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エロゲ世界のクズ役に転生したので破滅回避に徹したら、攻略対象より先にヒロインを救ってしまった  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第10話 朝比奈日和は、人の変化によく気づく

 朝比奈日和は、人の表情の変化によく気づく。


 ただしそれは、凛みたいに理屈で拾う観察ではない。

 もっと感覚的で、空気の揺れを体で拾うような見方だ。


 だから厄介だ。


 俺が「何もないふり」をしていても、たまにあっさり見抜かれる。


 図書室の件から二日。

 月曜の朝、教室に入った瞬間から、日和の視線が妙にこちらへ向いている気がした。


「おはよ、御影くん」

 自然な声。

 前なら、ここまで気安くは来なかった。


「……おはよう」

「今ちょっと間あった」

「気のせいだ」

「それ好きだね」

 日和は笑う。


 笑い方はいつも通り明るい。

 だが、その目はほんの少しだけ俺の顔色を見ている。

 たぶん、図書室の件そのものは知らない。

 でもこの二日、俺が少し神経質に動いていたことくらいは感じ取っているのかもしれない。


「何だよ」

「いや、なんか」

「何」

「最近ちょっと疲れてない?」

 不意打ちみたいに言われて、言葉が止まる。


「……誰が」

「御影くん」

「ない」

「あるでしょ」

「ない」

「否定速いなあ」

 日和は苦笑する。

「なんかさ、前はいつも機嫌悪そうだったのに、最近は“余裕なさそう”って感じ」

「ひどい言い方だな」

「ごめん、でもそう見えたから」

 そこで日和は少しだけ声を落とした。

「私のこと見てる時みたいな顔、たまにしてる」

 ぎくりとする。


 それは、相当に見られているということだ。


「意味分かんない」

「ほんと?」

「ほんとだ」

「ふーん……」

 日和は納得していない顔だったが、それ以上は追及しなかった。


 助かった、と思う反面、いずれまた拾われるなとも思う。


 この“何か抱えてる顔”を。


 日和は誰かの異変に敏感だ。

 敏感なわりに、自分のことには鈍い。

 そのバランスの悪さが原作では致命傷になっていた。


 でも今は違う。少なくとも少しずつ、他人の目が彼女へ返り始めている。


 それはたぶん、悪くない変化だ。


 昼休み、日和はいつもの友人たちと弁当を広げながらも、二回ほどこちらへ視線を向けた。

 気づかないふりをしていると、今度は相馬がにやにやしながら小声で言う。

「朝比奈、お前のこと気にしてんな」

「知らない」

「知らないで済ます顔じゃないだろ」

「お前ほんと黙れ」

「でもさ」

 相馬はパンをかじりながら続ける。

「最近、御影が妙に人のこと見てるの、朝比奈だけじゃなくてみんなちょっと分かってきてるぞ」

「最悪だな」

「いや別に悪くはないだろ」

「悪い」

「何で」

「面倒だから」

「そこは一貫してんな」

 そういう問題じゃない。


 見られる。

 気づかれる。

 認識が変わる。

 それ自体は良いこともある。

 でも俺にとっては、未来を知る側の動きが表面化する危険でもある。


 それを日和みたいな“感覚型”の人間に拾われるのは、理屈で詰められるのとは別種の厄介さがあった。


 放課後、昇降口へ向かう途中で、日和に呼び止められる。


「御影くん」

「何」

「ちょっとだけいい?」

 断る理由も思いつかず、俺は立ち止まる。


 日和は少し迷ってから言った。

「この前、私に“抱えすぎるな”って言ってくれたでしょ」

「……」

「たぶん今、御影くんも同じ顔してる」

 その一言に、胸の奥が少しだけ重く沈む。


「お前な」

「うん」

「人に言ったこと返されるの、こんな面倒なんだな」

 日和は吹き出した。

「自分で言う?」

「言う」

「じゃあ、ちょっとだけ分かった?」

「何が」

「見てて危なっかしいって感じ」

 俺は一瞬言葉を失って、それから小さく息を吐く。

「……分かったよ」

「ならよかった」

 日和は満足そうに笑う。

「お互いさま、ってことで」

 そう言って手を振り、友人たちの方へ戻っていった。


 お互いさま。


 その言葉が、少しだけ妙に残った。

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