第2話
入学してから数ヶ月経ち、学院生活に慣れてきた。
今日は初めての実技で、魔法石を作る授業だ。自分の魔力を石に宿す授業である。
「先生、こんな隣同士距離が近いと、やりにくいですわ。集中しにくいです」
ボーン王子の婚約者・ジュニパーが、教師に話していた。
「特に、隣で光魔法なんて使われたら、眩しくって敵いませんわ。あの子からは、皆距離をとるべきです」
「私は別に眩しくないですが……」
一人の女子が言うと、ジュニパーが睨んだ。女子は口をつぐむ。
こうして、私の周りの席に人がいなくなった。
(でも……、離れてても、私の向かい側の席に座るんだ?)
一つ分の席を空けて、私の見える位置に座ったジュニパー。
(やっぱり、美人だな……)
雑念を振り払い、目の前の石に魔力を注ぎ始めた。すると、次々と自分の内から、魔力が溢れ出すのを感じる。
(止まらない……? こんな大きな力が私の中に?)
石は輝き出し、膨れ上がった。
「不味い! ホノカ、止めるんだ!」
ボーンの声が聞こえる。先生や、他の男子が駆け寄ってきた。しかし、それより先に石が破裂し、破片が散らばった。教室が揺れ、生徒達の悲鳴が上がる。
破片の一つが、ジュニパーの頬を掠め、赤い筋を作った。
溢れ出した魔力は止まり、周囲は静まり返った。
そして、最初に動いたのが、ジュニパーだった。
「じゅっ……、ジュニパー様……」
「このっ!」
彼女はツカツカと私に近寄り、手を思いっきり振り上げた。大人しく見上げ、彼女に叩かれるのを待つ。
(あっ……。これって……)
そんなジュニパーの腕を、強く握って止める男子が現れた。
「今のは事故だっただろう。手を上げる程ではないはずだ」
「手を上げる程ではない? 私の顔に傷を負わせたのよ?」
「わざとではないだろう」
「わざとでなければ、人を傷つけて良いのですか? さすが、騎士団長の息子。傷つけることに罪悪感がないのですね?」
「何をっ! 我が家紋の力は、人を守るためにある!」
騎士団長の息子が、無意識にジュニパーを掴んでる手の力を強めていた。私は慌てて口を挟んだ。
「おやめ下さい! か弱い女性の腕を、いつまでそんなに強く握っているのですか!」
「あっ……」
騎士団長の息子は慌てて手を離した。
「それに、ジュニパー様は私を叩く気などありませんでした!」
この言葉で、周囲は訳がわからないといったような顔をしたが、ジュニパーだけは動揺した。
「まず、ジュニパー様から殺気はありませんでした。それに、振り上げた後、下ろそうとする時、スピードを僅かに落とし、力を抜いてました。これは、寸前で止めるか、誰かが止めに入るのを期待してたんだと思います」
「なっ! 別に、あなたを叩くと私の手が痛くなるからよ。……てか、何でフラグへし折ってるのよ」
(フラグ? 旗?)
ジュニパーがボソッと言った言葉は気になったが、抗議を続けた。
「それに、この場を収められるのは、怪我をしたジュニパー様しかいませんでした。少しの違いで、他の方々にもっと大きな傷を負わせる大惨事でした。その他の方の怒りは、ジュニパー様が極端に怒ることで、溜飲を下げることができたと思います。ジュニパー様は、周囲に気遣い、憎まれ役を買って出た心優しき女性です」
「もっ、もう何も言わないでっ!」
真っ赤な顔をしたジュニパーの手をとる。
「ジュニパー様、本当に申し訳ありませんでした。腕も痛いですよね?」
「別に、高級塗り薬あるから平気よ」
「ヒール!」
内から沸き上がる、初めて使う回復魔法。私に授けられた力。珍しい回復魔法に、周囲は黙って見守っていた。
ジュニパーの頬の傷は消えた。
「別に、感謝はしないわよ? 傷つけたのは、あなたなんだし」
「もちろんです。ただ、一回だけでは内部まで回復してるとは限りません。重ね掛けします」
「えっ?」
「ヒール!」
「いえ、かすり傷だったのよ」
「ヒール!」
「もう充分よ」
「ヒール!」
「聞いて」
「ヒール!」
10回程、回復魔法を重ね掛けして、ジュニパーに傷が残ってないことを確認する。
「無駄打ちヒールのおかげで、肌が艶々になったわ」




