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消失済世界探記  作者: とーふ
アルスログ
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6/16

第五記:中心

都市の奥へ進むほどに。

違和感は、はっきりと形になっていった。


「……なんだよ、これ」

建物の崩れが、少ない。

今までの場所は、どこも朽ちていたのに。

ここだけは違う。


まるで——


“守られている”みたいだった。


地面を覆うコケも、均一に広がっている。

踏みしめると、わずかに沈む。


「……気持ち悪いな」

呟く。

そのとき。

カチッ、と音がした。


「……?」

足元を見る。

ひび割れていたはずの地面の一部が、ゆっくりと閉じていく。

まるで、元に戻るみたいに。


「……は?」

ありえない。

壊れていたものが、修復されている。

その瞬間。


「安心してください」

頭の奥に、声が響く。


「ここは安全です」


「……っ」

今までより、はっきりとした声。

近い。

確実に、近づいている。


「……中心か」

小さく呟く。


この先に、ある。

そう確信した。

歩き出す。

道は、不自然なほど整っていた。

瓦礫が、ない。

崩れたはずの壁が、途中まで“戻っている”。


「……歓迎されてるみたいだな」

自嘲気味に笑う。


そのとき。

ふと、視界の端に影が映った。


「……!」

振り向く。

遠くの通路。

誰かが、立っていた。

細い体。長い髪。


「……メルセ!」

叫ぶ。

その影は、動かない。

ゆっくりと、近づく。

一歩。

また一歩。


「……おい」

距離が縮まる。

あと少しで、顔が見える。


その瞬間。

影が、ふっと消えた。


「……っ!」

足を止める。

誰もいない。

まただ。


でも——


今までより、はっきり見えた。


「……いる

確信に変わる。

この先にいる。


そのとき。

壁に、何かが刻まれているのに気づいた。近づく。

そこには、無数の文字があった。


『ここにいればいい』


『安全』


『安心』


『帰らなくていい』


同じ言葉が、何度も、何度も刻まれている。

その中に。

一つだけ、違う文字があった。


『アッ君』


「……っ」

息が止まる。

震える指で、なぞる。

これは。


間違いなく——


「メルセ……」

爪で、必死に削った跡。

そのすぐ隣に。


小さく、かすれた文字。

『たすけて』

喉が、締まる。


「……今、行く」

かすれた声で、呟く。


その瞬間。

空気が、変わった。


「対象の接近を確認」

初めて聞く、はっきりとした機械音声。


「……!」

周囲の壁が、わずかに震える。


「適応処理を強化します」


「やめろ……」

足元のコケが、わずかに広がる。

道が、ゆっくりと閉じていく。


「っ、くそ……!」

走り出す。

もう迷わない。


「待ってろ、メルセ!」

声が、空間に響く。


そのとき。

正面の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。

重い音を立てて。


まるで——


迎え入れるように。


「……ここが」

息を呑む。


光が、奥から漏れている。

淡く。

でも確かに。


「……終わりか」

いや。

“始まり”だ。

アルスは、一歩を踏み出した。


光の中へ。

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