8章 過去と陰謀
治療の時間が近付いて来たのでオセロ宅に戻り、クロリーと合流する。もう自分で動けるので介護は必要ないが、緊急時に備えて着いてきてくれる。
俺の入浴中は茂みの奥で待っててくれる。そんな時、俺はシッチに聞きそびれたことがあるのを思い出した
「なぁクロリー!」
「どうしたの?何かあった?」
「いや話がしたいだけだ!大丈夫だから!」
名前を呼ぶとすごい勢いでこっちにやって来ようとする。それを引き止め、話を始めることにする
「多腕族の集落で、人間を憎んでいるやつに会ったんだ。どうして憎んでるんだ?」
「んー、人間というより帝国を憎んでいるの。ミストリオーレの全員が帝国を憎んでると言ってもいいね。」
帝国か。ホーファーツ王国、ミストリオーレ連合国に並ぶ五大国の一つだ。そういえばシッチも帝国の名前を出していたな
「アタシたち亜人は帝国にとって差別の対象。帝国にいる亜人は全員奴隷なの。そして、この国には頻繁に帝国の奴隷商人や傭兵が襲撃に来るの。……亜人の誘拐にね。」
奴隷制度か。王国では大昔に撤廃されたが帝国では今も尚、強く根付いている。シッチ達が鍛えているのは帝国の奴らに対抗するためだろう
「そして、五年前に事件は起きた。今まで奴隷商人と傭兵といった小規模の襲撃だけだったのに、ある日突然、奴らは軍を率いてやって来たの。たった一夜の出来事だった。たった一夜、それだけで沢山の仲間が犠牲になり、連れ攫われたの。アタシも、目の前で両親が殺された。…あの日のことは忘れない、忘れちゃいけない。」
当時のことを思い出したのか、声が震えだしてきた。親を失うことは辛いことだ。俺も、記憶に残ってないというのに両親の影に囚われている。ましてや、目の前で殺されたとあれば心の傷は俺の想像のつかないものだろう
「オセロは何をしてたんだ?あいつが遅れを取るとは思えないが。」
「お頭は用事で国に居なかった。奴らはそれを見計らったように攻めてきたの。帰ってきたお頭は当然激怒した。単身で乗り込み、帝都の半分を壊滅させ、当時の『勇者』を半殺しした。でも、お頭も深手を負い、連れ攫われた仲間の何人かと一緒に帰ってきた。」
それでも全員を救えたわけではない。帝国では今も連れ攫われた亜人達が過酷な環境に置かれているに違いない
「だからアタシ達は帝国を憎んでいる。家族や友人を殺されたり誘拐された人は人間そのものをね。」
「…そうか。」
トッポは近しい人がその事件の被害にあったのだろう。五年前ということは八歳。そんな子どもの心へのダメージがどれだけ大きいのか俺には分からない
「クロリーは人間が憎くはないのか?」
「…アタシも当時は憎んだね。人間なんてみんな死んじゃえばいい。そんな呪いを毎日のように吐き続けた。でも、そんな時にジーンの師匠、ライザがミストリオーレにやって来たの。」
ここで師匠が登場するのか
「ライザは状況を知ると復興に力を貸してくれた。怪我人を癒し、焼けた森を戻し、子供たちを見守ってくれた。」
それ別人じゃないか?俺の知っているライザ・ストリーガは人を弄び、混乱を好み、周囲を振り回す女だ。そんな聖人のような奴じゃない
「アタシはそんなライザの姿を見て、何とか踏みとどまれたの。人間全員が悪いわけじゃないってね。ジーンもアイリーンも良い人だしね。」
「そ、そうか。」
急に褒められ少し照れてしまった
「でも、帝国は許さない。アタシはライザに戦う術を教えてもらったの。この力で今度こそみんなを守ってみせる。」
「クロリーなら出来るさ。」
強い意思のこもった言葉だ。薄々気付いてはいたが、クロリーは相当な実力者だ。オセロの世話役を務めているのは、その実力もあってのものに違いない。
…それにしてもライザに教えてもらったのか
「ってことはクロリーは俺の姉弟子ってことか。」
「そうだね。気軽にお姉ちゃんって呼んでもいいよ。」
「呼ぶかっ!」
真剣な口調から一転、いつもの軽い調子に戻ったクロリーと笑い合う。
帝国がこの国に残した傷は大きなものだ。クロリーのように、少し立ち直ることの出来た者もいれば、トッポのように憎しみに囚われ続けているやつもいる。
これは帝国と連合国の問題。王国民の俺にはどうしようもないことだ
「…だからっていきなり殺されかけるのは気分よくないな。」
ミストリオーレでの目的が一つ増えた。
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ミストリオーレから離れた───どの国の管轄にもない地下ダンジョン。その第一層目、開けた場所にローブに身を包んだ女がいる。目の前の地面には、巨大な魔法陣が描かれている
「『召喚』」
女の詠唱と共に、魔法陣から双頭の大蛇が現れる。本来、人に害をなし、魔物と呼ばれるその大蛇は、目の前の女を襲うことなく静止している
「後つっかえてるから早く向こう行って。シッシッ。」
女の言葉に従い、ダンジョンの奥へと姿を消す大蛇。それを見送ってから、地面の魔法陣を描き直す女
「召喚の調子はいかがですかな?」
「後がつっかえてるからクソジジイも向こうに行きやがれくださーい。」
影から突如現れた燕尾服の男に辛辣なことを言う女。しかし、突然の罵倒にも男は眉一つ動かさず歩み寄る
「まぁまぁ落ち着いてください。疲れてるでしょうから珈琲でも入れましょうかと思いまして。」
背中に隠していたポッドとカップを見せ、提案する男。一見、労いにきたかのように見えるが、女は迷惑そうな表情を浮かべる
「…ミルクと砂糖は用意してんだろうな?」
「すみません、忘れていました。残念ですが私だけで嗜むとしましょう。」
「てめー、知っててやっただろ!表に出やがれ!ぶち殺してやる!」
魔法陣を描く手を止め、掴みかかる女
「お、落ち着いてください。ほら、後がつっかえているのでしょう?謝りますので落ち着きましょう。」
「黙れ。つーかオレの仕事量おかしいだろ!?使い魔を使った対象の監視、襲撃用の魔物の召喚にその管理!オマケに紳士面したジジイの相手。ジジイはいいよなぁ?決行日まで殆ど仕事がないからよぉ!」
「私には本国の主への報告という仕事が…く、首を締めないでください…」
首にかけられる力がどんどん増し、青くなっていく男。男が落ちる寸前、男の腰にある魔道具から光だし、音が鳴り響く。それを聞き、舌打ちをしながら男を解放する。咳き込みながら魔道具を手に取り、顔の前へ持ってくる男
「はぁ…はぁ…助かりました主。野蛮な小娘に殺されかけてましたので。」
『どうせお前が原因だろ。それよりも、作戦の首尾は?』
「依然として問題ありません。このアンディ、必ずしも主のご期待に応えましょう。」
「働くのはオレだけどな。」
女のボヤキを気にせず、魔道具に向かって話し続ける男
『そろそろカーラに変わってくれるかな。彼女と話したくて僕の方から連絡を取ったんだからさ。』
「左様でございましたか。失礼しました。カーラ、主が話があるとのことだ。失礼のないようにな。」
「いいからさっさと魔道具寄越せ。」
男の手から魔道具を乱暴に奪い取る女───カーラは男がしたように魔道具を自身の顔の前に持ってくる
「やれやれ、乱暴ですね。そんな事だから男性に避けられ───ぷぐほぉ!?」
「ん?何か言ったか?」
顔面に拳を食らった男が大袈裟に地面を転がるが、無視して距離をとるカーラ
「あー、オレだ。急にどうした?話って。」
『いや、謝りたくてさ。こんなキツい仕事を君に任せちゃって。』
「全くその通りだぜ。今すぐあのジジイを殺して帰りたいところだ。」
『そう言わずに頼むよ。君にしか頼めないんだ。他の誰でもない、カーラにしか出来ないことなんだよ。』
「オ、オレにしか…?へへ、しゃーねーな。お前の頼みとあっちゃ頑張るしかねぇな。」
魔道具での会話が進むにつれ、不機嫌だったカーラの表情が次第に緩んでいく。地面を這ったまま近付いてきた男が、その表情を見て笑う
「相変わらずチョロいですね───くわばらっ!?」
地に這い、無防備な男の横腹に、鋭い蹴りが突き刺さる。男は地面と平行に飛んでいき、激しく壁に激突する
「ま、頼まれたからにはやってやるよ。ご褒美でも用意して待ってやがれ。」
『あぁ。それじゃあ頼むよ。』
魔道具の光が消え、会話が終了する。カーラの顔には満面の笑みが浮かんでおり、整った顔がより可愛らしく見える。
それからカーラは再び『召喚』の魔法陣を描きだした。
────壁の近くで悶える男を放置したまま。
最近会話率が高くなりがちでやべぇって思ってます。実際どのくらいのバランスがいいんでしょうかね?
第一部は会話率が低めで、今のやつと見比べるとかなり作風が変わってきてますね。編集して統一せねば。
とはいっても、会話率をどのくらいにするか決めないと下手にいじれないという現実。
下手にいじって、酷い作品がより酷くなってしまっては目も当てられませんからね。
…いや、元々酷いなら落ちるの覚悟で変えてみても……?
まぁそんなこんなと悩む水草でした。




