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音楽に救われた少女の異世界サウンド・ハック ~誰もが天才と呼ぶけれど、私は平凡な子爵令嬢のつもりです~  作者: 音淵言葉


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17/23

ダブルピアノと共鳴

リュクスの手を包み込むようにして重ねていたノクチリカの手から、リュクスはスルッと手を引き抜く。

そのまま、逆にノクチリカの手を取って、懇願するように、敬虔な信者のように、祈るように、その手を額によせて、下を向いて口を開く。


「ノクチリカ嬢。時間をいただきたい。今から3日間、本気で春向き合うから、また聞いてくれないだろうか。」

窓から差し込む光がリュクスの髪を反射させた。

美しい金髪が、太陽の祝福を受けてキラキラと輝く。

美しい緑の目が光を受けて潤んだように輝いた。


「その間はぜひ、魔力操作についての指導をメインで頼みたいのだが……。」


神妙な顔をしたリュクスは、一度口を閉ざす。

ノクチリカは小首を傾げて返事をした。


「別に良いのですけど、リュクス様にいまさら魔力操作についての指導なんて必要ですか?

勿論、以前お見せした反響や防音などの小技はお教えしますが……、演奏中の魔力操作については、ノート家でご教育されてるリュクス様の方が抜きん出ているのではないでしょうか?」


ノート家は伝統ある家系だ。

国家行事に関わるような家系は、音楽技術は一子相伝しており、基礎的なことは多くの教師を招いて普遍的なことを満遍なく学んでいくと聞いている。

つまり、今更、変わり種を覚える必要すらなく、王道には王道たる理由と美しさがある。

そんな当然の疑問であったが、それを受けたリュクスは首を横に振った。


「いや、ノクチリカ嬢。先ほども指摘してくれたように、教科書としての操作しか上手くないんだ。」

「……??

何が違いますの?」

「ノクチリカ嬢の魔力操作は、ある意味教科書通りではないだろう?

むしろ、教科書と違うところの方が多いように思う。」

「ですが、変な癖がつくこともリュクス様にとって歓迎されないはずですわ。祭事の際に困りますでしょう?」


アルモニア家はノート家と違い、人前で大々的に披露するのは領民に向けてだ。

幸か不幸か、領民はお行儀の良い音楽に詳しいわけではないため、私がどんな演奏をしようが、それが良いと感じたら満足してくれる。


しかし、国の祭事となれば話は変わってくるだろう。

あれは、儀式だ。

手順通り、きちんと取り仕切ることが最も大切であり、文化と伝統の継承だ。

その演奏は癖がない方が、もっと言えば、癖すらも継承するくらいのクオリティが大切だろう。 


そんなリュクスへ癖のある魔力操作を教えることは意味があるのだろうか――、と疑問に思う。

ノクチリカは覚えることより直すことのほうが難しいことを、実際に授業の際に実感している。

反響や防音は兎も角として、前世の立体音響やら、イメージで魔力を込めて演奏することに慣れていたため、普通にきちんと、が難しいのだ。


「知らないこと、できないことと、知っててやらないことは違う。俺は知ってしまったのだから、身につけるべきだ、と思う。

ある意味、ノート家として、新しい技術は身につけていくべきだ。それが音を統べることにも繋がるはず。」


ノート家としてのプライドの話をされると、それは弱い。

ノクチリカは、面白く、楽しく音楽を演奏することに、妥協せず美しく演奏することにプライドを持っている。

だからこそ、同じく奏者としてのプライドを見せられれば、コロッと頷いてしまうのだ。


「お考えがあるなら結構ですわ。教えますわよ、全然。むしろリュクス様のご意見をお聞きしたいまでありますわ!結構思いつきで演奏しているので、再現性がないこともあって、是非!」


新しいおもちゃが、新しい暇つぶしが走って寄ってくることに、飢えてるのだから。


「ありがとう、ノクチリカ嬢。では、早速反響のさせ方を聞いても良いか?」

「勿論ですわ!では、以前お兄様やエドワードに教えた時のように、教えさせていただきます。」


そういうと、ノクチリカは立ち上がって、魔力を練り直す。

リュクスも立ち上がるとピアノを解いた。


ノクチリカが作り出したのは、鍵盤が向かい合う形で存在するピアノ――ダブルピアノだ。

大きく大屋根が開き、剥き出しのピアノの内部が見える。

木製を感じさせるピアノは、温かみを持ってそこに顕現した。

そのピアノに歩み寄って、ノクチリカは振り返る。

窓からさす光が、ノクチリカの髪を輝かせた。


「まず、私と共鳴してくださります?」


悪戯っぽく微笑む彼女は、そういってダブルピアノに手を添えた。


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