模擬戦・2試合目
いよいよ迅の試合となります。
剛vsカイトの試合は、カイトの勝利で終わった。
そのはずなのだが、未だにチャーリー先生が宣言をしていなかった。
終わったと思ったから出てきた迅だが、何か嫌な予感がしたので早めに歩くことにした。
カイトはやっと持ち直したようで、ゆっくりと立ち上がっていった。
すると、剛の衝撃波を受けた際に落としていたエテジアンを拾ったかと思うと、剛に向かって進み始めた。
「よくもやってくれたな……この、三下がぁっ!」
カイトはいきなり叫んだと思ったら、すでに動けない剛に向かって斬りかかった。
ガキィィン!
「そこまでだ、こいつはもう戦えないだろうが」
あと少しで斬られるというところで、迅が隠蔽状態のサラレスでカイトの剣を受け止めていた。
「あんたも止めるくらいはしても良かったんじゃねぇのか?なぁ、チャーリー先生。どう見てもこいつは、もう意識を持ってないだろ」
「ふむ、一時的に倒れてるだけかと思いましたがそうではないようですね。いやぁ、気付くのが遅れてすまないね。この試合はカイト君の勝利です」
白々しく、まるで今気づいたとでもいうようにカイトの勝利を告げるチャーリー。
その言葉を聞いて少しは理性が戻ったのか、剛と迅を睨みつつも、エテジアンをしまい自分のベンチに戻っていくカイト。
それを見送ってから、迅も剛を担いでベンチに戻っていった。
「大丈夫か、剛!しっかりしろ!」
「ケガが酷いからな、早めに手当てをした方がいい。俺はこの後すぐに試合だから、神崎が医療室まで連れていってやれ」
「わ、分かった!」
「いえ、ここは私に任せてください」
迅は剛をベンチに寝かせて、和輝に手当てのための指示を出したが、そこでティアが待ったをかけた。
「力を貸して、ウンディーネ!」
ティアが自分の魂剣を呼ぶと、その手には長杖が握られていた。
氷で出来てるように見えるそれは、先端の方に青い珠が埋め込まれていて、和輝のゼヴォルスよりも厳かで圧倒的なオーラを放っていた。
「『水精霊の聖水よ、かの者に癒しを、ヒーリングヴェール!』」
ティアが呪文を唱えると、青い珠がサファイアのように輝きだし、杖の先端から大量の水が出てきた。
すると、それは生き物のように動き、剛の体全体を包み込んだ。
「ふぅ、これで大丈夫です。30分もすればほぼ全快になりますよ」
「本当かい⁉︎ありがとう、ティア!」
「さすがはお姉様ですわ!」
「へぇ、癒しの水か。それも短時間で済むなんて、Aクラスは伊達じゃないってことか」
ティアが使ったのは、回復魔法を魂剣でブーストして追加効果を付与するという、ティアのオリジナル魔法だった。
もちろん水に包まれていても呼吸ができる優れ物であるため、一気に体全体を治すことができる。
通常の回復魔法であればキズを塞ぐことは出来ても、折れた骨を真っ直ぐに戻してかろうじて動かせるというのが関の山である。
そして、治療期間も最低1週間は定期的に回復魔法を使わなければならないので、ティアの魔法の強力さがよく分かる。
だからこそ迅も、ティアの能力の高さには驚きであった。
「さて、それじゃあ解決したことだし、俺は行くとするかね」
剛の治療が済んだので、迅は試合のために中央に戻ろうとした。
「ジンさん、これ以上お姉様の手を煩わせないでくださいね!」
「へーい」
「もう!本当に大丈夫なんですの⁉︎」
またシルフィアがおちょくるように言ってきたので、適当に返事をしながら歩いて行く迅。
(さてと、この後のためにも、せめて罠はどうにかしておかないとな)
迅はこの後の和輝の試合でなるべく妨害を受けないようにするつもりとはいえ、特に緊張することもなくゆっくりと中央に向かっていった。
〈シルフィアサイド〉
「もう!本当にあの方は分かってるのかしら……」
せっかく声をかけてあげたというのに、適当に返されたシルフィアはそう呟いていた。
「うふふ、珍しいですね。シルフィアが殿方の事を心配するなんて」
「お姉様!違いますわ、私はあの方がちゃんとやってくれるのかが不安なだけで、別に心配してる訳ではありませんわ!」
男嫌いな妹が、男に興味を持ってくれた事を嬉しそうにしてるティア。
しかし、それはキッパリと反論されてしまった。
確かに節操は大事だが、近づく男にはとことん冷たい対応をする妹に、少しくらいは柔らかくなってくれないかなと思ってるティア。
そんなところに、妹が初めて自分から接していった男が出てきたのだ。
それが迅なのだが、一体何があったのかと考えるティア。
今回の試合での取り決めの時に迅の提案に賭けたのも、シルフィアからの推薦があったからである。
実はティアとシルフィアは、魂剣の性質の相性と姉妹という共通点のお陰か、互いに対してだけの念話が使えるのである。
もちろん、距離に制限はあるものの、シルフィアはその念話を使って、迅のこの試合での要求を聞いた時に、ティアに『この話しに乗るべきだ』と伝えたのである。
他ならぬ妹からの推薦だったので、ティアはとくに迷わず迅の考えに乗る事にしたのだ。
「ねぇ、シルフィア。なぜジンさんに乗るべきだと思ったの?」
妹を信じてはいても、それでも気になるのでティアは理由を聞いてみた。
「理由は2つあります。1つは食堂でバルゴを圧倒した事、もう1つはあの方の言葉に重みがあった事です。私は本格的な実戦はしておりませんが、あの方には戦いに関する確固たる自信の根拠があると感じました」
「なるほど、そういう訳だったのですね。それにしてもシルフィアがそう感じるという事は、ジンさんはとてつもない経験をされているかもしれませんね」
「はい、私もそう思います。私が王族と知っても何も反応されなかったですし、他の殿方と違って下心を感じませんでした。……それどころか、私をまるでそこらの子供みたいに扱ってきましたわ」
さすがは王族というべきの観察眼で、迅の大体の事を把握してしまう王女姉妹。
だが、迅の自分に対する態度につい不満を漏らすシルフィア。
「んふふ〜、そうなの〜、シルフィアはジンさんにちゃんと1人の女として扱ってほしいという訳なのね〜」
初めて見る妹の反応に、ついついからかってしまうティア。
「もう!違いますわお姉様!い、いえ、確かにちゃんと対応はしてほしいのですが、そういう意味ではありませんわ!」
「うふふ、ごめんなさい。あなたがそんな反応を見せるなんて初めてだからついね」
そんなこんなで話していると準備が出来たようで、迅とタルバがそれぞれ離れていった。
「いよいよ始まりますね」
「そうですね、お姉様」
(殿方に対して初めて興味を持てた方。この試合で、あの方の何が気になっているのか分かるのでしょうか……)
シルフィアにとって初めての経験なので、迅に何を感じたのかを見極めるべく、中央にいる迅に真剣な瞳を向けていた。
その瞳の中には、何かに期待するかのような感情が込められているようだった。
〈迅サイド〉
ベンチから中央に戻ってくると、相手であるタルバはすでに待機していた。
「よぉ、オトモダチは大丈夫だったのか?でもあれは自業自得だよなぁ。身の程もわきまえずに俺らに歯向かってきたんだからよ。お前も痛い目に遭いたくなかったら今のうちだぜ、始まってからだと加減ができねぇからなぁ!」
この手の人種は人を煽らないと生きていけないのだろうか。
迅に対してこれでもかという程に煽ってくるタルバ。
(こいつは昼のやりとりを忘れたのか?ま、どうでもいいか、相手にする価値は無いしな)
「準備できたんだったら始めてくれよ先生。これ以上は時間の無駄だからな」
「おい!聞いてんのかよテメェ!」
ちょっと無視しただけでキレてくるタルバに、迅は呆れながら距離をとり始めた。
「あの野郎、ふざけやがって!絶対にぶっ潰してやる!」
文句を言いつつタルバも離れていき、互いが位置についた。
「それでは準備はいいですね。では、試合開始!」
「くたばれや、オラァァァッ!」
開始と同時にハンマーのような魂剣を出して突撃してくるタルバ。
迅はそれを冷静に見据えながら、自分も右手にサラレス、左手にセイドラを出した。
『サラレス、セイドラ、お前らも極限まで力を抑えてくれ』
『はーい!』
『分かりました』
迅は2人にも協力してもらって隠蔽状態を強化したうえに、力も極限まで抑えた。
その僅か数秒の間に距離を詰めてきたタルバが、ハンマーのような物を次から次へと振るってきた。
しかし、何も強化してない状態でも余裕で視えていたので、迅は軽々と躱していきながら、すれ違いざまにタルバの首と胴を斬りつけた。
「っ⁉︎……オイオイ、全然効かねぇぞ!ははははっ!非力な奴め!」
斬りつけられたタルバはピンピンしていた。
全力で力を抑えて斬ったので当たり前なのだが、この結果は迅の狙い通りだった。
その後も何回も斬りつけて効果を出さないままを続けると、タルバはほぼ全くダメージを負ってないのだが、迅が攻撃を完璧に避け続けているので徐々にイラついてきていた。
「くっそ!弱いくせにちょこまかと動きやがって!」
また大振りしてきたので、すれ違いながら斬りつける迅。
(こいつはやりやすくていいが……ちょっと鬱陶しいな)
先ほどから迅は、タルバよりももう1つの問題の方を気にしていた。
「……もういい、いい加減終わりにしてやるよ!」
いよいよ痺れを切らしたタルバが、身体強化をより強くかけて突撃してきた。
荒々しい魔力を全身に纏いながら突っ込んできて、さっきよりも速くハンマーが繰り出されてきたのだが、それでもまだ迅には余裕があった。
その証拠に、次から次へと振るわれるハンマーを軽々と躱し続けていた。
そして、上から振り下ろしてきた攻撃を横に避けた時にそれは起こった。
ビリッ!ビリッ!
確実に避けたはずなのに、迅の背中と右脚の服が破れた音であった。
その後も攻撃を躱すたびに、迅の体に斬られた跡がいくつも作られていった。
(まさか俺に使ってくるとはな……埒があかないと思ったのか?)
迅の服がいきなり破れたのは、タルバの攻撃が原因ではなかった。
この攻撃は明らかにカイトのカマイタチによる斬撃であった。
これこそが迅には視えていた罠であり、向こうが自信満々な理由でもあった。
しかし、向こうはしてやったりなのだろうが、迅にはこの程度の攻撃は全く効いていなかった。
ちなみに、これはカイトが訓練場のあちこちにカマイタチを作り出しておき、相手がそこを通ったら能力を発動させて斬りつけるというやり方である。
普通だったら簡単に分かるイカサマだが、やはりチャーリーは何も言わないようだった。
(まぁ予想はしてたし、そっちの方が都合がいいしな。こいつが能力を使ってこないのが気になるが……まぁいいか。さて、終わりにするかな)
タルバの振り下ろしてくるハンマーを、今度は後ろに大きく避けて距離をとった迅。
そして、自分の剣を二本とも地面に突き刺した。
「なんだ?降参する気にでもなったか?」
「いいや、キリがないから直接攻撃することにしたんだよ」
「ハッ!俺の身体強化を破れる訳がねぇだろ!テメェの拳が砕けるだけだ!」
タルバの言っている事を無視して、重心を落として構える迅。
一応、身体強化を使ってるのをアピールするために、自分の体に魔力を纏わせて、ボアを倒した時ほどの力で殴りかかった。
「ふっ!」
一瞬にしてタルバの目の前にせまった迅は、全く反応できておらずに笑ったままだったタルバの顔面を殴りつけた。
ゴガッ!
鈍い音を立てる程に強く殴られたタルバはその威力に吹っ飛んでしまい、迅の狙い通りにバルゴたちのベンチにいたカイト目掛けて突っ込んでいった。
ドゴーーンッ‼︎
(まぁ、こんなものかな)
結構な大惨事なのだが、クズ相手には特に気にしない迅であった。
だが、他はそうではなかったようで、観客や味方のベンチまでもが静かになっていた。
(えっ?まさかこの程度でもやり過ぎだったのか?)
誰もが息を呑んでいることに少し慌てた迅だったが、少しずつ歓声が聞こえ始め、最後には盛大な拍手喝采が訓練場内に鳴り響いた。
(う〜ん……大丈夫そうだが、これは身体強化も含めて、魔法とかの一般常識を調べた方がいいな)
〝暇な時間が出来たらそうしよう″と決意した迅であった。
この世界での魔法に関しては、これからの物語の中で説明を入れていくつもりです。
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