1章 世界観測
やっと3部書ける喜び。だけど1話目は解説回である悲しみ
ベア村から離れ、森の街道を進む馬車。その中で黒髪の少年と赤髪の少女─────俺と師匠は馬車に揺られながら話をしていた
「まさか三つとも課題を達成できるとは。せいぜい一つが限界だと思っていたよ。」
「俺も全く出来る気がしなかったが休日に運良く存在進化とユニークスキルの課題をクリアしたんだよ。あとはその二つを活かして影を倒すだけだった。」
「あの影はなかなかのものだったろう?一度の存在進化で越えられるものではないはずだ。と、なるとユニークスキルのおかげだね?」
「まぁそうだな。先生との修行での剣術の上達もあるが。」
「素晴らしい成果だ。それで、ジーンのユニークスキルはどんなものなんだい?」
身を乗りだし聞いてくる師匠のために俺は説明のためにポケットに入れておいたサイコロを取り出し振る。出た目は4だった
「このサイコロを振って出た目は4だった。だがちょっとした力加減や振り方によって結果は変わってくるだろ?」
「あぁサイコロというのは一見運に見えるが振る者の技術、環境によって導かれる必然の結果だ。」
サイコロを拾い、次は魔力を引き出しながら振る。出た目は2、そして魔力を解放し、スキルを発動させる
瞬間、サイコロの位置が変わり、出た目は6となっていた
「ほう…」
「これが俺のスキルだ。あらゆる可能性の世界──本によると並行世界と呼ばれる世界の結果を上書きする。」
今、俺が振ったサイコロは2だったが、ちょっとした違いから違う出目の並行世界もある。そしてその中から6が出た世界を選択し、『上書き』したというわけだ
「なるほどこれは…素晴らしいスキルだ…。」
サイコロを眺めながら興奮した顔をする師匠
「このスキルを使えば常に最善の結果になるということだね。攻守ともに完璧じゃないか。」
「それがそうでもないんだよ。」
最善の結果。そう聞けば優秀なスキルだが勿論欠点もある
「一つ目は対象、『上書き』できるのは俺自身と俺が振れるなどしたものだけだ。」
例えばこの馬車が道端の木の根のせいで横転したとする。並行世界には木の根にぶつかりはしたが横転しなかった世界、そもそも木の根とぶつからない可能性の世界もあるだろう。しかし今馬車を操縦しているのはアイリーンだ。俺がスキルを発動したとしてもアイリーンと馬車は『上書き』の対象にはならない。だから馬車は横転したままとなる
「二つ目、魔力の消費量。実はサイコロの目を変えただけでかなり消費した。存在進化で魔力の量が増えたとはいえ今のままじゃ四回も使えば魔力が枯渇する。」
今後、さらに限界を超えて存在進化をすれば使用回数は増えるだろうがとにかく燃費が悪い
「三つ目、存在しない可能性を『上書き』出来ない。俺が今師匠を斬り掛かったして、攻撃が成功すると思うか?」
「無理だな。私がその気になれば剣を抜ききる前に首と胴体がお別れすることになる。」
「そういうことだ。防御不能で不可避の攻撃をされれば当たってしまうし、実力差が大きすぎると殆ど機能しない。まぁこんな所か。」
俺からの説明を聞き終わりそれを吟味するかのように考えだす師匠
「だがそれでも十分強力なスキルなスキルだ。三つ目の欠点はこれから強くなれば解決することだし、二つ目の欠点も使い所を見極めればいい話だしな。ところで─────」
「ライザ様、魔物です。」
馬車が急停止し、師匠の言葉が遮られる。馬車の中からは見えないが進行方向に魔物が出てきたのだろう
「処理してくれ。食べられる魔物であれば昼食としよう。」
「かしこまりました。」
御者台の人影が離れ、直後風切り音と肉の裂ける音が聞こえてくる
「ところでそのスキルの名前は決まったのかな?」
外から聞こえる魔物の悲鳴を気にすることなく話をする師匠。名前か、そういえば決めてなかったな
「いや、決めてない。」
「では私が名付けよう。そうだな…『世界観測』というのはどうだろうか。」
「なんでもいいぜ。」
正直名前に興味がなかったので心のこもってない返事を返してしまった。そしてそんな問答をする短い時間の間にいつの間にか魔物の声が聞こえなくなっていた
「終わりました。立派なジャイアントボアでしたので昼食としましょう。」
「お疲れアイリーン。」
黒髪メイドのアイリーンの報告を聞き、師匠と一緒に馬車から出ると綺麗に切り分けられた肉が巨大なイノシシの頭の隣に置かれていた
魔物の肉を食べるのは初めてだったが普通の動物のなんら変わらず、なかなか美味しかった
ユニークスキル
『世界観測』
所持者 ジーン
自身と自身が引き起こした現象に対し、並行世界の結果を『上書き』することができる。ただし存在しない可能性の結果を『上書き』することは出来ず、魔力の消費が激しい




