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異世界放浪者の神話決戦記  作者: 灰ライト
学院編
12/77

模擬戦・3試合目

最後は和輝vsバルゴです。

 〈シルフィアサイド〉


「……凄い」


 繭がポツリとそう呟いた。

訓練場内では未だに歓声が響いているが、ベンチにいる和輝たちは、迅がタルバを殴り飛ばした事に誰もが言葉を発せないでいた。


 そして中央では、迅はすでにこっちに歩き始めており、少ししてチャーリーも我を取り戻し、タルバの様子を見に走っていった。

カイトも巻き添えに壁に突っ込んだので、恐らく2人とも重傷であることが伺える。


「……今のは身体強化に見えましたけど、まさかここまでの威力を出せるなんて驚きですね。どの魔法であっても使い手によって色々と変化は出ますけど、ジンさんの場合は身体強化に特化しているのでしょうか?」


 いち早くティアが正気を取り戻して、迅の身体強化へ当然の疑問を浮かべた。


 確かにこの世界にも、勇者ではないのに規格外の力を持っている者はいくらかいるのだが、大抵は魂剣(ソウルアーツ)の能力特化によるものが多いのである。

だからこそ魔法に特化しているのは中々珍しいものだった。


「……まさか、ここまでとは思いませんでしたわ。これで魂剣が覚醒したら、どれほど強くなるんでしょう……」


「確かにこれは凄い。人が飛んでいくなんて初めて見た」


 シルフィアは迅のこれからの成長を予想して驚愕しており、繭はどこかズレた感想を漏らしていて、信じられない光景を目の当たりにしたのに目をキラキラさせていた。


「ね、ねぇ、相手の人、大丈夫なのかなぁ?」


 あまりの惨状に、つい不安になって相手を心配する凛。

それに答えたのは、歩いて戻ってきた迅だった。


「そんなに心配しなくても、あれくらいなら死にはしないだろ」


「お疲れ様、ジン!これで首の皮一枚繋がったよ、ありがとう!」


「いえ、カズキさ「結局はお前が勝たなきゃ意味がないんだから、浮かれんなよ」


 ティアが〝もう大丈夫″と言おうとしたところで割って入る迅。


「ああ、もちろんさ!あとは僕に任せて、ゆっくり休んでてくれ!」


「はいよ。まぁ、頑張ってこい。そうだ、1つだけ助言してやるよ。力が抜けるような感覚があったら、すぐにお前の剣に魔力をキツく纏わせてみな」


「分かった、その時にはそうするよ。……よしっ!それじゃあ、いってくる!」


「和輝くん、頑張ってね!」


「和輝お兄さん、応援してますから!」


「無理はしないでくださいね、カズキさん」


「おう!」


 迅から助言を受けた和輝は心の中で自分を鼓舞すると、木原姉妹とティアの声援を背に受けて中央に走っていった。


「……ジンさんは人が悪いんですのね。もう戦わなくても大丈夫だというのに」


「別に悪くはないだろ?神崎にとってもいい経験になるし、それに何より、ここであいつらを叩きのめしとかないとまた後で突っかかってくるからな」


 苦笑いしながら失礼な事を言ってくるティアに、ベンチに座りながらちゃんとした理由を返す迅。


「ジンさんの言うとおりですわ、お姉様。私もあの手のヤカラとはあまり接したくありませんもの」


「ん、レディを物扱いしたことを後悔させるべき」


 男嫌いのシルフィアと、賭けの景品にされて密かに怒っていた繭も強い眼差しで迅に同調していた。

繭と意気投合している可愛い妹の相変わらずさに、ついため息をついてしまうティア。


「……まぁ、経験するのは大事ですからね。そういうことにしましょう」


「本音を言ったらどうだ姫さん。ぶっ飛ばしたいって」


「……ジンさん、私が言えないのを分かってて言ってますよね?」


「まぁな、からかって悪かったよ」


 迅は頭を痛そうにしてたティアを少し笑いながら、ついからかってしまった。

それに対してジト目で返したティア。

迅が言うほどの怒りではないが、ティアも腹に据えかねていたのだった。


「まったく、そう思うのなら最初からしないでください。ほらジンさん、治療しますからおとなしくしててください」


 からかわれたのに、律儀に迅の治療をしようとするティア。


(難儀な性格してんなぁ)


 結構なお人好しのティアに、迅はつい苦笑してしまった。


「ケガなんかしてないから大丈夫だぞ、姫さん」


「ケガはしてなくてもあれだけ攻撃を受けたのですから、精神は相当疲れてるはずですよね?回復魔法では精神は癒せませんけど、少しは楽になりますよ」


「精神も問題ないぞ。あの程度じゃ、不意をつかれたってかゆくもないからな」


「え?でもそれじゃ、ジンさんの魂剣の弱さの説明がつかないのですけど。精神や魂の強さがそのまま魂剣の強さに反映されるのですから……もしかして、わざと抑えていたんですか?」


 やっとその考えに至ったティアが、まるで信じられないというように迅に尋ねてくる。


「ああ、魂剣が通用しないのをアピールして、直接殴れるようにしたんだよ。ちなみにベンチの方に飛ばしたのもわざとだ。どうせなら全員潰したかったからな」


 ニヤリと悪い笑みを浮かべて説明してくる迅に対して、ティアは更に頭が痛くなる思いだった。


「そんなに気にするなよ、姫さん。向こうが最初に使ってきたんだからな、どう考えても自業自得だ」


「ジンさんの言う通りですわお姉様。それよりもジンさん、貴方のその斬られた跡とカズキさんへの助言は、やっぱり何か不正があったからですの?」


 シルフィアはさすがの男嫌いで迅に同調し、その話よりも自分が試合中に感じた違和感の事を迅に聞き出した。


「ジンさん、そうなのですか?」


「あぁ、その通りだ。魂剣からは力を吸われるし、中央にはあちこちに罠が仕掛けられてた。罠の方は恐らく最初に出てきた奴の能力だろうな」


「え⁉︎それなら今すぐに先生に訴えなきゃ!」


 迅の言葉を聞いて、中央に向かって行った和輝を見ていた麗奈が声を上げる。


「悪いがそれはダメだ、神崎の訓練にならないからな。まぁ安心しろよ、罠を仕掛けた本人は潰したからな。能力は完全に解除されてるし、力を吸われてもすぐに魔力を纏えば大丈夫だ」


「う〜ん、分かった……」


 麗奈は和輝を心配して先生に言おうとしたが、迅に却下されてしまった。

だが、そのことに反論する前に迅に大丈夫だと説得されて、麗奈は渋々ではあるが納得した。


「そろそろ始まりますね」


 ティアが言うとおりに、中央では和輝とバルゴが互いに離れ始めていた。

それに少し遅れて、チャーリーもカイトとタルバを医療室に運ぶ指示を出して戻ってきた。




 〈和輝サイド〉


 互いに離れてチャーリーの合図を待っている間、和輝は迅に言われた事を思い返していた。


(ジンは力が抜ける感覚があったら、すぐに剣に魔力を纏えと言っていた。つまり、何者かの妨害を受けるという事だ。ジンはその不利な状態で圧倒的に勝った。なら、僕もここで勝てなければ前に進めない!)


 勇者という期待を背負っている今、早く強くならなければという意志を持っていた和輝。


「両者ともに準備はいいかな?それでは最終戦、試合開始!」


「ふん!すぐに終わらせてやるぜ!」


「頼む、僕に力を貸してくれ!ゼヴォルス!」


 試合開始と同時に、2人とも互いの魂剣を取り出した。

和輝のゼヴォルスは、まるで本人の想いに応えるように、目に見えるほどのバチバチと白く光る電流が走っていた。

そのゼヴォルスにかなりの威圧感を感じ取ったバルゴは、余裕な態度を一変して真剣な表情になった。


「行くぞっ!」


「ベトラ、纏え」


 互いに突っ込んで斬り結ぶと、周りに衝撃波が散った。

和輝のゼヴォルスは放電をしながら衝突しているのだが、バルゴには全く効いていなかった。

その原因はバルゴの大剣にあり、バルゴが魂剣に指示した途端に、剣の先から肩の部分まで岩に覆われていたのだった。


「ぐっ!重い!」


「なんだなんだ?少しは警戒したが、まさかこの程度だったとはな。ほら、俺を倒すんだろ?やってみろよ!」


 斬り結んでいた状態から、バルゴがゼヴォルスを(はじ)いて横薙ぎに剣を振るった。


「くっ!」


 和輝は弾かれた剣をすぐに戻して受けるが、ギリギリだったのであまり力が入っておらず、そのまま弾き飛ばされ倒されてしまう。

そして、立ち上がる前に迫ってきたバルゴが大剣を振り下ろしてきた。

なんとかそれを横に転がり避けるが、立て直す暇もなくバルゴが斬り続けてきていた。


「チッ!ちょこまかと!これで、どうだ!」


 バルゴは転がる和輝を追って斬るのではなく、大剣を地面につけて斬り払い、砂埃を飛ばした。

それに堪らず目を瞑って手で庇ったが、全く動けなかった和輝はバルゴの接近を許してしまった。


「ハッハァ!」


「ぐあっ!」


 砂埃で和輝自体が見えるのがギリギリになったおかげで、運良く前に掲げていたゼヴォルスに当たり、少し軌道が逸れて左の脇腹を大剣が通過していった。

なんとか急所は外れたが、初めて精神を揺さぶられてクラッときてしまう和輝。

そこに全く間を空けずにバルゴが突っ込む。


「これで終わりだ!くたばれ!」


「うぐっ!ゼヴォルス!」


 和輝がふらつきながらもゼヴォルスの名を呼んだ瞬間に、突っ込みかけていたバルゴの目の前にさっきの電流よりも強い小さな雷が突き刺さった。


「なにっ⁉︎」


 当たってはいないものの、バルゴの攻撃を止めることに成功した和輝は、なんとか精神を持ち直して距離をとった。


「はぁ、はぁ、……強い!」


「ふん!剣の能力に助けられたな。だが諦めろ、お前の能力は俺とは相性が悪過ぎた。お前の能力じゃ、俺にはダメージを与えられない」


(確かに剣と腕には無理だろう……なら、覆われていない体を狙うまで!)


 今度は和輝の方から突っ込み、剣を上段に構えて振り下ろした。

バルゴはそれを剣で受け止めようとした。

しかし、和輝はバルゴの剣に当たる直前にしゃがみこむように姿勢を低くして、抜け駆けざまにバルゴの胴を真一文字に斬りつけた。


「なにっ⁉︎」


 ズバンッ!


 無理な体勢だったのであまり力が入っていなかったが、雷を纏っているゼヴォルスの威力は相当なものだった。

だが、体勢を立て直しつつ振り向いた和輝の顔は、先程よりも険しい表情を浮かべていた。

その理由は、バルゴの胴を見れば一目瞭然だった。

さっきまで何も無かった胴体に、岩がビッシリと張り付いていたのだ。


「なぁ〜んてな。こんな分かりやすい弱点を残しておく訳がねぇだろ。俺は体全体を岩で覆うことができるのさ」


「くそっ!」


「ハハハハハッ!いいぜ、その顔。これでよく分かっただろ。お前は俺には勝てない。だが誇っていいぜ、Fクラスの分際で俺にここまで能力を使わせたんだからなぁ」


 バルゴが嘲笑してくるなか、和輝はまだ諦めずにいた。


(まだだ!だがどうする⁉︎どうすればいい!何か、何か手はないのかっ!)


 必死にバルゴの攻略法を考えるが、一向にいい案が出てこなかった。


「さて、そろそろ終わりにしようか」


 そう口にしたバルゴは、体の半分ほどを岩で覆っているにも関わらず、全く重さを感じさせない勢いで和輝に斬りかかった。

力では敵わないために、和輝は後ろに飛ぼうとした。

その時、いきなり急激に力が抜けてしまい、意識が一瞬だけ飛びかけて後ろに倒れてしまった。

しかし、意識が飛んだのは一瞬の事で、倒れたことによりバルゴの剣を躱すことはできた。

そして倒れてからすぐに体を起こして、バルゴから距離をとった。


(くっ!今のがジンが言っていたことか!でも、対処法は教えてもらっている!)


 和輝はすぐに魔力を剣に纏わせて圧縮した。

すると、和輝の魔力に共鳴したのか、ゼヴォルスの放っていた電流が更に勢いを増して放電し、さっきまで白かった電流は、ハッキリと区別がつく程に黄色く変色していた。


「こ、これは……」


「チッ!それがお前の本当の能力か。だが無駄だ!お前の能力じゃ、どれだけ強化しても俺のこの守りは崩せる訳がねぇ!」


「いや、やってみせる!」


 2人は決着をつけるべく同時に走りだした。

バルゴは岩を更に厚く纏わせていき、対する和輝はゼヴォルスの電撃を無意識に収束させて、互いに剣を衝突させた。


 バゴォォン‼︎


「なっ⁉︎」


 互いに衝突させた剣は拮抗することなく、ゼヴォルスがバルゴのベトラを岩ごと粉砕した。

そして、和輝は振り抜いた剣を返して、バルゴの胴を横薙ぎに払った。


 ズガァァン‼︎


 斬られた岩の鎧は完全に砕け散り、その奥に守られていた体はなす術なく斬られていった。


「バカな……この俺が……こんな……やつ、に……」


 バルゴはその場にドサッと倒れ、和輝は慣れない魔力の使い過ぎで息を荒げながら、倒れたバルゴに目を向けて告げた。


「僕の……勝ちだ!」


 そして、チャーリーが倒れたバルゴに近寄って状態を確認する。


「これまで!この試合はカズキ君の勝利です!」


 チャーリーが宣言をした直後、訓練場は大歓声に包まれた。

その歓声を聞いてホッとしたのか、和輝は仰向けに倒れていった。


(なんとか勝てて良かった。今日は本当に……疲れたなぁ)


 魔力切れで動けなくなった和輝は、やりきった達成感を感じながら、意識を落としていった。

和輝たちはほぼ初めての戦闘ですが、勇者というチートはこれくらいあってもいいかなと思いました。


それから、GWに合わせて1日おきの連続投稿をします。

なので次回は4月30日の0時に更新となりますので、よろしくお願いします。


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