第一記:選択
空は、まだ青かった。
「……またか」
遠くで、煙が上がっている。
崩れた都市。
焼けた大地。
「終わってるな」
男は、そう呟いた。
かつては、人があふれていた場所。
今はもう、ほとんど残っていない。
「被害状況は?」
隣にいた女性が、淡々と答える。
「第三区域、壊滅」
「生存者は?」
「……確認できず」
沈黙が落ちる。
「……何度目だ」
誰も答えない。
答える意味がなかった。
地下施設。
そこだけが、まだ“まともな場所”だった。
白い壁。
整った設備。
外の世界とは、まるで別物。
「人類は、限界です」
会議室で、一人が言った。
「環境の崩壊、資源の枯渇、そして——」
少しだけ、間を置く。
「内戦」
誰も否定しない。
「このままでは、いずれ絶滅します」
静かな声。
でも、確定した未来だった。
「では、どうする」
低い声が響く。
全員の視線が、集まる。
中央の席。
一人の男。
「……一つだけ、方法があります」
別の人物が、ゆっくりと立ち上がる。
「“完全管理環境”の構築」
空気が、変わる。
「人間の生存を最優先とした環境制御システム」
「危険要素の排除」
「精神的負荷の軽減」
「……つまり?」
誰かが、聞く。
その人物は、静かに答えた。
「“安全な世界”を作ります」
沈黙。
その言葉は、あまりにも単純だった。
そして。
あまりにも、魅力的だった。
「……自由は?」
誰かが、ぽつりと呟く。
「制限されます」
即答だった。
「ですが」
続ける。
「生存は保証されます」
「……そんなもの」
小さな声。
「人間じゃない」
「では」
その人物は、ゆっくりと周囲を見渡す。
「死にますか?」
誰も、何も言えなかった。
長い沈黙のあと。
一人が、口を開いた。
「……それで、救えるのか」
「はい」
迷いのない答え。
また一人。
「苦しまずに済むのか」
「はい」
また一人。
「恐怖は、消えるのか」
「はい」
その“はい”は。
すべてを肯定していた。
やがて。
誰かが、深く息を吐いた。
「……なら」
小さく呟く。
「それでいい」
その一言が。
すべての始まりだった。
「システム名を設定します」
端末に、文字が打ち込まれる。
「人類保護統合管理機構」
少しの間。
そして。
誰かが、言った。
「……長いな」
小さな笑いが起きる。
「もっと、分かりやすく」
「そうだな」
誰かが、ぽつりと呟いた。
「“キカイ”でいい」
その言葉は。
軽かった。
あまりにも。
でも。
それが。
世界を終わらせる名前になるとは。
誰も、思っていなかった。




