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ARK ZERO  作者: 松茸の香料


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5/7

青い瞳

 ガード型の胸部コアから溢れ出した青い光は、静かに全身へ広がっていった。


 ピッ……


 ピッ……


 規則正しい電子音だけが夜の住宅街に響く。


 誰も動けない。


 俺も。


 周囲で避難していた人たちも。


 ただ、その巨体を見つめていた。


「……何が起きてる。」


 喉が渇く。


 視界の端では、半透明のウィンドウが淡く光っている。


> 《RE:BOOT 実行中》


 たった一行。


 それ以外は何も表示されない。


「リブート……。」


 そんなスキルは知らない。


 ARK ZEROを八年間遊んできた。


 攻略本も。


 データ解析も。


 海外フォーラムも見てきた。


 それでも、一度も聞いたことがない。


 だったら。


 これはゲームには存在しなかった能力なのか。


 ピッ。


 電子音が止まる。


 その瞬間だった。


 ガコン。


 停止していたガード型の腕が、小さく動いた。


「う、動いた!」


 誰かが叫ぶ。


 その声を合図にしたように、人々が一斉に後退した。


「逃げろ!」


「また襲ってくるぞ!」


 当然だ。


 俺もそう思った。


 剣を握り直す。


 今度こそ本当に倒さなければならない。


 ガード型はゆっくりと立ち上がる。


 赤かった単眼は、いつの間にか蒼く染まっていた。


 機械の首がこちらを向く。


 目が合った。


 息を止める。


 来る。


 そう思った。


 しかし。


 ガード型は剣を抜かなかった。


 盾も構えない。


 ただ静かに、俺の前まで歩いてくる。


 重い足音が近付くたび、心臓が早鐘を打った。


 あと三歩。


 あと二歩。


 あと一歩。


 そして。


 ガシャン。


 片膝をついた。


「……え?」


 思わず声が漏れる。


 何が起きた。


 誰も理解できない。


 ガード型は俯いたまま動かない。


 敵意も感じない。


 まるで。


 命令を待っているようだった。


 俺は恐る恐る口を開く。


「……立て。」


 沈黙。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 ガード型がゆっくりと顔を上げる。


 そして何事もなかったかのように立ち上がった。


「は……?」


 本当に従った。


 いや。


 偶然かもしれない。


「右を向いてみろ。」


 ガード型は右を向く。


「左。」


 左を向く。


「……歩け。」


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 言われた通りに歩き、再び俺の前へ戻ってきた。


 周囲がざわつく。


「命令を聞いてる……?」


「そんな馬鹿な……。」


「ロボットだからか?」


 俺自身が一番混乱していた。


 どうして。


 なぜ俺の言うことだけを聞く。


 偶然じゃない。


 明らかに、この機兵は俺を敵として認識していない。


 その時。


 視界にもう一つだけウィンドウが現れた。


> 《RE:BOOT 完了》


 それだけだった。


 説明も。


 チュートリアルも。


 何もない。


 俺はガード型を見上げる。


 蒼い瞳。


 さっきまで命を奪おうとしていた相手とは思えないほど静かな光だった。


「……お前。」


 問いかけても返事はない。


 ただ俺を見つめている。


 その姿は、どこか主人を待つ番犬のようにも見えた。


 その時だった。


 ブブッ。


 スマホが震えた。


 画面を見る。


 高橋からだった。


『悠斗!!』


『お前ゲームやってただろ!?』


『街にモンスター出てる!!』


『助けてくれ!!』


 送られてきた位置情報は、自宅とは反対方向。


 そして、その場所は。


 ARK ZEROのマップで見覚えがあった。


「……第二避難所。」


 嫌な予感が胸をよぎる。


 あそこには——


 ゲームでは、ハンター型が出現していた。


 俺はスマホを握り締める。


 目の前には、蒼い瞳のガード型。


 街では、まだ悲鳴が鳴り止まない。


 ARK ZEROは終わっていない。


 むしろ、ここからが始まりだった。


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