模擬戦・1試合目
模擬戦は3話で分けさせていただきます。
それぞれがベンチに入り、チャーリー先生が訓練場の防御結界の準備が終わるのを待っている時だった。
「ティア、あれでよかったのかい?本来は君たちは何も関係無かったのに、あんな事を決めてしまって」
和輝がさっきの条件で決まった事に不安を持っているようで、ティアに尋ねていた。
「えぇ、大丈夫ですよ。カズキさんたちは負ける気は無いのですよね?」
「それはもちろん、そうだけど……」
「なら大丈夫ですよ。カズキさんたちが勝てると信じていますので。それに保険もかけられましたので。ですよね?ジンさん」
「保険ってどういう事だい?」
和輝の不安をほぐして、その理由である迅に確信を持って話しかけるティア。
「さすがは姫さんだな、しっかり気付いていたか。まぁ、姫さんの考えている通りなんだが……よく、さっき知り合ったばかりの俺に乗ってきたな。俺が確実に勝てる保証がある訳でもないのに、何か確信でもあったのか?」
迅が打った保険とは、和輝たちが負けても迅さえ勝っていれば、バルゴたちがティアたちを好き勝手させるのを阻止できる事なのだが、ティアが乗った理由が分からないので、迅は話を振られて丁度いいので聞いてみた。
「そうですね、でもこれは試合に勝ったら教えることにします」
「……分かったよ」
いい笑顔でそんな事を言われてしまい、迅は苦笑いしてしまった。
「??結局なんだっていうんだ?」
今回の勇者の男共は、おつむが足りないようだった。
「それでは、準備が出来たので両チームの1人目は中央に来なさい!」
チャーリーの準備が整い、ついに試合の時がやってきた。
「おしっ!それじゃあ、まずは一勝をもぎ取ってくるぜ!」
「頑張れよ、剛!」
「おうよ!任せとけ!」
剛は訓練場の中央まで走っていった。
相手はカイトというちょっとクール気どりの奴が1番手のようだ。
2人は中央で何やら言葉を交わしてから、互いに10メートルずつ離れて、試合開始の合図を待っていた。
ちなみにこの訓練場は半径100メートルの円形になっていて、上は屋根が無い完全な吹き抜けになっており、下は土だがしっかりと整備されていた。
観客は結構な人数が入れるようになっており、最前列の壁は10メートルくらいの高さで、仮に壁の近くで戦闘になっても被害が出ないようになっている。
壁にはいくつかの宝珠が等間隔に埋め込まれていて、それに魔力を流し込めば、観客席を守る結界が作動するようになっている。
ここまでしっかりとした造りになってると、もはや闘技場のように感じる。
「両者準備はいいかな?それでは試合開始!」
観客が静かになってきたのを見計らって、チャーリーが開始を宣言した。
開始と同時に剛は籠手の魂剣、カイトは細剣の魂剣を出した。
まずは剛が全力で走りだし、カイトに殴りかかっていった。
しかし何度殴りかかっても、カイトはヒラヒラと避けてしまう。
「まったく、呆れた戦い方をしますね。いくら勇者といえど、所詮はFクラスということですね」
「何だとテメェ!避けるだけしかしてねぇくせに!」
カイトに指摘されて、更にガムシャラに殴りかかる剛。
「くそっ!全然当たらねぇ!」
「この際ですから、少しレクチャーして差し上げますよ。まずは……『風のつぶてよ、風弾!』」
「ぐふっ!」
カイトの放った風の初級魔法の『風弾』が、剛の腹に撃ち込まれた。
威力は通常の大人が全力で殴った程度しかない、魔法にしては威力が弱い攻撃なのだが、勇者としてのスペックで頑丈になっているとはいえ、攻めに集中していた剛はもろに食らってしまい、苦しそうに片膝をついてしまった。
「どうです?これが魔法ですよ。ではお次は、ほら!」
「ぐぅっ!」
カイトが無造作に細剣を振ったと思ったら、剛の胸が横一文字に斬られてしまった。
幻影形態なので剛に傷はないのだが、服はしっかりと斬られていた。
実はこの学院の制服は、幻影形態で攻撃した時に攻撃を受けた事が分かりやすくするために、制服も影響が出るように特殊加工がされているのだ。
しかし、カイトの細剣では確実に届かない距離だったのだが、服は斬られ、剛もしっかりと攻撃を受けているようで、精神にダメージを受けたことによってフラついていた。
「く、そっ!何で……いきなり……ぐっ!」
「なぁに、簡単な事ですよ。これが僕のエテジアンの力、カマイタチを起こせるのですよ。まぁ、残念ながら威力がイマイチなのですがね」
そう言って、カイトは剛に更に何回か斬りつけた。
だが、カイトの言う通りに剛は少し受けたら体が慣れたのか、気怠い感覚などが弱くなっており、全快とまではいかなくてもそれなりに動けるようになっていた。
しかし、相変わらず攻撃が全て躱されてしまい、自分は被弾し続けているので、少しずつだが剛の動きが鈍くなっていった。
そしてカイトが剛の攻撃を躱し、大きく距離を取った。
「やれやれ、このままでは持久戦になってしまいますね。仕方がありませんので、別のやり方で倒すとしましょうか」
そう言った次の瞬間に、カイトは猛スピードで突っ込み、剛の腹に拳を叩き込んだ。
ボグッ!
「ガハッ!」
反応が遅くなった剛は、嫌な音を立ててめり込んだ拳に、吐血しながら吹き飛ばされてしまった。
〈迅サイド〉
「なっ!あれは反則じゃないのか⁉︎」
和輝は相手が武器を使わずに直接攻撃した事に異議を唱えた。
しかし、それはティアに否定されてしまう。
「カズキさん、さっきの決めたルールには抵触していないので、反則ではありませんわ」
「まぁ、あれも織り込んであのルールにしたんだろうな」
「えぇ、そうでしょうね。そもそも身体強化の魔法に関しては、試合では使うのが前提みたいなものですからね。私としたことが、考えが甘かったですね……」
「武器は幻影形態のみだが、直接攻撃は問題無い訳だな。まぁ、それでも注意くらいはあってもいいと思うんだが……それも無いってことは、武器であまり有効打にならないんだったらアリということだな」
ティアは自分が気づけなかった事に歯噛みし、迅は淡々とルールの詳細を確認していた。
和輝と繭と凛、木原姉妹は不安な表情をしていて、シルフィアは姉を心配そうに見つめていた。
「……まだ、試合は終わってない。あいつなら……剛なら、きっとやってくれるさ」
和輝は剛なら大丈夫だと信じて、手を強く握り締めながら戦いを眺めていた。
(いや、ダメだろうな。圧倒的に経験が無さ過ぎる。1ヶ月もあれば分からなかったがな……)
迅の考え通りにせめて1ヶ月もあれば、勇者としてのスペックも合わさって、対応ぐらいは出来ていたはずなのである。
だが、今回はそれを見込めないために迅が頑張るしかないので、迅は試合を眺めつつも自分がどういう戦い方をするかと考え始めた。
〈剛サイド〉
「さて、もう格の違いも充分に理解したでしょうし、そろそろ終わりにしましょう」
「……はぁはぁ、……ち、く、……しょう!」
カイトは剛を殴り続けていた手を止めて、そう宣言した。
ひたすらに殴られ続けた剛の状態は酷いもので、右目は腫れ上がり左腕は骨が折れたのかダランとぶら下がっていて、全身は無事な所が見当たらないぐらいにボロボロになっていた。
「それでは、くたばりなさい!」
最後に情けをかけるためか、カイトはエテジアンを持って、すでに意識朦朧としている剛をカマイタチで何度も斬りつけた。
「くっそがああぁぁぁっ!」
剛は斬られるのもお構いなしに、最後の力を使い全力で正面に拳を突き出した。
すると剛の拳から衝撃波が放たれて、カイトの右脚を捉えた。
「うぐっ!」
右脚とはいえ、普通よりスペックが高い剛の攻撃をもらい、カイトは頭を大きく揺さぶられたような感覚を受けて、尻餅をついてしまった。
〈迅サイド〉
「今のは剛がやったのか⁉︎」
和輝は剛の籠手から衝撃波が放たれた事に驚いていた。
剛が無我夢中で使ったのは確かに魂剣の能力なので、この試合での1番の成果かもしれない。
「あれは確かにツヨシさんの魂剣の能力ですね。普通は能力を使えるようになるまでにかなり時間が掛かるのですが、さすがは勇者様ですね」
「ですがお姉様、あれを見てください」
ティアも驚いているなか、シルフィアに指摘されて倒れているカイトから剛に視線を戻すと、剛は少しフラフラしたと思ったらうつ伏せに倒れてしまった。
「……ここまでだな、それじゃあ行きますかね」
剛がもう戦えないのを確認して、迅は立ち上がりベンチから出て訓練場の中央に歩いていった。
この作品はバトル物として書いているので、できればバトルに関しての感想が欲しいです。
ちなみに、読みやすくて迫力のあるものを目指しています。
それから、これで10話分まで投稿しましたので、申し訳ないですが次からは毎週土曜日の更新とさせていただきます。
感想やレビューをお待ちしています。




