9話
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「あらぁ、いらっしゃい。 まあまあ、珍しいわね4人が揃って家に来るなんて、何年ぶりかしら」
そう言って出迎えたのは、大輔の母親である、細井 香である。
「おばさん、お邪魔しま~す」
幸宏は今でも時々は大輔の部屋に来ているので、気軽にいつもの様に返事をしている。
「あらまあ、美菜ちゃんもすっかり奇麗になっちゃって、幸宏クンとはお付き合いは順調なの?」
「こんにちはおばさん、お久しぶりです。はい、幸宏とは、あれからずっと付き合っています」
「あらぁ~、じゃあ、もうすぐしたら、結婚かしら?」
「おばさん、 そんな....」
「あらぁ、ゴメンなさいね、余計な事」
赤面する幸宏と美菜、だが、香が由香の表情を見て、心配になり声を掛ける。
「まあ、由香ちゃん、どうしたの? 顔色が良くないわ、大輔、由香ちゃんどうしたの?」
「実は、その事でみんなに急遽来てもらったんだ。....で、姉ちゃんって今居るよね?」
「有美?....、自分の部屋に居るんじゃないかしら。多分」
「分かった。じゃあみんな、オレの部屋に行くから」
「そう分かったわ。 あとで何か飲み物持って行くわね」
「うん、分かった」
「それじゃ、おばさん、お邪魔します」
美菜の言葉で、全員が2階にある大輔の部屋に移動して行った。
途中で大輔は姉である 有美の部屋に寄り、声を掛けてから、自分の部屋に入った。
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部屋に入ってから、美菜はずっと由香の手を握っている。
そして、気分が落ち着いてきた由香の表情を見て、大輔が話し出す。
「由香、落ち着いたところで、さっきのモールでの事を、最初から話してくれないか?」
躊躇しながら、話し出そうとした時に、ノックの音がした。
「大輔、いいかな?」
大輔の姉の有美の声がして。
「いいよ」
と、大輔が返すと、ドアが開き、肩まであるミドルボブの髪と、小顔で瞳ぱっちりでスレンダーな、超美人が入って来た。有美だ。
有美は入って来ていきなり。
「おお!久しぶりだな後輩たちよ」
「姉ちゃん、お邪魔してます」
幸宏はいつも有美の事を、大輔と一緒で“姉ちゃん”と呼んでいる。
「よく来たな、ゆっきーにはいつも会っているからな、えっと、そっちは....っと、ずいぶん久しぶりだ。元気でやってたか? 美菜」
「お..、お姉さん、お久しぶりです。お邪魔してます」
美菜は、久しぶりの再会に、相変わらず超美人な人だなぁと思った。
「由香も、チョットだけ、お久だな....で、相変わらず、ゆっきーと美菜は付き合っているのか?」
「はい。順調です」
「そっか。 何よりだ。..で、由香は?....、ん?どうした?由香、何か顔色が悪いぞ」
ココまで来ても、表情が今一なのが見て分かる程に、気分が落ち込んでいるのが分かる。
「姉ちゃん実は....」
そう言って、大輔は、モールでの顛末を有美に全て話した。
「全く持って、不条理なハラスメントじゃないのか、それって」
「自分が女王でいたいのか理由は分からないんですけど、やはり由香の風貌の遊佐が、気に入らないってのが本心じゃないかな?」
「でも....」
由香が喋ろうとして。
「何だ由香。他に何か気になる事でもあるのか?」
「え~っと....、はい」
「言ってみな、全部聞いてやるから」
有美の心強い言葉に、由香は安心して話始めた。
「実はわたし....」
*
由香は社会人になってからまだ一週間しか経っていない。 初日だけは社内に居たものの、その次の日からは、会社の研修で社内にはおらず、研修会場に居た。
その初日に、会社内で女子社員にとても人気のある、営業部のエースに言い寄られたのだ。 それはまるで、入社したばかりの可愛い女子を、他の誰かに先取りされないような素早さで。
だが、それをいとも簡単に、やんわりと断ったもので、そのエースが、まさか断られるなんて思っても居ない事を、数日後に谷川 奈緒が聞いて、それを知った奈緒が。
『私が狙っていた人を、いとも簡単にフって、次の日にはいけしゃあしゃあと、研修に行くなんて、新人のくせに、生意気』
と、そう思わせてしまったらしい。
一方のフラれた営業部のエースはと言うと。
『ま、あれだけの美人だ。 男が居ない方がおかしい』
と言って、笑いながら『思い付きで告って悪かったな』と言って、彼氏が居ると思い、勘違いをしたまま、その場を後にしたと言う事だった。
そしてその週半ば、奈緒が意を決して、その営業のエースに告ったのだが、理由は分からないのだが、見事に玉砕し、落ち込んだ。 その反動が怒りとなり、その感情の矛先が、そのエースを振った由香になってしまったのだ。
しかも、その週に、奈緒が取り巻きDQN嬢たちを休憩スペースに集め、大輔を呼び、告ると言う事をしたのだが、大輔もこの告白には答えられなくて、やんわり断った。
そして、今日このモールで、大輔と由香が一緒に過ごして居るという事を、DQN嬢たちに聞かされて、さらに怒りが増幅して行った。
それがまたさらに奈緒の怒りを増幅させ、由香へ向けた感情が溜まって、あのエントランスでの案件と言う訳である。
*
「何だか随分と自分勝手な女だな。 (私の将来の妹に)勝手なちょっかいを出してきて。しかも、全くもって、とんだ理由だなソイツは」
姉の有美は、由香がイヤな思いをしたのが、到底許される事では無いと思い。心強い言葉を言ってくれた。
「もしまたその様な事があったら、教えてくれ、みんな。次はわたしが出て行くから」
「頼もしいぞ、姉ちゃん」
この言葉に、由香と大輔は十分な安堵感を抱くのだった。そして、暫くしてこの話が一段落すると。
「じゃ、オレたちはもう帰るからな、邪魔したな、大輔、由香、姉ちゃん」
「おう、そうか。 何か悪かったな、変な事案に巻き込んでしまって」
「いいって、じゃまた」
「みんな、私の事でゴメンね。ありがとう、気を使ってくれて」
「はは、いいさ、じゃまたな」
「気を付けて帰れよ、ゆっきー。あ、それと、ちゃんと避妊はしとけよ、じゃぁな」
「!!....、お、お姉さん」
美菜の顔が真っ赤になり、大輔の部屋をそそくさと去っていく二人だった。
「はは、ゆっきー相変わらず面白れーな。つ~か、図星だったみたいだな」
「全く、姉ちゃん....」
そう言うと、幸宏たちと入れ替わりに、母親の香りがトレイを持って入って来た。
「あら、あの二人もう帰っちゃったのね。ゆっくりして行けばいいのに」
「いいんだよ。あの二人にはこの後とっても大事な用事があるみたいだから」
「そうなの?」
そう言った会話に、由香は、ほんのり赤みがかかった頬をしていた。
母親の香がトレイを置いて退室して行った後、残った3人は、有美が思う確信へと話を進めて行った。
「なあ大輔、わたしが最近思っている事を言って良いか?....ま、言うけど」
「言うんかい! って、姉ちゃんらしいけど」
「はは、さすが姉弟。 では、従えよ」
(従え?....)
なにか若干の不安要素のある物の言い方だと思い、何を言い出すのか、姉の事だけに、不安がよぎった。
「ま、単刀直入に言うとだな........。 お前たち、いつになったら付き合うんだ?」
「「!!......」」
いきなりの姉、有美の言葉に只々固まる大輔と由香だった。
「と言うかだな。この一週間の平日、毎日夜になると、由香からの電話があっただろ?コレは何か進展があったかな?なんて、私は思っているんだが、実際はどうなってるんだお前たちは」
思いっきり、単刀直入で訊いてくる姉の、問答無用に、大輔はその電話の内容を話した。
「毎日の由香からの電話は、今週来週と、由香が会社の研修に行っていて、その内容を毎日報告してくれていたんだ、だから姉ちゃんの思っているような内容ではないと思うけど」
「でもな、時々聞こえるやり取りの中で、多分だが、由香から甘えられているような大輔の対応に聞こえる時もあったが、どうだ?」
この姉弟のやり取りに、由香は若干の不審な事に気が付いた。
「あの...」
由香から、遠慮気味に声が出た。
「なんだ?由香」
有美が促す。
「大輔の言う事は本当です。 私の毎日の研修内容の事で、いろんな愚痴を毎日聞いてもらってたんです」
「じゃあ、そんなんでいいのか? お前たち」
「何だよ姉ちゃん。何が言いたいんだよ」
「そんなん決まってる............、早く付き合っちまえ。以上だ」
「そんな、いきなり突拍子みたいな事言わんでくれ」
「こりゃダメだ、進展が無いと見た」
「進展って、そうなるにしろ、順序ってのがあると思うんだけど」
「そのお前たちの順序って言う期間って言うのは、定年までには終わるのか?」
これはこれで、コレ以上話にならない気がする、そう思った大輔は、有美に。
「姉ちゃん、とにかく、もう時間も時間だから、オレ、由香を送って行くんで、この後は帰って来てからにしてくれないか」
夕方6時半。 いろんな事があった一日だった。
まさか、最後に姉からの交際の催促はあったが、とにかく、日中のモールでの事で、由香に変な負担が減ったのは良としようと思った。
「わかった、今日はコレで勘弁してやる。 だが次回までには交際している事を希望する。私からは以上だ。 気を付けて帰れよ、由香、近いうちにまた来い、待ってるからな」
「はい」
そして、由香が返事をすると、ニヤっと笑みを見せた後、有美は大輔の部屋から出て行った。
そして、大輔と由香は、部屋で二人きりになった。




