第6話 〈土〉の星術師
MNSRIでは星術師に関する研究も行っている。
人間を襲う海魔がなぜ彼らを標的としないのか。その謎を解明できれば人類の平穏も夢ではないと賢者たちは躍起になっているが、いまだ大きな進展はない。だが、新星の誕生によって今後の研究が著しい変化を遂げるであろうことは想像に難くなかった。
「……うん。やっぱり、海聖ちゃんの推測通り海王星の権能で間違いないと思うわ。本人の星術を見てみないことにはまだ断定はできないけれど」
賢者の白衣をまとった長身の美女が雄仁の星印を観察しながら言った。
長い金髪を結わえ、右肩に垂れ流している。ブラウスとループタイ、ダークブラウンのロングスカートが清楚な印象を与えるが、女性にしてはやたら恰幅の良い体躯と低い声がかの賢者の真の性別を物語っていた。
「でもまさか、アタシが生きている時に新しい星術師をお目にかかれるとはねぇ」
MNARI日本支部・支部長補佐、浄土義斗。星術学を専門としている賢者で、当代の〈土〉の星術師でもある。
雄仁の身に宿っている力が本当に海王星のものであるかを確認すべく、海聖は雄仁を連れてMNARIの本部へと向かい、星術師の一人である彼女――いや、彼のもとを訪ねたのだった。
「星術師って、確か政府に届け出みたいなのを出さなきゃいけないんだっけ? 義兄」
「もう、義姉って呼んでっていつも言ってるじゃない。そうよ。星印が確認できれば正式に星術師って認められて、国への奉仕を誓わされるかわりに多額の助成金や警護を受けられるようになる」
通常の人間には持ちえない特殊な力というものは、いつだって争いの種となる。星術を悪用せんとする悪徳な輩が跋扈するのが世の常であるため、国家の監視下におかれることが決まっていた。日本だけでなく世界各国でも同じ措置が採択されている。
「あくまで本人の申告があって初めて国が動くわけだから、申告せずに素性を隠し通す人もいるわ。国が非常事態になった場合の強制援助とか、警視庁の監視とか、プライベートを侵害しうることのほうが多いからね」
「でも、義に……義姉はちゃんと申告したんでしょ」
「最初のうちは星術をうまくコントロールできないから、隠したとしても力を持ってるって周りにバレちゃうケースがほとんどなのよ。それに申告しなかったら刑務所行き、国の宝が一転、大犯罪者になっちゃうわ」
「大犯罪者? 申告しなかっただけでですか」
雄仁が問うと、「ええ」と浄土が首肯する。
「私利私欲のために自分の力を振るう恐れもあるから」
「……なるほど」
雄仁が相槌を打つ一方で、海聖は改めて室内を見回す。
「そういえばあの人は?」
「図書館よ。今は別の騎士が外で待機してくれているわ」
特殊な力を巡って他者から狙われる身である以上、星術師には一人以上の護衛をつけることが義務づけられている。本来であれば護衛は警視庁の管轄だが、MNSRI所属の賢者が星術師である場合、普段の海域調査で護衛の任に就くCDMの騎士がそのまま護衛騎士として兼任していた。もちろん浄土にも専属の護衛騎士が一人いるのだが、どうやらその騎士はいま休憩中らしい。
「雄仁ちゃん」
呼ばれて、雄仁は浄土と向き合う。
「最初こそ自分と周囲の環境の変化に戸惑うでしょうけど、だんだんと慣れてくるわ。まずは雄仁ちゃん自身が星術をコントロールできるようにしましょう」
「はい」
「大丈夫! 先輩であるアタシがしっかりサポートするから」
上司のウインクに、雄仁は「よろしくお願いします」と深々と頭を下げた。
「じゃ、あたしは帰るから。海永さんのことよろしく」
「ちょっと、勝手によろしくするんじゃないわよ」
浄土に襟首を掴まれ、海聖は強引に後ろへ引っ張られる。
「ちょっと、何すんの!」
「さ、海聖ちゃんも一緒に行くわよ」
「行くってどこに」
「支部長のところよ」
「はあ⁉」




