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ARK ZERO  作者: 松茸の香料


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6/7

ZEro

「……来い。」


 半信半疑で言ってみる。


 ガード型は一拍遅れて歩き出した。


 ガシャン。


 ガシャン。


 重い足音を響かせながら、俺の後ろをついてくる。


「本当に来るのか……。」


 立ち止まる。


 ガード型も止まる。


 右へ曲がる。


 ガード型も右へ。


 振り返るたび、一定の距離を保ってついてくるその姿に、現実味がなかった。


(ゲームのNPCみたいだ……。)


 いや。


 違う。


 ゲームのNPCよりも自然だ。


 まるで、自分の意思で俺に従っているように見える。


 周囲の人たちは遠巻きにこちらを見ていた。


「あの子……。」


「ロボットを連れてるぞ。」


「警察を呼べ!」


「いや、近付くな!」


 無理もない。


 数分前まで人を襲っていた化け物が、俺の後ろを歩いているのだから。


 スマホを見る。


 高橋からの位置情報。


 ここから走れば十分ほど。


 俺は息を吐いた。


「行くぞ。」


 ガード型は何も言わず、再び歩き始めた。


 ◇


 途中、小さな交差点へ差しかかる。


 そこで俺は足を止めた。


「少し試させてもらう。」


 ガード型へ向き直る。


「ここで待機。」


 ガード型はその場で停止した。


 微動だにしない。


 俺は十メートルほど離れる。


 それでも動かない。


 二十メートル。


 三十メートル。


 まだ動かない。


「……待機命令は維持されるのか。」


 考察癖が自然と出る。


 さらに離れようとした、その時だった。


 ピッ。


 頭の奥で電子音が鳴った気がした。


 ガード型がこちらを見る。


 そして。


 一歩。


 また一歩。


 歩き始めた。


「距離制限……?」


 百メートル近く離れたところで、自動的について来た。


 ゲームにはなかった挙動だ。


(命令には限界がある。)


 その一つだけでも、大きな収穫だった。


 ◇


 夜道を急ぐ。


 遠くではまだ爆発音が聞こえる。


 救急車。


 パトカー。


 ヘリコプター。


 街全体が混乱していた。


 そんな中。


 ガード型は一言も発しない。


 ただ静かについてくる。


「……喋れたりするのか?」


 聞いてみる。


 返事はない。


「名前は?」


 沈黙。


 やっぱりか。


 ゲームでも敵に名前なんてなかった。


 個体番号だけ。


 その時。


 ふと考える。


「このままじゃ呼びにくいな。」


 ガード型を見上げる。


 青い単眼が俺を見返した。


「お前。」


「今日から……ゼロだ。」


 数秒の沈黙。


 そして。


 ガード型の胸部が一度だけ淡く光る。


 ピッ。


 電子音。


 それだけだった。


 だが。


 なぜか俺には。


 了承したように思えた。


「……よろしくな、ゼロ。」


 ゼロは静かに一歩前へ出た。


 その瞬間だった。


 ガコン。


 ゼロの頭部が素早く右を向く。


 初めて自分から動いた。


「どうした?」


 ゼロは道路脇のビルを見つめたまま動かない。


 耳を澄ます。


 何も聞こえない。


 しかし次の瞬間。


 ガラスが砕け散った。


 バリンッ!!


 二階の窓を突き破り、黒い影が飛び出してくる。


 四足歩行。


 細長い身体。


 刃のような前脚。


 そして、赤く光る単眼。


「……ハンター型!」


 ゲーム序盤最大の初心者キラー。


 ガード型より速く。


 ガード型より凶暴。


 単独行動に特化した機兵。


 そのハンター型は、真っ直ぐ俺へ飛び掛かってきた。


 だが。


 ドゴォン!!


 銀色の巨体が割り込む。


 ゼロだった。


 盾を構え、俺の前へ立つ。


 ハンター型の爪が盾を削る。


 火花が散る。


 それでもゼロは一歩も退かなかった。


 俺は息を呑む。


(俺を……守った。)


 命令していない。


 それなのに。


 ゼロは自分の意思で。


 俺を庇った。


 ゲームでは絶対にあり得なかった行動だった。


 静かな夜に、二体の機兵が睨み合う。


 そして俺は悟る。


 RE:BOOTで仲間になった機兵は、ただ命令を聞くだけじゃない。


 自ら考え、行動している。


 その事実が、この能力の本当の意味を少しだけ教えてくれた。


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