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消失済世界探記  作者: とーふ
アルスログ
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7/16

第六記:再会

光の中へ、足を踏み入れる。

空間は、異様に静かだった。

外の廃墟とは違う。

崩れも、汚れもない。


まるで——ここだけ、時間が止まっているみたいだった。


「……」

一歩、進む。

足音が、はっきりと響いた。

今まで吸われていた音が、ここでは消えない。

生きている空間。

そんな錯覚を覚える。

そのとき。


「……アッ君?」

声がした。

時間が、止まる。

ゆっくりと顔を上げる。


そこに——


「メルセ……」

彼女がいた。

五年前と、ほとんど変わらない姿。


細い体。長い髪。

でも。

何かが、決定的に違っていた。


「遅かったね」

微笑む。

やさしい笑顔。


でも——その目は、どこか遠かった。


「……迎えに来た」

喉が、乾く。

それでも、言う。


「帰ろう、メルセ」

一歩、近づく。

あと少しで、手が届く距離。

そのとき。


「来ないで」

静かな声。


でも、はっきりとした拒絶。

足が止まる。


「ここはね、もう安全なんだよ」

同じ言葉。


何度も聞いた言葉。


「外なんて、怖いだけ」

「ここにいればいいの」

その声は、やさしい。


でも——


どこか、“同じ形”をしていた。


「……違うだろ」

小さく、呟く。


「お前、そんなこと言うやつじゃなかった」

メルセの表情が、わずかに揺れる。

ほんの一瞬だけ。


「……アッ君」

その呼び方。

その一言だけが、本物だった。


「私ね」

ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「ずっと待ってたんだよ」

胸が、締めつけられる。


「最初はね、すぐ迎えが来るって思ってた」

光が、わずかに強くなる。


「でも、誰も来なかった」

視線が、少しだけ落ちる。


「一人で、ずっと」

「……怖かった」

その一言だけが、震えていた。


「……だから」


ゆっくりと、振り返る。

その先に。


“それ”はあった。


空中に浮かぶ、光の球体。

その周囲を、無数の鉄片が静かに回っている。

崩れているのに、整っている。

壊れているのに、機能している。


「この子が、見つけてくれたの」

メルセは、やさしく言う。

「ここは安全だよって」

「もう怖がらなくていいよって」

光が、脈打つ。

まるで、応えるみたいに。


「……それが、お前を変えたんだろ」

アルスの声が、低く響く。


「違うよ」

すぐに、否定される。


「助けてくれたの」

迷いのない声。


「ここは、あったかいもん」

その言葉に。


すべてが詰まっていた。


孤独も。


恐怖も。


絶望も。


「……帰ろう」

アルスは、手を伸ばす。


震えながら。

「一緒に帰ろう、メルセ」


あと少し。


届く距離。


メルセは、その手を見る。

長い沈黙。


「……ごめんね」

少しだけ、寂しそうに笑った。

そのとき。


メルセの目が、揺れた。


「……っ」

息を飲む。


「ア……ッ……君……?」

その声。


確かに、“戻った”。


「メルセ!!」

一歩、踏み出す。


でも——


次の瞬間。

光が、強く脈打った。


「適応状態を維持します」

無機質な声。


メルセの表情が、すっと消える。

さっきの揺らぎが、嘘みたいに。


「……来ちゃだめだよ」

やさしい声。

でも、もう戻っていない。


「アッ君も、ここにいればいいのに」

アルスは、動けなかった。

何もできない。

ただ、分かってしまった。


もう——遅かったんだと。


長い沈黙。

やがて。

アルスは、ゆっくりと手を下ろした。


「……帰るよ」

小さな声。

「一人でも」

背を向ける。

足を動かす。

一歩。

また一歩。

振り返らない。

振り返ったら、終わる気がした。

そのとき。

背後から、声がした。


「……またね、アッ君」

足が、止まりそうになる。

でも。

止まらない。

そのまま、歩き続けた。


光の外へ。

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