7章 お 待 た せ
「おぉ動く!痛くないぞ。」
右腕を肩で回しながら調子を確認する。三日前オリン山で魔物化した巨熊との戦闘で砕かれた右腕が師匠の自己治癒によって完治する。これで今日からまた剣の素振りができる
「それより外柵の見回りをしないとな。」
右腕が負傷したまま激しい運動は出来ないため外柵の見回りはクロッカスさんが代わりにしてくれてると聞いた。この三日で体がなまってないかの確認も含め、着替えを済まし外柵へと向かう
「やっぱり前より体が軽いな。」
以前よりも早いペースで走り、既に四週目となっていた。だがまだまだ体力に余裕があり、ペースも上げられるだろう。
結局五週したあたりで腹も空いてきたので家へ戻ろうとすると白シャツにオーバーオールを着た髭が印象的なおっさんと出くわした
「おう!ジーン、怪我はもういいのか?」
「この通り完治だ。代わりの見回りしてくれてありがとなクロッカスさん。」
「なぁに、いいってことよ!」
ガッハッハッと肩をバンバンと叩くクロッカスさん。完治しているとはいえもう少し加減して欲しいものだ。そのまま二人で戻り、家の前で別れる
いつも通り朝食をとり、あとは村長の家に見回りの報告に行くだけだ。──が、右腕が完治してからやりたいことがあったので村長には悪いが少しだけそっちを優先する
「片腕で振った時もそうだったが、やっぱり段違いに早くなってるな。」
庭に出て両手で剣を振る。今ならあの熊もバッサリ斬ることが出来そうだ。
─────いや、実際片腕を切り落としたんだったか
オリン山で魔物化した巨熊との戦闘で起きた不思議な現象────師匠曰くユニークスキルのようだが未だに理解が出来ない
今後、俺はあの力を制御できるようになるのだろうか
そんなことを考えていると二つの人影が目に入る。赤髪と翠髪の二人の少女───師匠とリノだ
「素振りとは関心だな。ちょうど今日から剣術も教えていくつもりだった。」
「その言葉を待ってたぜ。それにしても今日は早いな?昨日は午後からだったじゃないか。」
「何言ってるのジーン?もうお昼だよ?ほらお昼ご飯も持ってきたんだよ!」
「は?」
いやいや俺はいつも通り早く起きて外柵の見回りをして朝食を取ったばかりだぞ?昼までにはまだまだ時間があるはずだし、村長の家に報告にも行ってない
俺が困惑していると師匠がため息を吐く
「ジーンよ…どうやら君は時間を忘れるほど素振りに没頭していたようだね。おおかた、存在進化して早くなった剣速に夢中になってしまったのだろう?」
「あははは!ジーンったら可愛い〜!」
呆れている師匠に対し、状況を理解したリノが笑い声をあげる
「いや夢中になっていたというか、考え事をしていたというか…」
「どっちでもいいが何かすることがあったんじゃないのかい?」
「そうだ村長への報告!先に二人で始めていてくれ!」
慌てて村長の家へと走り出す
村長は謝る俺に問題が無かったのなら気にしなくてもいいと笑って言ってくれた
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「さて、今日の魔法はここまでだ。お待ちかねの剣術の時間だ。」
昨日までと同じく魔法の練習───昨日と違うところがあるとすれば危惧してた通り魔力が切れた俺に直接魔力を供給して何度も魔力操作の修行をしたところに師匠が告げる
「っしゃあ!待ってたぜこの時を。」
「剣術〜?楽しそう〜!」
「あぁすまない、リノ殿は魔法の練習をしていてくれ。貴女は魔道に関しては才があるが剣術に関してはからっきしだ。」
「えぇ〜。」
剣術を興味を見せるも軽くあしらわれ不貞腐れた顔をするリノ。師匠はそんなリノに近づいていき俺に聞こえない声で話し始める
「考えてみてくれリノ殿。魔道を扱う後衛職は戦士のような前衛職に守られながらサポートをする立場だ。苦手な剣術で無様な姿を晒すよりも見事にサポートする方が好感度が高いと私は思うぞ?」
「た、確かに…ジーンは前衛職だから私が魔法で支えてあげないとね!」
何やら二人で盛り上がっているようだ。村長の家で寝泊まりしていることもあり、師匠とリノはこの数日でいい友好関係を築いているよだな。師匠の年齢は分からないが見た目的に俺らとあまり変わらないだらう。同年代の友人が俺しかいないリノにとってはちょうどいい相手だ。
話を終え、師匠が戻ってくる。その後ろではリノが元気に魔法の練習を始める
「では始めようか。流派はそうだな…王都の騎士団でも主流のウンドラ流にしよう。これを基盤にいくつかの流派の技を教える。」
「あぁ。それで頼む。」
師匠が空中に魔法陣を描くとその中から一本の剣を抜く
「今のも魔術か?」
「空間魔術だ。こればかりは魔法では発現出来なくてな。」
魔法陣から取り出した剣をどこか遠い目で眺める師匠
「もっとも空間魔術で使われる亜空間は私のものではないがな。」
「どういう意味だ?」
「そのことはいい。では基本の構えから教えるぞ。」
師匠が剣を中央に真っ直ぐに構える。それをそのまま真似をし、俺も構える。
「肩に力が入り過ぎている。それでは柔軟な技が使えない。」
「っと。こうか?」
「そうだ。あと足をもう少し前後に開け。この構えは全ての基礎となる。攻撃も防御も、逃走すらこの構えから繋がる。もちろん他の流派の技にもな。」
師匠の言う通り構えると確かにあらゆる動作に繋がりそうな安定感がある。試しに素振りをするが今までよりも剣が振りやすい
「構え一つでこんなに変わるのか…」
「その通りだ。型というのは効率よく相手に攻撃する手段なのだ。何も考えず無造作に振り回すだけなら結局パワー勝負になるからな。では技を教えていくぞ。」
「よろしく頼む。」
師匠から三つの技の型を習い、何度も素振りをし体に覚えさせていく。素振りをある程度したところで師匠が打ち込んでくるように命令する
「──はぁ!」
「うむ。」
放つのはウンドラ流 天の型『燕返し』。袈裟に振り下ろしたのちにそのまま同じく場所を斬り返す。剣速を活かした天の型の初歩とも呼べる技だ。
しかし師匠は剣先で剣の腹を叩き、一撃目を逸らせ、二激目は剣で正面から止め『燕返し』を防ぐ。
「一撃目で体勢が崩れすぎだ。それでは二激目の初動が遅くなる。この技は一撃目は囮のようなものだ。二激目こそがキモとなる。まぁ器用さが足りない戦士に教えたての技と考えれば妥当なところか。」
「そうかよ!」
構えなおし、再び『燕返し』を放つ。今度は一撃目も二激目も強引になぎ払われ防がれる。すぐに剣を構え、さらに技を仕掛けようとすると師匠が右袈裟斬りを打ち込んでくる。
咄嗟に剣でガードする。が、ガードした次の瞬間には脇腹に剣が当てられていた
「なっ───」
「これが『燕返し』だ。」
恐ろしく美しい剣だった。一撃目と二激目の間に一切のタイムラグはなく、あたかも袈裟斬りと逆袈裟斬りを二人の人間に放たれたようであった
「言っておくが今のは身体能力による強引な技ではない。お前の能力に合わせたつもりだ。身体能力全開ならこうなる。」
師匠の両腕がぶれ、肘から剣先が一瞬見えなくなる。
『燕返し』を放ったのかもしれないが二激目はおろか一撃目すら目で捉えられなかった
「何を驚いている。お前にもこれくらい出来るようになってもらわないと困るんだ。さぁ続きだ続き。」
この日は日が傾き、腕が上がらなくなるまで剣術の修行をした。師匠とリノの二人が帰る時、師匠が自己治癒の魔法をかけてくれた
「こうしておけば筋肉もよりも早く成長する。足腰も鍛えておけ。あとこいつもかけておく。」
魔法陣が展開され、その中心から光が放たれ俺の体に吸い込まれていく
「今のは何だ?」
「さてな。楽しみにしておくといいさ。じゃあな。」
「じゃあまた明日ねジーン。」
三日目の修行が終了した
気がついたら1部より章が多い件。まぁ一章ごとの長さが短くなりましたかね…忙しいのが悪い(確信)
というかもう少し長くなりそうですわ_(:3 」∠)_




