第14話 謎の組織とアトランティス
確固たる意志の宿った朗々たる声音は海聖の耳にも届き、振るう刃を鈍らせた。
「アトランティス……⁉」
思わず驚愕の声が零れ出る。
それは、存在が確かだったかどうかすら怪しい伝説の大陸。強大な軍事力と文明で栄耀栄華を築き上げたという強大な国家が本当にあったというのか。
海聖が動揺を隠せないでいると、突如、激しい頭痛が襲った。それこそ頭が割れてしまいそうなほどの強烈な痛みに耐えかねて、思わず海魔の遺骸上でうずくまってしまう。
「うっ」
「海聖さん!」
雄仁を囲っていた海魔たちが一斉に彼女のほうを向き、牙を剥いた。
『やめろ!』
だが、雄仁が制止を叫んだところであろうことか海魔はぴたりと動きを止めた。そのまま雄仁のほうに向き直り、低頭する。
「やはり、王の声には奴らを支配下におく力がある」
男が目を細めて呟く一方で、雄仁は信じがたい現象に驚きつつもバイクを移動させて海聖に駆け寄った。
「うっ、ぐっ……」
「海聖さん、どうしたんですか⁉」
「っ……よりによって、いま発作がっ……起きる、なんて……!」
顔を歪ませながら苦悶の息を吐きだす海聖に、雄仁は「発作?」と訝しげに鸚鵡返しした。
海聖は常備している鎮痛薬を胸ポケットから取り出そうとしたが、さらに強い痛みがその手を阻み、海聖はさらに苦悶の声をあげた。
「海聖さんっ!」
だが、そこで魔の手が忍び寄る。
邪魔が消えた瞬間を見計らい、男は雄仁を気絶させて捕縛するべく警棒を振りかぶった。だが、近くにいたサメ型海魔が王の盾となって奇襲を防いだ。
「チッ」
たちまち海魔の防壁が築かれ、雄仁の姿が見えなくなってしまった。
海魔たちは低い唸り声とともに牙を剥くも、男に噛みつこうとはしなかった。天敵である〈月〉が彼らを抑制しているのだ。
「夜護」
主たるルナの呼声に、男は軽やかな身のこなしで空中機に戻った。
「いちいち海魔を相手にしていたらきりがありません。ここはいったん退きましょう」
ルナはこくりと小さく頷き、華奢な手を空中に彷徨わせた。そのまま従者たる男の袖を見つけては掴み、ぎゅっと握りしめる。まるで、これ以上離れないでほしいと願わんばかりに。
彼女を安心させるため、夜護は袖を掴む繊手にそっと自身の手を重ねた。ルナが口元を綻ばせたことに目を細めたところで、再度、冷厳な面差しになって朗々と発する。
「聞こえているか。〈海〉の星術師とその護衛騎士」
雄仁ははっとして、海聖を支えたまま視線を持ち上げた。青黒の壁越しに男を見据える。
「私は照月夜護。CDMとMNSRIの連中に伝えておけ。海に呑まれたくなければ海魔にいっさい手出しをするなと。そして――」
我々ガラクシアは必ず〈海〉の星術師を引き入れ、アトランティスを再興させる。
朗々とした宣誓に雄仁が息を呑んだのも束の間、夜護は空中機を走らせて疾風の如く去っていった。見えずとも空中機のエンジン音が遠ざかっていくのがわかり、雄仁はわずかに警戒心を解く。
「みんな。ありがとう」
巨壁が崩れ、海魔たちはそれぞれ低頭した。
『王がご無事でよかった』
『〈月〉の御方がいらっしゃらなければ、我々はあの男を喰い殺すことができたというのに』
『不甲斐ないばかりだ。王よ、どうかお許しを』
銘々の声を受け止め、雄仁は海聖に憂慮に満ちた視線を落とす。
「とにかく、海聖さんを早く病院へ」
「いや……病院は、いい」
辛うじて意識を保っている海聖は薄弱とした声音で拒否した。
「でも――」
「あたしの家に、行って。同居人が、いる……。場所は、あたしのバイクに……っ、マッピング……して、あるから」
雄仁は頷き、海聖を抱えて自身のバイクに乗った。そのまま海聖のバイクに乗り換え、彼女を背負ったままバイクを起動させる。
「海聖さんの家は……」
「……これ」
ナビに映った赤いフラグが指さされ、雄仁は海魔たちを見上げた。
『王よ、我々はいつでも貴方の号令をお待ちしている』
サメ型海魔がそう告げ、海魔たちは海のなかへと姿を消した。
強大な壁がなくなったことで一気に視界が開け、凪いだ青海が眼前を覆いつくす。
――気になることはたくさんあるけど……。
まずは海聖の安全を確保することが最優先。
雄仁はバイクを操作し、海面に純白の軌道を描いた。




