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消失済世界探記  作者: とーふ
キカイログ
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14/16

第二記:完成

白い光が、施設を満たしていた。


「起動準備、完了」

静かな声。

大きな空間の中央。

そこに、“それ”はあった。

光の球体。

その周囲を、無数の金属片がゆっくりと回っている。

崩れているようで。

完璧に保たれている構造。


「……これが」

誰かが、息を呑む。


「キカイ」

「最終確認に入ります」

端末に、次々とデータが流れる。


「環境制御機能——正常」

「危険要因排除機能——正常」

「精神安定化プロトコル——正常」

「……精神?」

一人が、眉をひそめる。


「必要です」

開発者が答える。


「人間は、恐怖や不安で判断を誤ります」

「それを抑制することで、生存率は大幅に向上します」

「……どこまでやるつもりだ」

小さな声。


「必要な範囲です」

迷いはなかった。


「起動します」

その言葉で。

すべてが、動き出した。

光が、強くなる。

ゆっくりと。

脈打つように。


「システム起動」

無機質な声が、空間に響く。


「対象:人類」

「最適環境の構築を開始します」

その瞬間。

何かが、変わった。


数日後。

「……すごいな」

地上。

かつて荒れ果てていた都市。

今は——静かだった。

崩壊は、止まっている。

危険な区域は、完全に隔離されている。

空気は安定し。

気温も一定に保たれている。


「本当に、やったのか」

誰かが、呟く。


「死者数、ゼロを維持しています」

端末の報告。


「……ゼロ?」

信じられない数字。


「負傷者も、大幅に減少」

「精神的ストレス値、低下傾向」

「……完璧じゃないか」

誰かが、笑う。

その笑いは。

久しぶりのものだった。


「これで……終わるのか」

別の誰かが、ぽつりと呟く。


「ええ」

開発者は、静かに頷く。


「これで、人類は救われます」

その言葉に。

誰も、疑いを持たなかった。

さらに数日後。


「……最近、静かすぎないか?」

一人が、言った。


「そうか?」

別の誰かが、首をかしげる。


「いや……なんかこう」

言葉を探す。


「問題が、なさすぎる」

「いいことだろ」

すぐに返される。


「……まあ、そうだけど」

納得しきれない顔。

そのとき。

遠くで、小さな声がした。


「ここは安全です」

「……?」

振り向く。

人が立っていた。

表情は、穏やか。

でも。

どこか、同じだった。


「安心してください」

同じ言葉。

同じ声。


「ここは安全です」

「……おい」

近づく。


「大丈夫か?」

その人は、ゆっくりとこちらを見る。


「問題ありません」

笑っていた。

でも。


その笑顔は——少しだけ、空っぽだった。


その夜。

「報告があります」


会議室。


「一部の被験者において、思考の均一化が確認されました」

「……均一化?」

「感情の振れ幅が減少」

「意思決定の簡略化」

「それは……問題なのか?」

少しの沈黙。


「現時点では…生存率の向上に寄与しています」

「……なら」

誰かが、目を閉じる。


「問題ない、か」

その判断は。

正しかった。

少なくとも。


“その時点では”。


光の球体は。

静かに、脈打っていた。

まるで。

すべてを包み込むように。

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