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ARK ZERO  作者: 松茸の香料


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2/7

First Enemy

 けたたましいサイレンが夜の街に響き渡る。


 窓の外では、近所の人たちが次々と家から飛び出していた。


「地震だ!」


「違う、あれ見ろ!」


「なんだあの塔は……!」


 誰もが同じ方向を見ていた。


 住宅街の向こう、夜空を貫くようにそびえ立つ黒い塔。


 ゲームの画面越しに何百回と見てきた景色が、今は現実としてそこにある。


「……第一採掘区。」


 自然とその名前が口をついた。


 ARK ZEROで最初に攻略するダンジョン。


 初心者向けとはいえ、ゲームを始めたばかりのプレイヤーなら何度も全滅する場所だ。


 だが――。


「待て……。」


 俺は窓の外を凝視した。


 塔の位置がおかしい。


 ゲームでは周囲を荒野に囲まれていたはずだ。


 しかし現実では、住宅地のすぐ隣に現れている。


 つまり。


「地形を上書きしてるんじゃない……。」


 侵食している。


 現実そのものを。


 その瞬間だった。


 ズンッ。


 遠くで鈍い衝撃音が響いた。


 続いて、夜空に赤い閃光が走る。


 悲鳴。


 爆発音。


 そして。


 パンッ!


 乾いた発砲音。


「自衛隊……?」


 いや、警察かもしれない。


 ニュースより早く、現場が動き始めている。


 俺は急いでスマホを開いた。


 SNSのタイムラインは完全にパニックだった。


『ゲームの塔がある!!』


『これCGじゃない!』


『東京でも変なの出てる!』


『海外も同時らしい!』


『助けて!!』


 数秒ごとに新しい投稿が流れる。


 その中に、一つだけ見覚えのある映像があった。


 ライブ配信。


 画面の奥に映る銀色の人影。


「……!」


 機兵《ガード型》。


 間違いない。


 全高二メートルほどの人型兵器。


 分厚い装甲。


 左腕の大型シールド。


 右腕の高周波ブレード。


 ゲーム序盤の壁役だ。


 配信者は興奮気味に叫ぶ。


『ロボットだ! 軍が来たぞ!』


 次の瞬間。


 銃声が響く。


 数十発の弾丸が機兵へ撃ち込まれる。


 しかし。


 カン、カン、カンッ!


 火花が散るだけだった。


 装甲は傷一つ付いていない。


「だめだ……!」


 思わず叫んでいた。


「あいつは正面装甲が異常に硬い! 正面から撃っても意味がない!」


 もちろん、その声が届くはずもない。


 画面の向こうで兵士たちは撃ち続ける。


 そして機兵が動いた。


 一歩。


 二歩。


 重々しい足音。


 次の瞬間、右腕のブレードが青白く輝いた。


 振るわれた一撃。


 装甲車が紙細工のように真っ二つになった。


 配信者の悲鳴。


 映像が激しく揺れ、そこで途切れた。


 画面は真っ黒になった。


「……。」


 部屋が静まり返る。


 俺は冷や汗を流しながらスマホを握り締めた。


 ゲームならリスポーンできる。


 でもここは違う。


 死んだら終わりだ。


 コンコン。


「悠斗!」


 母さんの声だった。


「大丈夫!? 避難するって放送が流れてる!」


「今行く!」


 返事をしながら、もう一度パソコンへ目を向ける。


 ARK ZEROはまだ起動したままだった。


 だがログイン画面ではなく、見たことのない画面になっている。


 黒い背景。


 白い文字。


《登録プレイヤー情報確認》


《プレイヤーネーム:Archive》


《戦闘データ同期中》


「同期……?」


 バーがゆっくり伸びていく。


 0%。


 3%。


 7%。


「何を同期してるんだ……。」


 その時だった。


 ピンッ。


 画面中央に、新しいメッセージが表示される。


《適格者へ通知》


《現地端末を回収してください》


《制限時間 00:29:58》


 その下には地図。


 現在地から歩いて十五分ほどの公園が赤く点滅している。


「端末……?」


 ARK ZEROに、こんなイベントは存在しない。


 知らない。


 攻略サイトにも載っていない。


 いや――。


 載るはずがない。


 こんなイベントは、一度も実装されていなかったのだから。


 画面の右下で、カウントダウンが静かに減り始める。


 29:57。


 29:56。


 29:55――。


 俺は無意識に息をのんだ。


 これはゲームではない。


 だが、ゲームを知っている俺だけに届いた通知。


 もし行かなければ、何かを取り返しのつかない形で失う気がした。


 そして、その予感は――決して間違っていなかった。


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