10章 メイド先生
「私は魔道の実演は苦手ですゆえ、剣術、及び座学を担当します。」
村長の家で俺とリノは机に座り、それぞれ本を開いている。目の前では黒髪メイドのアイリーンが本を片手にこちらを向いて立っていた。どうしてこんな状況になったかというと
『一つ目の予知の私を超える強者に会うために王都にある勇者学園に転入する。春に迎えに来るがそれまではアイリーンに稽古をつけてもらいたまえ。』
と言い残し、村長とリノに別れを告げ、アイリーンの乗ってきた足長──正式名称『ドリー二ー』と呼ばれる魔物に跨り昼前に村を発っていったからだ。そして今、二人でアイリーンの座学を受けているわけだ
「お二人は村の図書館で本をお読みになられているそうですが、あの図書館は魔道に関する書物が少ないかと思われますので私の方からお教えさせてもらいます。」
アイリーンの授業はとても分かりやすく、実際にためになる知識ばかりだった。リノの性格からして途中で飽きるかと思っていたが、魔道の座学は楽しいらしく、柄にもなく集中して授業を受けていた
「今日の授業はここまでとします。ジーン様は剣を持って庭に出てきてください。」
「あー、その前に一ついいか?」
「なんでしょうか?」
本を仕舞い、村長宅の庭に先に出ようとするアイリーンを呼び止める
「あんたのこと呼び捨てで呼ぶのは気が引けるから先生ってつけてもいいか?」
「それは構いませんが…」
「先生?アイリーン先生!」
話を聞いていたリノが先生先生と連呼し始める。流石にうるさかったので後ろ襟を掴んで止める。グェと声を出し止められたリノが頬を膨らませてこちらを見る
「急に酷いよジーン!」
「お前が騒いだままだと収拾がつかないだろ。」
そのまま頭を撫で宥めるとすぐに顔を綻ばせた。アイリーンの方へと向き直り改めて挨拶をする
「これからよろしくな、アイリーン先生。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
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玄関から外に出て、庭の方へと向かおうとするとまだ雪が大量に積もっていた。リノは玄関前は雪かきをしたが庭までは手が回らなかったようだ
「えへへ〜ごめんね〜。」
「気にするな。俺も村長の家で修行するとは思ってなかったからな。」
とはいえこれではとても修行ができない。リノに頼んでスコップを持ってきてもらおうとするとアイリーンが手を上げそれを制する
「このくらいの雪なら問題ありません。」
「まさかこの雪に埋もれながら修行する気か?」
「いえ、そうではなく─────」
アイリーンは腰の細剣を抜き放ち、虚空に向けて一閃───────その一撃よってアイリーンの前方が文字通り爆ぜた。剣の風圧により庭の雪は全て無くなっていた
「これで問題ありません。」
「師匠も師匠だが先生も普通にバケモノだな。」
俺も剣を抜き放ち構える
「ではよろしくお願いします。」
「こっちこそよろしく頼む。」
アイリーンとの打ち合いは手加減されていたとはいえ、今までのどの影の剣士よりも強かった
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「今日の修行はこれで終わりです。お疲れ様でした。」
「ジーンお疲れ〜。」
結局一本も入れられず打ちのめされ、地面に倒れ肩で呼吸する俺にリノが駆け寄る。アイリーンはというと一切息を切らすことなく、相変わらずの無表情であった
「そういえばライザ様から言伝があります。」
「師匠が言伝だって?」
「はい。私がライザ様の代わりを務めるこ間の課題についてです。」
ようやく息を整え、立ち上がる俺は課題という言葉に顔を曇らせる。あの師匠のことだ、きっといつものニヤケ顔で考えたとんでもない内容に決まっている
「課題は三つ。一つ、悪夢の五体目の影の剣士は格別強力なので春までに倒せるようになること。」
師匠が別れの時にまた魔術をかけていったがやはり悪夢だったか。だがこれは嬉しいことだ。強ければ強いほど学びがいがあるというものだ
「二つ、一回以上限界を超えた存在進化をすること。これは私が協力させていただきます。」
夢での修行や日々の鍛錬、そして師匠との模擬戦によって何度も存在進化を重ねてきたが、最近は存在進化しにくくなってきていた。どうやら存在進化回数の限界が近いようだ。戦士の限界回数は他職に比べてずっと少ないと聞いていたがたった四ヶ月で限界を迎えるとは思ってはいなかった
「三つ、自身のユニークスキルを理解し、自在に使えるようにすること。」
四ヶ月の間、完全に忘れていた単語が飛び出してきた。そもそも俺が師匠に目をつけられたのは俺がユニークスキル保持者であるらしいからだったな。
これからも忙しい修行生活を想像し、大きく息を吐く
「これら三つの課題を達成し、春より勇者学園に入学すること。だそうです。」
「は?」
「え?」
この日、師匠の別れに匹敵する驚きに俺とリノはまたしても空いた口が塞がらなかった




