第1話
私は最近、気になってる人がいる。
「このままでは百合ルートになってしまう……。でも、生き残るには百合しかない……」
教室の隅でそうぶつぶつ呟く彼女をつい目で追ってしまった。
ここは、魔法学院。年若い者なら皆憧れる、王都にある学院だ。
かくいう私・ホノカも、田舎で地味に過ごしながらも、憧れていた。しかし、16を過ぎるまで、学院入学の必須条件である4つのエレメント属性が現れず、それは夢のまた夢だった。
そう、村から程近い森の中。お忍びで来られた王子を魔物から守るため、光属性の魔力を発動させるまでは……。
王子は、光属性の珍しさを説き、私を自身も通う魔法学院に推薦してくれた。
そして期待を胸に、私は入学式を迎えることとなる。
「やあ、ホノカ! 学園生活には馴染めそうかい?」
入学式後、廊下を歩く私を見つけ、ボーン王子が声を掛けてくれた。庶民の私は、王族に対する礼儀作法なんて当然心得てないので、無言で固まってしまう。
「殿下を無視するなんて、失礼じゃなくて?」
ボーン王子の後ろから、美少女が現れた。立ち居振舞いからして、かなり上の貴族だろう。
「ジュニパー、彼女は萎縮しているだけだ。あまり、威圧するでない」
「……わかりました」
ボーン王子がそうフォローを入れてくれ、ジュニパーは頭を下げる。しかし、私にしか見えない角度になった時、物凄い形相で睨んできた。
「君をこの学園に推薦したのは、私だ。何か困ったことがあったら、気兼ねなく私を頼るが良い」
「あっ、ありがとうございます……」
何とか声を絞り出し、二人が去るのを見送る。去り際、またジュニパーは睨んできたのを気にしないようにした。
「私、嫌われてるかな……」
「誰に?」
教室で一人、誰ともなしに呟いた言葉に返事があり、飛び上がった。いつの間にか、背後に可愛い系の人懐っこそうな少年が一人いた。
「驚かせてごめんね。いつまで経っても帰ろうとしないから、心配になって声掛けようとしたら、そう言うもんだから」
「あれ? 授業は……」
「今日は入学式だけだよ。さては、先生の話を聞いてなかったね?」
「あっ……」
硬直する私に、少年は笑いかける。
「僕は同じクラスになったミルラ。風属性だよ」
「私はホノカ。属性は……」
「光、だよね?」
「えっ?」
「だって、ボーン殿下が推薦した、希少な光属性の女の子が入学するって、有名だったから」
「そうだったんだ」
「だから、ジュニパーにやっかまれてるわけだ」
「その、ジュニパー様って……」
「ああ、ベルリラ公爵令嬢・ジュニパー。ボーン殿下の婚約者だよ。容姿端麗で礼儀作法や勉学も秀でているけど、嫉妬深いんだよな」
「婚約者……」
「あっ、いや、ずいぶん昔の口約束みたいなものだから、まだ正式な手続きとかは……」
「お似合いだわ!」
「へっ?」
「あのお二人が歩く姿、まるで一枚絵のように様になるなと思っていました!」
「君、ジュニパーに何か思うとこないの?」
「ずっと眺めていたくなるような、美人だったわ」
ミルラは吹き出した。
「やっぱ、ボーンが気に入るはずだ。ホノカは、面白いや」
屈託なく笑うミルラは可愛いと思った。




