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音楽に救われた少女の異世界サラウンド・ハック ~誰もが天才と呼ぶけれど、私は平凡な子爵令嬢のつもりです~  作者: 音淵言葉


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3/10

調和と旋律

リュクスからのエスコートの申し出があった日の次の日――

きっと 噂話がとんでもない勢いで広がったのだろう。

どこか視線を感じるし、ヒソヒソされているのを感じる。

思わず眉を顰めて、短く息を吐いた。


「はぁ。何もしてないのに疲れたわね。」


誰に訊かせるでも無く独りごつと、勢いのある声が飛び込んできた。


「まぁ!ノクチリカ様ではありませんの!」


目が覚めるような声だ。

美しいオレンジ色の髪を緩く巻き、勝気がちな印象を受けるはっきりした顔立ち。


「ごきげんよう、メロディナ様。」


彼女は随分と音の流れを重視した演奏をする、素晴らしいバイオリニストだ。


「今日は音楽療法の授業がありましたわね。しかも学年全体での。負けませんわよ。」

「メロディナ様の演奏は滑らかでいつも美しいですわ。勝とうなど、思ったことはありません。」

「っ、知ってるわよ。貴女はいつも、私のことなんて――、いいえ。ところで、リュクス様にエスコートを申し込まれたと言う話は本当ですの?」

「あぁ、いえ、まぁ、そうですわね……。」

「なぜ煮え切らない返事をしているの。はっきりと仰って!」


そう言ってメロディナは扇をパタンと閉じる。


「次の夜会では、ノート様のエスコートで参加予定です。それがなにか?」

「それがなにか?じゃないですわ!学園中の噂になってますわよ。親御様方に噂話が届くのも早いですわよ、これは。」

「そう……ですよね。本当に。」


そう言ってノクチリカがため息をつくと、メロディナは苛立ったように扇を手に打ちつけて話す。


「……言っておきますが、今日の授業は勿論、夜会でも負ける気はないのよ。」

「?メロディナ様はいつもパートナーの方と美しい演奏をされてますよね。いつも拝聴してますわ。」

「覚悟なさい。私、貴女の音楽は好きよ。でも貴女は嫌い。リュクス様との合奏でリュクス様の音に負けてみなさい、盛大に嘲笑ってやるわ!」


こちらをビシッと指をさすメロディナに思わず目を瞬く。

いつもまっすぐに感情をぶつけてくるメロディナは、ノクチリカにとって友人のような者だと勝手に思っている。

良きライバルでいてくれる人の大切さは、今世では実感しているつもりだ。


「では、頑張らなくては。」

「ええ、そうするといいわ。あと、これは警告だけど……、リュクス様にご執心の令嬢方がよからぬ事をおっしゃってるのを小耳に挟んだわ。せいぜい、その音楽を曇らせないことね。」


ごきげんよう!と勢いよくメロディナは去っていく。


「……、なんか、元気が出てきたかも。さすが、いつも勢いがあり、流れが止まることなく音を奏でるメロディナ様だわ。さ、さっさと今日の午前中にある合同音楽療法に行かなくては。」

もう、視線と噂話は気にならなくなっていた。



「皆さん、揃ったわね。」


いつも私たちのクラスを担当している教員が話し始める。

「今日はクラス合同練習です。いつも以上に優雅に、失礼のないように気をつけてくださいまし。」


教師と目が合う。


「(なるほど、向こうのメンツを潰さないギリギリにしなさい、ということか。)」


教師の意図を汲んで、軽く頷くと、満足そうに向こうも頷いた。 


「では、全体説明が暫くしたら始まります。楽器の準備は今のうちにすませてください。」


下手に演奏すると言うのは、私の美学に反する。

だからこそ、向こうのメンツを潰さないギリギリの演奏をするために、あまり普段演奏しない楽器かつ、適度に上手く弾ける楽器を選ぼう、と手元に魔力を集めた。

飴色のボディにピンと張られた弦。

ここ数ヶ月演奏してなかったバイオリンだ。

所在なさげに、一般クラスのみんなで固まっていると、隔離された青い血の方々が続々と入ってきた。

相変わらずノート様は取り巻きに囲まれているご様子だし、形だけの平等のために態々、同じ授業をやらないでほしいとすら思う。

ぐるっと教室内を見渡すと、知らない貴族らしき人が1人いた。

枯れ木を想像させる正気のない中年男性だ。

先生方は彼の前に立ち、声を張り上げる。


「それでは、授業を始めます。今回、いつもと違う授業となっているわ。ここにいらっしゃるのは――いいえ。名前は伏せさせてもらうわ。1人の、愛する方を亡くしたひとがいらっしゃってる。貴方達の演奏を通して、前を向きたいと思ってる方よ。貴方達に与えられる課題は一つ。どんな形であれ、前を向けるようにしなさい。」


なるほど、合同授業らしく随分実践的だ。

相手に届ける音楽、というのは難しい。

相手への寄り添いが侮りになり、相手への気遣いが余計なお世話になる、それが人だ。


「それでは、一般クラスの皆様から。アルモニア嬢!」


五十音順というのは時に残酷だ。

自己紹介では最初だし、こう言う時も最初。

しかも、初めだからどこまで抑えれば良いかもわからない。


「(でも、聴く人がいるなら。適当な音なんて鳴らせない。響きを良く、この空間に存在する魔力という魔力を、音を反射し反響させるように。)」


教室の不自然に開けられてる中央に立つ。右には一般クラスのみんな。左には青い血の方々。前には、先生方とそして今回の観客。

まっすぐ前を向いて一礼をする。

バイオリンを構えると、ゆっくりと弦を滑らせた。

第4話『響く主旋律』は、本日【18:00】に更新予定です。書きだめはテンポ良く出していきます。

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