6章 旅行十四日目・早朝
その日はいつもより早く目が覚めた。部屋の中は灯りが点いておらず、暗い。
欠伸をしながら手探りに扉まで辿り着き、部屋を出る。窓から微かに差し込む陽の光が居間を照らす。
どうやらまだ誰も起きてきていないみたいだな。
「久しぶりに体動かしておくか。どのくらい治ったかも気になるし。」
部屋から防寒着を取り出し、家を出る。日の出からあまり時間が経っていないようで、美しい朝焼けが見られる。
そんな朝焼けを背に軽い準備体操をする。ずっと動かしていなかった関節からはポキポキと小気味のいい音がなる。
一通り体をほぐし終え、鍛錬を始める
「それにしても、全然体が動かないな。」
動かしてみたところ、以前の二割の力も出せていない。
存在進化したことを考えれば全快状態の一割と少しといったところか。どちらにしろ、治療にはまだ時間がかかりそうだ
素振りに使っていた木の枝を投げ捨て、周囲を走り始める。体が重く、いつものペースよりずっと遅い。途中で足がもつれ転んでしまう。坂道を転がり落ち、大の字で地面に寝そべる形となってしまった。
それなりの勢いだったが少ししか体が痛まない。感覚が戻ったとはいえ、まだ鈍いからである。視界に広がる青空をしばらく見つめ、完全に痛みが無くなったところで立ち上がる
「戻るか。」
結構時間が経っていたな。もうクロリーとアイリーンが目覚めているところだろう。朝食の席に遅れてはいけないので少し早足で来た道を戻る。
家に到着し、扉に手をかける。ふと、視線を感じ振り返るが誰もいない
「…気のせいか。」
見渡してみたがやはり誰もいない。そのまま気にせずに家の中に入る。
───────────────────────
自身にかけていた魔法を解除し、白髪の少女が何もない空間から姿を現す。見つめる先は連合国首領の邸宅───否、たった今少年が入っていった扉である
「…『透明化』。」
再び魔法を唱え、少女の姿が景色に溶けていく
「…可哀想、な、お兄ちゃん。」
完全に消える直前、言葉を漏らす少女。誰に向けて、というものではない独り言。だが、そんな独り言を盗み聞きしている存在に少女は気付かない。既に立ち去ってしまった少女に、その存在に気付く術はない。
───────────────────────
「対象、魔法で姿をくらましたぞ。」
「ご苦労様です。『感覚同調』を解除して、休んでいてください。」
「かー、やっとかよ。山頂、寒いんだよ。」
「仕方ありません。これも任務ですので。」
会話をしているのは二人組の男女。土色のローブを着た若い女に、燕尾服に身を包む初老の男と異色のペアである。
あぐらで座り、粗雑な女の振る舞いに対し、男の振る舞いはどれも丁寧である
「情報通り、山頂付近に現れるようですね。このまま予定通りいきますよ。」
「なぁ、ホントにやんのか?」
「仕方ありません。これも任務ですので。」
「はいはい、任務任務。」
あぐらのまま、後ろに倒れて寝転がる女。そんな態度を咎めることなく燕尾服の男は何やら魔道具をいじっている
「全ては、我らが主のために。」




