神田 暁の動揺
夕焼けのオレンジの空の下、僕、神田 暁は入学早々になぜか美少女、山崎 綾と二人だけで一緒に帰る事になっていた。
(な、なんだこりゃ……ラノベではよく見る展開だが、現実でやられても緊張するだけで、なんも話せないんだが、その上メチャ近いし……)
僕がドキドキしながら無言で歩いていると。
「ねぇ暁も『小説家をやろう』を利用してるんでしょ?」
彼女は唐突に聞いてきた。
「えっ……うん、まぁ……」
僕は曖昧に答えた。
「やっぱり……もしかしてなんか投稿して書いてるの?」
「え〜と……書いてはいない、読み専かな……」
僕は書き専門で、他の人の作品なんか何も読んだことがなかったが、ついそう答えると読ませてって流れになりそうだったから、つい読み専門だと嘘をついてしまった。
「だったらユーザー名教えてよ」
「やだよ、本名知ってる相手にユーザー名教えたら、ユーザー名使ってる意味なくなっちゃうだろ、だから綾さんも僕に教えないでね」
僕は頑なに断った、ユーザー名を知られれば、読み専じゃない事も一目瞭然だし、自分の書いた作品もバレてしまう。
「そ、そうだよね、ごめんね変な事聞いて」
彼女は少しガッカリしたような寂しい顔をして謝った。
「別に謝らないでよ綾さん、僕の方こそ言い方悪かったよね、ただ何読んでるとか知られるのってなんか恥ずかしくてさ」
僕も言いすぎたと思い謝る。
「ううん、大丈夫……暁に嫌われてないならそれで良い」
彼女は満面の笑顔で僕に微笑んでいた。
「あのさ、僕からも質問いいかな?……」
僕は少し聞き辛そうに綾に尋ねた。
「何! なんでも聞いてよ……あっ、でもユーザー名は教えて上げない、えへっ」
彼女は喰入り気味に僕に顔を近づけて、最後意地悪そうに、さっきの仕返しとばかりに笑った。
「なんで、なんで僕なんかにそんなに構ってくるの?」
僕は初めて会った時から疑問に思っていた事を口にした。
「えっ、うーん……隣の席だったから……なんて冗談、私も『小説家をやろう』に利用してるって言ったじゃない、だから隣の席の子が私と同じ物が好きなのが嬉しくて……私友達とか多いけどさ、本当に好きな物を話せる友達いないから、だから暁となら良い友達になれる気がして……迷惑だった……」
彼女は少し寂しそうな顔つきで話、最後は不安そうに僕に尋ねてきた。
「そ、そっか……ありがとう、迷惑とかはないけど……いや、さっきから迷惑だらけかも」
「あー酷い、そこは『迷惑じゃないよハニー』って言ってくれたらポイント高かったのに、バカ暁」
「だ、誰がハニーだ誰が、少し胸に手を当てて……ごめん」
僕は彼女の胸元を見て言いかけた言葉を飲み込んだ。
「……あっあー! 今、私の胸が無いとか思ったでしょ! どこ見てんのよ変態! スケベ! 暁のバカ」
綾は無い胸を両手で隠すように抱き込み、顔を赤くして抗議する。
「いやいや大丈夫、僕巨乳好きとかじゃないから、貧乳も別に良いと思うし、貧乳も……気にしなくて大丈夫だよ」
僕はなんとかフォローしようと彼女を気遣ったが。
「気にしてないわよ!…… もーデリカシーがないんだから、少しは女心を考えなきゃ、女性に嫌われるよ」
綾は頬を膨らませて少し怒りながら、僕の側に寄ってきてまた一緒に歩き出す。
「そうそう、デリカシーがないと言ったらコレコレ、この作品読んだ事ある?」
「どんな入り方だよ! デリカシーが無いで思い出す作品を人に進めるな」
「冗談、冗談、本当はね、この作品面白いから暁に教えて上げたくて、私が『小説家をやろう』で一番大好きな作家さんの連載作で、いつも更新楽しみにしてて、自分の好きな作品ってどうしても人に勧めたくなるでしょ?」
彼女はスマホを取り出し、僕にその作品のページを見せると凄く嬉しそうに僕に作品の魅力を話、その作品の話を楽しそうに語っていた。
「どれどれ……!?」
僕はそのページを見て言葉を失った、そこに書かれていた作品名は『小石を蹴ったら世界最強』と書かれていたのだ。
「どうしたの? なんか凄い汗だよ……私いつも読んだら感想を書いて、レビューもしてるんだよ……あっでもこの作品の感想やレビュー読まないでね、私のユーザー名バレちゃうから」
彼女は僕の事を心配し、また作品の事を語りだした。
「な、生臭 異臭……面白い名前だね」
「そう、そうなんだよ、この作品の作家さんでね、かなり昔から『小説家をやろう』のベテランさんで、私も生臭先生の作品を読んで自分でも小説を書きたいと……あっ言っちゃった、エヘッ、実は私も作品書いていて、みんなには内緒だよ」
彼女は指で口に手を当て「しー…ね」と僕に口止めした。
「そっか、そんなに好きなんだその先生?」
「うん! 大ファンだよ、今まで投稿された作品全部読んだし、全ての作品にハズレがないの」
「そっか……ごめん僕家こっちだから、今日は楽しかったよありがとう、じゃーね」
「えっ!?……あっ、うん、気をつけてね、私も楽しかった、また明日……『小石を蹴ったら世界最強』絶対面白いから読んでみて」
彼女は僕に大きく手を振り、僕も綾に小さく手を振り彼女と別れた。
僕は綾が見えなくなると、スマホの充電は切れているから鞄からタブレットを取り出し、直ぐに『小説家をやろう』サイトにアクセスし、そしてログイン。
画面に表示されていた僕の『小説家をやろう』のユーザー名……生臭 異臭が表示された。