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13章 旅立ち

ベア村では冬が明けると五穀豊穣を祈る奉納祭が行われる。今日はそんな奉納祭が行われる日、ベア村に一番活気が湧く日だ。朝から大人達が祭りの準備をしている。


アイリーンは村長の手伝いとして、大人達に混ざって作業してるし、子供達は邪魔にならないように鬼ごっこをしている。リノはそのお目付け役だ。


そして、この俺は何をしているかっていうと


「ほら、わざわざ供え物しにきてやったぞ。」


一人オリン山を登りあの白鹿の祠に供え物に来ていた


「色々世話になったからな。一応感謝の気持ちってやつだ。」


しかし一向に姿を現さない。そもそもいないのかもしれない。だが姿を見せないのならこれで用はない。頂上を後にし、山を下りていく



『イアンよ、お前の子は立派に成長しているぞ。亡きお前に代わり、私が見守ってやろうぞ…我が友よ…』


───────────────────────


下山し、村に戻ろうとすると一本道に人が立っていた。ローブを身に纏い、フードを深く被っているので性別も分からない。奉納祭に訪れた行商人か旅人だろうか?そうだとしたらこんな所にいるのはおかしい。俺は警戒しつつ、問いかけることにした


「なぁあんたどちら様───うおっ!?」


言葉の途中で『火球(ファイアーボール)』が無詠唱で放たれる。身を屈め躱すと相手は長剣を引き抜き、直進してくる


「野郎っ!」


俺も剣を抜き、迎え撃つ。突撃を勢いを活かした突き──はフェイント。本命の袈裟斬りが放たれる。しかしそれを見切りガードする


「ぐっ!」

「─────」


防いではみたがかなり重い一撃だ。衝撃が伝わり指先が痺れる。だが────


「影に比べればぬるいぜ!」


手に力を入れ、剣を握り直して強引に弾く、反撃に出ようとするがすかさず距離を取られる。そして距離を取るやいなや『火球(ファイアーボール)』を打ってきた。俺も急いで唱え、迎撃する。二つの火の玉が激突し、小さな爆発が起こる。相手が爆煙の中から飛び出し、攻撃が放たれる。咄嗟のことに反応が遅れた俺はガードが半端になってしまい、剣を手から飛ばされてしまった。


空手となり、無防備となった俺に追撃を加えようと更に踏み込んでくる


「かかったな?」


俺は魔力を解放し、スキルを発動させ、


剣を飛ばされなかった(・・・・・・・・・・)世界を選択する(・・・・・・・)


次の瞬間、俺の手の中には剣が握られ、目前に迫る相手にカウンターを放つ


互いの一撃が首を捉えんと迫り───────


互いの首の寸前で止められた


「久しぶりの再会が殺し合いなんて冗談じゃないぞ。師匠・・

「こうするのが一番手っ取り早いのでな。どうやらアイリーンとの修行は上手くいったようだな。」


ローブ姿の剣士は剣を降ろし、フードを脱いだ。下から現れたのはリンゴのように赤い髪、そして力強い碧眼。正真正銘の師匠、ライザの顔であった


───────────────────────


「おかえり〜ジーン!ライザちゃん!」


師匠と村へ戻ると子供達を引き連れたリノに迎えられる。手には見たことの無い分厚い本が握られていた


「これ見てよ!ライザちゃんのお土産でね!魔道書だって!ほら!こんなに魔法や魔術のことが書いてあるよ!」


手に持った本を見せつけてくるリノ。確かに魔法の理論やら魔法陣がいくつも書かれている。魔道書というのは初めて見たが中々凄そうだ


「あぁそれは私が直筆のものだ。リノへのプレゼントさ。」

「わぁ!ありがとう!」


感激のあまり師匠に抱きつくリノ。しばらく二人抱き合い、ようやく離れる


「そろそろ奉納祭始まるから行こっか!さぁさぁみんな着いてきて〜!」


そう言い駆け出すリノを子供達が追いかけていく。元気な幼馴染の姿を見てると微笑ましくなる。リノと子供達が離れていき、師匠と二人取り残される


「それて、王都へ来る準備はいいか?」


王都。師匠が転入したという勇者学園に俺も入学するという話だ。そうなればベア村を離れ、少なくとも卒業するまではベア村に戻ることは無いだろう


「俺は───────」


───────────────────────


広場に向かうと村人全員が集まり、料理の並ぶいくつもの机を囲んでいた


「遅せぇぞジーン!と、ライザさんだったかい?祭り始めるぞ!」


クロッカスさんに見つかり、机に連行される


「なぁ、酒ばっかり並んでるんだが。俺まだ15歳だから飲めねぇぞ?」

「1歳だけだろ?気にすんな気にすんな!」


このオヤジ未成年に酒を勧めてきやがった。いやいや、と断る俺に飲ませようとするクロッカスさんのやり取りが続いていると中央の小さなステージに村長があがる


「みなさん、一年間お疲れ様でした。みなさんのお陰でこうして今年も春を迎えられます。これからの一年、またよろしくお願いします。では、地母神ガイア様の恵に、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」


村人全員の合唱と共に、奉納祭が始まった


乾杯の隙にクロッカスさんから逃げ出し、他の机へと逃げる。あっちもこっちも村人達が料理と酒をあおり、子供達は料理そっちのけで他の遊びをして楽しんでいる


料理を軽くつまみながら目的の人物を探す。サンドイッチ三切れと鶏の丸焼きの脚を食べたところで村人と話す村長を見つける。そのまま話が終わるまで待ち、話しかけにいく


「村長、大事な話があります。」

「あぁジーンくん、急にどうしたんだい?」


少し酒が回っているからだろうか、ほんのりの赤い顔をしている。だが意識はハッキリとしているようなのでこのまま本題を話す


「俺、王都に行きます。師匠と同じ勇者学園に行こうと思います。小さい時から面倒を見ていただき、ありがとうございました。」


頭を下げ礼を述べる。この人には本当にお世話になった。何もお返し出来ず王都へ行くのはとても心苦しい


「頭を上げて、ジーンくん。」


頭を上げるとそこには村の最高責任者に相応しい真剣な顔、しかし相手を落ち着かせる長年見てきた村長の顔があった


「前にも言ったけど僕はジーンくんの選んだ道を全力で応援するよ。アイリーンさんから聞いたよ、君がずっとずっと強くなったこと。君なら夢を叶えられるさ。頑張ってきなさい。」


そう笑顔で話してくれる村長


「ありがとう…ございます…」


込み上げる感情を抑えきれず涙が出る。俺もいつかはこの人のような大人になれるだろうか?


───────────────────────


「うおおおおぉ!クロッカスが飲み比べで負けたぞ!」

「何者だあの嬢ちゃん!とんでもねぇ旅人だぜ!」

「ふふ、さぁ次は誰が相手になるんだい?」


遠くの席で飲み比べ対決をしていた大人達が騒いでいる 。祭も進み、村人達が盛り上がる中、俺はもう一人の探し人を求めて動き回っていた


「どこ行ったんだリノのやつ…」


遊んでいた子供達にも聞いてみたが全員知らないという。あいつが途中で帰るわけがないからどこかにいるはずだ


「それではダンスの時間です。」


料理も少なくなってきたころ、音楽が奏でられそれぞれパートナーと踊り始めた。大人達に混じってニーナとギルも踊っている…というよりグルグル回っていた


「お待たせ!ジーン!」


ボーッとダンスを眺めていると後ろから声をかけられる。もう一人の探し人、リノだ


「着替えに手間取っちゃってさ…似合ってるかな?」

「あぁ。とっても似合ってるよ。」

「本当に?ありがとう!」


祭が始まる前と違って綺麗なドレスを纏うリノ。見つからないと思ったらどこかの建物で着替えていたのか


「踊ろっか、ジーン。」

「お転婆ステップだけは勘弁してくれよ?」

「ひどーい!」


冗談を交わし、俺の伸ばした手を取るリノ。曲のリズムに合わせて華麗に踊る。


その呼吸には一切のズレはなく、周囲の大人達より一際完成された踊りは周囲の目を惹き付けた


「リノ。大事な話があるんだ。」

「なーに?」


踊りながら話し始めた俺に聞き返すリノ


「俺は勇者学園に入学するために王都へ行く。」


ちょうどリノは向こうを向いて踊っているのでその顔は見れない。急にこんなことを言って怒っているだろうか、悲しんでいるだろうか。しかし、そんな心配とは真逆に、リノは笑顔を向けてくれた


「それがジーンの選んだことなら私応援するよ〜。」


曲が終盤に入り、テンポが早くなる


「ジーンがいなくなるとちょっと寂しくなるけどね〜。」


リノは笑顔のまま、どんどんその踊りにキレがかかる


「ジーン、私からも大事な話があるの。」

「何だ?」


曲はクライマックス。俺の後ろに首が回され至近距離で見つめ合う


「ジーン!大好き!」


そんな言葉と共に俺の唇に柔らかい感触が伝わる。

曲が終わり、一瞬の静寂のあと村人の歓声と拍手が起こる。唇を離し、頬を真っ赤に染めたリノに俺は応える


「俺もだよ。」


こうしてベア村奉納祭は幕を閉じた


──────────────━────────


「支度は出来ましたか?ジーン様。」

「あぁ、いつでも行けるぞ。」


奉納祭の翌日、早朝に旅立つことになっていた。師匠が乗ってきた馬車に荷物を載せ、アイリーンに準備が出来たことを伝える。後ろではリノと師匠が何やら話している


「本当にいいのですか?この村に残っていても幸せが訪れると思いますが。」

「幸せにはなれるかも知れないが夢は叶わないだろ。リノは応援してくれたんだ、なら走り抜けるしかない。」


師匠とリノが話終わり、二人で抱き合ったのち、こっちにやってくる


「さて、行こうか。ではアイリーン、頼んだよ。」

「はいライザ様。」


アイリーンが御者台に座り、師匠が馬車に乗り込む


「いってらしゃい、ジーン。」

「あぁ、いってきます。」


たった一言、それだけで十分だった。師匠に続き馬車に乗り込む。アイリーンが鞭を打ち、馬車が動き始める


「浮気しちゃダメだからねーーーー!」


そんなことを言い、手を振るリノ。見えなくなるまで手を振っていた


───────────────────────


「行ってしまったね。」

「うん。」


ジーンの乗った馬車が見えなくなり、手を振るのをやめる


「一緒に行っても良かったんだよ?」

「それだと誰がこの村の村長を継ぐの。」


私と同年代の子はジーンだけなので必然的に私が次の村長になる。いくらジーンが好きだからってお父さんやこの村を見捨てるわけにはいかない


「ねー、お父さん。」

「何だい?」

「納税で王都に行けばジーンに会えるかな?」

「あぁ、きっと会えるさ。」

「それなら村長も悪くないね!」


ライザちゃんから貰った魔道書を抱き、ここにはいないジーンに話す


「私も立派な女性になるから、楽しみにしててねジーン!」


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