表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消失済世界探記  作者: とーふ
アルスログ
PR
4/16

第三記:記録

そのビルは、他よりも少しだけ原型を保っていた。

「……ここか」


壁の崩れ方が、まだ浅い。

入口も、かろうじて形を残している。

中に入る。

暗い。


外の光が、かすかに差し込むだけだった。

足元に気をつけながら、奥へ進む。

床には、いくつもの足跡が残っていた。

古いものと、新しいもの。

「……メルセのか」


しゃがみ込んで、指でなぞる。

まだ、完全には消えていない。


「……最近だ」


胸の奥が、少しだけ軽くなる。

生きている。

そう思えた。

そのとき。


カタン、と小さな音がした。

視線を向ける。

机のようなものが倒れている。

その下に、何かが挟まっていた。

引き抜く。


小さな端末だった。

「……これ」


電源は落ちている。

だが、傷は少ない。

試しに触れる。


——ピッ


「っ!?」

画面が、ゆっくりとついた。


『記録データを再生します』


無機質な文字。

そして。


映像が、映し出された。


■ 記録①


明るい声が響く。


『やっほー!メルセだよ!』

思わず、息を飲む。


画面の中の彼女は、笑っていた。

『知らない星に来ちゃった!でもすごいよここ!』

『建物とかいっぱいあるし、ちょっと探検みたい!』

楽しそうだった。


『アッ君にも見せたかったなー』

そこで、映像が途切れる。


「……メルセ」


画面を見つめる。

まだ、このときは普通だった。


■ 記録②


ノイズが走る。

『……ちょっと、変かも』

声のトーンが、少し落ちている。


『この星、誰もいないのに……変な音がする』

『でもね、キカイがあって』


一瞬、画面が乱れる。


『大丈夫って言ってくれた』


その言葉に、違和感が残る。


『ここは安全だよって』


どこかで聞いたフレーズ。

アルスの背筋が、冷たくなる。


■ 記録③


映像が、さらに荒れる。

『……もう、いいよね』

声が、妙に落ち着いている。


『帰らなくても』

無表情に近い顔。

『ここ、安全だし』

目が、どこか焦点を失っている。

『怖くないし』


沈黙。


そして。


『みんなも来ればいいのに』

ブツッ、と映像が切れた。

「……なんだよ、これ」

手が、震えていた。

明らかに、おかしい。


「……キカイって、なんだ」

あの声。

あの言葉。

頭の中で、繋がる。

「……まさか」


そのとき。


画面が、もう一度ついた。

『追加記録を再生します』

「!?」


■ 記録④


真っ暗な画面。

音だけが入っている。


『……アッ君』


息が止まる。


かすれた声。

『もしこれ見てたら……』


ノイズ。


『にげて』

あの壁の文字と同じ言葉。


『ここ……』

音が歪む。

『だめ……』

一瞬だけ。

「助けて」

その声だけは、はっきりと聞こえた。


ブツッ——


完全に、途切れる。

「……っ」

言葉が出ない。

端末を握る手に、力が入る。

「……メルセ」

遅かったのか。

それとも、まだ間に合うのか。


分からない。

分からないけど——

「……行くしかないだろ」

立ち上がる。

この先に、答えがある。

そう信じるしかなかった。


そのとき。


「安心してください」

また、あの声がした。

「ここは安全です」

すぐ近くで。

「……!」

振り向く。

誰もいない。

でも。

さっきより、近い。確実に。

「……ふざけるな」

小さく吐き捨てる。

「そんなわけあるかよ」

端末を強く握る。


メルセの声が、まだ耳に残っている。

「助けて」

その一言が、すべてだった。

「……絶対に」

アルスは、奥へと歩き出す。

“記録”の先へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ