RE:BOOT
ガード型が地面を蹴る。
――速い。
ゲームでは何度も見切ってきた突進。
だが現実では、その質量と速度がまるで違う。
「っ!」
横へ飛ぶ。
コンマ数秒前まで立っていた場所を、巨大なシールドが抉った。
アスファルトが砕け、破片が頬をかすめる。
「これが……現実。」
ゲームなら回避成功の一言で済む。
だが今は違う。
一歩間違えれば、骨も肉も潰される。
背中を冷たい汗が流れた。
それでも、不思議と頭は冷静だった。
(行動パターンは変わってない。)
ガード型。
正式名称《GD-01》。
初心者ダンジョン《第一採掘区》の中ボス。
盾による突進。
ブレードによる薙ぎ払い。
そして胸部コアを守る重装甲。
何千回と戦った相手だ。
「なら——!」
俺は剣を構え、正面から駆け出した。
ガード型の赤い単眼がこちらを捉える。
> 《脅威判定》
> 《迎撃開始》
右腕のブレードが展開された。
青白い光を帯びながら振り下ろされる。
「遅い!」
身体が勝手に動いた。
ゲーム時代に叩き込まれた感覚。
いや、それ以上だ。
レベル五百の身体能力が、俺の反応に追いついている。
紙一重で回避。
すれ違いざまに剣を振るう。
ギィン!!
火花が散る。
「硬っ!」
刃は装甲を浅く削っただけだった。
ゲームならダメージが表示される。
しかし現実では何も出ない。
感触だけが手に残る。
ガード型はすぐさま反転した。
盾を前に構え、再び突進してくる。
(正面は無理だ。)
ゲームでのセオリー。
ガード型は背面装甲が薄い。
だが背中へ回り込むには——。
「……誘う!」
俺はあえて大きく左へ飛ぶ。
ガード型が追う。
その瞬間。
街灯が視界に入った。
「そこだ!」
街灯を蹴る。
身体が宙へ舞う。
ガード型の頭上を越え、背後へ着地。
振り向くより早く剣を突き出した。
ガキィッ!
背面装甲が砕ける。
赤い火花。
ガード型の動きが一瞬止まった。
(あと少し……!)
だが、その時だった。
ブォンッ!
盾が後方へ振り抜かれる。
「しまっ——!」
避けきれない。
鈍い衝撃が腹部を打ち抜いた。
「がっ……!」
身体が吹き飛ぶ。
道路を転がり、電柱へ激突した。
肺の空気が一気に押し出される。
息ができない。
口の中に鉄の味が広がった。
「これ……ゲームじゃない……。」
痛い。
本当に痛い。
HPが減るだけじゃない。
恐怖が全身を支配する。
ガード型がゆっくり近付いてくる。
一歩。
また一歩。
赤い単眼が俺だけを見ていた。
> 《対象の排除を継続》
ブレードが振り上げられる。
(終わる。)
そう思った。
その瞬間。
「お兄ちゃん!」
幼い声が響いた。
見ると、避難できずにいた小学生の男の子が、俺の方へ駆け寄ろうとしていた。
「来るな!!」
叫ぶ。
ガード型の視線が少年へ移った。
(まずい!)
考えるより先に身体が動く。
俺は地面を蹴った。
今までで一番速く。
ガード型の前へ飛び込む。
ブレードが振り下ろされる。
紙一重。
髪が数本、宙を舞う。
「そこだぁぁぁ!」
全身の力を剣へ込める。
狙うのは胸じゃない。
背面装甲の内部。
そこから伸びるエネルギー伝達ケーブル。
ゲームでは誰も気にしない設定資料の一文。
**「動力伝達部を切断すると、一時的に全機能が停止する。」**
俺だけが覚えていた。
刃がケーブルを断ち切る。
ブツン。
その瞬間。
ガード型の全身から光が消えた。
ガシャン。
巨体がゆっくりと膝をつく。
そして、そのまま動かなくなった。
「……勝った。」
静寂。
避難していた人々も、ただ呆然と立ち尽くしている。
誰も信じられなかった。
軍隊でも倒せなかった化け物を、一人の高校生が倒したのだから。
俺はゆっくりと機兵へ近付いた。
胸部を確認する。
コアは無傷。
ゲームなら、このまま素材を回収して終わりだ。
だが。
視界の端に、見覚えのないウィンドウが浮かんだ。
> 《アークシーカー固有権限を確認》
「……?」
> 《未登録機兵を検知》
> 《管理権限の移譲が可能です》
鼓動が速くなる。
こんなシステムは知らない。
攻略本にも。
解析データにも。
一度も存在しなかった。
ウィンドウが続ける。
> 《固有スキル【RE:BOOT】を解放しますか?》
俺は息を呑んだ。
そして、迷うことなく呟く。
「……解放。」
次の瞬間。
ガード型の胸部コアが蒼く輝いた。
まるで、眠っていた心臓が再び鼓動を始めるように——。




