2章 田舎者、王都入り
「おお立派な城壁だな。ウチの村の柵とは何もかも違う。」
「王国の心臓であるからな、物理攻撃、魔道攻撃の両方に耐性がある。ホーファーツ王国の技術の賜物さ。」
「師匠でも突破するのは難しいか?」
「できるできないの話なら勿論壊せる。だがそんなことをすれば騎士団が駆けつけてくる。アレを相手にするのは中々骨が折れる。」
天幕をめくり城壁を覗きながらそんなことを話す。
いくつかの村を経由し、七日かけて王都城壁へと着いた。今は関所の検問待ちだ
魔力操作の練習をしながら時間を潰しているとようやく順番が回ってきた
「降りろ、身分証明出来るものを提示しろ。」
鎧を着込んだ兵士が天幕をめくり中にいた俺と師匠に指示する。
まずい。俺は身分を証明するものを一切持っていない。
師匠に小声で助けを求める
「なぁ、俺そんなものもってないぞ。」
「ふむ、確かに村から出なければ必要無いものだからな。手続きをすればこの場で作れるが───犯罪歴はないだろうな?あると作れないぞ。」
「ねぇよ!」
師匠が兵士に説明し、門の隣の窓口で手続きをすることになった
「これからの質問に正直に答えること。嘘をつけばこの魔道具が反応するからな。名前と出身地、それと役職は?」
「ジーン、ベア村出身の戦士だ。」
「犯罪歴は?」
「ない。」
「よしいいぞ。これが身分証だ。失くしても役所で再発行できるが王都から出る時にも必要だ、大切に扱うように。」
「ありがとう。」
身分証をもらい、師匠たちのもとへ戻り、馬車が動き出す。城門をくぐり、いよいよ人生で初めて王都へと入る
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「やっぱり人の数が違うな。すごく賑やかだ。」
天幕の内から覗き見する景色はベア村ではありえないほど活気に満ちた街だ。あちこちで言葉が飛び交い、色んな人が街道を往き来している
「今は朝市と昼市の間の時間だな。比較的人が少ない。昼市が始まる前に移動したいところだ。」
確かによく見ると店の売り物を片付けたりしている人も多かった。何もない時間でもこの賑わいなのだから市の時間はさらに人が溢れるのだろう
しばらく進むと静かになり、人々の姿が見えなくなったが、その代わりにいくつもの巨大な豪邸が見えてくる。どうやら富裕層の居住区のようだ
「バカでかい屋敷ばっかりだな。王都ってのはこんなのばかりか?」
「そんなわけないだろう。ここに並ぶのは商会の会長や貴族階級の人間の家だ。一般人の居住区はまた別の場所さ。」
と、なると師匠の家までまだ時間がかかるということか。昔、ベア村にも貴族が訪れたことがあったが偉そうに威張りちらして正直かなりムカついた。それもあって貴族という言葉にはあまりいい印象を受けない。こんな場所をこんなみすぼらしい馬車で通っていてはいちゃもんを付ける輩が現れるかもしれない。そんなことを考えていると馬車が停止した
「どうしたんだ先生?」
「目的地に着きましたジーン様、ライザ様。」
目的地だって?馬車が止まっているのは辺りの豪邸より一際大きな豪邸、その敷地の入口前だった
「よし、降りるぞ。アイリーン、馬車を倉庫にしまっておいてくれ。」
「承知しました。」
「おいジーン、惚けてないで荷物を持って降りないか。」
再度促されしぶしぶ降りる。荘厳な門の前で惚けている間に馬車とアイリーンが遠ざかって行く
「さぁ入るぞ。」
鍵を取り出し門を開ける師匠
「なっ───────。まさか貴族を脅したのか!?」
「君の中の私への評価を問い質さなければいけないようだな。そうではない、ここが私の家だ。」
私の家と言ったのか?このバカでかい豪邸の持ち主だと?
混乱する俺を差し置いて敷地内へと入る師匠
「ようこそホーファーツ王国貴族、ライザ・ストリーガ、その邸宅へ。」
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門から屋敷までの道を二人で歩く
「ほら、私は圧倒的な力に豊富な知識を兼ね備えた美しい魔道士であろう?」
「美しいかはともかく凄い人間ではあるな。」
「様々な魔物の討伐、人命救助、おまけに王家に人間の手助けをしたらその功績を讃えられてな。所謂成り上がりというやつだ。」
「成り上がりにしてもここまでの屋敷を持つのは異常だと思うが。」
「安心しろ。富裕層の居住区はここだけではない。他の場所には更に大きな屋敷を構える者もいる。王都以外に本邸を構える奴らもな。」
何を安心すれば良いのだろうか
「あの宙に浮かぶ球体はなんだ?」
視線の先には半径1メートルほどの灰色の球体が、地面から少し浮いて静止していた
「あれは私の作った土人形だ。今は休眠中だな。あれに庭の手入れを任せている。」
「便利なもんだな。」
よく見ると離れた場所にもいくつか浮かんでいる。一つだけ球体から手足を生やし動いているのを見つけた。片方の腕の先がハサミになっており、器用に植木の手入れをしていた
「あれも魔術で作るのか?」
「魔術で即席のものなら作れるがより細かい作業をさせるのなら錬金術で基盤を作るのが大事だ。」
師匠が魔法陣を描き、魔力を込めると中から小さな人の形をした土人形が現れる。地面に着地し、俺たちの前を駆けていく
「魔術だけで作った土人形は単調な行動しかできない。今も前に進むという命令しか聞けない。障害物があったとしてもそれを避けるという思考も持ってないのさ。」
小さな土人形はそのまま駆けていき、玄関前の小さな段差に躓き倒れた
「腕のいい錬金術師は高精度の土人形を作り出す。外敵を自動で認識し攻撃をする土人形もいる。私の作った土人形も中々の性能だが世界最高峰には少し及ばない。」
「魔道士が錬金術を使う時点で凄いと思うが。」
「魔道も武術も錬金術も同じさ。それぞれ道にすぎない、努力を続ければ役職の違いなんて関係ないさ。」
その努力の量がとんでもないものなのだが。
玄関が開けられ、中へと案内される。
「ここの部屋を使うといい。客室は持て余しているからな。」
部屋の一つに案内され、そこに荷物を置く。部屋の中には特に物は置かれておらず、寝台、机、椅子、そしてランプが置いてあるだけだ。窓から入ってくる光は部屋全体を照らしており、中々住み心地は良さそうだ
「荷物の整理は後にしてくれ。屋敷を案内する。」
師匠に連れられて次々と案内される。
食堂、書斎、浴場、大広間、師匠の部屋、その他もろもろ。屋敷はとても広く迷子になるかもしれない。せめて自分の部屋の行き方だけは覚えておかねば
「そういえば使用人の姿が見えないな。こんだけデカい屋敷を管理するのは大変だろ?」
「メイドはアイリーンだけだ。アイリーンと土人形に管理の一切を任せている。」
土人形の手伝いがあるとはいえこの屋敷を管理するのは骨が折れるだろう。この場に居ない先生の苦労を考え心の中で労る。
その後案内を終え、案の定迷子になりつつも部屋へと戻った
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「勇者学園の入学試験には実技と座学の両方がある。」
その日の夕食で師匠が入学試験の説明を始める。食堂には俺と師匠の二人きりで、広い空間の中、聞こえてくるのは師匠の声と食器の鳴らす小さな音だけだ
「試験者は全員両方の試験を受けるが、役職によって配点が異なる。ジーンのように戦闘職は実技試験の配点が高くなり、錬金術師などの非戦闘職は座学の配点が高くなる。合否は総合点で決められる。また、試験での結果は入学後のクラス編成にも関わってくる。励むように。明日から修行を開始する。今日は移動の疲れをゆっくり癒すように。」
夕食を終え、浴場で風呂を浴びてから部屋に戻る。
七日間ずっと馬車に揺られていたせいで少し疲れている。トレーニングはいつもより軽めにし、早めにベットへ入りランプを消し寝入ることにする
ユニークスキル
『霊化』
所有者 ライザ・ストリーガ
体の実体を無くし、魔力の塊にすることができる。この状態では物質をすり抜け、相手の魔力や魂に直接干渉ができる。また、持続している魔術や魔法を破壊し、無効化することも可能。長時間維持することは出来ず、時間経過と共に魔力は霧散していき、完全に無くなるとその部分の肉体は失われる




