表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

第13話 異変

 持続時間は一時間、投入してまだ三十分ほどしか経っていないというのに、いくらなんでも失効が速すぎる。


「何で……!」


 一時間分の月光が足りていない欠陥品だったのだろうか。

 今までそれに当たったことはないと思いつつも、海聖は懐から新たな月光弾を取り出してピンを抜き、海に投下する。


 起爆して花火のごとく月光が海原を照りつけた。だが、その幻想的な青光もまたもや収束し、闇へと葬られる。


「どうなってんの」


 海聖と雄仁が困惑していたのも束の間、


「貴様が〈海〉の星術師、海永雄仁か」


 聞き慣れない男の声が降りかかり、両者は咄嗟に視線を上に向けた。そこには大きいスクーター型の空中機に乗った男がいた。


 銀メッシュの黒髪を一糸乱れずにセットしており、精悍せいかんな面立ちが印象的な男だった。歳は二十代後半か三十代前半。糊のきいた漆黒の燕尾服も相まって、物語に出てくる容姿端麗な執事のようだった。


 だがよく見ると、彼の背に隠れるようにして佇んでいる少女がいた。

 まだ中学生くらいのように見える。薄金色の長髪を二つに括り分け、ゴシックロリータのドレスに身を包んでいた。またベール付きの黒い帽子を目深に被っているため、素顔がよく見えない。


 海聖は腰に差していたブレードの柄に手をやり、警戒心を露わにしながら問うた。


「誰? 何で雄仁が〈海〉の星術師だって知ってるの」


 雄仁の素性はまだCDMとMNSRI上層部しか知らないはずだ。


 ――政府への申告もこれからだっていうのに。もしかして、内通者?


「我々の仲間が〈海〉の星術師の誕生とその素性を把握し、こちらに共有したまで」

「やっぱり、内通者か」


 海聖の険が一層増したところで、海面がたちまち大きく揺らぎ始め、複数の巨大な暗影が浮かび上がった。


「ちっ」


 海聖は三度目の正直で月光弾を投げ入れる。が、起爆して波しぶきが立っても月光が海中で解き放たれることはなかった。ここまでくるとただの欠陥品ではない。


「まさか……!」


 正体不明の二人組を注視すると、少女が海聖に向かって手を伸ばしていた。その手中には、静謐な青白い光の玉があった。


「お願い。やめて」


 可憐かつ哀切な響きが冴えわたる。


海魔(この子)たちが嫌がること、しないであげて」


 少女の手にあった光の玉が収束し、消滅すると同時に荒々しい波音が鼓膜をつんざいた。次いで地響きの如き唸り声が天に轟く。


「海魔っ……!」


 雄仁が身を強張らせる一方で、海聖はすぐさまブレードを引き抜いてその場で大きく跳躍した。そのまま眼前にいたエイ型海魔めがけてブレードを振り薙ぎ、脳天を抉り斬る。


 腹の底を揺らすような断末魔を意に介さず、次なる獲物へ刃を向けようとした瞬間、鋭い風切り音が鼓膜を掠めた。反射的に防御の体勢をとると、ぎんっと金属同士がぶつかり合う衝撃音が残響した。


「お嬢様の言葉が聞こえなかったのか」


 地を這うような低声で男が言った。いつの間にか男が持つ漆黒の警棒と海聖のブレードが交差していた。


「あたしとやり合ってる暇なんかないでしょ。こいつらに喰われたいの?」

「私にはお嬢様の加護がある」

「加護?」


 海聖が鸚鵡おうむ返しするなり、男は後方に飛んで空中機に舞い戻る。なるほど、この男もそれなりの身体能力を持ち合わせているらしい。

 男は懐から青白く白光しているお守りを取り出した。


「お嬢様の力が込められたお守りがある以上、海魔が私に牙を向けることはない」

「その口振りからして、やっぱりその子は……」

「そうだ。この方は〈月〉の星術師、汐見ルナ様だ」


 憶測が的中し、海聖はこれまた厄介なやつが現れたと眉間に皺を寄せた。

 支部長室で浄土が言っていたように、当代の〈月〉の星術師はまだ誕生していないと周知されていた。だが、今になって姿を現したとなると何らかの事情で自身の素性を隠していたのだろう。それこそ国に手綱を握られることをよしとしない、といった理由か。


「〈月〉の星術師様があたしらに何の用?」


 己にのみ襲いかかる海魔をいなしながら、海聖は声高に問うた。

 ルナと呼ばれた少女の代わりに執事風の男が答える。


「貴様に用はない。用があるのはそこの〈海〉の星術師だ」

「僕……?」


 男が開口一番に〈海〉の星術師かと言った時点で、端から自分を目的としているのだとわかってはいたが、如何せんその真意がわからない。

 彼らを胡乱げに見据えていると、まるで波紋が広がるように脳に直接、声が響いた。



『ああ、王よ。やっとお目覚めになられたか』



「え?」


 咄嗟に手で頭を押さえ、海魔たちを見やる。雄仁を取り囲んでいるサメ型やタチウオ型の海魔たちも自分たちの『王』を凝視していた。

 またしても海魔たちは自身のことを『王』と呼んだ。やはり聞き間違いなどではなかったのだと確信したところで、またもや衝撃の事実が男の口から発せられた。


「我々はガラクシア。かつて海を制したアトランティスを再興するために、仲間を集めている」




 ()()()()()()()()()()()()星術師をな。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ