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消失済世界探記  作者: とーふ
キカイログ
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13/16

第一記:選択

空は、まだ青かった。


「……またか」

遠くで、煙が上がっている。

崩れた都市。

焼けた大地。


「終わってるな」

男は、そう呟いた。

かつては、人があふれていた場所。

今はもう、ほとんど残っていない。


「被害状況は?」

隣にいた女性が、淡々と答える。


「第三区域、壊滅」

「生存者は?」

「……確認できず」

沈黙が落ちる。


「……何度目だ」

誰も答えない。

答える意味がなかった。

地下施設。

そこだけが、まだ“まともな場所”だった。

白い壁。

整った設備。

外の世界とは、まるで別物。


「人類は、限界です」

会議室で、一人が言った。


「環境の崩壊、資源の枯渇、そして——」

少しだけ、間を置く。


「内戦」

誰も否定しない。


「このままでは、いずれ絶滅します」

静かな声。

でも、確定した未来だった。


「では、どうする」

低い声が響く。

全員の視線が、集まる。

中央の席。

一人の男。


「……一つだけ、方法があります」

別の人物が、ゆっくりと立ち上がる。


「“完全管理環境”の構築」

空気が、変わる。


「人間の生存を最優先とした環境制御システム」

「危険要素の排除」

「精神的負荷の軽減」

「……つまり?」

誰かが、聞く。

その人物は、静かに答えた。


「“安全な世界”を作ります」

沈黙。

その言葉は、あまりにも単純だった。

そして。

あまりにも、魅力的だった。


「……自由は?」

誰かが、ぽつりと呟く。


「制限されます」

即答だった。


「ですが」

続ける。


「生存は保証されます」

「……そんなもの」

小さな声。


「人間じゃない」

「では」

その人物は、ゆっくりと周囲を見渡す。


「死にますか?」

誰も、何も言えなかった。

長い沈黙のあと。

一人が、口を開いた。


「……それで、救えるのか」

「はい」

迷いのない答え。

また一人。


「苦しまずに済むのか」

「はい」

また一人。


「恐怖は、消えるのか」

「はい」

その“はい”は。

すべてを肯定していた。

やがて。

誰かが、深く息を吐いた。


「……なら」

小さく呟く。


「それでいい」

その一言が。

すべての始まりだった。


「システム名を設定します」

端末に、文字が打ち込まれる。


「人類保護統合管理機構」

少しの間。

そして。

誰かが、言った。


「……長いな」

小さな笑いが起きる。


「もっと、分かりやすく」

「そうだな」

誰かが、ぽつりと呟いた。


「“キカイ”でいい」

その言葉は。

軽かった。

あまりにも。

でも。

それが。

世界を終わらせる名前になるとは。

誰も、思っていなかった。

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