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8章 悪夢

気がつくと見知らぬ場所に立っていた。辺りに人気はなく、俺一人のようだ


「ここはどこだ?俺は確か…師匠達と別れ、夕食を食べてトレーニングをして寝たはずなんだが…」


周囲を見渡し状況を確認する。地面は砂だがその下に硬い感触がある。そして地面の周囲を三メートル程の壁に囲まれていることから砂漠ではなさそうだ。観客席のようなものもあるが誰一人座ってなどいない。後ろには門があり、反対側の壁にも同じような門が見える。囲まれた地面の直径は八十メートルといったところか。屋根はなく、太陽の光が全体を照らしていた


「この構造は…前に本に書いてあった闘技場ってやつか。」


王都で流行っている興行のようだが、ベア村みたいなド田舎に住んでるため王都のことを記した書物やクロッカスさんの土産話程度でしか知らない。そういえば聖教会には王都よりもデカい闘技場があるとかクロッカスさんが言っていたな


「それにしてもなんでそんなとこにいるんだ?」


困惑しながらもさらに何か無いか探していると中央に一本の剣が刺さっていることに気づき近付く


「まぁ一番の可能性と言えば夢だな。昔読んだ本にもあった明晰夢ってやつか。もしくは───」


脳裏にニヤケ顔を貼り付けた赤髪の少女を思い浮かべる。剣を抜いたところ普通の鉄剣のようだ。重さや長さは父さんの剣と同じくらいか


「師匠の仕業と考えるとこの夢も──修行だよなぁ。」


先程自分がいた側とは反対側の門が開く。剣を構え警戒すると中から現れたのは影だった。


全身が影で出来ていた。獲物である直剣すらも影である。顔の形はあるが表情を窺うことは不可能である。見た目のまま影の剣士だった。


門が急に閉まり、それと同時に影が駆けた。師匠とは違い容易に姿を目で終える。いってしまえば普通の速さだ。恐らくスピードは自分とは変わらないだろう


影はその勢いのまま両手で剣を真っ直ぐ振り下ろしてくる。それに対し俺は大きく振りかぶり横薙ぎの一撃で迎撃する。剣同士がぶつかり、大きな金属音が響く。手が痺れる感覚を味わい舌打ちをする


「夢じゃねぇのか!?」

「────────」


影は言葉を発すること無く突きを繰り出す。慌てて剣の腹で受け、弾き返す。体勢を崩したところに踏み込み、唐竹割りを放つが相手のガードが間に合い鍔迫り合いとなる。お互い力を込め、相手を押そうとするが拮抗する。どうやら身体能力に差は殆ど無いようだ。突きの速さからしても技術面にも差は無いだろう


「つまりいい練習相手ってことか。」

「───────」


更に押す力を込めると少しずつ剣が押し込まれていく。一歩踏み込んだ分こちらに分があるようだ。しかし、このまま押し切ろうとする考えは腹に入れられた蹴りで捨てさせられた。押し込まれた体勢から蹴りを入れそのまま離脱する影。お互い追撃はせず、剣を構えなおす


蹴られた痛みはあるし、息も若干切れている。夢じゃないかもしれない────そんな疑念が頭をよぎる


「もし負けたら───殺されたらどうなるんだ?」


最悪の想像がチラつき、顔を一筋の汗がつたう。剣を握る両手も汗をかいているのが分かった


そんな俺を差し置き、影が突っ込んでくる。二連続して放たれた突きを防ぎ、袈裟斬りを受け止める。ここから反撃───しようとするが直後感じた悪寒から後方に跳ぶ。そして俺がいた空間に逆袈裟斬りが放たれる


今のは間違いなく『燕返し』だ。咄嗟に下がったものの剣先を掠めたようで腹から血が滲む。この痛みも間違いなく本物──三日前味わったものに似ている


改めて感じる死の気配に背筋が凍る。俺はそんな考えを振り払おうと影に向かい突っ込む。そして『燕返し』を放つ。しかし死への恐怖に支配されていた俺の剣は遅く。難なく二撃とも防がれる。体勢を崩した俺に影が剣を振るい、これを何とかガードする。再び鍔迫り合いだ。しかしさっきとは立場が逆である。体勢を崩した俺は徐々に押し込まれていく


「うおああああああぁぁぁ!」


無理やり押し返そうと力を込める。しかし鍔迫り合いをしていた剣が急に軽くなり、勢いそのまま飛び出し前のめりに体勢を更に崩す。影が剣を回転させ、力を後ろに流し、剣を逸らしたのだ


「あっ────」

「──────」


銀閃が走り、首が一瞬熱くなる──が直ぐに冷たくなった。前のめりになった状態で影を見る視界は地面とは90度あったが、今では上下が逆さとなり、段々と低くなっていく


胴体と別れた首が砂の地面へと落ち───────


「うわあああああぁぁぁぉ!!!」


大きく息を切らし上体を起こす。急いで首を確認するが無事繋がっていた


「夢……か…?」


少し落ち着いて当たりを見回すと俺の家の寝室だった。先程の体験を夢だと納得し、安心から大きく息を吐く


全身が脂汗で酷く濡れていた



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