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消失済世界探記  作者: とーふ
アルスログ
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3/16

第二記:痕跡

静かだった。

歩いても、足音がほとんど響かない。

地面を覆うコケが、音を吸い込んでいるみたいだった。

「……気味悪いな」

思わず呟く。


返事は、当然ない。

ビルの間を進む。

崩れた道路。

ひび割れた壁。

どこもかしこも、時間が止まったみたいだった。

人がいた形跡はある。


でも——


“今”はいない。

「……メルセ」

名前を呼んでみる。

風が吹くだけだった。

そのとき。


カサッ、と音がした。

「……!」

反射的に振り向く。

何もいない。

「……気のせいか」

そう思った瞬間。

視界の端で、何かが揺れた。

崩れかけたビルの奥。


一瞬だけ——


誰かが立っていたように見えた。

細い体。長い髪。

「……メルセ?」

声が漏れる。


次の瞬間。

そこには、何もいなかった。

「……は?」

見間違い。

そう思うしかない。

でも。


胸の奥が、ざわついていた。

「……いるのか?」

答えはない。

代わりに。


足元に、何かが落ちているのに気づいた。

しゃがみ込む。

手に取る。

小さな布切れだった。

汚れて、色も薄くなっている。


でも——


「……これ」

見覚えがあった。

「メルセの……」

昔、よく身につけていたスカーフ。

その一部。

間違いない。

「……いるんだな」


強く、握りしめる。

メルセはいる。この星に。

確信に変わった。

そのとき。


ふと、壁に目がいった。

コケに覆われたコンクリート。

その一部が、不自然に削られている。

近づく。

そこには、文字があった。

『にげて』

かすれた字。


震えたような線。

「……」


息が止まる。

「メルセ……?」


その文字に、触れようとした瞬間。

ざわっ、と。

コケが、わずかに動いた。

「っ!?」

思わず手を引く。


今、確かに——

動いた。

「……なんだよ、これ」

目を凝らす。

ただの植物にしか見えない。

なのに。

さっきの動きは、見間違いじゃない。


そのとき。


どこからか、声がした。

「——ここは安全です」

「!?」

一気に振り向く。

誰もいない。

でも。


確かに、聞こえた。

「安心してください」


頭の奥に、直接響くような声。

「……なんだよ……」

背筋が、冷たくなる。

もう一度、壁を見る。

さっきの文字。

『にげて』

その上を。ゆっくりと、コケが覆い始めていた。


まるで——


消そうとしているみたいに。

「……やばいな」

小さく呟く。

この星は、おかしい。

ただの廃墟じゃない。

何かがいる。

「……でも」

布切れを、強く握る。

「関係ない」

来た理由は、一つだけだ。

「絶対に、見つける」

誰に聞かせるでもなく、言い切る。


そのとき。


遠くのビルの奥で。

また、何かが動いた気がした。

今度は、見間違いじゃない。

「……待ってろよ」

アルスは、静かに歩き出した。

痕跡を辿るように。消えかけた存在を、追いかけるように。

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