混乱と調律と勝負の前夜
「アルモニア家きっての大事だぞ、ノクチリカ。」
「そうよ、ノクチリカ。貴女、なにをしたの?」
「あぁ、俺も帰ってきたら、幻覚を見たかと思ったよ。ノート家の家紋がついてる馬車が外にいて、使用人が立ってるんだぞ?どれだけ肝が冷えたことか……。とうとうノクチリカが、ノート家の御子息を殴りでもしたかと……。」
帰宅した途端、家族に囲まれて好き勝手言われる。
「ただいま。私は何もしてないわよ、本当に!
もう伝令が来てるの?どれだけ仕事が早いのよ……。お兄様もお久しぶり、最近仕事場から全く帰ってこないから心配してたのよ。」
三者三様の表情を浮かべ、ため息をつく。
お父様とお母様は、学生時代から付き合って結婚した、貴族には珍しい恋愛結婚の2人だ。
いつも穏やかに、でも怒る時はしっかりとしている両親は大人として尊敬できる。
お兄様は、王宮調律師として働いている。
楽器を魔力で作るのが王道なのだが、一部の貴族の道楽や上手く魔力を練れない子供や魔力量の少ない大人のために前世で見た普通の楽器もあるのだ。この楽器は数が少なく、王家がある程度管理している。
その管理している楽器をメンテナンスしてるのが、お兄様の仕事だ。
「ノクチリカ……、お前はいつも通り遊んだと言いながら、エドワードとオリジナルの楽曲を練習していたし、ユーラ嬢とエドワードの婚約成功のために根回しをしていた……。」
「ええ、何もしてないといいながら私たちの知らないところで、普段と違う楽器を練習していたりもしたわね。」
「我が妹ながら、勝手に俺の部屋に入って道具を拝借して楽器のメンテナンスをしようとしてたのを見つけた時は、でっかくなるとは思ったが……、大物を釣りすぎじゃないか?」
「みんな……、そんなことないわよ。別に……その、お家でしかこんな事しないし……。外では普通に過ごしてるし……。」
子供の頃のやらかしをいつまでも言ってくるのが家族というものだろう。
あの時は前世との境界が曖昧で、好き勝手動いてきたから、あの時のことを出しにされると弱い。
「まぁ、いいわ。ノート家からの伝令で聞いたのだけど、夜会のパートナーになったんですってね。
しかも、その際のドレスはノート家が準備するとまでおっしゃってたわ。向こうがそこまでしてくれるんですから、ノクチリカ、貴女もそれに報いるために本気でやるのよ。」
お母様が私の手を取って、握りしめながらこちらをじっと見つめる。
「わかってるわ。売られた恩は、きちんと返す。
心配しないで、お母様方。うまくやるわよ。」
そう言って3人の顔を見て、笑いかければ3人は揃って少しだけ眉を下げて笑った。
家族は表情が似るとはいうが、本当に我が家は暖かい家族だ。
「心配してくれてありがとう、お父様、お兄様。
噂によると、お兄様方も夜会に参加するのでしょう?何かあったらお兄様の方を見るわね。」
「俺には期待するなよ、壁の花してるから。」
「まぁ、ずいぶん豪華な花ね。」
お兄様は私の目から見てもかっこいい。
我が家は髪色が暗い方なのだが、お兄様は夜明け前の空の色、私は日が落ちる空の色だとよくお母様は表現する。
そんなお兄様は、お仕事の時は視界に入らないように暗い青の髪を後ろに撫で付けて、白手袋までつける露出のない格好になる。
夜会の時も王宮調律師の身分で参加する以上、仕事の時の格好で参加するため、いつもと比べて迫力のあるオーラをまとい、実に知的で魅力的なのだ。
「ノクチリカ、お前も普段は壁の花をしているから忘れてるかもしれないが、夜会で注目を浴びると地獄だぞ。本当に全てを見てくるからな。」
「わかってるわ。折角ノート家からの援助があるのだから、誰にも文句は言わせない。」
「あぁ、よく言った。明日は頑張れよ。」
私の肩を軽く叩いて激励し、さっさと自分の部屋へ戻っていくお兄様を見送る。
黙って見守っていた両親に向き直ると、挨拶をした。
「では、一度部屋に戻ります。
明日は取り敢えず、失礼のないように気をつけるわ。」
「ええ、頑張るのよ。」
「しっかり頼むぞ。」
両親の声を背に、自身の部屋に戻る。
実に疲れた日になってしまったが、明日、本当に疲れる予定が立ってることを考えると、さっさと寝てしまわなくては。
「はぁ……、なんで、こんなことになったのかしら。」
ふと窓から見た夜空は、実に美しかった。




