ〜あ、明日からどうすっかなぁ」
今日の模擬戦のおかげで勇者たちは早くも成長しそうだが、それの特訓に付き合うか、今日の妨害した奴を突き止めるかで迷っている迅。
「できるだけ、トラブルは勇者たちに片付けてほしいんだがなぁ。でも今はあいつらだけで成長はできるだろうし、ここは妨害の件を調べてみるかな?」
迅がこれからの行動を決めかねていると、精神世界で暴れていたサラレスとセイドラが、疲れ切った状態で実体化した。
「つ、疲れたぁ。最後のやつ、燃やせないし硬すぎだよぉ」
「はぁ、はぁ……キリが無いです。いくら凍らせても復活できるなんて……」
2人は別々の精神世界で競うように倒し続けていたので、2人と相性が最悪な敵を選んで出したみたのだが、倒れ伏している2人を見るぶんにかなり堪えているようだった。
「おう、お疲れさん。最後のやつは相性が悪いのによく倒せたな」
「あ、あれって相性が悪いっていう問題なのかなぁ?」
「いいえ、絶対に違います。あれは単純に強すぎるんです」
「……次の時に是非ともオススメしたいやつがあるんだが「「結構です‼︎」」……分かったよ」
トラウマにでもなってしまったのだろうか。
オススメのやつを勧めようとしたら速攻で拒否されてしまった迅。
「厄介なのはたまにしか出さないようにしとくけど、ある程度は慣れておかないとあとで大変だぞ?」
「それはもちろん分かってるよ」
「私だって苦戦したままでいるつもりはありません」
2人は強い意志のこもった瞳を迅に向けて、そう断言した。
迅は少しだけ心配になって聞いてみたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「さすがは上位精霊、頼もしいな。じゃあ早速、明日は少し調べものをするからよろしくな」
「調べものって何をやるの?」
「もしかして、妨害の件ですか?」
「その通りだ。とは言っても、吸われた力がどこにあるのかと、何に使われるのかを調べるだけだ」
「へ?それだけなの?」
「潰した方がいいんじゃないですか?」
迅が特に何もするつもりは無いようだったので、そこに疑問を浮かべる2人。
「もちろん、本当にヤバいやつだったら潰すさ。だけど、可能な限りは勇者たちに対処させるつもりなんだよ。ちょうどいい実戦になりそうだからな」
「ふ〜ん、でもあの人たちで大丈夫なのかな?」
「そうですね、能力自体は強いみたいですけど、ただそれだけですから」
2人は遠回しに、まともに戦えない勇者たちでは荷が重いと告げてくる。
「まぁ、そう思うのは分かるがなんとかなるだろ。確かに今はダメかもしれないけど、少し戦闘をこなすだけでもかなり成長するはずだ。勇者として召喚された以上、かなりのスペックは持ってるはずだからな」
「へぇ、でもまぁいっかー。もし勇者たちがダメでも―――」
「私たちで事を済ませればいいだけですから」
「まぁ、そうなるな。しばらくはどこまでやれるのか高みの見物だが、俺たちも手伝いくらいはするつもりでいるからな。まずは明日の調べものを済ませておこうか」
「はーい!」
「任せてください」
改めて2人に方針を告げて、早めの就寝に入った迅たちであった。
次は5月2日の0時に更新します。
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