12章 白鹿と過去
村よりも残雪が多く、少し時間はかかったがそろそろ中腹に到着するだろう。このペースなら昼過ぎ頃に登頂できるはずだ。一歩一歩確実に進んでいく
「うーん、雪が多くて登りにくいよ!」
後ろから不満を上げる声がする
「勝手に着いてきたのはそっちだろ。」
「約束したじゃん一緒に冒険ごっこしようって!」
確かに半年前に約束──というより一方的に告げられてはいたが。昔と同じようにリノが勝手に着いてきていた。諦めて登り続けていると再び不満の声があがる
「なんでこんな時期に山登りなの〜?」
「気分転換だ気分転換。頂上にちょっと用があるんだよ。」
「変なの〜。」
不満を零してはいるがリノは全く遅れていない。ニーナとギルもそうだったがリノの体力も相当なものだ。もしかして精神的にまだ子供だから疲れ知らずなのだろうか?
「なんか失礼なこと考えてない?」
「そんなわけないだろ。」
笑顔だが目は全く笑っていない。手のひらには小さな火球が出来ている。前へ向き直り笑って誤魔化すと顔の横を火球が通過していき、進行方向にあった雪を一瞬で吹き飛ばした
「あ!最初からこうやって溶かしていけば良かったんだね!」
「い、いや、危ないし魔力が枯渇したら困るし止めておけ。」
アレが自分に直撃してたらと考えると冷や汗が出る。師匠から防御魔法を習うまでリノを怒らせないにしよう
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頂上に近づくほど雪の量が多くなり、結局リノの火球を五回も使ってしまった。もしリノがいなければもっと遅れていただろう。後ろではリノが胸を張り、自慢げに鼻歌を歌っている。褒めて欲しそうだが褒めるとすぐ調子に乗るので褒めないでおく
「お、ようやく頂上だ…な…!?」
「わぁ綺麗!」
頂上に着き目を疑った。頂上の景色は半年前と何一つ変わっていなかった。そう、雪が一切無かったのである
「おかしいだろ…」
「あ、この花可愛い〜。」
明らかに異常な状況に動けないでいるとリノがマイペースにはしゃいでいる
「ここ暑くない?こんな格好じゃ苦しいよ〜。」
「確かに暑いな…っておい!防寒着を脱ぎ捨てるな!」
確かに頂上の気温は高かった。暑い、というより暖かいの方が正しいか。それでも防寒着を着たままでは暑かった。
俺も防寒着を脱ぎ、リノの脱ぎ捨てた防寒着も回収し、まとめて椅子の上に乗せておく。ありえない事態だがやはりらここにいると心が落ち着く。気持ちのいいそよ風を浴び、混乱してた頭も落ち着いてきた
「リノ、とりあえず昼食にしよう。」
「はいはーい!」
村の食堂で用意してもらった昼食のサンドイッチを準備する。俺の分だけを注文しようとしたがリノがついて来ていることに気づき二人前を注文しておいた
「美味しい!」
「おいおい、頬についてるぞ。」
リノの頬の食べカスを取ってやると火が灯ったように顔が赤くなる。防寒着を脱いだがまだ暑いのだろうか?
「あ、ありがとう…」
「ゆっくり食えよな。」
そのまま昼食を続け、最後のサンドイッチを食べ終えたころ───
『また来たのかイアンの子よ、今日は何用だ?』
突如頭の中に声が響き、急いで辺りを確認すると、例の白鹿が立っていた
「わぁ…」
リノが驚きのあまりに気を失ってしまった。倒れようとするリノを支える。そいつはその巨体で俺たちを見下ろしていた。いや、それよりも今──
「なぜ父さんの名前を知っている?」
そう、イアンは俺の父の名前だ。『騎士』であった俺の父の
『あやつは週に一度、我に供え物をしに来ていたからな。そこの祠もあやつが作ったものだ。ずっと来ていないがどうしたのだ?』
「父さんは死んだよ…13年前の戦争で戦死した。」
父の死を聞き、白鹿がその黄金の目を細める
『死んだか…相変わらず人は無意味な争いをするのだな。』
その心にあるのは父の死への悲しみだろうか、人間の愚かさに対する憐れみだろうか
『それにしてもやはりイアンの子だな。若い頃のあやつにそっくりだ。まぁ実力はあやつに遠く及ばないがな。鍛えてはいるようだが、お主とあやつでは才能というものが違う。そもそも、封印をされたままでスキルを使えぬお主ではイアンには及ばぬわ。」
「待て、封印ってなんのことだ。」
後半、煽りに紛れてとんでもないことを暴露したぞこいつ
『お前の母から聞かされていないのか?』
「母さんも戦争で死んだ。」
『ほう、お主も大変であるな。では我が教えよう。お主が産まれた時、魔力の枯渇でお主は死にそうだったのだ。己のユニークスキルによってな。』
「なっ───」
『そうして今にも死にそうなお主を抱えて、イアンが我に助けを求めに来たのだ。我の力でお主を助けた後、お主の母はお主のユニークスキルを脅威に感じ、スキルを使いお主に封印をかけたのだ。』
「じゃああんたは俺のユニークスキルの効果を知っているのか!?」
『それは知らぬ。我はただお主の命を助けただけだ。お主の能力が暴走しないように、本当に死に瀕しない限り使えない封印のようだな。』
だからあの事件の時だけユニークスキルが発動したのか
『母が死んだのなら封印を解除できるのは我だけであるな。』
白鹿から魔力の波動が放たれる。それを受けると胸から白い光の魔力の塊が飛び出す
『これがお主の母が施した封印だ。何とも優しい魔力の塊ではないか。お主への愛が込められておる。』
「その封印がなくなれば俺はスキルが使えるのか?」
『さぁな。それはスキルの効果にもよるだろう。では解除しても良いのだな?』
「あぁ頼む。」
魔力の塊が霧散し、白鹿へと吸い込まれていく
『これでお主の封印は解けた。せいぜい死なないように制御するのだな。』
「ありがとうな。」
これといって変化はないようだがユニークスキルを使えるようになったのだろう。気分転換に、とやって来たが思わぬ収穫だ。あとは効果を知り、制御が出来れば師匠の課題の一つ達成だ
『ふむ、少し試してみるか。』
「え?」
次の瞬間、大地が揺れた。風が荒れ狂い、白鹿から禍々しい魔力の波動が放たれる。以前、師匠の解放した魔力に晒されたことがあるが、あれより遥かに上の威圧感だ。手足の震えを止めようとするが止められない。心の底から目の前の存在に屈服している
『どうした?早く逃げないと壊れてしまうぞ。』
魔力の波動が更に強くなっていく。逃げようとするが足に力が入らない。このままではまずい
「リ……ノ……。」
腕の中の幼馴染の姿を見る。そうだ、リノだけは守らなくては。例え命にかえても──────
全身が熱くなり、力が込み上げる。リノを抱えたまま地面を蹴り、白鹿から距離をとる。すると、威圧感から解放された
『抜け出したか。イアンなら立ち向かって来たものだがな。まぁ所詮はその程度───────』
白鹿の言葉を頭上から降り注いだ業火槍が遮る。脱出する前に詠唱しておいたのだ。しかし、ありったけの魔力を込めたが白鹿は無傷であった
『脱出と同時に魔法を唱えているとはな…フフフ、フハハハハハハハハ!』
満足そうに笑い声を上げる白鹿
『やはりお主はイアンの子だ。名を聞かせてはくれぬか?』
「ジーンだ。」
『ジーンか、覚えておこう。』
笑い声と共に姿を消す。脅威が去ったことに安堵し、リノが無事か確認する
「スー…スー…」
「お前なぁ…」
気絶をしていたかと思えば気持ちよさそうに寝息を立てている。そんなリノの姿に呆れつつも安心する。一向に起きる気配が無かったので防寒着を被せ、背中に背負って下山した
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「おかえりなさいませ、リノ様。おや、ジーン様。」
村長宅へ到着するとアイリーンが出迎えてくれた
「あるぇ……ここどこ……?」
「お前ん家だよ。しっかりしてくれ。」
背負ったままだったリノがようやく目を覚ました。まだ寝ぼけているようだが段々と意識がハッキリしてきたのか、急に暴れだした
「ちょっ、何でおんぶしてんの!?下ろしてよ!」
「痛てぇ!背中を叩くな!お前が起きないのが悪いんだろ!」
下ろしてやるとバカバカと叫びながら二階に逃げていった。わざわざ運んできてやったのにこの扱いは酷いのではなかろうか
「おや、ジーン様、存在進化をされましたね。おめでとうございます。」
「え?」
俺が存在進化していると告げるアイリーン。もしかして白鹿の魔力の波動を浴びた影響だろうか。父さんと比べるわ、急に魔力ぶつけてくるわで碌でもないやつだったがあいつのお陰でまさか課題が二つも達成できるとは
「休日にしたのが正解でしたね。今日はどのようなことがあったのですか?」
「オリン山に登ったら頂上でバケモノに魔力の波動ぶつけられた。」
嬉しさのあまり、説明を雑に終えるとアイリーンは家から出ようとする
「どこに行くんだ?」
「いえ、ジーン様にそのような真似をした畜生風情を処分しに行くだけです。」
「やめてくれ!碌でもないやつだけど害はないから!危ないから!」
結局この日は村長が帰ってくるまでアイリーンを説得する羽目になった
2部は短くなるかなーと思っていましたがいざ文字に起こしてみるととんでもなく長くなりました(--;)
そんな2部ですが次の話でようやく終わります。相変わらずグダグダ展開ですが何卒御容赦ください。




