11章 伸び悩み
観客のいない闘技場で二人の剣士が戦っていた。
いや、戦っていたというよりは子供をあしらう大人のような構図であった。それほどに二人の力量の差は開いていた
少年の放つ剣撃は尽く撃墜され、返しの一撃で数メートル吹き飛ばされる
幾度も地面を転がり続け、少年の体はボロボロである。剣を支えに立ち上がり、再び仕掛け、吹き飛ばされる。そしてとうとう立ち上がることも出来なくなってしまった
動かなくなった少年に影は近付き、無慈悲にその剣で少年の首を断つ
少年の死により『悪夢』によって生み出された世界が崩壊し、自身の寝室で少年は目を覚ます
「今日もダメか…」
ベットから抜け出し、身支度を済ませて家を出る。
登り始めたばかりの太陽が残雪の大地と少年の姿を照らし出していた
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師匠が王都に戻り既に三ヶ月が経過していた。既に雪が溶けだし、春がもうすぐ訪れようかという時期。
師匠から出された三つの課題は───どれも達成出来ずにいた
「そう焦ることはありません。ライザ様が迎えに来られるまでまだ一ヶ月以上あります。」
「その一ヶ月より長い時間、課題が一切進んでねぇから困ってんだよ。」
アイリーンとの修行で着々と実力をつけ存在進化もしていた。が、存在進化がピタッと止まったのが今から一ヶ月前、つまり通常の限界を迎えたのだ。しかし、いくら修行をしようとも課題でもある『限界を超えた存在進化』が果たされない
「『悪夢』の影には剣を掠らせることも出来ていないし、ユニークスキルなんてユの字すらない。」
「大変そうだね〜ジーン。」
机に突っ伏し項垂れる俺の頭を撫でるリノ。今日の修行は既に終了しており、今は村長の家で休憩中である。村長は春の奉納祭に向けた会議で留守にしている
「剣術は上達していますよ。それにも関わらず剣を当てることが出来ないということは基本の能力で大きく負けているということです。」
「つまり存在進化が最優先ってことか。」
「はい。存在進化で魂と身体《器》を成長させれば影と善戦できるでしょう。」
「だけどこのままじゃあ存在進化できる気がしないな…」
師匠もアイリーンも修行内容は毎日似たような努力の積み重ねである。これなら確かに日を跨ぐごとに強くなれる。しかし、壁にぶつかった時に容易には乗り越えられないのが問題だ
「先生、なんかいい方法ないか?」
「『悪夢』の中ではなく現実で私がジーン様を半殺しにすれば生存本能から存在進化できる可能性があります。」
魔物化と同じ原理か。とても痛そうだがこの半年で現実で死にかけるわ、実際に感覚がある夢で何度も殺されるわで我慢できないこともないな
「じゃあそれで頼む。」
「ダメだよ!そんな危険なこと!それに今はライザちゃんいないから回復魔法使えないんだよ?」
良案かと思ったがリノに拒否されてしまった。まぁ確かに回復魔法を使える人間が村にいないので半殺しにされてそのまま死んでしまうリスクがあるな
「結局案はないか…」
立ち上がり家に帰ろうと玄関のドアを開けようとするとアイリーンが声をかける
「ジーン様、気分転換として明日は休みとします。一度リラックスされましたら何かのヒントが見えてくるかもしれません。」
休みか。師匠との修行が始まってから一日も休みは貰えなかったな。リノは来ない日があったが。修行が午後からのため午前に村の人と話したりできたので特に欲しいとは思っていなかったが
「そうだな。たまにはいいかもな。」
「はい。それでは明日は休みということでご自由にしてください。」
家へ帰り、夕食とトレーニングを済ませてベットに入る。思考が溶けだし、いつもの闘技場へと誘われていった
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「さて、折角の休日だが何をするか…」
案の定ボコボコに打ちのめされ目を覚ます。アイリーンも言ってたがやはり能力の差が酷いな。向こうの反撃を完璧にガードしても力で吹き飛ばされてしまい、ダメージが蓄積していく。技を極めれば受け流せるのかもしれないがその境地に至るにはまだまだ修行が足りない
「やめだやめ。今日は休みなんだから修行のことは一回忘れろ。」
まだ残雪はあるが、道に積もっていた雪もほとんど溶けたので久しぶりに外柵の見回りをする
「雪の重さでどっかやられてると思うが…お、やっぱり壊れてる。」
雪の重さによって結び目がちぎれバラバラになっている場所を発見する。村長に報告して修繕しないとな。ここはオリン山の近くだから早めに直さないと冬眠から目覚めたばかりの獣が侵入するかもしれない。ないとは思うが魔物化した動物が侵入でもしたら大変だ
「ん?オリン山……」
視線を柵から外し、その奥、山に向ける。正確には山の頂上に
「今日の予定が決まったな。」
半年前、頂上で出会った白鹿の姿を思い浮かべる。
出会えなくてもいい。ただあの頂上でならリラックスが出来るかもしれない。
柵の修繕道具を取りに村長の家へ向かう。その足取りは心無しか見回りの時より軽かった




