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ARK ZERO  作者: 松茸の香料


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4/7

RE:BOOT

 ガード型が地面を蹴る。


 ――速い。


 ゲームでは何度も見切ってきた突進。


 だが現実では、その質量と速度がまるで違う。


「っ!」


 横へ飛ぶ。


 コンマ数秒前まで立っていた場所を、巨大なシールドが抉った。


 アスファルトが砕け、破片が頬をかすめる。


「これが……現実。」


 ゲームなら回避成功の一言で済む。


 だが今は違う。


 一歩間違えれば、骨も肉も潰される。


 背中を冷たい汗が流れた。


 それでも、不思議と頭は冷静だった。


(行動パターンは変わってない。)


 ガード型。


 正式名称《GD-01》。


 初心者ダンジョン《第一採掘区》の中ボス。


 盾による突進。


 ブレードによる薙ぎ払い。


 そして胸部コアを守る重装甲。


 何千回と戦った相手だ。


「なら——!」


 俺は剣を構え、正面から駆け出した。


 ガード型の赤い単眼がこちらを捉える。


> 《脅威判定》


> 《迎撃開始》


 右腕のブレードが展開された。


 青白い光を帯びながら振り下ろされる。


「遅い!」


 身体が勝手に動いた。


 ゲーム時代に叩き込まれた感覚。


 いや、それ以上だ。


 レベル五百の身体能力が、俺の反応に追いついている。


 紙一重で回避。


 すれ違いざまに剣を振るう。


 ギィン!!


 火花が散る。


「硬っ!」


 刃は装甲を浅く削っただけだった。


 ゲームならダメージが表示される。


 しかし現実では何も出ない。


 感触だけが手に残る。


 ガード型はすぐさま反転した。


 盾を前に構え、再び突進してくる。


(正面は無理だ。)


 ゲームでのセオリー。


 ガード型は背面装甲が薄い。


 だが背中へ回り込むには——。


「……誘う!」


 俺はあえて大きく左へ飛ぶ。


 ガード型が追う。


 その瞬間。


 街灯が視界に入った。


「そこだ!」


 街灯を蹴る。


 身体が宙へ舞う。


 ガード型の頭上を越え、背後へ着地。


 振り向くより早く剣を突き出した。


 ガキィッ!


 背面装甲が砕ける。


 赤い火花。


 ガード型の動きが一瞬止まった。


(あと少し……!)


 だが、その時だった。


 ブォンッ!


 盾が後方へ振り抜かれる。


「しまっ——!」


 避けきれない。


 鈍い衝撃が腹部を打ち抜いた。


「がっ……!」


 身体が吹き飛ぶ。


 道路を転がり、電柱へ激突した。


 肺の空気が一気に押し出される。


 息ができない。


 口の中に鉄の味が広がった。


「これ……ゲームじゃない……。」


 痛い。


 本当に痛い。


 HPが減るだけじゃない。


 恐怖が全身を支配する。


 ガード型がゆっくり近付いてくる。


 一歩。


 また一歩。


 赤い単眼が俺だけを見ていた。


> 《対象の排除を継続》


 ブレードが振り上げられる。


(終わる。)


 そう思った。


 その瞬間。


「お兄ちゃん!」


 幼い声が響いた。


 見ると、避難できずにいた小学生の男の子が、俺の方へ駆け寄ろうとしていた。


「来るな!!」


 叫ぶ。


 ガード型の視線が少年へ移った。


(まずい!)


 考えるより先に身体が動く。


 俺は地面を蹴った。


 今までで一番速く。


 ガード型の前へ飛び込む。


 ブレードが振り下ろされる。


 紙一重。


 髪が数本、宙を舞う。


「そこだぁぁぁ!」


 全身の力を剣へ込める。


 狙うのは胸じゃない。


 背面装甲の内部。


 そこから伸びるエネルギー伝達ケーブル。


 ゲームでは誰も気にしない設定資料の一文。


 **「動力伝達部を切断すると、一時的に全機能が停止する。」**


 俺だけが覚えていた。


 刃がケーブルを断ち切る。


 ブツン。


 その瞬間。


 ガード型の全身から光が消えた。


 ガシャン。


 巨体がゆっくりと膝をつく。


 そして、そのまま動かなくなった。


「……勝った。」


 静寂。


 避難していた人々も、ただ呆然と立ち尽くしている。


 誰も信じられなかった。


 軍隊でも倒せなかった化け物を、一人の高校生が倒したのだから。


 俺はゆっくりと機兵へ近付いた。


 胸部を確認する。


 コアは無傷。


 ゲームなら、このまま素材を回収して終わりだ。


 だが。


 視界の端に、見覚えのないウィンドウが浮かんだ。


> 《アークシーカー固有権限を確認》


「……?」


> 《未登録機兵を検知》


> 《管理権限の移譲が可能です》


 鼓動が速くなる。


 こんなシステムは知らない。


 攻略本にも。


 解析データにも。


 一度も存在しなかった。


 ウィンドウが続ける。


> 《固有スキル【RE:BOOT】を解放しますか?》


 俺は息を呑んだ。


 そして、迷うことなく呟く。


「……解放。」


 次の瞬間。


 ガード型の胸部コアが蒼く輝いた。


 まるで、眠っていた心臓が再び鼓動を始めるように——。


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