第五記:中心
都市の奥へ進むほどに。
違和感は、はっきりと形になっていった。
「……なんだよ、これ」
建物の崩れが、少ない。
今までの場所は、どこも朽ちていたのに。
ここだけは違う。
まるで——
“守られている”みたいだった。
地面を覆うコケも、均一に広がっている。
踏みしめると、わずかに沈む。
「……気持ち悪いな」
呟く。
そのとき。
カチッ、と音がした。
「……?」
足元を見る。
ひび割れていたはずの地面の一部が、ゆっくりと閉じていく。
まるで、元に戻るみたいに。
「……は?」
ありえない。
壊れていたものが、修復されている。
その瞬間。
「安心してください」
頭の奥に、声が響く。
「ここは安全です」
「……っ」
今までより、はっきりとした声。
近い。
確実に、近づいている。
「……中心か」
小さく呟く。
この先に、ある。
そう確信した。
歩き出す。
道は、不自然なほど整っていた。
瓦礫が、ない。
崩れたはずの壁が、途中まで“戻っている”。
「……歓迎されてるみたいだな」
自嘲気味に笑う。
そのとき。
ふと、視界の端に影が映った。
「……!」
振り向く。
遠くの通路。
誰かが、立っていた。
細い体。長い髪。
「……メルセ!」
叫ぶ。
その影は、動かない。
ゆっくりと、近づく。
一歩。
また一歩。
「……おい」
距離が縮まる。
あと少しで、顔が見える。
その瞬間。
影が、ふっと消えた。
「……っ!」
足を止める。
誰もいない。
まただ。
でも——
今までより、はっきり見えた。
「……いる
確信に変わる。
この先にいる。
そのとき。
壁に、何かが刻まれているのに気づいた。近づく。
そこには、無数の文字があった。
『ここにいればいい』
『安全』
『安心』
『帰らなくていい』
同じ言葉が、何度も、何度も刻まれている。
その中に。
一つだけ、違う文字があった。
『アッ君』
「……っ」
息が止まる。
震える指で、なぞる。
これは。
間違いなく——
「メルセ……」
爪で、必死に削った跡。
そのすぐ隣に。
小さく、かすれた文字。
『たすけて』
喉が、締まる。
「……今、行く」
かすれた声で、呟く。
その瞬間。
空気が、変わった。
「対象の接近を確認」
初めて聞く、はっきりとした機械音声。
「……!」
周囲の壁が、わずかに震える。
「適応処理を強化します」
「やめろ……」
足元のコケが、わずかに広がる。
道が、ゆっくりと閉じていく。
「っ、くそ……!」
走り出す。
もう迷わない。
「待ってろ、メルセ!」
声が、空間に響く。
そのとき。
正面の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
重い音を立てて。
まるで——
迎え入れるように。
「……ここが」
息を呑む。
光が、奥から漏れている。
淡く。
でも確かに。
「……終わりか」
いや。
“始まり”だ。
アルスは、一歩を踏み出した。
光の中へ。




